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第六話 西宮北口
第一話
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九月の、やっと涼しさが感じられるようになった頃。
日和佐由紀恵は、依頼のため東京から関西へ向かっていた。
新幹線で新大阪駅に到着したあと、JR線で大阪駅まで一駅移動する。関西へは何度も来ているが、この一駅の移動が無駄な気がしてならない。もっとも、伊丹空港から大阪モノレールに一駅乗って阪急宝塚線で梅田へ移動するのも面倒だし、関西空港からはもっと遠い。社会人になって収入があるのにバックパッカー向けの夜行バスなんてもってのほか。というわけで関西への移動は、今のところ新幹線しか選択肢がなかった。
大阪駅から阪急電車に乗り換え、神戸線の特急で西宮北口駅へ向かった。
依頼者の指定した場所がたまたま西宮北口駅だったからなのだが、ここは有名なアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の聖地として有名である。由紀恵はリアルタイム視聴した世代ではないものの「涼宮ハルヒの憂鬱」が好きで、高校生の頃に知り、原作まで買って読んでいたほどである。なので依頼が終わったら聖地巡礼でもしようかと思っていて、この時は依頼のことを気楽に考えていた。
事前の連絡で、依頼者の朝日こころとは西宮北口駅のカフェで落ち合うことになっていた。もちろん「涼宮ハルヒの憂鬱」のアニメでも描かれているカフェだ。この店では、アニメ内のキャラが飲んでいたメロンクリームソーダが、メニューには書かれていないものの裏メニューとして注文できるとの事だった。依頼者と会うまで、由紀恵はそのことしか考えていなかった。
朝日こころは時間通りに、カフェの前に現れた。高校の制服を着ていて、事前に魔法庁から送られていた顔写真と完全に一致していたのですぐにわかった。
「こんにちは。魔法士の日和佐由紀恵です」
「……こんにちは。よろしくお願いします」
こころはかなり硬い様子だった。まだ高校生なので、知らない人と二人で会うのに緊張してもおかしくはない。会う時は保護者と同席を希望する依頼者も少なくないのだ。ただ、今回の朝日こころとは、本人の希望で二人だけでの面会だった。
事前に写真で見たイメージ通り、朝日こころは精悍な顔立ちで、とても真面目そうな印象の女子高生だった。これでメガネをかけていれば見事な委員長キャラだ。メイクはしていないようだが、ショートヘアのつやつやした髪にきれいな白い肌、さらにスリムできれいな体付きで、由紀恵はこころの若さゆえの美しさが羨ましくなった。最近、いつもこうである。
「とりあえずお店入ろっか」
「……はい」
まだこころは緊張していた。ううん、打ち解けるまでにちょっと時間かかるかもな。
適当な席について、まず飲み物を頼むことに。
「今日はわたしが払うから好きなように頼んでいいよ」
「それは、申し訳ないです」
「気にしないで。どうせ魔法庁から経費で出るんだから、ぱーっと使っちゃおう」
「そう、ですか……じゃあ、ブレンドコーヒーで」
こころが選んだのは、いちばん安価なブレンドコーヒーだった。
「えっ、それでいいの? パフェとか頼んでいいよ? そのついでにコーヒーつけてもいいし」
「いえ、今お腹空いてないので」
もともと細身であまり食べないのか、それとも魔法士との対面で緊張しているのか。由紀恵は計りかねたが、後者だとあまり押すのは逆効果なので、それ以上は言わないことにした。
「そっか。わたしメロンクリームソーダにしよ」
「……」
こころはろくにメニューも読んでいないのか、特に反応がなかった。
「ねえ、ここってアニメの『涼宮ハルヒの憂鬱』の聖地なんだよ。メロンクリームソーダって、メニューに書いてないけど注文したら作ってくれるらしいの。飲んでみたくない?」
「……そのアニメ、よく知らないです」
「えっ」
由紀恵は肩を落とした。『涼宮ハルヒの憂鬱』は、ドラえ○ん並の国民的アニメだと勝手に思っていた。というか、世代の違いのせいかもしれない。ジェネレーションギャップである。
「朝日さんってアニメとかあまり見ない人?」
「見ないわけではないですけど、詳しくはないので」
「そ、そっか、あはは」
あからさまなネタを振っても、こころの様子は変わらなかった。どうやら、この依頼にかける思いが、相当強いらしい。経験上、このような依頼者にはあまり茶化したりせず、まずは真摯に依頼を聞いたほうがよい。
ほどなくしてブレンドコーヒーと、由紀恵が頼んだメロンクリームソーダが運ばれてきた。
アニメで見た通りの、グラスのメロンソーダにアイスクリームが乗っただけというシンプル・イズ・ベストな飲み物を見て、由紀恵は感激した。さっそくスマホで写真を撮りまくった。
こころは遠慮していて、コーヒーが目の前に来ても口をつけようとしなかった。
「あ、遠慮なくいただいてね」
「……はい」
こころは砂糖もミルクも入れずにコーヒーを飲みはじめた。緊張して入れ忘れたのかと由紀恵は思ったが、どうやらそうではなく、本当にブラックで飲めるらしい。
大人だなあ。わたしが高校生の時はまだ、飲めなかったよ。
そう言いたかったが、大人の由紀恵から見て、こころは可愛そうなくらい緊張していたので、言うのはやめた。
というか、十七歳の女子高生がブラックコーヒーで、アラサーの由紀恵がメロンクリームソーダって、どう考えても逆ではないか。もしかしてわたし、めちゃくちゃ痛い大人に見えてるんじゃないか。そう考えると、由紀恵は急に虚しくなってきた。
しかし今更どうしようもないので、由紀恵はさっさと本題に入ることにした。
「朝日さん。一応、事前に魔法庁から依頼の概要は聞いてるんですけど、まずは朝日さんから今回の依頼について説明してもらえますか」
「……はい」
由紀恵がそう言うと、こころはこの日初めて、由紀恵に自分の意思をストレートに伝える。
「二週間後の水曜日の、学校の昼休みにわたしが何をしているか、魔法で予知してほしいんです」
日和佐由紀恵は、依頼のため東京から関西へ向かっていた。
新幹線で新大阪駅に到着したあと、JR線で大阪駅まで一駅移動する。関西へは何度も来ているが、この一駅の移動が無駄な気がしてならない。もっとも、伊丹空港から大阪モノレールに一駅乗って阪急宝塚線で梅田へ移動するのも面倒だし、関西空港からはもっと遠い。社会人になって収入があるのにバックパッカー向けの夜行バスなんてもってのほか。というわけで関西への移動は、今のところ新幹線しか選択肢がなかった。
大阪駅から阪急電車に乗り換え、神戸線の特急で西宮北口駅へ向かった。
依頼者の指定した場所がたまたま西宮北口駅だったからなのだが、ここは有名なアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の聖地として有名である。由紀恵はリアルタイム視聴した世代ではないものの「涼宮ハルヒの憂鬱」が好きで、高校生の頃に知り、原作まで買って読んでいたほどである。なので依頼が終わったら聖地巡礼でもしようかと思っていて、この時は依頼のことを気楽に考えていた。
事前の連絡で、依頼者の朝日こころとは西宮北口駅のカフェで落ち合うことになっていた。もちろん「涼宮ハルヒの憂鬱」のアニメでも描かれているカフェだ。この店では、アニメ内のキャラが飲んでいたメロンクリームソーダが、メニューには書かれていないものの裏メニューとして注文できるとの事だった。依頼者と会うまで、由紀恵はそのことしか考えていなかった。
朝日こころは時間通りに、カフェの前に現れた。高校の制服を着ていて、事前に魔法庁から送られていた顔写真と完全に一致していたのですぐにわかった。
「こんにちは。魔法士の日和佐由紀恵です」
「……こんにちは。よろしくお願いします」
こころはかなり硬い様子だった。まだ高校生なので、知らない人と二人で会うのに緊張してもおかしくはない。会う時は保護者と同席を希望する依頼者も少なくないのだ。ただ、今回の朝日こころとは、本人の希望で二人だけでの面会だった。
事前に写真で見たイメージ通り、朝日こころは精悍な顔立ちで、とても真面目そうな印象の女子高生だった。これでメガネをかけていれば見事な委員長キャラだ。メイクはしていないようだが、ショートヘアのつやつやした髪にきれいな白い肌、さらにスリムできれいな体付きで、由紀恵はこころの若さゆえの美しさが羨ましくなった。最近、いつもこうである。
「とりあえずお店入ろっか」
「……はい」
まだこころは緊張していた。ううん、打ち解けるまでにちょっと時間かかるかもな。
適当な席について、まず飲み物を頼むことに。
「今日はわたしが払うから好きなように頼んでいいよ」
「それは、申し訳ないです」
「気にしないで。どうせ魔法庁から経費で出るんだから、ぱーっと使っちゃおう」
「そう、ですか……じゃあ、ブレンドコーヒーで」
こころが選んだのは、いちばん安価なブレンドコーヒーだった。
「えっ、それでいいの? パフェとか頼んでいいよ? そのついでにコーヒーつけてもいいし」
「いえ、今お腹空いてないので」
もともと細身であまり食べないのか、それとも魔法士との対面で緊張しているのか。由紀恵は計りかねたが、後者だとあまり押すのは逆効果なので、それ以上は言わないことにした。
「そっか。わたしメロンクリームソーダにしよ」
「……」
こころはろくにメニューも読んでいないのか、特に反応がなかった。
「ねえ、ここってアニメの『涼宮ハルヒの憂鬱』の聖地なんだよ。メロンクリームソーダって、メニューに書いてないけど注文したら作ってくれるらしいの。飲んでみたくない?」
「……そのアニメ、よく知らないです」
「えっ」
由紀恵は肩を落とした。『涼宮ハルヒの憂鬱』は、ドラえ○ん並の国民的アニメだと勝手に思っていた。というか、世代の違いのせいかもしれない。ジェネレーションギャップである。
「朝日さんってアニメとかあまり見ない人?」
「見ないわけではないですけど、詳しくはないので」
「そ、そっか、あはは」
あからさまなネタを振っても、こころの様子は変わらなかった。どうやら、この依頼にかける思いが、相当強いらしい。経験上、このような依頼者にはあまり茶化したりせず、まずは真摯に依頼を聞いたほうがよい。
ほどなくしてブレンドコーヒーと、由紀恵が頼んだメロンクリームソーダが運ばれてきた。
アニメで見た通りの、グラスのメロンソーダにアイスクリームが乗っただけというシンプル・イズ・ベストな飲み物を見て、由紀恵は感激した。さっそくスマホで写真を撮りまくった。
こころは遠慮していて、コーヒーが目の前に来ても口をつけようとしなかった。
「あ、遠慮なくいただいてね」
「……はい」
こころは砂糖もミルクも入れずにコーヒーを飲みはじめた。緊張して入れ忘れたのかと由紀恵は思ったが、どうやらそうではなく、本当にブラックで飲めるらしい。
大人だなあ。わたしが高校生の時はまだ、飲めなかったよ。
そう言いたかったが、大人の由紀恵から見て、こころは可愛そうなくらい緊張していたので、言うのはやめた。
というか、十七歳の女子高生がブラックコーヒーで、アラサーの由紀恵がメロンクリームソーダって、どう考えても逆ではないか。もしかしてわたし、めちゃくちゃ痛い大人に見えてるんじゃないか。そう考えると、由紀恵は急に虚しくなってきた。
しかし今更どうしようもないので、由紀恵はさっさと本題に入ることにした。
「朝日さん。一応、事前に魔法庁から依頼の概要は聞いてるんですけど、まずは朝日さんから今回の依頼について説明してもらえますか」
「……はい」
由紀恵がそう言うと、こころはこの日初めて、由紀恵に自分の意思をストレートに伝える。
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