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大将 エリオット Ⅲ

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「あーヤバイなこれ……服の間からポロポロいろんな物が出てくるな。早いとこ脱いで洗わんとな」


浴室に入り、エリオットが騎士服を脱いでいくと、素晴らしい強靭なアウターマッスルが現れた。騎士団の中でも、大将の位置にいるのは伊達では無く、闘争本能と能力から言えば団長アイザックの次に強いのではないだろうか。

 騎士団の地位は、それぞれの性格・能力全てを総合して、騎士団を任されている団長アイザックが決めている。

 普段は心優しいエリオットも戦闘になれば熊の能力を使い、情け容赦なく薙ぎ倒して進んでいくのだが、今は頭の中にリオンの事が離れずにいるみたいだ。それを頭から勢いよくシャワーを浴びて、汗や汚れと一緒にリオンに対するモヤモヤする気持ちも、流す様に浴びている。


「ああーくそ! なんなんだよ。俺が必死に我慢してんのに、ちょこちょこくっついて来やがって……手違いで犯してでもしたらどうすんだよ。あいつらの忘形見を俺が強引にやるなんて、ありえねえよ。

 あーなんなんだ、頭ん中クラクラすんなぁ~ 酒ん中なんか入ってたのか?あんぐらいの量で、こんな理性なくなりそうな事なんてない筈だろうが……

 このまま出ると、本当に今日はヤバイぞ、さっきから頭ん中リオンの事ばかりで落ち着かねえ。どーすっかなぁこのまますぐベッドに入って寝るしかねえな。そうだな寝ちまおう」
 

きっちり服を着て、堅い意志を持ってエリオットは浴室を出た。


「エリオットさん。あれ? 二階に行くの? ご飯は? ノアさんがお腹空いてる筈だからって、食材沢山持って来てくれたんだよ。僕、頑張って御馳走沢山作ったのに……」


階段を途中まで登っていたエリオットだったが、階下で寂しそうに項垂れているリオンを放って置けなくて、心の中で大丈夫だ! 俺の理性頑張れよと、言い聞かせ階段を引き返した。


「少しだけ食べる……なんか頭の中が、今日はフワフワしてんだ。食べたら寝るわ」

「大丈夫なの? お医者さんに明日行く? 一週間休みだよね。日頃忙しくしてるからゆっくりしてなよね」


食べる場所に向かいながら、いつもの様に何気ない話をするのだが、二人の間に今日はいつも通りではない空気があった。エリオットが椅子にどかりと座り、リオンはスープや手の込んだ料理を温めている。


「凄いな今日の料理は、本当に豪華だな」

「うん、ノアさんがね。持って来てくれたの」

「ノアか……俺が遠征に行くこともノアが伝えに来たのか? 」

「えっとお、それは……別の団員さん……」

「誰だ」

「知らない人……」


エリオットは、何かおかしい事に気付いた。何かと忙しいノアがわざわざ伝えにくるだろうか? と、ノアとリオンは仲が良く、リオンは相談をノアに持ちかけていた事はエリオットも知っていた。

 だが、この反応は何か気になるとエリオットの感が訴えかけていた。


「団員か……団員の誰だ。何があった。俺には言えない事か」

「そんな……言えなくないけど、言いたくないかな。そんな事、良いじゃない! あっためたんだよ食べてよ。冷めちゃうよ」


エリオットは椅子から立ち上がり、用事をしているリオンに近づいた。そして、ジッとリオンを見てみると、首元や腕などに強く掴んだ痕が残っていた。

 本人は隠そうとしていたみたいだが、隠しきれない痕がエリオットに見えてしまった。


「リオンこれはなんだ」

「あっ………………」


エリオットの大きな手に両手を掴まれ、動けない間にシャツのボタンを全て外された。首から胸、腹等に赤い痕や人に押さえ付けられた手の形等、多数あった。


「リオン……誰だ! 誰がやったんだ!こんなに痕がつくんだ合意では無いんだろう! 団員か! 用心深いリオンが家を開けて話を聞くんだ……俺の不在を知らせに来た奴だな」

「で、でもね、何にもされてないよ……」

「何もされて無い訳ないだろう、そんな痕つけられて! お前の綺麗な身体にそんな痕……俺は許さねえぞ! 斬り刻んで殺してやるよ」

「やめてよ! 本当に何も無かったんだよ。僕もドア開けて中に入れてしまったから……あの人いきなり……飛びかかって来てね。僕驚いて……怖くて必死で抵抗もしたけど、どんどん服破られていって……でも、でもね。僕、僕さ……身体が普通じゃ無いから、その人叫んで、逃げていっちゃったの。気持ち悪い……バケモノだって……………ぼ、僕そのまま動けなくて。そしたら、ノアさんが来てくれたの」


途切れ途切れでも、必死で話しながらも震えているリオンを、エリオットは身体全てを覆う様に護るように、優しく優しく抱き締めた。
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