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第一章
第17話
しおりを挟む「クラウス!?」
突如開かれた扉にセレシアはビクりと反応し、声の主の方へ振り返る。
「クラウス君ならさっき出ていきましたけど…」
『さっき』という言葉はほんの数秒前の出来事にも使えるんだ、とセレシアは思った。
「ふぅん、そう…毎回タイミングが悪いわね…」
声の主である彼女はセレシアに構うことなく目を細め室内を軽く眺めたあと、閉じられた窓に近づき、こするような耳障りな音を立て勢いよく開扉する。
セレシアは不快な音に一瞬顔をしかめるが、窓から部屋に流れ込む風の匂いに意識を誘導する。
「…春の…匂い」
独り言ですらない。
セレシアにとってそれはストレスを感じないようにする彼女の無意識の処世術でしかない。
窓から顔を出して周囲を探すようにしていたステラはセレシアに一度向き直ると、今度はゆっくりと窓を半分ほど閉める。
セレシアには、わずかな自負から芽生えた、公には言いたくない、しかし彼女にとって少ない特技と言えるものがある。
同年代の女性より胸が豊かであることをセレシアが自覚していた。
親から与えられた体とは言え、社交界で同年代の男子や男性から好奇や下卑た視線を第二次性徴期にさらされることは自信のないセレシアにとって人格の形成に大きな影響を及ぼした。
──実際のところは、当時の思春期男子の視線はセレシアという可愛い女子に対する純粋な興味とプラトニックな好意だったわけだが、そのことに彼女が気づくはずもない。
しかし過去が勘違いであったとはいえ、その体型ゆえに人の視線には人一倍敏感で、向けられてた視線にどんな意図が込められているかがわかる、現在においてそれも事実であった。
だから、少しの間、時間で言えば五秒ほどではあったが、窓に腰かけた彼女が自分に意識を向けていることに気づかなかった。
見られている気づきが先に、見られていた驚きが後に去来した。
そして、遅れて気づいた、特技に対する不意打ちに対してもセレシアは驚いた。
何かを待っているようにたたずむ彼女に既視感を覚えた。この視線はまるで彼のようだ、と。
セレシアは突如来訪してきた、学校でも有名なこの人を知っていた。
「もしかして…ステラ・エテルナさんですか…?」
「そうだけど…あなたは?」
「わ!私、セレシア・ヒサギって言います!クラウス君の──」
「──友達、よね?」
「え…はい、ともだち、です…」
「そう。それは良かったわ」
遮るように、確認というよりかは断言に近く、そうではないことを許さないといわんばかりのステラの圧力に困惑しながらも、セレシアは屈した。
もし。もしも、だ。仮に、「友達以外」と答えた場合にはどうなってしまうのか、セレシアは最初こそクラウスとの日々を想像した。
しかし、目の前にいるステラさんに気取られたら大変になることだけがすべてになってしまった。
「ところでなにがあったのかしら?よければ教えてくれる、セレシアさん?」
「は、はい!えーと、私も詳しくはわからないんですけど──」
先ほどとは打って変わってステラは柔和な笑みでセレシアに笑いかける。
セレシアは自然と背筋が伸び、先の教室でクラウスがここに来るまでの経緯を伝えた。
ステラは質問もすることも、相槌を打つこともなくセレシアの話を聞いていた。
「ふーん、そう…ありがとう、教えてくれて」
「いえ…そんなことは」
感謝の気持ちは伝わるが、心配しているんだと思っていたセレシアにとってこの反応は少し意外だった。
「…?」
セレシアは違和感とも呼べない小さな意識のずれを感じた。しかし一瞬で霧散していくそれはすぐに気を留めることはなくなる。
そうして、沈黙が場を満たしていく。
セレシアは目の前にいるステラを見据えた。
気まずさからではなく、単純に興味があった。
クラウスの姉というものに、学校内で王族のイリス姫と並びたつほどの有名人に。
ステラは窓に背を向けたまま、外に視線を向けている。
風に揺れる黒髪は、夜空のような煌めきの美しさと吸い込まれるような不可侵な漆黒を湛え、冬服の制服からでもわかるスタイルの良さと洗練された身体は、自分のそれとまるで違って、セレシアは無意識に一度自分の身体と見比べてしまい、比べたという浅はかさな行為に気づいたとき、すぐに後悔した。
けれども顔をあげれば、燃えるような赤い瞳が自分を見据えている。
セレシアは意図せずに顔をそらしてしまった。
彼女が見てくれている。その事実で熱病に浮かされたように落ち着かなくなってしまったから。
年はそう変わらないのはずなのに先ほどの威風堂々たる立ち振る舞い、私にはできないだろうなぁ、膝の上で組んだ両手の平を見ながら考えていた。
「ところで、クラウスとはどんな風に出会ったの?よければ聞かせてくれる?」
「は、はい!」
ステラは先ほどの笑みを浮かべ、セレシアはクラウスと出会った入学当初の話を始めた。
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