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序曲
第12話 そうして、わたしは。
しおりを挟む人は逆境の中で成長すると誰かが言っていた。逆に順調な時には人間は成長しないということになる。
この言葉を言った人は自身の成長を逆境の中で感じた、あるいは他人が逆境で苦しんでいる中、ただ傍観していたということだろうか。正直どちらでもいいけど。
肝心なのはこの言葉の「逆境」「成長」とは何を指すのかだ。
この言葉の意味は困難な選択を求められるの場面が「逆境」、その選択を下すことが「成長」であるとしよう。
ゆえに立ち向かわないことは成長とは言わず、選択のない場面は逆境ではない。
なぜなら困難から逃げているから。
人は弱く無力だ。夜の闇におびえ、未知に幻想を抱き、恐怖に支配されてきた。
災害は機嫌を害した人より行為の存在によって起こされた不可思議な力であり、祈れば通じると考えていた。
例えば人身御供。村の子どもや女を捧げる。そこに否定の意思はなく、集団によってもはや実在のない慣習だけが取り残された。
自分のためか、他人のためかを求められる人がいるだろう。
一つ、今までがそうであったからと仕方なく愛する者を諦める、他人のための選択。
一つ、慣習を捨て、愛する者のため社会を捨てる、自分自身のための選択。
人間は決断を迫られる。
しかし集団の中で、たしかに個人は葛藤する。
このまま進んでいいのか、これまでの積み重ね、自分そして他人を裏切っていいのかと。
しかしどちらを選んだにせよ本質は犠牲でしかなく、諦めだ。実在がなかったとしても、嘘で人は死ぬのだ。
選択が求められる逆境の末、意思の先にある成長を体現するのが諦観。
「人は逆境の中で成長する」
言い換えれば。
「人は選択の中で諦観する」
これのどこが成長というのか。
誰もかれもが都合よく万事解決に立ち向かうことなどできないし、だからと言って逃げることすら許されない。
自分が悪い。他人が悪い。世界が悪い。間違った情報を塗り替えるほどの力など個人にはないのだ。
だから、選択の末それまでの過程である葛藤や努力など関係なく、果てには大事なものまでないがしろにされ、結果しか残らない。
つまるところ「逆境とは諦めであり、成長とはその残滓でしかない」
でも、だからこそ──
8888888888888888888888888888
「あそこに何人いるのか見える?」
木々に隠れながら、彼は賊を見つけ、わたしはそれを教える。
「4人、だと思う」
「4人、そう…」
彼は少し考える仕草を見せ、わたしをちらりとみたあと視線を戻す。
「本当に大丈夫?」
「…大丈夫」
「そうか、じゃあ合図まで待て。最後まで気を抜かないでね」
初戦ということもあり、いたわってくれたのだろうが覚悟はできてる。
周囲は森に囲まれ夜ということもあり見通しは悪いが、こちら側は賊の焚火で一方的に視認できる。好都合な状況の中、剣を離さないようしっかりと握る。
命を懸けて戦うことは初めてだった。けれど、恐怖はなかった。実感がない。
どこか心がフワフワとしている。成功の確信もないけれど、失敗への不安もない。
隣には彼がいる。彼の強さと賢さ、そして人としてのやさしさ、それらすべてに憧れを抱くのはそう時間のかかることではなかった。
ただの幻想。絵本に出てくる英雄なんていないと思っていたのに。
きっと彼にとってわたしは取るに足らない存在だろうけど、彼は唯一の存在なのだ。
いまも彼には認められていない。きっとここで失敗したらあの時と同じように捨てられる。
だから、これを成功させて──
「じゃあ僕が3人倒すから君は残りをやるんだ…いくよ」
魔力を放出し、風を裂くように彼は移動する。
「なっ?!──ぎゃぁぁ!」「まっ?!──うわぁぁ!」「ガキ?!──ぐあぁぁ!」
合図の直後、彼は瞬く間に賊に接近し、最初の一撃をつなげるように3人の命を刈り取る。
「クソ、なんだ?!」
「やぁっー!」
それから魔力の使えない私は遅れて、残された男に対し細い剣で切りかかる。
「なんだこのガキ!?」
彼のかく乱に冷静な賊はわたしの初撃をたやすく受け止める。
賊の男は魔力によって身体能力を向上させ、剣を押し返される。
「くっ!」
「ちっ!さっきの奴はどこに消えやがった!?」
あたりを見渡しても賊の男の仲間の死体が転がり、先ほどの彼は気配すら感じない。
「きっとどこかでみてるんだ」
「なんなんだお前ら…!いきなり、なめたマネしやがって、ただじゃおかねぇ!オラぁ!」
相手は所詮子どもと油断し、立て直した賊の男は大ぶりの縦の一撃で切りかかる。わたしは間合いをはかりそれを横に避け次の一手に集中する。
剣と腕の長さ、それ加え体格、足運びで間合いを図ること、それによって回避することで次の一手につながる。それは彼に教えられたことの一つだ。
短期決戦。魔力の使えないわたし、体力のない子どもにおいては戦いが長引くのは不利な状況に陥る。
だから、
「これで決める」
そして、肋骨の間をおしのけるように横向きの剣で力いっぱい突き刺す。
「ぐ!うぼぉぁ…」
賊の男は目を大きく見開きながらわたしを見つめ、口から血を吐きながら苦痛に呻き、わたしは倒れる直前まで深く突き刺しひねり続ける。
握った柄からは内臓の収縮と筋肉のけいれんが振動して気持ち悪い。
初めて人を殺しているんだ。
けど、どうでもいい
彼に認められるために
お願いだから
「はやく死んで」
ピクリとも動かなくなると、ゆっくりと剣を男の身体から抜いた。
成功の確信、すなわち名前を教えてくれる。
深く息を吐き、そらを見上げ、心の中を鎮める。
やった。やりきった──これで認めて貰えるっ…!
これで彼の願いもわたしが支えることができるっ!
「見てくれた!?わたしやっと──」
心に満たされた達成感、嬉しさの中で彼を探そうとした時
「ボスの仇だ…!」
「─え?」
見下ろすとお腹から剣が突き出している。血もついている。そう認識すると、途端に身体に激痛が走る。
「がはっ」
せりあがってくる血をたまらず吐き出してしまい口の中が金属の味で満たされる。
「なんで!殺しやがった!てめぇもころしてぶち犯してやる!」
力が入らない。いつのまにか地面に倒れていた。
「死ねッ!死ねッ!」
「うっ…ぎ、ぃ」
男は執拗に私の身体に対して剣をつきさしている。
油断するなと彼も言っていたのに
やっとわかった。わたしは
──失敗したんだ。
自分の無力さは誰よりも理解していた。
あの場所でも私はほかのみんなとは違ったから、弱かったから捨てられたのだ。
それでも。
彼に失望されるのが怖かった。
見捨てられるのが怖かった。
本当のところ名前はあったのだ。
でもそれは大人たちがわたしを呼ぶときの番号でしかない。
本当の名前が欲しかった。彼が、彼だけが呼んでくれるわたしだけの名前が──
すると空気を裂く鋭い音が聞こえ、血しぶきが舞ったあと、どさりと何かが倒れる音がした。
「最後まで5人目がいることに気づかなかったね…それにしても案の定ハズレだったか。残念」
ハズレ。きっとわたしのこと。
彼に失望させたみっともないわたし。
自覚していた。
魔力の素質がないことも、自分が弱いことも。
彼の隣に立つことのできない無力な存在。
「ごめん…なさい」
届いたかわからない。自分でもわかる、か細い声だった。
かつて会った少女の言いたいこと、焦りの理由そのすべてが分かってしまった。
けれども、もうどうすることもできない。
いまのわたしは、ただ惨めだった。屈辱だった。できることなら死ぬその時まで謝りたかった。
でも、できない。
わたしは弱いから。
そして死ぬのだ。
土についた頬が流れ出た血の量をそれが証明している。
精いっぱいの力で謝罪する。
「………──…──」
声帯が震わそうとした。
けれど、自分の声が聞こえなかった。掠れた息だったかもしれない。
ゆっくりと、意識が沈んでいく。
そばにちかづいてきた彼に、手をのばそうとして──
届かないことだけが分かる。
───それが最期の意識だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
≪あとがき≫
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この話で
「クソッタレ!ヒロイン殺しやがった!許せねぇ!」
「ヒロインが死ぬ鬱展開は無理。読むのやめる」
という方はせめて最後に【12話で挫折した人へ ≪はっきりネタバレ≫】へどうぞ。
「ネタバレしないで読む」
という方は【───再び】の後ろにありますので気を付けて、第一章へお進みください。
では。
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