森の導の植物少女

文壱文(ふーみん)

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第二章 エルフの園

長命種-3

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 エルフの少女二人──フィーロとアーレの体力はあっという間に回復し、シーナ達を連れて故郷へ戻ることとなった。

「はっ! あ、そこも!!」
「やっぱりエルフって聴覚が鋭いのね。野鳥がいとも簡単に倒せるなんて驚きだわ」
「そうだよな。樹海なら足音立てることは厳禁だし、呼吸するだけで気づかれることもあるし」

 シーナの呟きにマグが零す。常人ならば、野鳥を仕留めるのは至難の業だ。それをポンポンと狩っていくのだから、マグは溜息をつくほかない。

「お兄ちゃんは緊張すると息上がるもん、仕方ないよ」
「なッ!?」

 ノリアの言葉がマグに突き刺さる。まるでフォローになっていない、とマグは顔を真っ赤にした。
 真横でそのような会話が繰り広げられる中、シーナはエルフの聴力──そして、弓の実力に感嘆していた。

「やっぱりすごいのね、エルフって」
「ええと、どうだろう。私たちはまだ若輩者で、里の皆のほうが全然弓が上手いんだよ」

 話しながらフィーロは空を見上げる。すると、若輩者という言葉に反応したのかマグが一言。

「……若輩者って、フィーロとアーレは何歳なんだ?」
「そういうことは聞かないものよ」

 マグの頭に軽くチョップを入れるシーナ。ジトリ、とした視線がマグを刺す。

「いいよいいよ。私たちまだ八十歳だし!」
「「「は、八十歳!?」」」

 アーレが年齢を暴露してしまうと、数字に三人は驚愕した。
 もしもアーレ達が人間とさほど寿命が変わらなかったら、進む足は速くない上に足腰は曲がっていたかもしれない。エルフという種族との価値観の差にシーナは目を輝かせた。

「シーナはこういうのに興味があるの?」

 マグが質問した。

「ええ、そうよ。私は昔ね、恋人を亡くしたの。彼の死に際に引き合わせてくれたのがシニカさんだったのよ」
「そ、そうだったのか」

 シーナの口から飛び出した、重い話にマグの表情が固まる。マグの反応に気づくこともなく、シーナは話を続けた。

「その時にね、私はシニカさんの見ているものと、私自身の見ているものが違うことに気づいたの」

 その正体が価値観だと、シーナは言う。
 フィーロとアーレが先行して野鳥を狩り、後ろを続くシーナとマグとノリア。
 日が暮れ始めると、五人は野営の準備に取り掛かることとなった。


 夜、澄んだ空気が木々の隙間を吹き抜ける。シーナ達にとっては初の遠出だ。そんな理由もあってか、瞼が重たい。

「先に寝てもいいけど、番が回って来たらしっかり起きてね。私たちが最初、火を見てるよ」
「ありがとう、二人とも」

 フィーロとアーレはにっこりとはにかんだ。そのままシーナの意識は闇の中に落ちていく。口元が緩み、呼気とともに胸が上下する。エルフの少女二人の瞳の中には揺らめく炎が映り込んでいた。


 日が昇り始めて翌日。
 大樹海とは大きく異なり、差し込む光が暖かい。太陽の光で目が覚めるという感覚。合間に火の番をしていたとはいえ、久々に気持ち良く起床したとシーナは思った。
 今まで僅かな光しか届かない森の中だったために、起床には魔法陣を使っていたくらいである。具体的に言うなれば、大きな音を鳴らしていた。

「ふわぁ……。おはようみんな」

 マグとノリアは既に起きており、火消しを行っている。フィーロとアーレの方へ視線を移せば、すうすうと寝息を立てていた。

「マグ、ノリア。二人ともお疲れ様。あとは私がやっておくから、もう一度仮眠をとったらどうかしら?」
「……ありがとう。じゃあ後の作業はシーナにお願いしてもいいか?」
「ええ。勿論よ」

 今は焚き火の上に砂がかけられている状態だ。まだ熱を持っているために、シーナは残骸の様子を眺める。魔法陣から水を取り出すと、消えた火の中へ。
 朝食の用意を一人で済ませ、準備が整った頃。

「皆、起きなさーい」

 声高に叫ぶ。大声に驚いたのか目を擦り、皆が上体を起こした。朝食を摂り、水浴びを個々に行う。着替え、支度を済ませ出発の準備に取り掛かる。

「みんな準備はいい? 私たちの里はまだまだ遠いよ!」

 アーレが愉快に話す。しかし内容は全く愉快ではない。流石に遠すぎる、とシーナ達は思った。

 ***

 道が遠い、遠すぎる。いつからそう考えていたのかも曖昧で、ひたすら長い道のりを歩む。もう、どこを歩いていたのかも分からない。木々の葉が地面のくぼみを映している。
 太陽が眩しい。シーナは汗の滲む額を拭い、なまりのような足を一歩前へ。

「はぁ、はぁ。もう……何日経過したのよ。フィーロ、あとどれくらいなの?」
「ええと、そうですね。もう一日あれば私たちの里に到着すると思います」

 フィーロの口調は軽やかだ。数日前まで病人だったとは到底思えない。シーナは細目でエルフ少女二人をじっと睨む。しばらく進んでいると、シーナ達は足先が下へ引っ張られるような感覚に襲われた。

「「「っ!?」」」
「三人とも大丈夫?」

 様子を窺ったのは、アーレだ。
 三人は今置かれている状況を、シニカの知識から知っていた。所謂、肉離れ。

「……私たちの歩幅もかなり速かったし、一旦休もうよ。いいよね、フィーロ」
「うん、大丈夫。この近くに川があるから、そこまで移動しよっか」

 フィーロの提案に、一同は首を縦に振った。

 河岸近くの砂利場。疲れきった足を流水の中に浸けた。どちらかといえば熱の籠った足が冷水でピリピリする。背中を走っていた緊張もほどけた気がした。

「裸足に冷たい水、やっぱり気持ちいいわね」
「そうだなー。ノリアはどうだ?」
「うん、私もすーってする。頭の中が軽くなる感じ」

 三者一様と言える反応にフィーロとアーレは目を合わせて失笑した。
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