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第一章

第36話

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「んー!はぁ……」

 建物から溢れる斜陽の橙色に、どことなく懐かしさを感じながら……なんてありがちなことを思いながら、僕は凝り固まった身体を伸ばす。

 なぜか拘留から解放された。
 確実な証拠をもちあわせてたっぽいのに、なぜだろうか。
 よくわからなかったけどきっと、今おみくじを引いたら大吉ぐらい出そうなくらいには運が良いかもしれない。

 でも……

「もうあんなの二度とごめんだ。捕虜よりひどい扱いじゃないか」

 気分はもうチョベリバ。

「超ベリーパフェ食べたい、と言う奴だっけ」

 ……関係なさそうだな。

 それはともかく何やら忙しそうに駐留所から出される時はフロワードじゃない別の近衛騎士が対応していた。
 しょうがないから、アイリスぐらいは見つけてみようか。

「ガツンと言ってやらないと。生きてたらだけど」

 王女を誘拐する奴らはまともなはずがない。目的は分からないけど、身代金目的じゃないだろうから生きてたら御の字と言ったところか。

 まぁそれもそうだが、事前に考えていた対処をすべきだ。解放されて早々に自室に帰ってきたら、時刻はもう夕方。

「ミツキ」

 応答なし。

「ミツキ!」

 再度呼びかけても反応がない。いつもこれくらいの時刻ならすぐに来るんだけどな。

 もしかして僕が尋問されてたことを知らない?あるいは、もしかして───

「───幻滅された……?」

 それはまずい。大変よろしくない事態だ。

 『三日会わざれば刮目してみよ』という言葉がある。たった四日と思うことなかれ、されど四日だ。

 もしかしたら、たかが騎士団に拘留される程度の実力は長に相応しくないと判断されたのかもしれない。

「まずは状況の整理をしよう」

 この四日間に手に入れた情報は。

「通り魔の正体はメビウスの使徒で、イリスの誘拐もそいつらの仕業……メンバーは多分三人で、あと…………───」

 ───あとはなんだ?

 騎士たちに尋問されてたせいでそれぐらいしかわからない。いや、整理するほどの情報がないことが分かった。

「つまりなんにもわかってない、ってこと!?」

 心の中で泣いちゃった!!!
 何か知っているだろうミツキと合流したらさりげなく弁明しないと。

「とりあえず、着替えるか」

 なんだかお手製の制服に着替えるのも懐かしい。

 メビウスで行動するのはあまりよくないだろうけど、傷だらけの学生が王都をうろつきまわるのもどうかと思う。

「そういえばボロボロにされた学生服は補償されるのかな?」

 近衛騎士の責任は王族にありそうだから、アイリスに今度聞いてみるか。

「頼むから生きててくれよ、アイリス」

 僕はボロボロになった制服を小さく畳んで、ほとばしる熱いパトスを胸に、窓辺からやがて飛び立った。

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