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第一章
第16話
しおりを挟む「折れてなさそうでよかった…」
「うんほんとよかったよ」
支えられ連れられた救護室は幸運にも…あいにくと担当医が不在だったため、セレシアからの問診でなんとか誤魔化せた。
まさしく骨折り損にならなくてよかった…
「ははっ」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。それにしてもどうしてうちの教室まで来たの?」
「それは…お昼ご飯の時のこと。怒ってないかなぁ、ってあやまりに来たの」
「お昼のこと?」
「その王女様を知らないって、ギード君と一緒に笑っちゃったでしょ?だから…」
彼女は本気であのことを重く受け止めているようだ。やはり彼女は人間関係にまじめすぎるきらいがある。
人の顔色を気にしすぎると言うべきか。
「別に気にしなくもよかったのに…」
「気にするよ!」
セレシアにしては珍しく大きな声で食い気味に反応する。
「だって…大切な…と、友達だもん!」
「!」
友達、それは甘美の調べ。
彼女の誠意に対し、僕も誠意を示すべきだ。
だが『友達の信念』というものがある僕にはまだ難しい。
だから待っていてほしい。僕が『友達の信念』を達成できるその日まで。
代わりにこの言葉で我慢してほしい。
「僕も、セレシアのことを大切に思っているよ」
「そ、それって──!」
僕はセレシアの目を見つめる。とびきりの感情を込めてこの気持ちを伝えたつもりだ。
そういえば──
「ところでゴリダとは面識があったの?向こうはセレシアのこと知ってそうだったけど」
「え?その…ゴリダ君、というかコング家とうちの実家が少しね…」
ん?
「コング家?…まさか、あいつの名前ゴリダ・コングって言うの?」
「うん、そうだけど…?」
「ははっ、そうなんだ」
おもしろい偶然もあるものだ。名は体を表すといったところか。
今度は意趣返ししてもいいかもなぁ、なんて考えていると僕が広々と使っていたベッドに腰かけてくる。
何事かと思い彼女を見ると、どこか思いつめたような表情をしている。
「どうしたの?」
「あ、あのね!クラウス君に…その、聞いてほしいことがあるの…」
「別にいいけど…いきなりだね」
「さっきクラウス君言ってくれたでしょ?その…私のことた、大切に思ってるって…だから私もそれに応えたいから…」
「そうか」
ほんとはわかってないけど、とりあえず相槌を打つ。よくわからないけど、『友達の信念』が伝わったってことかな?
「…私の実家は貴族で元々大きな商会もあったからそれなりに裕福だったの。ヒサギ家は魔剣士が生まれてこない家系だったから先祖代々っていうのかな、そのお店を引き継いできたらしくてお父さんとお母さんと私、三人一緒に住んでたの。でも17年前に王国より西にあるエグザムの方ででプロージョンっていう、すごく大きな爆発があったでしょ?そこからヒサギ家は───」
「うんそうなんだ」
エグザム?EX……つまりエクスプロージョン爆発?なにそれ全然知らない。
「もう知ってると思うけど裕福だったのは昔の話、いまは没落貴族、借金だらけの商会の娘なんだ…その理由もわかってる。爆発の余波で王国内での流通に影響があって、ヒサギ家は率先して無償で国民に食べ物や衣服を提供していたらしくて他の商会もそれを真似してたらしいんだ。それから───」
「うん」
「私が立って歩けるようになったころには市場も元に戻っていたの。借金はあったけど、さっきも言った通り、生活苦になるほどじゃなかったって。多分他の商会もそれぐらいだったと思う。だって───」
「そうなんだ」
「そんな中で新しくコング家が台頭してきたの。中身はありふれた物売り。でも新商品は奇抜で、既存の製品も驚くくらい安くて───」
「そうか」
「──でも全然違った。コング家の商会はみるみるうちに売り上げを伸ばして、うちはおろか他の商会も立ち行かなくなるほどに市場を独占していった。商会連合代表だったセレシア家は───」
「そうかそうか」
「そうこうしてたらお母さんの実家が、お母さんに家に帰るよう言われたらしくて───」
「大変だね」
「なんとか入学させてくれた魔剣士学校でも全然いい成績出せなくて───」
僕は長々と無機質にしゃべる彼女に少なからず驚いていた。
彼女は引っ込み思案でそこまで自分を主張しない人間だと思っていた。
それも正しい認識ではあるのだ。
ただセレシアにとってこの過去は、感情を置いてけぼりにするくらいに何度も考え、理解し、自分を納得させることができるぐらいに長い時間をかけたのだ。
人にとってその苦難がどれほどのものかはわからない。
だけど今の彼女の姿はあまりにも痛々しい、過去の悲しみが伝わってくるようだ。
「だからクラウス君には…本当に感謝してるんだ」
「え?はい」
名前を呼ばれたことに反射的に反応してしまった。
「も、もちろん!ギード君にもだよ?!二人にはよくしてもらってるから、うん!」
つまるところセレシアの実家は借金があるってこととかだろう…大部分は外れていないはず。
「でもクラウス君は私に声を掛けてくれて…お弁当まで作ってくれて…ほんとうに──」
考え事に重ねてセレシアの声が小さくて聞こえなかった。
…もう一度聞くのは失礼だろうと思い、さりげなく会話をすり替える。
「それにしても、教えてくれてありがとう」
「え、あ、こちらこそごめんね…初めてだったから、人に言うのが…長くなっちゃったね」
「そうなんだ。じゃあ長い間溜め込んでたんだね」
「うん、そうかも。でも話せたから少しすっきりしちゃった…あはは、なんだか私のわがままばっかりだったね」
「そんなことは──ん?」
廊下から足音が近づいてくる、しかも速い。
まさか───
「あーもう授業の時間だ、いかなくちゃセレシアありがとうまたね」
「え?…うん」
時計を見ながら、これには訳があるから仕方ないことだ、という正当性のアピールを示す。
いきなり立ち上がった僕に困惑するセレシアには一方的に感謝を告げ、窓際に移動する。
ここまでの彼女の労力を考えるといささか失礼ではある。
だがその後に起こるであろう面倒に巻き込まれるのは面倒、早々に去らしてもらう。
「…よし」
外には誰もいない。
静かに、回り道をしながら教室に戻ろうとしよう。
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