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第二話 豊橋
第2話
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翌日の月曜日から、渡辺文俊の尾行調査を始めた。
文俊はいつも豊橋駅前にある「シカゴ」というパチンコ屋にいるらしい。駅近くには何件かパチンコ屋があったが「シカゴ」は最も古びており、いかにも昔のパチンコ屋という感じだった。
由紀恵はパチンコをしたことがなかったが、ギャンブルに対して特に嫌悪感はなかった。実家にいた頃、父親は真面目だったが、祖父がよくパチンコへ出かけていたからだ。
パチンコをする人に対する偏見はなかった。ただ由紀恵自身はこれまでパチンコをしたいと思わなかった。ホールの中の音がすごすぎて、耳が潰れそうだったからだ。由紀恵は昔から耳の感度が良すぎて、イヤホンをすると耳が痛くなる。大きい音も苦手だった。
そんな訳で由紀恵は、店の外からガラス越しに文俊を見ていた。
文俊は朝十時の開店後すぐに来て、パチンコを打ちはじめた。それからずっと、タバコやトイレの時以外は黙々とパチンコに集中していた。
由紀恵は店の前で見ていた訳だが、駅前ということで人通りもあり、ずっとそこで立ってはいられず、周囲をうろうろしながら店内をのぞいていた。
お昼過ぎになって、文俊は一度店を出て、昼食のために近くのうどん屋へ入った。由紀恵はそこについて行って同じように昼食をとったが、文俊が誰かと接触する気配はなかった。
午後もこのまま続けるのは嫌だな、と思った由紀恵は、思い切ってパチンコを打ってみることにした。
コンビニで耳栓を買い、文俊と同じ列のパチンコ台に座った。由紀恵はパチンコのことが全くわからなかったので、オーソドックスな台だと思われる「海三昧」という台に座った。一玉一円の、いわゆる一パチだった。調査費用で経費として落ちるから何でもいいのだが、あまり大負けするのは嫌だった。
ネットでパチンコの遊び方を調べたら、台の左上にあるところへお札を入れる、と書いていたが、この店には五百円玉を入れるところしかなかった。後から知ったのだが、「シカゴ」は今どきめったに使われていない古い設備を使っていた。五百円玉を入れたら、五百発の玉が出てきて、上皿から溢れ、下皿も一杯になり「玉を抜いてください」とパチンコ台に怒られた。難儀な遊びだなあ、と由紀恵は思った。
それから、文俊のほうをちらちら見つつ、パチンコを打ち始めた。
どうせ当たらないんだろうな、と思っていたら、十分くらい打ったところでディスプレイを魚の大群が横切り、数字が揃った。
「えっ?」
由紀恵は思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。そのせいで文俊が一瞬、由紀恵の方を見た。しまった、と由紀恵は思った。でも文俊は気にせずパチンコを続けたので、由紀恵は不審がられないようにパチンコを打ち続けた。
確変に入っていた由紀恵の台はどんどん玉を出した。ネットで見たとおり、箱が一杯になったら店員を呼んで積み替えてもらった。店には文俊と由紀恵しかおらず、いちいち対応してもらうことに申し訳なさを感じた。
確変が終わり、店員に頼んで玉を計ってもらうと一万発以上あった。それを景品に交換し、店の裏にある交換所で現金に変える。一万円を渡された。
五百円の投資で、一万円返ってきた。
そう考えると、かなりの大勝ちだと思われた。一発一円の台だったが、これが一発四円の台だったら四倍になる。
パチンコって、実は稼げるんじゃないか?
そう思った由紀恵は、その一万円を元手に、またパチンコを打ち始めた。
次に選んだのは、由紀恵が昔見ていたアニメの台だった。三千円使っても当たらなかったので、やっぱりそんなうまい話はないか、と思っていたら、また当たってしまった。
確変に入った台はどんどん玉を出し、由紀恵は閉店間際まで打ち続けた。文俊は八時過ぎに帰ったが、まっすぐ豊橋鉄道の電停へ歩いていたのでまあいいか、と思って追わなかった。
この日、連チャンを経験した由紀恵はパチンコで六万円もの大金を手にした。
それからというもの、由紀恵は尾行よりパチンコにはまってしまった。
大当たりしたその日の夜にパチンコの仕組みを調べ、台によって確率が違うこと、千円あたり何回抽選を回せるかで結果に差が出てくることを学んだ。
単純に勝つだけでなく、パチンコの演出も由紀恵は気に入ってしまった。特に以前、自分が見たことのあるアニメの台は、懐かしくもあり、やたら音響と発光が激しいこともあって、否が応でも感情移入してしまった。
運が良かったのか、由紀恵の打つ台は良く当たり、一日で数万円プラスになった。
最初は一パチだけだったのに、四円のパチンコを打つことに全く抵抗がなくなって、どんどん投資していた。
もちろん文俊のことは見ていたが、トイレかタバコで席を立つか、店長らしき人と雑談するだけで、八時前には必ず店を出ていた。浮気の心配は全くなく、ただパチンコをしているだけだった。
これでなにか欲しかったものでも買うか、という嬉しさの一方、パチンコに深入りしてしまったら依存症になるのではないか、という恐れもあった。しかし、パチンコを打っていると、そんな心配は忘れてしまい、ただ玉とディスプレイに集中していた。
そんな訳で、豊橋に滞在している間、由紀恵はずっとパチンコをしていた。女が昼間っからパチンコなんかしていたら絶対怪しまれるだろうが、どうせここには何度も来ないからと割り切っていた。
文俊はいつも豊橋駅前にある「シカゴ」というパチンコ屋にいるらしい。駅近くには何件かパチンコ屋があったが「シカゴ」は最も古びており、いかにも昔のパチンコ屋という感じだった。
由紀恵はパチンコをしたことがなかったが、ギャンブルに対して特に嫌悪感はなかった。実家にいた頃、父親は真面目だったが、祖父がよくパチンコへ出かけていたからだ。
パチンコをする人に対する偏見はなかった。ただ由紀恵自身はこれまでパチンコをしたいと思わなかった。ホールの中の音がすごすぎて、耳が潰れそうだったからだ。由紀恵は昔から耳の感度が良すぎて、イヤホンをすると耳が痛くなる。大きい音も苦手だった。
そんな訳で由紀恵は、店の外からガラス越しに文俊を見ていた。
文俊は朝十時の開店後すぐに来て、パチンコを打ちはじめた。それからずっと、タバコやトイレの時以外は黙々とパチンコに集中していた。
由紀恵は店の前で見ていた訳だが、駅前ということで人通りもあり、ずっとそこで立ってはいられず、周囲をうろうろしながら店内をのぞいていた。
お昼過ぎになって、文俊は一度店を出て、昼食のために近くのうどん屋へ入った。由紀恵はそこについて行って同じように昼食をとったが、文俊が誰かと接触する気配はなかった。
午後もこのまま続けるのは嫌だな、と思った由紀恵は、思い切ってパチンコを打ってみることにした。
コンビニで耳栓を買い、文俊と同じ列のパチンコ台に座った。由紀恵はパチンコのことが全くわからなかったので、オーソドックスな台だと思われる「海三昧」という台に座った。一玉一円の、いわゆる一パチだった。調査費用で経費として落ちるから何でもいいのだが、あまり大負けするのは嫌だった。
ネットでパチンコの遊び方を調べたら、台の左上にあるところへお札を入れる、と書いていたが、この店には五百円玉を入れるところしかなかった。後から知ったのだが、「シカゴ」は今どきめったに使われていない古い設備を使っていた。五百円玉を入れたら、五百発の玉が出てきて、上皿から溢れ、下皿も一杯になり「玉を抜いてください」とパチンコ台に怒られた。難儀な遊びだなあ、と由紀恵は思った。
それから、文俊のほうをちらちら見つつ、パチンコを打ち始めた。
どうせ当たらないんだろうな、と思っていたら、十分くらい打ったところでディスプレイを魚の大群が横切り、数字が揃った。
「えっ?」
由紀恵は思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。そのせいで文俊が一瞬、由紀恵の方を見た。しまった、と由紀恵は思った。でも文俊は気にせずパチンコを続けたので、由紀恵は不審がられないようにパチンコを打ち続けた。
確変に入っていた由紀恵の台はどんどん玉を出した。ネットで見たとおり、箱が一杯になったら店員を呼んで積み替えてもらった。店には文俊と由紀恵しかおらず、いちいち対応してもらうことに申し訳なさを感じた。
確変が終わり、店員に頼んで玉を計ってもらうと一万発以上あった。それを景品に交換し、店の裏にある交換所で現金に変える。一万円を渡された。
五百円の投資で、一万円返ってきた。
そう考えると、かなりの大勝ちだと思われた。一発一円の台だったが、これが一発四円の台だったら四倍になる。
パチンコって、実は稼げるんじゃないか?
そう思った由紀恵は、その一万円を元手に、またパチンコを打ち始めた。
次に選んだのは、由紀恵が昔見ていたアニメの台だった。三千円使っても当たらなかったので、やっぱりそんなうまい話はないか、と思っていたら、また当たってしまった。
確変に入った台はどんどん玉を出し、由紀恵は閉店間際まで打ち続けた。文俊は八時過ぎに帰ったが、まっすぐ豊橋鉄道の電停へ歩いていたのでまあいいか、と思って追わなかった。
この日、連チャンを経験した由紀恵はパチンコで六万円もの大金を手にした。
それからというもの、由紀恵は尾行よりパチンコにはまってしまった。
大当たりしたその日の夜にパチンコの仕組みを調べ、台によって確率が違うこと、千円あたり何回抽選を回せるかで結果に差が出てくることを学んだ。
単純に勝つだけでなく、パチンコの演出も由紀恵は気に入ってしまった。特に以前、自分が見たことのあるアニメの台は、懐かしくもあり、やたら音響と発光が激しいこともあって、否が応でも感情移入してしまった。
運が良かったのか、由紀恵の打つ台は良く当たり、一日で数万円プラスになった。
最初は一パチだけだったのに、四円のパチンコを打つことに全く抵抗がなくなって、どんどん投資していた。
もちろん文俊のことは見ていたが、トイレかタバコで席を立つか、店長らしき人と雑談するだけで、八時前には必ず店を出ていた。浮気の心配は全くなく、ただパチンコをしているだけだった。
これでなにか欲しかったものでも買うか、という嬉しさの一方、パチンコに深入りしてしまったら依存症になるのではないか、という恐れもあった。しかし、パチンコを打っていると、そんな心配は忘れてしまい、ただ玉とディスプレイに集中していた。
そんな訳で、豊橋に滞在している間、由紀恵はずっとパチンコをしていた。女が昼間っからパチンコなんかしていたら絶対怪しまれるだろうが、どうせここには何度も来ないからと割り切っていた。
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