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第一章
第26話 メビウス、再び
しおりを挟む寮の自室の戻り、制服のネクタイを緩めようとして、思いとどまる。
「……このままでいっか」
あれから一週間毎日巡回をしていた。ハクバによると、通り魔の被害者は増加しているため、大騎士が相当焦っていると言ってた。彼らいわく、裁量権の広いアーク騎士団に自分たちの詰所を分けてやっているんだからなんやら、とのこと。そんなめんどくさそうなことを小耳にはみつつも、今夜は休ませてもらった。
「犠牲にするのはもったいないな」
組織の確執だとかはお偉い年長さんに任せればいい。
騎士がどれだけ非効率なことをしているか、もう大体わかった。
僕はこれ以上放課後を犠牲にしたくない。
「ミツキ」
「……はい、ここに」
今日は部屋にいなかったけど、呼べばすぐ来てくれる。
ミツキは良い子だ。
「今夜、犯人探しに行く」
「はい……しかしなぜ今夜から?」
「…………」
え、そんなこと言われてもただ気が向いただけなんだけど。
イリスに連れまわされるのが嫌だからっていうのは感情的すぎる。あのパトロールは無駄ではないと思うけど、僕が行く必要ないからって言うべき?
いやここは組織の長らしく、それっぽいかっこいい理由を言うべきか?
「……」
でも思いつかない。素直に言う。
「これ以上は無意味だからだ。これからは私の手で直々に下す」
「……」
黙るミツキ。
他に何かないかと焦って窓の外を見る
「……っ、なるほど。新月の夜、私たちが過去の影に光をもたらすのですね」
「あ、ああ……月のない夜が、そう私に相応しい」
僕も相応のよくわからない言い回しで姿勢を見せる。だがこれが駄目であったことを知るのは数秒後。
「とうとう始動するのですね。クラウス様の威光を示す時が来たと思うと、なんとも感慨深いです」
嬉しそうに言い終わるとミツキは僕の傍に跪いて手を捧げる。
「では主よ、なんとお呼びすれば?」
ミツキが来ている僕お手製の制服はスカートだ。あまりそういうのは良くないと思う。
しかしそんなことを知る由もないミツキは続ける。
一人称が定まってないのに主、つまり長?
そんなのちゃんちゃらおかしいよ。
ミツキもなんだか様子がおかしいし。
……なら昔に一回きりだった特定されないようにした『アレ』やってみるか。
「メビウス。悠久と不変の輪廻を巡る深淵の……メビウス」
あー恥ずかしいなんだこれ。最後思いつかなくてもう一回名前言っちゃった。
知らない人ならともかく、知人の前でこれをやるのは罰ゲームじゃん
もうわけわからん、こうなったら勢いで組織の名前も決めちゃうか?
「!?」
どう思うかと聞こうとミツキを見ると、困惑と驚愕が半分の表情を見せていた。
……ダメか?
「し、しかしその名は──」
あっ今ダメだしされたら恥ずかしくて死んじゃうもうなるようになれ。
「──私たちは『インフィニティ』」
ミツキから背くように背を向け、かぶせるように宣言する。
「インフィニティ……無限を司る、ということですね」
……顔は見えないけどミツキに合わせて調子に乗っちゃおうかな?
「そうだ、悠久の輪廻を巡る深淵に……選択と自由、あー……そして可能性を希求する者」
「……」
メビウスの時と何ら変わらないけど、ちょっとよくわからないそれっぽい言葉を付加する。
いや、待てよ……これからのことを考えると実名じゃないとはいえミツキにも呼び出し符号が必要だよな。
これからも2人で事態に当たるかもしれないんだから、こういう時はコールサインでやり取りすべきだ。
名前は……暫定だし適当でいいか。
「そしてミツキ、君のコールサインは──」
「──しかと拝命致します」
こんなことになるならしっかり考えておけば良かった。
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