蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

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第一章

《第31話 前》

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 ベッドの上。

「……」

 ヘルメットを脱いではいるが、ジャケットはそのまま。

「…………」

 思い直して制服の形に戻す。

 いくらか軽くなった気がする。

「…………く」

 そのせいで気が緩んだのか、口から息があふれる。

「……くくっ、ふっ……くくっ……」

 こんな日もあっていいじゃないか。

 今日はいい夜。存分に笑おう。

 それにしても久しぶりに笑った気がする。

 こんなにも気分がいいとは思いもしなかった。

「ふぅ………」

 不完全燃焼ではあるが近いうちにまた会えるだろう。

 その時には───

「───ん」

 ひとしきり笑い余韻に浸っていると、遠くからゴーストの気配を知覚する。

 普段の範囲よりだいぶ離れているが、どうやら先の影響で感覚が鋭敏になっているみたいだ。

「よっと」

 結果はわかっているが、彼女は最後までその任を全うしたのだ。僕もそれにふさわしい格好で迎えよう。

 服をジャケットに戻して、

「ヘルメットはいいか。状況終了報告だからね」

 労いのために飲み物を用意する。

 山盛りの果物からジュースになりそうなものを見繕う。

 うーん、リンゴとオレンジだったらどっちが良いかな?

 ……げ、オレンジの方腐ってるな。

「だめだこりゃ」

 オレンジを捨ててリンゴ丸ごと、魔力を込めた手で圧縮して果汁を抽出する。

 二杯分取り出し終え、搾りかすを食べながら椅子に座って待つ。

 するとゴーストが窓から部屋にやってきた、と思ったらすぐに跪く。

「……メビウス様、大変申し訳ありません。対象を見失いました。相手は───」

「───まぁ落ち着きなって、もう作戦は終わったんだ。とりあえず座れば?」

「……はい」

 コップを手渡し、ミツキは素直に座るが飲もうとはしない。

 僕はコップに口づけ、一口飲む。

 うん、美味しい。

 コールドプレスジュースの味がする。飲んだことないけど。

「……」

「……」

 黙るミツキをよそに僕のコップの中身はどんどん減っていく。

「まず状況を聞こうか」

「はい……あのあと指示された通り、対象を追跡していました」

「うん」

「途中までは何事もなかったのですが、途中からもう1人の仲間がこちらを妨害」

「うん……うん?」

「その相手とは交戦したのですが、その間に対象には逃げられてしまいました。時間稼ぎだとは分かってはいましたが……申し訳ありません」

「もう1人か……なるほどね」

 そうなると空から降ってきた少女と戦った彼女、それにミツキが遭遇したその仲間はつながりがありそうだな。というか通り魔の方が僕たちより人数が多いなんて……

「こっちにもすごいのが来たよ。随分と派手な登場でね。僕たちと年は同じくらいの女の子で、たぶんリーダー格じゃないかな」

「リーダー……やはり相当の手練れでしたか?」

「あぁ、あの子はかなりやるね。間違いない」

「その者はどうなされたのですか?」

「どっか行ったよ。目的は僕たちじゃなかったぽいからね。それより怪我は?痛いところない?」

「……はい」

「ならいいけど」

「……」

 合流した相手とはトントンだったのかな?

「強かった?」

「はい……こちらも全力を出しましたが向こうはまだ余力がありそうでした」

「こうなると全員、魔力の使い方が普遍的なそれとは違うのかもしれない。ミツキはどちらかと言うと諜報向きだから仕方ないよ。今回は怪我もなく帰ってこれたから良しとしよう」

「……はい……次は必ず仕留めます」

「ははっ、仕留めなくていいよ」

 強く宣言するように言うミツキに僕も苦笑い。

 ミツキはあくまで情報収集要員として育てている。昔から戦闘に対しての苦手意識があったけど、いつの間にか戦闘をこなせるようになってたなんて。

 あ、空だ。もう一杯飲もう。

 ミツキの分は……まだある。全然飲んでなさそう。

「もしかしてリンゴ嫌い?」

「いえ……緊張してしまって」

「そうなんだ……ま、お代わりならあるからさ」

 席を立ち小さいシンクでひとつずつリンゴから果汁を抽出していく。

「あっ……えっ!?」

「どうした?」

「これって……もしかして……?」

「手絞りジュース。あれ飲んだことなかったっけ?」

「いただきます!!……ッ」

 勢いよく飲んだせいで、むせているミツキを横目に考えていた。

 今夜は初陣にしては上々。相手の力量も計れたことことで、大体おおよそ多分やることが見えてきた。

 これから本格的に『インフィニティ』を成長させていこう。

 そのためにはまず、通り魔である『メビウスの使徒』という競合にして強豪な相手を倒さないといけない。

 僕の放課後は失われたままだからだ。

 明日のパトロールは辞退することを伝えないとな。

「美味しいです、クラウス様」

「そうか」

 それにしても変な口調はやっぱりもうやめだ。普通でいよう、普通で。

 ミツキもこのことに関して何も言ってこないんだから問題ないでしょ。

 組織の名前は『インフィニティ』

 コールサインは『メビウス』と『ゴースト』

 単純にこれで決まり。虚無だとか深淵だとかはそういうことが好きな誰かにやらせとけばいい。僕には向いてないんだ。

「シンプルが一番だからね」

「はい!本来の風味が生かされていてとても美味しいです!」

「ははっ」

 今日はよく眠れそうだ。

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