36 / 49
第一章
《第31話 前》
しおりを挟むベッドの上。
「……」
ヘルメットを脱いではいるが、ジャケットはそのまま。
「…………」
思い直して制服の形に戻す。
いくらか軽くなった気がする。
「…………く」
そのせいで気が緩んだのか、口から息があふれる。
「……くくっ、ふっ……くくっ……」
こんな日もあっていいじゃないか。
今日はいい夜。存分に笑おう。
それにしても久しぶりに笑った気がする。
こんなにも気分がいいとは思いもしなかった。
「ふぅ………」
不完全燃焼ではあるが近いうちにまた会えるだろう。
その時には───
「───ん」
ひとしきり笑い余韻に浸っていると、遠くからゴーストの気配を知覚する。
普段の範囲よりだいぶ離れているが、どうやら先の影響で感覚が鋭敏になっているみたいだ。
「よっと」
結果はわかっているが、彼女は最後までその任を全うしたのだ。僕もそれにふさわしい格好で迎えよう。
服をジャケットに戻して、
「ヘルメットはいいか。状況終了報告だからね」
労いのために飲み物を用意する。
山盛りの果物からジュースになりそうなものを見繕う。
うーん、リンゴとオレンジだったらどっちが良いかな?
……げ、オレンジの方腐ってるな。
「だめだこりゃ」
オレンジを捨ててリンゴ丸ごと、魔力を込めた手で圧縮して果汁を抽出する。
二杯分取り出し終え、搾りかすを食べながら椅子に座って待つ。
するとゴーストが窓から部屋にやってきた、と思ったらすぐに跪く。
「……メビウス様、大変申し訳ありません。対象を見失いました。相手は───」
「───まぁ落ち着きなって、もう作戦は終わったんだ。とりあえず座れば?」
「……はい」
コップを手渡し、ミツキは素直に座るが飲もうとはしない。
僕はコップに口づけ、一口飲む。
うん、美味しい。
コールドプレスジュースの味がする。飲んだことないけど。
「……」
「……」
黙るミツキをよそに僕のコップの中身はどんどん減っていく。
「まず状況を聞こうか」
「はい……あのあと指示された通り、対象を追跡していました」
「うん」
「途中までは何事もなかったのですが、途中からもう1人の仲間がこちらを妨害」
「うん……うん?」
「その相手とは交戦したのですが、その間に対象には逃げられてしまいました。時間稼ぎだとは分かってはいましたが……申し訳ありません」
「もう1人か……なるほどね」
そうなると空から降ってきた少女と戦った彼女、それにミツキが遭遇したその仲間はつながりがありそうだな。というか通り魔の方が僕たちより人数が多いなんて……
「こっちにもすごいのが来たよ。随分と派手な登場でね。僕たちと年は同じくらいの女の子で、たぶんリーダー格じゃないかな」
「リーダー……やはり相当の手練れでしたか?」
「あぁ、あの子はかなりやるね。間違いない」
「その者はどうなされたのですか?」
「どっか行ったよ。目的は僕たちじゃなかったぽいからね。それより怪我は?痛いところない?」
「……はい」
「ならいいけど」
「……」
合流した相手とはトントンだったのかな?
「強かった?」
「はい……こちらも全力を出しましたが向こうはまだ余力がありそうでした」
「こうなると全員、魔力の使い方が普遍的なそれとは違うのかもしれない。ミツキはどちらかと言うと諜報向きだから仕方ないよ。今回は怪我もなく帰ってこれたから良しとしよう」
「……はい……次は必ず仕留めます」
「ははっ、仕留めなくていいよ」
強く宣言するように言うミツキに僕も苦笑い。
ミツキはあくまで情報収集要員として育てている。昔から戦闘に対しての苦手意識があったけど、いつの間にか戦闘をこなせるようになってたなんて。
あ、空だ。もう一杯飲もう。
ミツキの分は……まだある。全然飲んでなさそう。
「もしかしてリンゴ嫌い?」
「いえ……緊張してしまって」
「そうなんだ……ま、お代わりならあるからさ」
席を立ち小さいシンクでひとつずつリンゴから果汁を抽出していく。
「あっ……えっ!?」
「どうした?」
「これって……もしかして……?」
「手絞りジュース。あれ飲んだことなかったっけ?」
「いただきます!!……ッ」
勢いよく飲んだせいで、むせているミツキを横目に考えていた。
今夜は初陣にしては上々。相手の力量も計れたことことで、大体おおよそ多分やることが見えてきた。
これから本格的に『インフィニティ』を成長させていこう。
そのためにはまず、通り魔である『メビウスの使徒』という競合にして強豪な相手を倒さないといけない。
僕の放課後は失われたままだからだ。
明日のパトロールは辞退することを伝えないとな。
「美味しいです、クラウス様」
「そうか」
それにしても変な口調はやっぱりもうやめだ。普通でいよう、普通で。
ミツキもこのことに関して何も言ってこないんだから問題ないでしょ。
組織の名前は『インフィニティ』
コールサインは『メビウス』と『ゴースト』
単純にこれで決まり。虚無だとか深淵だとかはそういうことが好きな誰かにやらせとけばいい。僕には向いてないんだ。
「シンプルが一番だからね」
「はい!本来の風味が生かされていてとても美味しいです!」
「ははっ」
今日はよく眠れそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~
夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する!
農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。
逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。
これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる