蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

文字の大きさ
13 / 49
序曲

第12話 そうして、わたしは。

しおりを挟む
 
 人は逆境の中で成長すると誰かが言っていた。逆に順調な時には人間は成長しないということになる。

 この言葉を言った人は自身の成長を逆境の中で感じた、あるいは他人が逆境で苦しんでいる中、ただ傍観していたということだろうか。正直どちらでもいいけど。

 肝心なのはこの言葉の「逆境」「成長」とは何を指すのかだ。

 この言葉の意味は困難な選択を求められるの場面が「逆境」、その選択を下すことが「成長」であるとしよう。

 ゆえに立ち向かわないことは成長とは言わず、選択のない場面は逆境ではない。

 なぜなら困難から逃げているから。

 人は弱く無力だ。夜の闇におびえ、未知に幻想を抱き、恐怖に支配されてきた。

 災害は機嫌を害した人より行為の存在によって起こされた不可思議な力であり、祈れば通じると考えていた。

 例えば人身御供。村の子どもや女を捧げる。そこに否定の意思はなく、集団によってもはや実在のない慣習だけが取り残された。

 自分のためか、他人のためかを求められる人がいるだろう。

 一つ、今までがそうであったからと仕方なく愛する者を諦める、他人のための選択。

 一つ、慣習を捨て、愛する者のため社会を捨てる、自分自身のための選択。

 人間は決断を迫られる。

 しかし集団の中で、たしかに個人は葛藤する。

 このまま進んでいいのか、これまでの積み重ね、自分そして他人を裏切っていいのかと。

 しかしどちらを選んだにせよ本質は犠牲でしかなく、諦めだ。実在がなかったとしても、嘘で人は死ぬのだ。

 選択が求められる逆境の末、意思の先にある成長を体現するのが諦観。

「人は逆境の中で成長する」

 言い換えれば。

「人は選択の中で諦観する」

 これのどこが成長というのか。

 誰もかれもが都合よく万事解決に立ち向かうことなどできないし、だからと言って逃げることすら許されない。

 自分が悪い。他人が悪い。世界が悪い。間違った情報を塗り替えるほどの力など個人にはないのだ。

 だから、選択の末それまでの過程である葛藤や努力など関係なく、果てには大事なものまでないがしろにされ、結果しか残らない。

 つまるところ「逆境とは諦めであり、成長とはその残滓でしかない」

 でも、だからこそ──


 8888888888888888888888888888


「あそこに何人いるのか見える?」

 木々に隠れながら、彼は賊を見つけ、わたしはそれを教える。

「4人、だと思う」

「4人、そう…」

 彼は少し考える仕草を見せ、わたしをちらりとみたあと視線を戻す。

「本当に大丈夫?」

「…大丈夫」

「そうか、じゃあ合図まで待て。最後まで気を抜かないでね」

 初戦ということもあり、いたわってくれたのだろうが覚悟はできてる。

 周囲は森に囲まれ夜ということもあり見通しは悪いが、こちら側は賊の焚火で一方的に視認できる。好都合な状況の中、剣を離さないようしっかりと握る。

 命を懸けて戦うことは初めてだった。けれど、恐怖はなかった。実感がない。

 どこか心がフワフワとしている。成功の確信もないけれど、失敗への不安もない。

 隣には彼がいる。彼の強さと賢さ、そして人としてのやさしさ、それらすべてに憧れを抱くのはそう時間のかかることではなかった。

 ただの幻想。絵本に出てくる英雄なんていないと思っていたのに。

 きっと彼にとってわたしは取るに足らない存在だろうけど、彼は唯一の存在なのだ。

 いまも彼には認められていない。きっとここで失敗したらあの時と同じように捨てられる。

 だから、これを成功させて──


「じゃあ僕が3人倒すから君は残りをやるんだ…いくよ」

 魔力を放出し、風を裂くように彼は移動する。

「なっ?!──ぎゃぁぁ!」「まっ?!──うわぁぁ!」「ガキ?!──ぐあぁぁ!」

 合図の直後、彼は瞬く間に賊に接近し、最初の一撃をつなげるように3人の命を刈り取る。

「クソ、なんだ?!」

「やぁっー!」

 それから魔力の使えない私は遅れて、残された男に対し細い剣で切りかかる。

「なんだこのガキ!?」

 彼のかく乱に冷静な賊はわたしの初撃をたやすく受け止める。

 賊の男は魔力によって身体能力を向上させ、剣を押し返される。

「くっ!」

「ちっ!さっきの奴はどこに消えやがった!?」

 あたりを見渡しても賊の男の仲間の死体が転がり、先ほどの彼は気配すら感じない。

「きっとどこかでみてるんだ」

「なんなんだお前ら…!いきなり、なめたマネしやがって、ただじゃおかねぇ!オラぁ!」

 相手は所詮子どもと油断し、立て直した賊の男は大ぶりの縦の一撃で切りかかる。わたしは間合いをはかりそれを横に避け次の一手に集中する。

 剣と腕の長さ、それ加え体格、足運びで間合いを図ること、それによって回避することで次の一手につながる。それは彼に教えられたことの一つだ。

 短期決戦。魔力の使えないわたし、体力のない子どもにおいては戦いが長引くのは不利な状況に陥る。

 だから、

「これで決める」

 そして、肋骨の間をおしのけるように横向きの剣で力いっぱい突き刺す。

「ぐ!うぼぉぁ…」

 賊の男は目を大きく見開きながらわたしを見つめ、口から血を吐きながら苦痛に呻き、わたしは倒れる直前まで深く突き刺しひねり続ける。

 握った柄からは内臓の収縮と筋肉のけいれんが振動して気持ち悪い。

 初めて人を殺しているんだ。

 けど、どうでもいい

 彼に認められるために

 お願いだから

「はやく死んで」


 ピクリとも動かなくなると、ゆっくりと剣を男の身体から抜いた。

 成功の確信、すなわち名前を教えてくれる。

 深く息を吐き、そらを見上げ、心の中を鎮める。

 やった。やりきった──これで認めて貰えるっ…!

 これで彼の願いもわたしが支えることができるっ!

「見てくれた!?わたしやっと──」

 心に満たされた達成感、嬉しさの中で彼を探そうとした時

「ボスの仇だ…!」

「─え?」

 見下ろすとお腹から剣が突き出している。血もついている。そう認識すると、途端に身体に激痛が走る。

「がはっ」

 せりあがってくる血をたまらず吐き出してしまい口の中が金属の味で満たされる。

「なんで!殺しやがった!てめぇもころしてぶち犯してやる!」

 力が入らない。いつのまにか地面に倒れていた。

「死ねッ!死ねッ!」

「うっ…ぎ、ぃ」

 男は執拗に私の身体に対して剣をつきさしている。

 油断するなと彼も言っていたのに

 やっとわかった。わたしは
 ──失敗したんだ。

 自分の無力さは誰よりも理解していた。

 あの場所でも私はほかのみんなとは違ったから、弱かったから捨てられたのだ。

 それでも。

 彼に失望されるのが怖かった。

 見捨てられるのが怖かった。

 本当のところ名前はあったのだ。

 でもそれは大人たちがわたしを呼ぶときの番号でしかない。



 本当の名前が欲しかった。彼が、彼だけが呼んでくれるわたしだけの名前が──

 すると空気を裂く鋭い音が聞こえ、血しぶきが舞ったあと、どさりと何かが倒れる音がした。

「最後まで5人目がいることに気づかなかったね…それにしても案の定ハズレだったか。残念」

 ハズレ。きっとわたしのこと。

 彼に失望させたみっともないわたし。

 自覚していた。

 魔力の素質がないことも、自分が弱いことも。

 彼の隣に立つことのできない無力な存在。

「ごめん…なさい」

 届いたかわからない。自分でもわかる、か細い声だった。

 かつて会った少女の言いたいこと、焦りの理由そのすべてが分かってしまった。

 けれども、もうどうすることもできない。

 いまのわたしは、ただ惨めだった。屈辱だった。できることなら死ぬその時まで謝りたかった。

 でも、できない。

 わたしは弱いから。

 そして死ぬのだ。

 土についた頬が流れ出た血の量をそれが証明している。

 精いっぱいの力で謝罪する。

「………──…──」

 声帯が震わそうとした。

 けれど、自分の声が聞こえなかった。掠れた息だったかもしれない。

 ゆっくりと、意識が沈んでいく。

 そばにちかづいてきた彼に、手をのばそうとして──

 届かないことだけが分かる。

 ───それが最期の意識だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

≪あとがき≫

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この話で

「クソッタレ!ヒロイン殺しやがった!許せねぇ!」

「ヒロインが死ぬ鬱展開は無理。読むのやめる」

という方はせめて最後に【12話で挫折した人へ ≪はっきりネタバレ≫】へどうぞ。


「ネタバレしないで読む」

という方は【───再び】の後ろにありますので気を付けて、第一章へお進みください。



では。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...