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さあ、ウソつきは誰だ
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一旦家に帰ってランドセルを置いて、トノの家に行った。
夢摘ちゃんがドアを開けてくれた。わたしは玄関の靴を見たり、キョロキョロしたりしてトノの存在を探す仕草をしてしまった。
「お母さん仕事で、大は、そろばん塾行ってるよ」
通学路の途中にあるそろばん教室。ここの先生は、三年生のそろばんの授業で講師としてきてくれたりしてるので、学校帰りにそのまま行ってもいい学校公認の塾。習ってる子はランドセルと一緒にそろばん教室のカバンを持って登校する。
トノは逃げたわけではなかった。
「そろばん。まだ、やってるんだ」
「うん。好きだね。一年生の頃、うちの電卓じゃ12桁以上の計算できない! って文句言いだしたから習わせたらしいけど、手先器用じゃないから、計算少年にはなってないね。すごい子は小学生で段とか取るけど、そういう欲、あんまりないみたい」
「そうなんだ」
「もうすぐ帰ってくると思うから、ゆっくりしてて」
「おじゃまします」
ダイニングテーブルに夢摘ちゃんが麦茶を出してくれた。
幼稚園ぐらいの時遊びに来て、ここでよく三人でお絵かきしたなあ。
トノはひたすら数字書いてたけど。
カウンターの隅に「夢カルテ」が置いてあった。
「これって」
「ああ、この講演会脱走したらしい。わざわざ先生から電話かかってきてさ。感想書いて提出するのに、聞いてないから書けないってここに置いてある。テキトウに書けばいいのにって言ってるんだけどね。変なところマジメで」
「はあ」
「花凪ちゃんはちゃんと聞いた? 面白かった?」
「うーん。新体操の選手でめちゃくちゃキレイな人だった」
「あぁ、そういう感じになっちゃうか」
夢摘ちゃんががっかりしたような表情を浮かべた。
「うん。あ、でも、大事にしている言葉がいいなって思った」
「どんな言葉?」
「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる」
「へー。すごいね」
社交辞令で台詞棒読みな感じに聞こえた。夢摘ちゃんが期待した言葉ではなかったのか、ぜんぜん響いてないのに表面上褒めてる。
「わたしはそんなふうに考えられないって思ったから」
「だよね。無理だよ。っていうか多分、そういう意味じゃないって分かるんだけど、なんか反論したくなっちゃう。だってさ、悪いことしてるのあっちなのに、私たちが考え方変えて現状に納得するなんてできないよ。それで未来なんて変わるように思えないんだよ。変われよ他人」
急にイライラしだした夢摘ちゃんを見て、わたしの思った「そんなふうに考えられない」と方向が微妙に違う気がした。
「夢摘ちゃん、なんかあったの?」
「もう花凪ちゃんだから愚痴っちゃうけどさ、テニス部の練習をね、盗撮してる変態がいるの」
「変態?」
すごい悔しそうな顔でうなずき、夢摘ちゃんがため込んでいたものを吐き出すように喋りだした。
「うちのテニス部のユニフォーム、伝統だかなんだかしらないけど、昔からあるテニスウエアでスコートっていうプリーツの超ミニスカートなの。あ、もちろん見せパン履くけど、だからって脚やパンツを見せるスポーツじゃないでしょ。ユニフォーム変えたいって学校にお願いしたらさあ、男の先生は伝統だからしか言わないし、女の先生は見られてると思うなんて自意識過剰、テニスに集中してない証拠って言って話聞かない。他の部の子に言ったら似合っててカワイイからいいじゃんだって。でも陰では、わざと見せてるくせに被害者ぶりやがってって言ってるの聞いた。誰もテニスで評価しない。だからね女性アスリートとかって見た目いじられて、すごい嫌な思いいっぱいしてるけど、前向きなこと言って偉いなあって思っちゃう。できない自分が器小さいみたいで嫌になる」
夢摘ちゃんはただ可愛だけの人じゃない。自分の意見をハッキリ言うし、これ言ったら自分の印象悪くなるとか計算がない。さすがトノの姉。何より、スタイルが悪いから隠したいというわけじゃない。わたしは夢摘ちゃん側にはいけないよ。
夢の先輩への感想が「キレイな人だった」という自分のしょうもなさが申し訳ない。
美人で親ガチャ当たった人の夢なんか参考にならない。そう思った自分はただ妬んでただけに思えてしまう。
「みんなでジャージ履こう」
テニス部に入ろうなんて思ったことないけど、注目される場所でスコートを履く自信がないわたしの気持ちで言った。
「そうだね」
夢摘ちゃんが笑った。
「なんかお菓子ないかなー」
わたしに愚痴ってスッキリした夢摘ちゃん、キッチンの方にお菓子を探しに行った。
トノの「夢カルテ」をじっと見た。
隅田先生に夢を否定されたって言ってたな。否定されたことに怒りを感じるって事は、トノの夢は誰かに理解されたいものなんだろうか。扱い方が上手いと言われたわたしに理解できるだろうか。わたしはトノの夢カルテを開いた。
①将来の夢
(宝くじで1億円当てる人)になって(高級料理を食べるなどを)したい
②得意なこと好きなこと
給食を高速で準備。夏の17時17分。
えええええええ!!!
5年生の目標よりも壮大な夢になってる。
そしてこれは隅田先生に文句を言われる作文だ。
玄関が開く音がして、トノが小走りで帰ってきた。
「見知らぬ靴があるけど・・・・・・なんで仲井がいんだよ」
「トノ容疑者のアリバイを聞きに来た」
「隅田先生に頼まれたのか」
「いや、理科委員の活動の一環」
「俺、聞いてないぞ」
「だから話しに来たの」
さっき学校で聞いた四人の証言を紙に書きながらトノに詳しく説明する。トノは目に付いたものに引きずられて話があっちこっちに飛ぶので、出来事や物語は図解しながら話すといい。と、トノのお母さんが言ってた。
あくまで図解。リアルなさし絵は逆効果。記号みたいな絵がいい。わたしは棒人形の絵を四つ描いて顔の○の中に「北川」「宇野」「久保」「井口」と書いた。香蓮や菜奈ちゃんもトノが呼んでいる苗字で統一。
話しながらまとめた結果がこれだ。
【北川】
3時間目の始め、廊下の窓から中庭を歩くトノを見た。
そのあと校門の方に走っていく姿も見た。
【宇野】
中休み終わり、昇降口でトノを見た。
「ウサギ小屋行ってみる」と言うトノの声を聞いた。
【久保】
ウサギ小屋に行くトノを見た。
【井口】
ウサギ小屋に行くトノを見た。と思ったけど中庭だった気がしてきた。
宇野より先に昇降口に行った。トノの声は聞いてない。
「ほうほう」
「で、トノは実際、どうしたの?」
「ウサギ小屋には行っていない」
「でも、ウサギ小屋に行くみたいなことを言った?」
「言ったけど、行ってない」
「なんで」
「俺の探査機が、ウサギ小屋ではなく校門だと言ったから」
トノは両手を軽く握って両目に抑え、親指と人差し指の隙間から覗いた。
「探査機? それで見えるの? レンズついてないじゃん」
「こうすると遠くの物がよく見えるんだ」
「まさか」
幼稚園のころやった「トントントントン・・・」って言う手遊び。ひげじいさんとかテングさんとかあって、探査機はそれの「メガネさん」だ。
トノはメガネさんしていろんな物を見ている。双眼鏡みたいに何か見えるというのか、わたしはマネをして、ちょっと遠くの壁に貼ってあるカレンダーの文字を見た。
普通に見るより文字がくっきり見えた。
「なんか見える気がする」
「だろう」
「え、なんで」
「ピンホール現象」
「逆に分からない」
得意げに笑うトノ。
それを夢摘ちゃんが嬉しそうに笑う。
「やっぱり、花凪ちゃんだね」
「え。何が。ってもう、脱線してるよ。探査機で何見たのよ」
「それは、今はまだ言う時ではない」
「もう」
トノのペースに乗ってしまう。
それを楽しんでしまう自分を自覚してちょっと悔しい。
「明日、トノを連れてくるって約束しちゃったんだから。ちゃんとアリバイ証明するようなこと言ってよ」
「俺の真実は一つ! ウサギ小屋には行ってない。つまり、この中で真実を言っているのは北川だ!」
北川香蓮。わたしもそう思う。香蓮はトノが疑われてることも知らなかったし、ウソつく必要がない。宇野はトノの声を聞いたって言ってるからウソではないと思うけど、トノ自身は絶対にウサギ小屋に行ってない。トノは何か隠してるけどウソはついてない。久保菜奈はなんでトノのこと知ってるのか分からないけどウソついてる。井口は途中で意見変えたから怪しい。
ええ。何も解決しないじゃん。
わたしは棒人形の四人をペンでなぞって、頭の中を整理しようとした。
「菜奈ちゃんはウソだと思うんだ」
「ウソ?」
「うん。この日、一組の飼育委員が餌やり当番なんだけどね、菜奈ちゃんは一緒にやってないと思う。実際、餌やりで遅れてきたのは男子二人だけだったし」
「北川本当、久保がウソ、と、なると、おおおおおおおおお」
トノが突然、叫びだした。
「パラドックス!!!!」
「なに?」
トノはわたしからペンを奪い何かを書き込みだした。
【北川】 本当×本当
【宇野】 本当×ウソ
【久保】 ウソ×本当
【井口】 ウソ×ウソ
「こうだ。さあ、ウソつきは誰だ」
「え?」
「このパラドックスの真相を明らかにするために、俺は明日仲井に連れられて行く。ただ、俺のアリバイはまだ言えぬ。そういう構造なんだ」
「意味分かんない」
「だが、しかし、これはあくまで俺の推理」
「まあ、菜奈ちゃんのウソもあくまでわたしの推理。でも三人で口裏合わせてるような感じするんだよね。みんなウソついてる可能性もある」
口裏なんて言葉を使っていかにも推理してる刑事のような気分。
「三人で俺を犯人にしようとしてる可能性もある」
「それ思った。でもアリバイ話さないから、トノが真犯人をかばってるのかと思った」
「何も知らない。でもアリバイは、今はまだ話す時ではない。そういう構造」
「どういう構造よ」
「じゃあ、三人別々に取り調べしたら?」
お菓子を食べながら話を聞いてた夢摘ちゃんが提案してきた。
取り調べ。その言葉も刑事っぽい。
「しかも予告なしでね。三人で事前に話を合わせないようにしてさ」
いたずらっぽく笑う夢摘ちゃん。トノの学校トラブルを幾度となく乗り越え、もはや楽しむようになってきたんだろう。わたしもなんだかわくわくしてきた。
「面白くなってきたじゃない」
取り調べする刑事ドラマの台詞を思わずマネした。
夢摘ちゃんがドアを開けてくれた。わたしは玄関の靴を見たり、キョロキョロしたりしてトノの存在を探す仕草をしてしまった。
「お母さん仕事で、大は、そろばん塾行ってるよ」
通学路の途中にあるそろばん教室。ここの先生は、三年生のそろばんの授業で講師としてきてくれたりしてるので、学校帰りにそのまま行ってもいい学校公認の塾。習ってる子はランドセルと一緒にそろばん教室のカバンを持って登校する。
トノは逃げたわけではなかった。
「そろばん。まだ、やってるんだ」
「うん。好きだね。一年生の頃、うちの電卓じゃ12桁以上の計算できない! って文句言いだしたから習わせたらしいけど、手先器用じゃないから、計算少年にはなってないね。すごい子は小学生で段とか取るけど、そういう欲、あんまりないみたい」
「そうなんだ」
「もうすぐ帰ってくると思うから、ゆっくりしてて」
「おじゃまします」
ダイニングテーブルに夢摘ちゃんが麦茶を出してくれた。
幼稚園ぐらいの時遊びに来て、ここでよく三人でお絵かきしたなあ。
トノはひたすら数字書いてたけど。
カウンターの隅に「夢カルテ」が置いてあった。
「これって」
「ああ、この講演会脱走したらしい。わざわざ先生から電話かかってきてさ。感想書いて提出するのに、聞いてないから書けないってここに置いてある。テキトウに書けばいいのにって言ってるんだけどね。変なところマジメで」
「はあ」
「花凪ちゃんはちゃんと聞いた? 面白かった?」
「うーん。新体操の選手でめちゃくちゃキレイな人だった」
「あぁ、そういう感じになっちゃうか」
夢摘ちゃんががっかりしたような表情を浮かべた。
「うん。あ、でも、大事にしている言葉がいいなって思った」
「どんな言葉?」
「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる」
「へー。すごいね」
社交辞令で台詞棒読みな感じに聞こえた。夢摘ちゃんが期待した言葉ではなかったのか、ぜんぜん響いてないのに表面上褒めてる。
「わたしはそんなふうに考えられないって思ったから」
「だよね。無理だよ。っていうか多分、そういう意味じゃないって分かるんだけど、なんか反論したくなっちゃう。だってさ、悪いことしてるのあっちなのに、私たちが考え方変えて現状に納得するなんてできないよ。それで未来なんて変わるように思えないんだよ。変われよ他人」
急にイライラしだした夢摘ちゃんを見て、わたしの思った「そんなふうに考えられない」と方向が微妙に違う気がした。
「夢摘ちゃん、なんかあったの?」
「もう花凪ちゃんだから愚痴っちゃうけどさ、テニス部の練習をね、盗撮してる変態がいるの」
「変態?」
すごい悔しそうな顔でうなずき、夢摘ちゃんがため込んでいたものを吐き出すように喋りだした。
「うちのテニス部のユニフォーム、伝統だかなんだかしらないけど、昔からあるテニスウエアでスコートっていうプリーツの超ミニスカートなの。あ、もちろん見せパン履くけど、だからって脚やパンツを見せるスポーツじゃないでしょ。ユニフォーム変えたいって学校にお願いしたらさあ、男の先生は伝統だからしか言わないし、女の先生は見られてると思うなんて自意識過剰、テニスに集中してない証拠って言って話聞かない。他の部の子に言ったら似合っててカワイイからいいじゃんだって。でも陰では、わざと見せてるくせに被害者ぶりやがってって言ってるの聞いた。誰もテニスで評価しない。だからね女性アスリートとかって見た目いじられて、すごい嫌な思いいっぱいしてるけど、前向きなこと言って偉いなあって思っちゃう。できない自分が器小さいみたいで嫌になる」
夢摘ちゃんはただ可愛だけの人じゃない。自分の意見をハッキリ言うし、これ言ったら自分の印象悪くなるとか計算がない。さすがトノの姉。何より、スタイルが悪いから隠したいというわけじゃない。わたしは夢摘ちゃん側にはいけないよ。
夢の先輩への感想が「キレイな人だった」という自分のしょうもなさが申し訳ない。
美人で親ガチャ当たった人の夢なんか参考にならない。そう思った自分はただ妬んでただけに思えてしまう。
「みんなでジャージ履こう」
テニス部に入ろうなんて思ったことないけど、注目される場所でスコートを履く自信がないわたしの気持ちで言った。
「そうだね」
夢摘ちゃんが笑った。
「なんかお菓子ないかなー」
わたしに愚痴ってスッキリした夢摘ちゃん、キッチンの方にお菓子を探しに行った。
トノの「夢カルテ」をじっと見た。
隅田先生に夢を否定されたって言ってたな。否定されたことに怒りを感じるって事は、トノの夢は誰かに理解されたいものなんだろうか。扱い方が上手いと言われたわたしに理解できるだろうか。わたしはトノの夢カルテを開いた。
①将来の夢
(宝くじで1億円当てる人)になって(高級料理を食べるなどを)したい
②得意なこと好きなこと
給食を高速で準備。夏の17時17分。
えええええええ!!!
5年生の目標よりも壮大な夢になってる。
そしてこれは隅田先生に文句を言われる作文だ。
玄関が開く音がして、トノが小走りで帰ってきた。
「見知らぬ靴があるけど・・・・・・なんで仲井がいんだよ」
「トノ容疑者のアリバイを聞きに来た」
「隅田先生に頼まれたのか」
「いや、理科委員の活動の一環」
「俺、聞いてないぞ」
「だから話しに来たの」
さっき学校で聞いた四人の証言を紙に書きながらトノに詳しく説明する。トノは目に付いたものに引きずられて話があっちこっちに飛ぶので、出来事や物語は図解しながら話すといい。と、トノのお母さんが言ってた。
あくまで図解。リアルなさし絵は逆効果。記号みたいな絵がいい。わたしは棒人形の絵を四つ描いて顔の○の中に「北川」「宇野」「久保」「井口」と書いた。香蓮や菜奈ちゃんもトノが呼んでいる苗字で統一。
話しながらまとめた結果がこれだ。
【北川】
3時間目の始め、廊下の窓から中庭を歩くトノを見た。
そのあと校門の方に走っていく姿も見た。
【宇野】
中休み終わり、昇降口でトノを見た。
「ウサギ小屋行ってみる」と言うトノの声を聞いた。
【久保】
ウサギ小屋に行くトノを見た。
【井口】
ウサギ小屋に行くトノを見た。と思ったけど中庭だった気がしてきた。
宇野より先に昇降口に行った。トノの声は聞いてない。
「ほうほう」
「で、トノは実際、どうしたの?」
「ウサギ小屋には行っていない」
「でも、ウサギ小屋に行くみたいなことを言った?」
「言ったけど、行ってない」
「なんで」
「俺の探査機が、ウサギ小屋ではなく校門だと言ったから」
トノは両手を軽く握って両目に抑え、親指と人差し指の隙間から覗いた。
「探査機? それで見えるの? レンズついてないじゃん」
「こうすると遠くの物がよく見えるんだ」
「まさか」
幼稚園のころやった「トントントントン・・・」って言う手遊び。ひげじいさんとかテングさんとかあって、探査機はそれの「メガネさん」だ。
トノはメガネさんしていろんな物を見ている。双眼鏡みたいに何か見えるというのか、わたしはマネをして、ちょっと遠くの壁に貼ってあるカレンダーの文字を見た。
普通に見るより文字がくっきり見えた。
「なんか見える気がする」
「だろう」
「え、なんで」
「ピンホール現象」
「逆に分からない」
得意げに笑うトノ。
それを夢摘ちゃんが嬉しそうに笑う。
「やっぱり、花凪ちゃんだね」
「え。何が。ってもう、脱線してるよ。探査機で何見たのよ」
「それは、今はまだ言う時ではない」
「もう」
トノのペースに乗ってしまう。
それを楽しんでしまう自分を自覚してちょっと悔しい。
「明日、トノを連れてくるって約束しちゃったんだから。ちゃんとアリバイ証明するようなこと言ってよ」
「俺の真実は一つ! ウサギ小屋には行ってない。つまり、この中で真実を言っているのは北川だ!」
北川香蓮。わたしもそう思う。香蓮はトノが疑われてることも知らなかったし、ウソつく必要がない。宇野はトノの声を聞いたって言ってるからウソではないと思うけど、トノ自身は絶対にウサギ小屋に行ってない。トノは何か隠してるけどウソはついてない。久保菜奈はなんでトノのこと知ってるのか分からないけどウソついてる。井口は途中で意見変えたから怪しい。
ええ。何も解決しないじゃん。
わたしは棒人形の四人をペンでなぞって、頭の中を整理しようとした。
「菜奈ちゃんはウソだと思うんだ」
「ウソ?」
「うん。この日、一組の飼育委員が餌やり当番なんだけどね、菜奈ちゃんは一緒にやってないと思う。実際、餌やりで遅れてきたのは男子二人だけだったし」
「北川本当、久保がウソ、と、なると、おおおおおおおおお」
トノが突然、叫びだした。
「パラドックス!!!!」
「なに?」
トノはわたしからペンを奪い何かを書き込みだした。
【北川】 本当×本当
【宇野】 本当×ウソ
【久保】 ウソ×本当
【井口】 ウソ×ウソ
「こうだ。さあ、ウソつきは誰だ」
「え?」
「このパラドックスの真相を明らかにするために、俺は明日仲井に連れられて行く。ただ、俺のアリバイはまだ言えぬ。そういう構造なんだ」
「意味分かんない」
「だが、しかし、これはあくまで俺の推理」
「まあ、菜奈ちゃんのウソもあくまでわたしの推理。でも三人で口裏合わせてるような感じするんだよね。みんなウソついてる可能性もある」
口裏なんて言葉を使っていかにも推理してる刑事のような気分。
「三人で俺を犯人にしようとしてる可能性もある」
「それ思った。でもアリバイ話さないから、トノが真犯人をかばってるのかと思った」
「何も知らない。でもアリバイは、今はまだ話す時ではない。そういう構造」
「どういう構造よ」
「じゃあ、三人別々に取り調べしたら?」
お菓子を食べながら話を聞いてた夢摘ちゃんが提案してきた。
取り調べ。その言葉も刑事っぽい。
「しかも予告なしでね。三人で事前に話を合わせないようにしてさ」
いたずらっぽく笑う夢摘ちゃん。トノの学校トラブルを幾度となく乗り越え、もはや楽しむようになってきたんだろう。わたしもなんだかわくわくしてきた。
「面白くなってきたじゃない」
取り調べする刑事ドラマの台詞を思わずマネした。
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