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仇討
三十九.追討の元助
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秀吉は渋々恒興に告げる。
「んぁぁ・・・、約束はでけんが、孫七郎が羽柴に戻ってきたら、考えちゃろうっ。」
恒興は考える。
(うぅむ、誤魔化しにかかっとるが、今日のところはここまでかのぉ・・・。じゃが、信吉殿が羽柴に戻るんは近い筈じゃ。わしの勘がそう働いちょる。よしっ。)
「本当かぁっ。是非是非頼むわぁ。わしの可愛い娘じゃぁ、よろしくのぉっ。ささっ、今宵は呑めっ、呑めっ。」
「あのなぁぁ・・・。」
恒興が強引に酒を注ごうとしているところへ、元助が入ってくる。
「あぁ、筑前様ぁ・・・、やはりまだ居られましたかぁ。たった今秀勝殿を宿へお送りしてきたところでございます。」
恒興が手招きする。
「おぉ、之助っ。よぉ、戻ったぁ。ささっ、こっちさ来い。たった今、筑前が信吉殿にゆうを嫁がせるんを認めてくれたんじゃぁ・・・。やあぁ、めでたいっ。」
「おっ、おぃっ、まだ約束しちょらんわぃ。勝手に話を進めんなぁ。」
笑顔の元助が恒興の側に座し、恒興から盃をとる。
「それはそれはめでたい。早うゆうに知らせませんとなぁ。」
「元助殿まで悪ふざけぞぉ・・・。まだ約束しちょらんっつうにぃ・・・。」
居心地の悪い秀吉は、元助に酒を注ぎながら話を逸らす。
「それよりぃ・・・今日は秀勝殿が世話になったのぉ。わしらの陣にはあまり若いもんがおらんでのぉ。こうして年端の近い元助殿と馬を揃えることなど滅多にねぇもんじゃからぁ、彼奴にとって今日一日は楽しかったろうにぃ・・・」
秀吉がそう云うと、元助は急に真面目な面持ちになる。
「父上、わたくしからも一つ、筑前様にお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」
秀吉はぎくとする。
「今は酒の席じゃ。何でも云うたらえぇ。」
「先ほど秀勝殿と馬を走らせて参りましたが、何とも立派なお方になっておられましてなぁ。この先、織田家を引っ張っていく御人とお見受けしました。父上もお会いしたらさぞ驚くでございましょう。」
ちらと恒興の方を見る元助の視線に、恒興は察する。
(ほぉっ、之助の奴、何かおもしろいことを思いつきおったなぁ。)
「有岡の城まで行って、弟の輝政を目通りさせませたところ、二人は随分息が合いましてのぉ。輝政が秀勝殿を連れて城を案内しておりましたが、わたくしが口を挟めんほど仲睦まじい兄弟のようでして・・・。」
いよいよ秀吉は悪い予感がする。しかしこの父子の調子を破れない自分がもどかしい。
「帰りの馬上で秀勝殿に聞きますところ、何でも秀勝殿の周りには同い年頃の者が一人もおらんとか・・・。輝政もこちらに出戻ってきてからは同じような境遇で、確かに何とのぉ寂しい毎日を暮らしておる様子でしたしのぉ。」
秀吉は唾を飲む。
「筑前様っ、ここは是非輝政を筑前様の養子とされ、輝政を秀勝殿の弟としてお側に置かれてはいかがでしょうか。」
秀吉は眼をかっと大きく開く。
「えっ、輝政殿をかぁ・・・。既にわしらは長吉殿をいただいておるじゃろうがぁ。」
恒興がにやつく。
(よぉっしぃっ。でかした倅よ。えぇ切り口じゃぁ。)
「おおぉっ、それは妙案じゃぁ。立派な主君っちゅうもんは若いうちに同い年頃の輩と共に切磋琢磨し、成人してその強い結びつきを良き治世に活かすもんじゃ。考えてみれば、大殿も殿もそうじゃった。大殿の御曹司なら尚更、年寄ばかりに囲まれとらんと、気心知れた忠臣を側に置くべきじゃあ。確かに輝政は打ってつけじゃのぉ。」
「いやっ、それなら別に養子でのうてもぅ・・・。」
元助が秀吉の言葉を遮って、畳み掛ける。
「秀勝殿も輝政も既に初陣を果たしておりますので、今更小姓を付けるというのもおかしゅうございましょう。それに何より二人が筑前様の元で『義兄弟』となることで、これからの織田家を支える秀勝殿にとっては万人の力を得る心地で、自信をお持ちになられることでありましょう。」
「そっ、そないなこつは秀勝殿に訊いてみんと分からんじゃろがぁ。」
「いえいえっ、先ほど秀勝殿に訊いてみましたら、『小一郎殿のような明るく頼もしい弟がいてくれれば、輝政が弟になって側にいてくれれば、わしは大層心強いものよ』と申して頂きまして、満更ではないと御見受けいたしましたが・・・。」
秀吉は空いた口が塞がらず、頭を抱える。
(こいつらっ、若僧のよもやま話を言質にしやがってぇ・・・。)
恒興はほくそ笑む。
(うまいっ、よぅ仕組んだっ。こりゃぁ、もうあと一押しじゃぁ。)
恒興は盃で上座を指し、落ち着きある声で説得する。
「筑前っ。大殿の御曹司を立派に育てるっちゅうんも、わしら残されたもんらの使命じゃぞぉ。もしここでお主がこん話を引き受けちゃら、大殿と殿のえぇ供養になると思わんかぇ・・・。」
薄笑いの秀吉は溜息を吐くが、その腑は煮え繰り返る。
(くそぉっ、父子でここまで段取りしやがってぇ・・・、おまけに大殿と殿の供養じゃとぉ・・・、『承知した』としか云えんでねぇかぁ。そん上、わしが隠居するわけにいかんようになってしもうたじゃねぇかぁ・・・。完全に嵌められたわぃ。)
「んぁぁ・・・、約束はでけんが、孫七郎が羽柴に戻ってきたら、考えちゃろうっ。」
恒興は考える。
(うぅむ、誤魔化しにかかっとるが、今日のところはここまでかのぉ・・・。じゃが、信吉殿が羽柴に戻るんは近い筈じゃ。わしの勘がそう働いちょる。よしっ。)
「本当かぁっ。是非是非頼むわぁ。わしの可愛い娘じゃぁ、よろしくのぉっ。ささっ、今宵は呑めっ、呑めっ。」
「あのなぁぁ・・・。」
恒興が強引に酒を注ごうとしているところへ、元助が入ってくる。
「あぁ、筑前様ぁ・・・、やはりまだ居られましたかぁ。たった今秀勝殿を宿へお送りしてきたところでございます。」
恒興が手招きする。
「おぉ、之助っ。よぉ、戻ったぁ。ささっ、こっちさ来い。たった今、筑前が信吉殿にゆうを嫁がせるんを認めてくれたんじゃぁ・・・。やあぁ、めでたいっ。」
「おっ、おぃっ、まだ約束しちょらんわぃ。勝手に話を進めんなぁ。」
笑顔の元助が恒興の側に座し、恒興から盃をとる。
「それはそれはめでたい。早うゆうに知らせませんとなぁ。」
「元助殿まで悪ふざけぞぉ・・・。まだ約束しちょらんっつうにぃ・・・。」
居心地の悪い秀吉は、元助に酒を注ぎながら話を逸らす。
「それよりぃ・・・今日は秀勝殿が世話になったのぉ。わしらの陣にはあまり若いもんがおらんでのぉ。こうして年端の近い元助殿と馬を揃えることなど滅多にねぇもんじゃからぁ、彼奴にとって今日一日は楽しかったろうにぃ・・・」
秀吉がそう云うと、元助は急に真面目な面持ちになる。
「父上、わたくしからも一つ、筑前様にお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」
秀吉はぎくとする。
「今は酒の席じゃ。何でも云うたらえぇ。」
「先ほど秀勝殿と馬を走らせて参りましたが、何とも立派なお方になっておられましてなぁ。この先、織田家を引っ張っていく御人とお見受けしました。父上もお会いしたらさぞ驚くでございましょう。」
ちらと恒興の方を見る元助の視線に、恒興は察する。
(ほぉっ、之助の奴、何かおもしろいことを思いつきおったなぁ。)
「有岡の城まで行って、弟の輝政を目通りさせませたところ、二人は随分息が合いましてのぉ。輝政が秀勝殿を連れて城を案内しておりましたが、わたくしが口を挟めんほど仲睦まじい兄弟のようでして・・・。」
いよいよ秀吉は悪い予感がする。しかしこの父子の調子を破れない自分がもどかしい。
「帰りの馬上で秀勝殿に聞きますところ、何でも秀勝殿の周りには同い年頃の者が一人もおらんとか・・・。輝政もこちらに出戻ってきてからは同じような境遇で、確かに何とのぉ寂しい毎日を暮らしておる様子でしたしのぉ。」
秀吉は唾を飲む。
「筑前様っ、ここは是非輝政を筑前様の養子とされ、輝政を秀勝殿の弟としてお側に置かれてはいかがでしょうか。」
秀吉は眼をかっと大きく開く。
「えっ、輝政殿をかぁ・・・。既にわしらは長吉殿をいただいておるじゃろうがぁ。」
恒興がにやつく。
(よぉっしぃっ。でかした倅よ。えぇ切り口じゃぁ。)
「おおぉっ、それは妙案じゃぁ。立派な主君っちゅうもんは若いうちに同い年頃の輩と共に切磋琢磨し、成人してその強い結びつきを良き治世に活かすもんじゃ。考えてみれば、大殿も殿もそうじゃった。大殿の御曹司なら尚更、年寄ばかりに囲まれとらんと、気心知れた忠臣を側に置くべきじゃあ。確かに輝政は打ってつけじゃのぉ。」
「いやっ、それなら別に養子でのうてもぅ・・・。」
元助が秀吉の言葉を遮って、畳み掛ける。
「秀勝殿も輝政も既に初陣を果たしておりますので、今更小姓を付けるというのもおかしゅうございましょう。それに何より二人が筑前様の元で『義兄弟』となることで、これからの織田家を支える秀勝殿にとっては万人の力を得る心地で、自信をお持ちになられることでありましょう。」
「そっ、そないなこつは秀勝殿に訊いてみんと分からんじゃろがぁ。」
「いえいえっ、先ほど秀勝殿に訊いてみましたら、『小一郎殿のような明るく頼もしい弟がいてくれれば、輝政が弟になって側にいてくれれば、わしは大層心強いものよ』と申して頂きまして、満更ではないと御見受けいたしましたが・・・。」
秀吉は空いた口が塞がらず、頭を抱える。
(こいつらっ、若僧のよもやま話を言質にしやがってぇ・・・。)
恒興はほくそ笑む。
(うまいっ、よぅ仕組んだっ。こりゃぁ、もうあと一押しじゃぁ。)
恒興は盃で上座を指し、落ち着きある声で説得する。
「筑前っ。大殿の御曹司を立派に育てるっちゅうんも、わしら残されたもんらの使命じゃぞぉ。もしここでお主がこん話を引き受けちゃら、大殿と殿のえぇ供養になると思わんかぇ・・・。」
薄笑いの秀吉は溜息を吐くが、その腑は煮え繰り返る。
(くそぉっ、父子でここまで段取りしやがってぇ・・・、おまけに大殿と殿の供養じゃとぉ・・・、『承知した』としか云えんでねぇかぁ。そん上、わしが隠居するわけにいかんようになってしもうたじゃねぇかぁ・・・。完全に嵌められたわぃ。)
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