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第六話 西宮北口
第二話
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朝日こころが依頼を口にして、二人の間にしばらく沈黙が流れていた。
ネットで応募されてくる魔法庁への依頼は、実際に対面して話してみると、内容が違っていることがよくある。しかし今回のこころの依頼は、由紀恵が事前に受領していた内容と全く同じだった。二週間後の水曜日、という日付指定も全く同じだ。
なので、由紀恵も事前に考えていた模範解答を説明することにした。
「朝日さん。どこかで聞いたことがあるかもしれないけれど、魔法で未来のことを予知することはできません。これは魔法庁も公式見解で出しています。なので、二週間後の水曜日に朝日さんが何をしているか予知する、という依頼については、残念ながらお答えすることができません」
魔法を使ってできることは、基本的に魔法士にしかわからない。朝日こころのような、魔法と何の縁もない女子高生は、ネットで噂話を検索するくらいしかできない。
由紀恵が言った通り、魔法による未来予知は、魔法庁が公式見解にてその可能性を否定している。魔法を使えない一般人から、未来を見てくれという依頼があとを絶たないうえ、占い師のようなインチキで魔法士を名乗る詐欺師まで現れたからだ。
おそらくこころは、それくらい調べているだろう。今どきの女子高生なのだからスマホで調べ物くらいできるはず。けっこう偏差値の高い進学校に在籍しているから、調べものをする能力は十分にある。
そのためか、こころは由紀恵の回答をじっと聞き、しばらく表情を変えなかった。
「……じゃあ、どうして今日、私と会ったんですか」
残念そうな気持ちを精一杯こらえながら、こころはそう呟いた。
この返答も、由紀恵は想定内であり、準備していた模範解答をまた再生する。
「えっとね、魔法で未来予知をすることはできないけど、こんな依頼をするってことは、二週間後の水曜日に何か、大事なイベントがあるって事でしょ? それがいいことなのか、悪いことなのかもわたしにはわからないけど。もしわたしに魔法で手伝えることがあれば、二週間後の水曜日に起こることを、わたしが魔法で変えてあげられるかもしれない。今日はそのために来たんだ」
こころは何も答えず、半分減ったコーヒーカップを見つめていた。
「二週間後の水曜日、何があるの? ふつーの平日だと思うけど。文化祭とかあるんだっけ?」
「いえ。普通に、学校で授業があるだけです」
「じゃあ……何かの記念日とか? もしかして、好きな男の子の誕生日でその子に告白するとか――」
「違います」
こころはやや苛立った様子で、由紀恵の言葉を遮った。
この年頃で一番大きなイベントといえば、色恋沙汰が最も多いはず。由紀恵はそう考えて、カマをかけていた。結果、こころは強く否定した。しかし、その返答だけは他の会話と違って、はっきりと素早く答えたので、何かがこころの琴線を動かしたのかもしれない。
告白ではないにしても、色恋沙汰に関する何か、の可能性はまだ残されているな。
由紀恵はそう直感した。
「そっか。じゃあ何で二週間後の水曜日なのかなあ」
「……」
「ごめんね、無理して言わなくていいんだよ。初対面のお姉さんには言いづらいことだってあるよね」
こころがまた、とても硬く緊張し、心を閉ざしたような雰囲気になったので、由紀恵はメロンクリームソーダの残りをストローでくるくるかき回しながら、少し待った。
この子が何の悩みを抱えているかは不明だが、とにかく今は、二週間後の水曜日に何が起こるか、それを知ることしか考えていないようだった。
これ以上、長話をしても無駄かな。初対面で、長いこと話しても疲れるだけだし。早めに切り上げるか。
由紀恵はそう気持ちを切り替えることにした。
「そんな感じで、魔法で未来を予知するという依頼には、答えることはできません。でも、今朝日さんが抱えているお悩みを魔法でお手伝いすることはできます。もし、朝日さんが思っている悩みについて今お話してもらえなかったら、残念ながらわたしと朝日さんが会えるのは今日だけになるけど、それでもいいのかな?」
「……別に、いいです」
「本当にいいの? ホンモノの魔法士に悩みを聞いてもらえる機会なんて、もう二度とないかもよ」
「いいです。私、魔法なんて、信じてないので」
「がーん!」
魔法の存在は、魔法庁が魔法使用を強く制限していることもあり、一般人はほとんど見ることができないので、魔法と縁のない一般人からすれば、ただのオカルトだ、科学技術で説明できる、と疑いを持たれることもある。
由紀恵はその場を固くしないようふざけてみせたが、こころの言葉は信じていなかった。そもそも魔法を信じていなかったら、魔法庁に依頼などするわけがないのだ。
「そっかー。ま、いいや。これ、わたしの名刺です。もし何か手伝ってほしいことがあったら、遠慮なく電話してきてね。しばらくは関西にいると思うから」
「……」
こころは不機嫌そうな顔で、その名刺を受け取った。
それから二人で店を出た。支払いはすべて由紀恵が済ませ、こころは「ご馳走さまでした」と丁寧に頭を下げた。
「じゃあ、今日はわざわざ、おつかれさまでした」
「あの」
別れ際、もうこれでこの子と会うことはないか、と由紀恵が思っていた時、こころに呼び止められた。
「なあに?」
「魔法士の方って、みんな日和佐さんみたいに綺麗な若い女性なんですか」
「なっ」
綺麗な、若い、女性。
女子高生にそんなことを言われるなんて。由紀恵は天に昇るような気持ちになった。
「ううん、男だっているし、ベテランの人はおじいちゃんおばあちゃんだよ。どうかしたの?」
「いえ、私が勝手に、魔法士の方はもっと、警察官みたいに厳しそうな人のイメージをしていたので」
「あはは。会ったことない人は、実際どうなのかよくわからないよね。まあ、確かにわたしは魔法士の中では若い方だけど。あはは。あはは。じゃあね」
由紀恵はこころと別れたあとも、にやにやした顔をしばらく元に戻せなかった
ネットで応募されてくる魔法庁への依頼は、実際に対面して話してみると、内容が違っていることがよくある。しかし今回のこころの依頼は、由紀恵が事前に受領していた内容と全く同じだった。二週間後の水曜日、という日付指定も全く同じだ。
なので、由紀恵も事前に考えていた模範解答を説明することにした。
「朝日さん。どこかで聞いたことがあるかもしれないけれど、魔法で未来のことを予知することはできません。これは魔法庁も公式見解で出しています。なので、二週間後の水曜日に朝日さんが何をしているか予知する、という依頼については、残念ながらお答えすることができません」
魔法を使ってできることは、基本的に魔法士にしかわからない。朝日こころのような、魔法と何の縁もない女子高生は、ネットで噂話を検索するくらいしかできない。
由紀恵が言った通り、魔法による未来予知は、魔法庁が公式見解にてその可能性を否定している。魔法を使えない一般人から、未来を見てくれという依頼があとを絶たないうえ、占い師のようなインチキで魔法士を名乗る詐欺師まで現れたからだ。
おそらくこころは、それくらい調べているだろう。今どきの女子高生なのだからスマホで調べ物くらいできるはず。けっこう偏差値の高い進学校に在籍しているから、調べものをする能力は十分にある。
そのためか、こころは由紀恵の回答をじっと聞き、しばらく表情を変えなかった。
「……じゃあ、どうして今日、私と会ったんですか」
残念そうな気持ちを精一杯こらえながら、こころはそう呟いた。
この返答も、由紀恵は想定内であり、準備していた模範解答をまた再生する。
「えっとね、魔法で未来予知をすることはできないけど、こんな依頼をするってことは、二週間後の水曜日に何か、大事なイベントがあるって事でしょ? それがいいことなのか、悪いことなのかもわたしにはわからないけど。もしわたしに魔法で手伝えることがあれば、二週間後の水曜日に起こることを、わたしが魔法で変えてあげられるかもしれない。今日はそのために来たんだ」
こころは何も答えず、半分減ったコーヒーカップを見つめていた。
「二週間後の水曜日、何があるの? ふつーの平日だと思うけど。文化祭とかあるんだっけ?」
「いえ。普通に、学校で授業があるだけです」
「じゃあ……何かの記念日とか? もしかして、好きな男の子の誕生日でその子に告白するとか――」
「違います」
こころはやや苛立った様子で、由紀恵の言葉を遮った。
この年頃で一番大きなイベントといえば、色恋沙汰が最も多いはず。由紀恵はそう考えて、カマをかけていた。結果、こころは強く否定した。しかし、その返答だけは他の会話と違って、はっきりと素早く答えたので、何かがこころの琴線を動かしたのかもしれない。
告白ではないにしても、色恋沙汰に関する何か、の可能性はまだ残されているな。
由紀恵はそう直感した。
「そっか。じゃあ何で二週間後の水曜日なのかなあ」
「……」
「ごめんね、無理して言わなくていいんだよ。初対面のお姉さんには言いづらいことだってあるよね」
こころがまた、とても硬く緊張し、心を閉ざしたような雰囲気になったので、由紀恵はメロンクリームソーダの残りをストローでくるくるかき回しながら、少し待った。
この子が何の悩みを抱えているかは不明だが、とにかく今は、二週間後の水曜日に何が起こるか、それを知ることしか考えていないようだった。
これ以上、長話をしても無駄かな。初対面で、長いこと話しても疲れるだけだし。早めに切り上げるか。
由紀恵はそう気持ちを切り替えることにした。
「そんな感じで、魔法で未来を予知するという依頼には、答えることはできません。でも、今朝日さんが抱えているお悩みを魔法でお手伝いすることはできます。もし、朝日さんが思っている悩みについて今お話してもらえなかったら、残念ながらわたしと朝日さんが会えるのは今日だけになるけど、それでもいいのかな?」
「……別に、いいです」
「本当にいいの? ホンモノの魔法士に悩みを聞いてもらえる機会なんて、もう二度とないかもよ」
「いいです。私、魔法なんて、信じてないので」
「がーん!」
魔法の存在は、魔法庁が魔法使用を強く制限していることもあり、一般人はほとんど見ることができないので、魔法と縁のない一般人からすれば、ただのオカルトだ、科学技術で説明できる、と疑いを持たれることもある。
由紀恵はその場を固くしないようふざけてみせたが、こころの言葉は信じていなかった。そもそも魔法を信じていなかったら、魔法庁に依頼などするわけがないのだ。
「そっかー。ま、いいや。これ、わたしの名刺です。もし何か手伝ってほしいことがあったら、遠慮なく電話してきてね。しばらくは関西にいると思うから」
「……」
こころは不機嫌そうな顔で、その名刺を受け取った。
それから二人で店を出た。支払いはすべて由紀恵が済ませ、こころは「ご馳走さまでした」と丁寧に頭を下げた。
「じゃあ、今日はわざわざ、おつかれさまでした」
「あの」
別れ際、もうこれでこの子と会うことはないか、と由紀恵が思っていた時、こころに呼び止められた。
「なあに?」
「魔法士の方って、みんな日和佐さんみたいに綺麗な若い女性なんですか」
「なっ」
綺麗な、若い、女性。
女子高生にそんなことを言われるなんて。由紀恵は天に昇るような気持ちになった。
「ううん、男だっているし、ベテランの人はおじいちゃんおばあちゃんだよ。どうかしたの?」
「いえ、私が勝手に、魔法士の方はもっと、警察官みたいに厳しそうな人のイメージをしていたので」
「あはは。会ったことない人は、実際どうなのかよくわからないよね。まあ、確かにわたしは魔法士の中では若い方だけど。あはは。あはは。じゃあね」
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