フリーの魔法士さん

瀬々良木 清

文字の大きさ
2 / 24
第一話 大船渡

第1話

しおりを挟む
 由紀恵は朝早くに東京を発ち、東北新幹線で一ノ関駅まで移動したあと、大船渡線に乗り換えた。
大船渡線は非電化のローカル線で、乗客はまばらだった。気仙沼から先は、BRTというバスの車両が専用道路を走る路線となる。走っているのはバスだが、鉄道路線扱い。
   
   由紀恵は仕事のため日本全国を駆け回っているが、BRTに乗るのは初めてだった。
気仙沼駅で、列車用の改札とホームの中にバスが入ってくるのを見て、由紀恵は不思議な気持ちになった。これまで見たことのない乗り物で、未来感があった。しかし、乗客は由紀恵一人しかおらず、やっぱりただのローカル線だな、と由紀恵は思った。

   由紀恵が乗ったバスは快速で、どこを走るのだろうと思ったら、高速道路に乗ってしまった。これは高速バスと何が違うのだろう、と由紀恵は首を傾げてしまった。
大船渡駅に着いたのは昼過ぎだった。駅前にあるホテルに早々とチェックインし、部屋に荷物を置いた。この日は、移動だけの予定だった。

   昼食をとれる所を調べたら、近くにキャッセン大船渡という小さなショッピングモールがあることを知り、そこで貝からダシをとったラーメンを一人で食べた。貝のダシはうまみが効いていて、美味しかった。由紀恵は満足した。

   午後はすることがなく、大船渡駅からBRTで終点の盛駅まで行ってみたが、大船渡駅以上に何もない場所だった。
   そのまま三陸鉄道で宮古駅まで乗ってみた。午後二時過ぎで、平日という事もあって乗客は由紀恵だけだった。三陸の海をぼうっと眺めながら、由紀恵は故郷の海のことを思い出していた。
由紀恵の出身は四国の徳島県の南方で、三陸の海はなんとなく似ているような気がしていた。違うのは五月だというのに少し肌寒く感じるところだ。さすが東北だ、と由紀恵は思った。

   約十年前、由紀恵が高校生の時に東日本大震災があった。四国の実家にいた由紀恵は、その凄絶な様子をテレビで見ながらも、直接影響を受けることはなかった。
   三陸鉄道の車窓からは、新設された防潮堤が見えた。津波の時のニュースで、防潮堤を軽々と超える津波を見て「なにが防潮堤だよ!」と叫ぶ男性の姿を由紀恵は覚えていた。あの大津波に破壊された以前のものよりは高いのだろうが、果たして大津波にあれで対抗できるのだろうか。いくら高さがあっても、人間が作ったコンクリートの壁なんかへし折られるんじゃないか……そう思ったが、故郷にずっと住み続けたい人たちの気持ちもなんとなくわかるので、由紀恵は新しい防潮堤の存在を否定できなかった。
   
   宮古駅まで行ったあと、ふたたび三陸鉄道で折り返して大船渡駅に戻った。
   大船渡駅の周辺は、津波の被害で更地になっているところが多かった。一方、西にある山の方向を見てみると、普通に家が立ち、車が行き交っていた。たった数百メートルの立地が、明暗を分けたのだった。
   それにしても、一時は壊滅したかと思われた大津波の被災地は、由紀恵が見る限り、今では普通の地方都市として機能している。様々な地方都市に出向く由紀恵は、他の地方都市と比べて遜色ないと感じた。震災から約十年。もちろん、ここを去った人も多いし、残った人にもその間にはとても大きな苦労があったとはいえ、普通の地方都市に戻れたことは、被災地へはじめて来た由紀恵には驚きだった。
 そういうことをニュースで言えばいいのに、と由紀恵は思った。被災地の人々は、今では割と普通に生活してますよ、って。いちいち過去を振り返るより、そっちの方がずっと前向きだ。
 そんなことを考えながら、由紀恵は大船渡の街を散歩した。
 盛駅の近くにある『サンリア』という小さなショッピングセンターに寄ると、お年寄りと学校帰りの女子高生しかいなかった。由紀恵の実家もこんな感じで、少ない商業施設に皆が集まるので、懐かしく思った。由紀恵はそこで東京の三分の一くらいの値段しかしない焼き立てのパンを買い、ホテルに戻って食べた。
 入浴のあと、由紀恵は明日会う今回の依頼人のことを調べた。
 由紀恵はフリーランスの魔法士だが、依頼は全て魔法庁から斡旋される。ただし魔法庁から提供される依頼人の情報は、顔写真、名前、年齢、依頼の概要のみ。
 それ以外のことは、本人から直接聞き出す決まりになっている。
 今回の依頼者は、菊池玲美という十七歳の女子高生だった。
 ふわっとした髪に、いかにも今どきの女子高生らしいメイク。由紀恵はどちらかというと苦手なタイプだな、と思った。
 依頼の概要は、『身体的なコンプレックスについて』とあった。
 由紀恵はため息をついた。
魔法で体を作り変えることはできない。一時的に身体の一部を変えることはできるので、変装などに使う魔法士もいる。しかし、魔法が切れたら戻ってしまう。どんなに長くても、数年で魔法は切れてしまう。
菊池玲美がどんなコンプレックスを持っているのか不明だが、それを魔法で治すのは困難だ。
依頼を達成できないと、由紀恵は報酬を受け取れない。そのような例はほとんどないのだが、大船渡への旅自体が無駄になってしまう可能性もある。
『身体的なコンプレックス』を直接治さなくても、本人の悩みが解決すればそれで依頼達成とみなされるので、明日菊池玲美と会って、具体的な内容を聞き取ってからが勝負になる。

(大丈夫かなあ……ま、いっか)

 由紀恵は数秒だけ悩んだが、もともと楽天的な性格なこともあり、考えても仕方がないから、と思って、この日は早めに寝てしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...