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第一章
第42話
しおりを挟む幸いティファレトさんがいた場所は監禁場所からほど近い場所にある。といっても入り組んだ路地を突き進めばという話ではあるが、とりあえず彼女を連れて件の場所に案内する。
さっきの場所では騎士たちがいっぱいいたから何事かと思ったけど、建物が壊れてたから爆破解体でもやってたらしい。でも中腹から爆発させるのは下手くそじゃないかな。やっぱり異世界だと技術が確立してないのかな?
まぁそんなことはともかく、僕は案内の最中、夜なのに街中がにわかに騒がしいことに気づいたのだ。
だからといって僕は何も知らないから、何かが変わるわけでもないんだけど、でも雰囲気と言うかちょっとワクワクするよね。
そうして到着する。目の前にある目的の建物は、いたってありふれた二階建ての民家みたいな感じ。
「ここの建物内にトラップドアがあるんで、そこを降りていけばアイリスがいますよ。体調というか調子はすぐれないみたいですけど、無事ですから安心してください」
「………」
「………行かないんですか?」
「いや…………」
建物の入り口を見つめ、直立不動で佇むティファレトさんを前にして、僕は問いかけた。
彼女は僕に振り返ることもなく、それっきり答えたままに深呼吸をしている。
おそらく久しぶりの妹との対面に緊張しているようであった。
うんうん、僕もその気持ちはわかる。僕もステラ姉さんに会うときは緊張しちゃうからね。まぁ、僕の場合、避けてるからしばらく会ってないけど。
「もしかして、怖いんですか?」
「っ!」
ようやく振り返った。
しかしその表情はかたく、ティファレトさんの目はやはり揺れていた。
ふむ、ここに来てまでためらうのはアイリスへの罪悪感、あるいは後悔だろうか。
夜だから気づかなかったけど、彼女の目の下にはクマがある。アーク騎士団の職務に追われつつも、アイリスを見つけたと言った時の反応から、妹の心配ばかりでまともな休息は取れていなかったのだろうことは想像がつく。
体を重ねたわけでもなければ、剣を交わしたわけでもないから正確なことはわからないけど。
まぁ……アイリスは友達だし、少なくとも彼女はお姉さんを待ってるだろうから、少し手を貸してあげようと思った
「しょうがないですよ。誰にだって失敗はあるんですから、今はアイリスに会って、話すことだけを考えればいいんです」
「もし、それで許してくれないなら、関係をお終いにしてもいいし、逆に許してもらえるまで諦めなければいいんですから」
「でもあなたたちは姉妹ですから、一生関係を引きずるわけで……まぁ何が言いたいかって言うと、偽らない心が大事ってことです……あれ、上手く説明できたかな?」
「………」
間断なく言い続けて首を傾げてしまう。
やっぱり所作だけで言い当てるのは確実性がなかったかもしれない。現にティファレトさんは僕を見つめたまま動こうとしない。
「そう……だな。すこし臆病になりすぎていたのかもしれない………」
と思ったら反応があった。よし、正しく話せたな。
「そうですよ!アイリスもあなたのこと自慢げに話してましたから」
「ふっ……君は、アイリスと呼ぶんだな……」
「え?そ、それがなにか……?」
微笑みながらアイリス呼称に突っ込んでくるティファレトさん。
僕はなぜか焦って、声が少し上ずってしまった。
「彼女が、アイリスが自分のことを“アイリス”と呼ばせるのには……いやこれはいつか本人から聞くべきことだろう」
えぇ……そこまで言いかけて途中でやめるのはやめてほしいんですけど。
「……ありがとう。」
「あぁ……いえ、どうってことないです」
目を見つめながら不意にお礼を言われて、照れ隠しで頭を掻いてしまう。
「もうほら行ってあげてください。アイリスが待ってますよ」
「ああ。またどこかで会えたら、その時はアイリスも交えて話そう」
「あー、それはー……いい考えですねー」
「では、僕はもう帰るんで、もう帰ったらぐっすり眠るんで。それはもう何が起きてもわからないくらいに。また会いましょうそれでは」
否定できる空気感じゃないから適当に誤魔化して早々に去る。
「ほんとにありがとう、クラウス君!」
すると後ろからティファレトさんの声が聞こえたから、
「あはは………」
それに僕は振り返り、苦笑いしながら手を振る。
そうしてやっと建物に入っていくティファレトさん。
「ここまで長かった……長すぎた………」
そもそもなんでこんな呑気に話すことになったんだ?仮にも妹誘拐されてるのに危機感なさすぎじゃないのか?
「ステラ姉さんの時とはだいぶ違ったな」
僕が誘拐された時は泣きながら抱き着いてきたのに、なんというか彼女たちは少しドライな姉妹なのかもしれない。
「たどり着けたか、いちよう確認しておこうか」
暗がりでメビウスに着替えてから、そろりそろり建物に侵入して耳を欹てる。
「……アイリス?」
「ティファ姉さま……」
「……アイリス……すまなかった……!さびしかっただろう……っ」
「姉さま、私……うぅ、ぁぁぁ……会いたかった……ぁぁぁああ………!ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
「大丈夫だアイリス……もう大丈夫だから」
これくらいで十分、うん大丈夫そう。仲違いする心配もなさそうでなにより。
「さて、僕も会いに行きますか」
メビウスの使徒である彼女たちに。
だいたい向こうに感じるから……
「……やっと見つけたと思ったら、またあそこか。」
アレには人を惹きつける何かがあるのか?
「まだ終わってないといいけど……」
人の目がないことを確認して、瞬く間に着替え、彼女たちがいる広場に向かう。
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