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第一章
第43話
しおりを挟む広場の中心には僅かな光源に照らされ、自らも仄かに明滅する建造物が建てられており、宵闇に紛れることなくその存在感を主張している。
ある種街のシンボルやランドマークになりえるそれはしかし、人々に親近感や象徴、畏敬を抱かせるどころか、人を寄せ付けることもなく、今まではただ存在するのみであった。
しかし今夜だけは違う。
二人の青年である男女が空にまで伸びる塔に脇目を振らず、剣の応酬を繰り広げていたからである。
だが既に事は終いに向かいつつある。
ルークの劣勢と言う形で。
「ねぇ、もう終わり?口ほどにもないじゃん」
「………はぁ……はぁ……」
フードが剥がれクリーム色の髪と表情を露わに、少女は満身創痍で膝を折るルークを嘲笑う。
少女の纏うコートには所々鋭く切られた箇所が見られるが肌には至らず、無傷である状況からその実力差を如実に表していた。
ルークは息も絶え絶えに問いかける。
「おまえ、何もんなんだ?アーティファクトもなしで、それほどの強さ……いったい、どうやったらそうなる……?」
「んん?おかしい……」
ルークの質問に少女は首をわざとらしく傾げ、彼女の顔立ちが整っているせいで、自然とあざとい印象を与えた。
「ねぇ、お兄さんクロージャーだよね?そうだよね?」
「あぁ?クロージャーだと?」
ルークはよろけながらも剣を支えにして立ち上がり、続ける。
「……お前、さっきからソルジャーだとか………ナンバーズだとかわけのわかんねぇこと言い出すな……知らねぇよ、そんなもん」
「ほんとかなぁ?………………あっ」
少女はルークの嘘を見抜こうと、両眼を細め、顔に注目する。
だが、不意に彼女の視線が下に向いた時、押し付けるような都合のいい考えは首元で輝く首飾りで自らが否定した。
「それ、着けてると……たしか………」
小声で何かを言う少女に怪訝そうに様子を伺うルーク。
そして彼女は細めていた目をかっと見開き、
「うぅ、最悪……!リーダーに怒られちゃうよ!」
恐る恐る周囲を見渡した後、剣を鞘に収める。
「悪いけど、ウチが相手してたことは内緒ね!」
「……あぁ?」
途端に少女は態度を翻し、えへへっと笑う。
ルークは先ほどまであった突き刺さるようなプレッシャーから解放され困惑しながらも、しかし警戒を緩めることはない。
「いやぁ人違いだったっぽいわ、ごめんごめんよ。じゃ、そういうことで、ばぁい───」
「───どこに行くの?」
「!?」
少女の去る直前、捨て台詞を言わせんとばかりに、どこからともなく現れたのは魔剣士学校の制服に身を包んだ黒髪の少女。優雅に長い黒髪を舞わせながら、回り込むようにして彼女は背後に立った。
気配もなく登場した少女に二人は吃驚を隠せなかったが、立ち直るのは黒外套の少女が早く、すぐさま振り返った。
「ぁ、やば……いやぁ、その、リーダー………、あのぉ」
「どうしたの?」
「うっ。ご、めんなさい」
「どうして、謝るの?何か不都合があるの?」
「あ、いや……だって……」
突然の襲来に、気まずさからもじもじと言葉に詰まる少女に、
「……えぇ、そうね」
制服の少女はふっと笑いかける。
「せいぜいあなたがしたことと言えば、『情報のないままなんの確認もせず』に、『自分の欲求を抑えることもせず』『騎士の一人である彼を痛めつけた』くらいじゃない」
「うぐぅ………」
自身の行動と事柄を滔々と並び立てる少女に、ぐうの音も出せない少女。
「まぁそんなことより一番の問題は『独断専行』なのだけれど。あなたのこと、彼女が随分と心配してたわよ」
「でもあいつは………ちょっと過保護すぎる───」
「───なにか、言った?」
拗ねたようにすげなく反応する少女に、制服の少女は眉を吊り上げさせ、静かに怒気を含ませる。
「ご、ごめんなさい……」
「はぁ……後でちゃんと謝っておきなさい。それと後の処理はわたしがする」
「……はい」
「……なんなんだ、お前らは……」
「あぁ、まだ生きてたの」
少女たちの会話に紛れることなく、蚊帳の外だったルークは疑問の声を上げる。
その声に制服の少女は顔を向けるが、興味なさそうに反応する。
「お前……リーダーとか呼ばれてたな?メビウスの使徒のトップがお前なのか?」
「えぇ、今のところは。無抵抗な女の子に乱暴を働こうとしたルーク・ドゥスタ、あなたに知られてるなんて実に光栄ね」
「チッ……」
「ふふっ」
憎々しげに舌打ちをするルークに、可笑しそうに少女は微笑む。
「無垢な王女様には今回のは少し酷だったかもしれないわね。まぁ、あなたの本当の欲求は別にあったみたいだけれど」
「……何を言ってやがる?」
「本当にわからないの?……だとしたら相当の愚かなのね、あなた」
「クソッ、偉そうに見下しやがって………ッ!どいつもこいつも、気に食わねぇ!」
「やめておきなさい。あなたじゃ、わたし達には勝てない」
「やってみねぇと……わかんねぇだろうが!」
剣を構えたルークに、少女は小さく嘆息し、後ろに立つ黒外套の少女に目配せする。
「あなたは下がりなさい」
「はい」
「いい子ね。あと少しもすれば、施設の破壊を終えた彼女たちが合流してくる。これの相手はわたしが───」
───しかし、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。
コツ、コツ、コツ……
なぜなら、石畳を歩く小気味の良い足音と共に、ルークと少女たちの間に立とうと歩いてくる人物がいたから。
それは足元まで伸びる長い裾で全身を覆い、顔をヘルメットで隠しながらもその上からフードを被り、蒼い線が特徴の服を纏った、見るからに怪しい格好の人物───この時だけ、メビウスが注目を支配する。
「あなたは………」
「あはっ、また会ったね!等級付き!」
「ちっ、また知らねぇ奴かよ……」
言葉に詰まる制服の少女、思わぬ再会に悦びを見せる黒外套の少女、辟易するルーク、三者三様の反応を見せる中、メビウスは少女たちに首を向け、すると、ルークに歩み寄っていく。
「……───…………」
「……あ?」
しかし、途中で何かを考えるそぶりを見せると、踵を返し逆に少女たちに近づいていく。
「来た来た……ッ!いいねぇ……ワクワクするよねぇ!」
「………まって」
「え?……リーダー?」
待ちきれないとばかりに迎え撃とうとする黒外套の少女に、制服の少女は手をかざして制止する。
しかし、メビウスは腰に携えた剣を抜き、下段に構えながらもゆっくりと近づいてくる。
「ねぇ、どうしたのリーダー?はやく殺っちゃおうよ……あいつ、こっちに来てるよ………?」
「………………」
「リーダー……?」
焦燥を募らせる黒外套の少女に構うことなく、姿勢を正した少女は相対するようにメビウスへと自らも近づいていく。
凛とした背筋で、ゆっくりと二人の足音が重なるように。
一陣の夜風が吹いても、視線をそらすことはなく、空いた距離を互いが詰め寄るように無くしていく。
遠くからは騎士団たちの喧騒が聞こえるが、二人に届きはしない。
そしてあと十数歩と言うところで、二人は同時に足を止める。
しばし、無言。
その場にいた人間すべてが、彼らの一挙手一投足を注視していた。
「……………」
最初に行動を起こしたのは、メビウス。
彼は剣を抜き、片手で斜に構えると、
「………」
少女も倣うように、剣を構えた。
ゆったりとした呼吸を三度。
そして───
「っ!」
「………──」
彼と彼女は終ぞ語り合うことなく、刹那に剣戟が交わされた。
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