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第一章
第22話 食える時に食う
しおりを挟む「あっはっはっは!ナインがファーストに挑むなんて無謀すぎ」
「笑っちゃだめだよギード君。それにしても、クラウス君はよく王女様に挑んで行けたね…すごいや…」
昼食時、昨日のことを2人に話すと、ギードは馬鹿にするように笑い、皮肉かと思ったセレシアのそれは顔を見るに単純に感心しているようだった。
「ギードうるさいよ、ありがとうセレシア」
今日の場所は中庭ということもあり、ギードの声は良く響く。
何人かこっち見てるじゃん。
「ま、さすがファーストといったところだね。僕は手も足も出なかったよ」
「あははは…あ──!」
「何を偉そうに言ってんだか。あのティファレト王女様の妹君でそれに相応しくファーストにいるわけだろ?なら当然じゃね?」
「そうかな?」
そのティファレト王女とは相対したことがないからわからないけど、少なくとも──
「──僕は実力が兄弟姉妹であるとかは関係ないと思ってる人間なんだ。本人の努力次第だとは思うけど」
「そうか?あー、確かにそういうもんか……姉ちゃんに比べて、クラウスは全然だもんな!」
「はぁ。もうそれでいいよ」
言いたいことはそういうことじゃないんだけど、相手するのが面倒になってきた。
ふたを開けた弁当箱に視線を落とす。中身はもちろんチンジャオロースだ。
「クラウス君!ギード君!」
「ん?どしたセレシアちゃ……ん!?」
昨日もそうだったが調味料も素材も違うから、それに近い味にしかならない。
でも、これはこれでとても美味しい。
さっそくいただこう──
「いただきま──」
「クラウス君!!」
とすると横にいたセレシアに肩を揺らされる。
「なぁにセレシア?いくら君でも僕の楽しみを──」
「──ちょっと、いいかしら?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、いつの間にか正面に立っていたのは先ほど話に出ていたイリスだった。なんだイリスか。周りを見れば近くのテーブルからはもちろん、遠巻きにも衆目を集めているようだ。
「いただき──」
「──なに普通に食おうとしてんだよクラウス!お相手はイリス王女様だぞ!?正気か!?」
「そうだよクラウス君!」
構わず食べようとすると二人から非難が飛んでくる。
セレシアはともかく、ギードは普段のチャラけた調子はかたなし、見事権威にビビる金髪男になっていた。君、イリスのこと悪く言ってなかった?
「別に王女が来たからなんだっていうのさ。僕にとっては昼食の方が大事だね」
「……」
「お、おまえ…っ!」
2人は信じられないといった眼差しを向けて来る。
「ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」
一方のイリス王女はわざとらしく、残念な雰囲気を纏い始める。
僕はこのお姫様の本性を知っているからね。忖度する必要もない。
「い、いえそんなことはありませんよ!な?セレシアちゃんもそう思うよな!?こいつはそう言う奴なんですすいません!」
「は、はい!どどどうぞお座りください!」
いつも空席だった椅子に腰を掛けるイリス、位置は僕の正面。
「何の用?」
「あら?昨日はあんなにも仲良くしてくださったのに、今日は気分が優れないのかしら?冷たくなさるなんてわたくし、さびしいです」
「……」
嘘くさ。
昨日のことはもう終わったことだ。今更彼女が近づいてくる理由がわからない。
「おれ、ぇ…じゃなくて自分、ギード・スクエニアって言います!」
「あ!あの私セレシア・ヒサギて言います!イリス王女様とご一緒できて光栄です!」
ここぞとばかりにギードに続いてセレシアも自己紹介をする。
「セレシアさんにギード君ですね。私はマルクス王国第二王女イリス・マルクト…なんですが───」
それに対しイリスも自己紹介で返す。
「───今は同じく学生の身分、気軽にイリスと呼んでください。ね?」
「はっ、はい!」
「っべー…」
イリスはそっとセレシアの手を包んで語り掛け、あざとすぎる対応にセレシアは照れながらも返事をする、ギードはそれを見て呆けているしかないようだ。
「で、本当のところは何の用なんだ?まさか一緒に食事したいとか?」
「ええ、そう考えております」
「「えまじ?」」
「では、お願いします」
ギードと僕のセリフが重なり、傍仕えにイリスがお願いすると、どこから現れたのか給仕服を着た人たちがテーブルいっぱいに広げていくのは弁当…ではなくお重に入った料理たち。
弁当の形式を取りたかったのだろうが、立ち上る湯気が自らを出来立てであると主張している。
「ほわぁぁ…」
「さすが王族」
「……」
「本当はすべていただきたいところ申し訳ないのですが、今日の私には量が少し多いので皆さん自由にお食べになって────」
「────じゃあ僕これとその段、あとそれも全部もらうね。いただきます!」
言い終わらぬうちに段を抜き取り、手元に置く。
なんだイリス王女、いいところあるじゃないか。
「あは、あははは…」
「クラウス…お前…」
苦笑いのセレシア、ドン引きのギード。
「ふふッ…みっともない…あら?」
2人に聞こえないだろう声量で僕を罵倒するとはイリスも器用だ。
魔力を張り巡らしている僕じゃなきゃ聞き逃しちゃうね。
でも、食べれるものは食べておいて損はない───お、これ美味しいな。
今日のお昼は気まぐれ王女様のおかげで、とても豪華になったのだった。
なお、僕のチンジャオロース弁当はいつの間にか、誰かに食べられていた。
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