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策謀
百一.翹望の二人 其の二
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文をくしゃと丸め込んだ小一郎に宗易が尋ねる。
「どうされましたかぁ。」
「山﨑の城の普請が遅れちょったから、兄さぁ直々に地元の百姓らを鼓舞しちょったらしいんじゃが、そろそろ京に戻ろうかと思ぉたら、今度は淀の城のあたりが気になって、そこに立ち寄ってから帰るそうじゃ。」
「山崎に城をお建てになるのですかぁ。」
「元々小さい山城はあったんじゃがのぉ。それを信孝様との戦の前に大々的に作り直しておこぉと官兵衛殿が進言されてのぉ・・・。城周りはだいぶできとったそうじゃが、街道からの道のりがなっとらんかったらしいんで、山道を整えるんを手伝っとったらしい。」
「ほほぉっ・・・。そして次は淀の城ですかぁ。」
「あぁっ、前から気にはなっとったんじゃが、城の周りの堤が手薄なところがあってのぉ・・・。山崎に充てとった大工の一部を淀に回して、これから指図するらしい。」
「筑前様は本当に御忙しい方ですなぁ。」
「じゃが京も忙しいんじゃ。早ぉ戻ってきてほしいんじゃがのぉ・・・。」
呆れ声の小一郎に対し、宗易は深く考え込んでから小一郎の顔を見直す。
「うぅぅんっ、もしかすると京に戻るのはさらに延びるかもしれませんなぁ。」
「どぉいうこっちゃ・・・。」
「いやっ、わたくしの当て推量でございますが、次は伏見あたりに立ち寄ってくると云い出すかもと思いましてぇ・・・。」
「伏見じゃとぉ・・・。」
小一郎はそう云いながらも、また宗易の小難しい論調に付き合うのかと辟易する。
「筑前様は大坂から京へ上るにあたって、御上のおわす京と殿がこれからお住みになる大坂との間に太くて強固な道を作る必要があるとお考えになられたのではないかと・・・。」
「何故、そぉ思うんじゃ。」
「わたくしも京、堺、兵庫を渡り歩きましたので、道中でよく考えておりました。京から大坂へは船の便は良いのですが、特に高槻と大坂の間の陸の道が不便でございます。船は多くの荷を運ぶにはよろしいのですが、天候が悪ければ運べるものも運べません。ですから京と大坂を結ぶ街道が整っていたらさらに便が良いのになと常々思っておりました。しかし街道を整えば、西から兵が京に押し寄せることもできてしまいます。京と大坂の間にいくつか城を設けることも必要でございましょう。山﨑の城で陸を見張り、淀の城で川を見張るのが良いとお考えになったのではございませんでしょうか。」
「なるほどぉっ・・・、じゃがそれなら何故伏見なんじゃぁ。別に京の側なら何処でもえぇんでねぇけぇ・・・。」
「戦のことだけ考えればそうなのですが、戦がないとき、大坂からは多くの荷が京に運ばれることになります。京は大いに賑わうでしょうが、京のつくりを考えると、その荷を京に全て集めるには無理がありましょう。ですから荷が京に入る手前に多くの蔵が建つ地を設けるのが得策でありましょう。幸い、伏見には小高い山があり、そこからは淀の川と京を一度に見渡すことできます。城を建てれば戦に備えることもできましょう。」
「確かに、兄さぁは城を建てるんを考えるとき、街づくりも一緒に考えるからのぉ・・・。じゃがおもしろいのぉっ、兄さぁの考えるこつを商人が言い当てるなんて・・・。」
「あくまで当て推量です。本当のことは筑前様に直にお伺い立てないと・・・。」
「はははっ、まぁなぁっ。じゃがいつまでも京に戻ってこんっちゅうんは困るのぉ。御葬儀のこつなんぞ、色々決めなあかんのじゃがなぁ・・・。」
小一郎は話を切ろうとするのだが、宗易の無茶は止まらない。
「然れば、御葬儀の日取りだけでもわれらで決めて、筑前様には御報せだけすればよろしいのではございませんか。」
「いつとお伝えするんじゃぁ。」
「十月十五日がよろしゅうございます。逃せば、次は年越しになってしまいます。」
「ほっ、ほんまかぁっ・・・。うぅぅんっ、あんまり日がねぇのぉ・・・。じゃが無断で決めるんもよくねぇじゃろぉ。すまんが宗易殿っ、文に詳しゅう書いて、兄さぁの了解を得てくれんかのぉ。」
「承知仕りました。早速認めましょう。」
「それんしても、このままじゃと秀勝殿の方が先に京に着いてまうのぉ・・・。」
わずかだが宗易の眼の色が変わる。
「秀勝様が来られるのですか。」
「おぉっ、丹波の方が落ち着いたんで、兄さぁが呼んだんじゃ。」
「それは都合がよろしいですなぁ。」
「何故じゃぁ・・・。」
「信長様の百日忌が近々あります。秀勝様だけでもこの寺で仰々しく法要を取り計らえば、阿弥陀寺の法要よりも目立ちましょう。然すれば京の人々は筑前様が取り仕切る御葬儀をいつぞいつぞと待ち望まれるでしょう。」
「そしたら当日になってぎょうさんの人が御葬儀を拝観するってかぁ・・・。よぉそないなこつ思いつくのぉ・・・。じゃぁ、そんこつも兄さぁに報せてくんろっ。」
「畏まりました・・・。それにしても秀勝様には早く御目に掛かりたいものですなぁ。」
「何じゃっ、宗易殿っ。秀勝殿に興味があるんかぇ・・・。」
「商人の間では、信長様に最も似ておられる御子息は秀勝様であるという噂でございます。秀勝様はお若いので、誼の商人などごくわずかしかおられないのでしょうが、仇討でのご活躍は皆の耳には届いておりますし、秀勝様をお慕いする御武家様もおられるとか・・・。一度拝謁したいと思っておりました。」
「商人らはそないなこつを云うとるんかぁ。まぁっ、満更でもねぇと思うがなっ。」
宗易は遠くを見ながら感慨深く云う。
「もし秀勝様に信長様の片鱗をお見かけするようなことになれば、わたくしは幸せ者でございますなぁ・・・。」
「どうされましたかぁ。」
「山﨑の城の普請が遅れちょったから、兄さぁ直々に地元の百姓らを鼓舞しちょったらしいんじゃが、そろそろ京に戻ろうかと思ぉたら、今度は淀の城のあたりが気になって、そこに立ち寄ってから帰るそうじゃ。」
「山崎に城をお建てになるのですかぁ。」
「元々小さい山城はあったんじゃがのぉ。それを信孝様との戦の前に大々的に作り直しておこぉと官兵衛殿が進言されてのぉ・・・。城周りはだいぶできとったそうじゃが、街道からの道のりがなっとらんかったらしいんで、山道を整えるんを手伝っとったらしい。」
「ほほぉっ・・・。そして次は淀の城ですかぁ。」
「あぁっ、前から気にはなっとったんじゃが、城の周りの堤が手薄なところがあってのぉ・・・。山崎に充てとった大工の一部を淀に回して、これから指図するらしい。」
「筑前様は本当に御忙しい方ですなぁ。」
「じゃが京も忙しいんじゃ。早ぉ戻ってきてほしいんじゃがのぉ・・・。」
呆れ声の小一郎に対し、宗易は深く考え込んでから小一郎の顔を見直す。
「うぅぅんっ、もしかすると京に戻るのはさらに延びるかもしれませんなぁ。」
「どぉいうこっちゃ・・・。」
「いやっ、わたくしの当て推量でございますが、次は伏見あたりに立ち寄ってくると云い出すかもと思いましてぇ・・・。」
「伏見じゃとぉ・・・。」
小一郎はそう云いながらも、また宗易の小難しい論調に付き合うのかと辟易する。
「筑前様は大坂から京へ上るにあたって、御上のおわす京と殿がこれからお住みになる大坂との間に太くて強固な道を作る必要があるとお考えになられたのではないかと・・・。」
「何故、そぉ思うんじゃ。」
「わたくしも京、堺、兵庫を渡り歩きましたので、道中でよく考えておりました。京から大坂へは船の便は良いのですが、特に高槻と大坂の間の陸の道が不便でございます。船は多くの荷を運ぶにはよろしいのですが、天候が悪ければ運べるものも運べません。ですから京と大坂を結ぶ街道が整っていたらさらに便が良いのになと常々思っておりました。しかし街道を整えば、西から兵が京に押し寄せることもできてしまいます。京と大坂の間にいくつか城を設けることも必要でございましょう。山﨑の城で陸を見張り、淀の城で川を見張るのが良いとお考えになったのではございませんでしょうか。」
「なるほどぉっ・・・、じゃがそれなら何故伏見なんじゃぁ。別に京の側なら何処でもえぇんでねぇけぇ・・・。」
「戦のことだけ考えればそうなのですが、戦がないとき、大坂からは多くの荷が京に運ばれることになります。京は大いに賑わうでしょうが、京のつくりを考えると、その荷を京に全て集めるには無理がありましょう。ですから荷が京に入る手前に多くの蔵が建つ地を設けるのが得策でありましょう。幸い、伏見には小高い山があり、そこからは淀の川と京を一度に見渡すことできます。城を建てれば戦に備えることもできましょう。」
「確かに、兄さぁは城を建てるんを考えるとき、街づくりも一緒に考えるからのぉ・・・。じゃがおもしろいのぉっ、兄さぁの考えるこつを商人が言い当てるなんて・・・。」
「あくまで当て推量です。本当のことは筑前様に直にお伺い立てないと・・・。」
「はははっ、まぁなぁっ。じゃがいつまでも京に戻ってこんっちゅうんは困るのぉ。御葬儀のこつなんぞ、色々決めなあかんのじゃがなぁ・・・。」
小一郎は話を切ろうとするのだが、宗易の無茶は止まらない。
「然れば、御葬儀の日取りだけでもわれらで決めて、筑前様には御報せだけすればよろしいのではございませんか。」
「いつとお伝えするんじゃぁ。」
「十月十五日がよろしゅうございます。逃せば、次は年越しになってしまいます。」
「ほっ、ほんまかぁっ・・・。うぅぅんっ、あんまり日がねぇのぉ・・・。じゃが無断で決めるんもよくねぇじゃろぉ。すまんが宗易殿っ、文に詳しゅう書いて、兄さぁの了解を得てくれんかのぉ。」
「承知仕りました。早速認めましょう。」
「それんしても、このままじゃと秀勝殿の方が先に京に着いてまうのぉ・・・。」
わずかだが宗易の眼の色が変わる。
「秀勝様が来られるのですか。」
「おぉっ、丹波の方が落ち着いたんで、兄さぁが呼んだんじゃ。」
「それは都合がよろしいですなぁ。」
「何故じゃぁ・・・。」
「信長様の百日忌が近々あります。秀勝様だけでもこの寺で仰々しく法要を取り計らえば、阿弥陀寺の法要よりも目立ちましょう。然すれば京の人々は筑前様が取り仕切る御葬儀をいつぞいつぞと待ち望まれるでしょう。」
「そしたら当日になってぎょうさんの人が御葬儀を拝観するってかぁ・・・。よぉそないなこつ思いつくのぉ・・・。じゃぁ、そんこつも兄さぁに報せてくんろっ。」
「畏まりました・・・。それにしても秀勝様には早く御目に掛かりたいものですなぁ。」
「何じゃっ、宗易殿っ。秀勝殿に興味があるんかぇ・・・。」
「商人の間では、信長様に最も似ておられる御子息は秀勝様であるという噂でございます。秀勝様はお若いので、誼の商人などごくわずかしかおられないのでしょうが、仇討でのご活躍は皆の耳には届いておりますし、秀勝様をお慕いする御武家様もおられるとか・・・。一度拝謁したいと思っておりました。」
「商人らはそないなこつを云うとるんかぁ。まぁっ、満更でもねぇと思うがなっ。」
宗易は遠くを見ながら感慨深く云う。
「もし秀勝様に信長様の片鱗をお見かけするようなことになれば、わたくしは幸せ者でございますなぁ・・・。」
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