12 / 49
序曲
第11話 この世界にはわたしがいる時。
しおりを挟む「…はぁぁぁー………」
わたしは彼が離れたのを確認してからゆっくりと息を吐く。
王都に来ると、自覚した感情を否が応でも思い出してしまい、さっきの列車で密着した事実と重ねてより緊張してしまう。
それから何度も深呼吸をして心臓を落ち着かせようとする。
けれど、彼がいなくなってからもドキドキは収まることはない。
「座る場所…見つけなきゃ」
だからといって、彼の言ったことを無視するわけにはいかない。
彼が帰ってくる前に早く見つけなきゃ──
座れる場所は意外にも早く見つけられた。でも先ほどの場所より、遠くなってしまった。
周囲は明らかに人の数が減っている。
というより──
「誰もいない…」
広場だと思っていたけど、中心に黒い塔がある。
見覚えのあるそれは、花火の時と同じ形をしていた。
前も思ったが、この塔は宗教的なシンボルなのかもしれない。
その証拠に、人の気配はこの場所を中心として感じはしないものの、手入れがされているのか落ち葉やごみの類は見受けられない。
「空…」
見上げれば、ぽっかりと空いた青い空が見える。
建物が密集していないせいだ。
だから、そびえたつ黒い線と青空にかかる雲しか見えない。
やることもない。わたしにできることは待つことだけ。
ふと足元に気配を感じて、下を見ると動物がいた。
「ねこ…」
初めて見た。動物と言えば空を飛ぶ鳥しか見たことのないわたしにとって、それはとても興味がそそられるものだった。わたしは観察した。輝く縞模様が特徴的な毛色、縦に割れた瞳孔、尾が三つ。本で読んだ猫という生き物は尾が一つだったと思ったが、個体差があるのだろうか?
「毛がモフモフ…」
つい触ろうと手を伸ばそうとしたところ。ピクっ、と猫が反応し、わたしは思わず手を引っ込めてしまったが最後、身の危険を察したのかあっという間に離れ、どこかに行ってしまった。
「……ねこさん」
残念に思いながらも、座るため縁に向かおうとした時
「なにしてるの?」
「え?」
突如背中から声を掛けられた。
先ほどまでなかった気配が突然現れたことに驚く。
頭まですっぽりと隠された、体全体を隠すような白い服。
彼が言うには「こおぅと」というものに類似している。
声音と服の上の輪郭から少女だということが分かる。
「あなたは…?」
「私のことはいいでしょ?あなたのことが知りたいの。聞かせて?」
「わたしは……」
名乗ろうとして考える。
名乗る名前は持っていないけれど、成功したら彼から与えてもらえる。
そもそも見ず知らずの少女に教える必要がある?
『内の人』から呼ばれていた名前は名前とも呼べない。
彼がわたしを定義する。
それまでわたしは何者でもない。
彼の求める先にわたしはいる。
それなら。
「わたしは───」
一陣の風が吹き、発した声をかき消していく。
目の前の少女に伝わったかどうか。
それは伏せていた顔に隠された赤い瞳でわたしを捉えたことでわかった。
「そう、あなたも…」
用は済んだとばかりに背を向けていく少女に思わず声を掛ける。
一方的な質問に、わたしは自覚できるほど焦りを感じた。
「まっ、まって!あなたは…なに?…何者なの…?」
「…あなたと同じで、まだ理解する必要はないですよ」
少女は続ける。
「それにあなたは、本当に『それ』を望んでいるの?」
振り返ることもなく進んでいく少女に、わたしは小さくなっていく背中をただ見つめるだけだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやーお待たせ。思いのほか時間かかっちゃったよ。なにはともあれ、無事買えたよ」
「そう…」
「…どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
心配の言葉を掛けられ、切り替える。
少女の一方的な質問に答えてしまったのはなぜか。焦燥感がなぜ芽生えたのか。
彼には関係のないことなのに。
思案の答えは、まだ出ない。
「そっか。それにしても、こっちにもバーガーがあるなんてね。サンドイッチの亜種とは言え、あることに驚いたよ。はい、これが君の分」
「ありがとう」
彼はたまに普段とは打って変わって饒舌になることがある。
特に多いのは昔に食べたかった料理や食べたことのある料理、食に関わるものだということ。
それしか知らないし、詳しくはわからない。
同じような年齢なのに『昔ってどういうこと?』とは思ったけど、彼が楽しそうならそれでいいと思った。
なによりこういう時に彼は色々なことを教えてくれる。
わたしは袋から包みを取り出し、一口。
「…おいしい」
中身はどうやら魚のようだ。魚自体淡白な味わいではあるがさっぱりしたソースがよく合う。
「昔に、こういう食べ物の店がたくさんあったんだけどね、『有限資源活用保護条約』っていう、まぁ使える資源が限られた時代が来ちゃったんだよね」
彼は続ける。
「その頃から食べ物が管理されちゃって、できることも少なくなっちゃってね。その時にはいくらか資金があったからよかったけど、今思うとぎりぎりだったなぁって」
「前から思ってたけど『昔』っていつの話なの?」
いつもの答えが来るとは思いつつも、わたしはまた質問する。
「ん?あぁ、僕は昔は別のところに住んでたんだ。──みんなには秘密だけど、この星の外から来たんだ。内緒だよ?」
「いつもそればっかり…ほんとうのことを教えてくれないのね」
彼はいつも自分のことをあまりしゃべらない。聞いてもこの通りはぐらかされてしまう。
「本当なのに。だから、ここに来たからには、もう一度やり直してみようと思ったんだ」
だけど、教えてくれることもある。
「まずは大きな組織をつくろうかな。そこからネットワークの構築でもしてみようと思うんだ。そのためにも今後の成功がカギになるんだ」
彼が望むのならわたしは従うまで。
「わたしはあなたの望みを叶えてみせる。絶対に」
「ははっ、絶対なんてないんだけどね」
彼は自分の左手に視線を落とす。そこにあるのは村で作業中にわたしのためにできた傷。
わたしのせいで、できた傷。
「でも、そういわれると嬉しいね。期待しちゃうけど、僕についてこれる?」
彼の望む先に、わたしは自分の価値を見出している。
「ええ」
「ははっ、そうか」
同時にわたしは考えてしまう。
彼の望む先に、わたしは存在しているのだろうか、と。
0
あなたにおすすめの小説
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる