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三章 量産型勇者の歩く道
三章一話 『男のかいしょう』
しおりを挟むアスト王国とは、大きく分けて五つの都市からなる国である。
東のゴルゴンゾア、西のカムトピア、南のサルマ、北のテムラン、そして中心に位置する王都レムルニアである。
魔人大戦において、ほぼ壊滅状態まで追い込まれたサルマとテムランは現在も修復中で、今もその爪跡は残されている。
それぞれの都市に騎士団が派遣されてはいるものの、やはり王が住み、前回の戦争で中心となった王都には戦力が集中している。
他の国と比べて魔法が発展しており、昔の外交関係はそこまで悪くなかったと言って良いだろう。
しかしながら、現在は危ういところである。
封印された魔王がアスト国を狙った理由は不明だが、今もどこかに居るという事で他の国は狙われないようにと遠ざけているのだ。
戦争が終わり、勇者という希望が現れた今でさえも、隣国にその驚異は知れ渡っている。
もう一度魔王が復活したとして、他の国が助けてくれる確率は低い。だからこそ、アスト王国は血眼になって勇者を探し、現存する魔元帥や魔獣を狩る事に重きを置いている。
もし、戦争が再びおこった時、それを止められるのは勇者だけだろう。
人々の希望を背負い、皆を率いて戦う宿命を持った存在ーーそれが勇者なのだ。
……なのだが、
「ルークさん、どういう事か説明して下さい」
「……僕何も知らないよ」
「気持ち悪いです、僕とか吐き気がするので止めて下さい」
「うっせぇな、腹減ったんだからしゃーねぇだろ」
ビートと別れ、王都を目指すべく発進した二人。しかし、町を出てから五日ほどたったある日、ルークは草原のど真ん中で正座をしていた。
目の前には腰に手を当てて仁王立ちするティアニーズがおり、怒り心頭といった様子だ。
「子供ですか貴方は。このまま行けばあと五日ほどで王都に着けたというのに、貴方のせいで寄り道するはめになったんですよ」
「お前だって後先考えずに飯食ってただろーが。全部人のせいにすんな」
「私は育ち盛りだから良いんです、これから身長とかも伸びるんです」
「子供はどっちだよ、んな理由お兄さんは認めません。俺もお前も悪い、以上」
悪びれた様子もなく、ルークは足の痺れと格闘中。
現状を説明すると、所々で寄った町で購入した食料を全て食べてしまったのだ。長旅になるという事もあり、少し多目に勝ったのだが、すっからかんである。
このままでは王都にたどり着く前に餓死してしまうと考え、二人は東の都市ゴルゴンゾアの前にやって来ていた。
入りもせずに外で説教中なのは、中に入ったら逃げられるか迷子になると思ったからだろう。
「無駄な出費が増えましたね、ルークさんの牢屋生活が長引きます、良かったですね」
「ざけんな、俺はゼッテーに払わねぇかんな。経費で落とせ」
「かいしょうなし」
「テメェが一文無しの状態で村から引っ張り出したんだろ! 男はお金じゃありません! 大事なのはハートなんです!」
「へぇ、貴方に純粋なハートがあるなんてびっくりです。でしたら、勇者として世界を救って下さい」
「断る、俺のハートは黒いから勇者にはなれない」
そのハートが腐りきっているから言われているのだろう。男のプライドを、しかも年下に傷つけられた事によってルークは声を上げる。
ティアニーズは腕を組み、わざらとらしく頭を抱えると、
「もう良いですよ、これ以上口論しても不毛なだけです。良いですか? 今からゴルゴンゾアに入ります、絶対に迷子にならないで下さいね」
「迷子になったのはお前だろ。お前は俺に着いてくりゃ良いんだよ」
「では道案内をお願いします、騎士団の宿舎まで。あ、ルークさんじゃ入れないかもしれませんね」
「バ、バーカ、俺から滲み出る男の魅力で門番なんか余裕で突破出来るってーの! 見とけよ小娘!」
「ほー、じゃあその魅力を見せてもらいましょうか」
という訳で、ルークは一人意気揚々と入り口まで肩で風を切りながら移動。
門の前に立つ数人の男を睨み付け、いかにも怪しい感じのまま歩み寄った。
しかし、
「身分を証明出来る物は?」
「ない」
「どこから来たの?」
「東の田舎から」
「その剣は? あんまり見ない形だけど」
「拾いました」
「そう、残念だけど入れられないね」
てな感じで簡単に追い返された。
出身も曖昧で剣を拾ったなんて言えば、盗賊と勘違いされてもおかしくないのだが、この男はそこら辺がアホなのでアホな事しか言えないのだ。
肩を落としてとぼとぼ歩きながらティアニーズの元へと戻ると、今までに見たことのない笑顔で顔を満たしていた。
「あれ、もしかして断られちゃったんですか? 男の魅力はどうしたんですか? あれあれ?」
「ッし、喧嘩売ってんだな? ぶっ飛ばしてやるからかかって来いや、ついでにあの門番どももぶちのめしてやるわ!」
「プッ……男の魅力……そんなのちょっともないのに、男の魅力……」
「笑ってんじゃねぇ! 騎士団だからって調子乗んなよ!」
口を抑え、必死に笑いを堪えようとするティアニーズ。瞳に涙をためて大爆笑をなんとか抑えているが、それでは笑っていますと言っているようなものだ。
腕を捲ってやる気満々のルークを手で抑えると、
「良いですか? 今この国は戦争がおこった事によって警戒が高められているんです。人型の魔獣も存在も確認されてますし、身元不明の人間を簡単に通行させる訳がないんですよ」
「俺が魔獣がどうか見抜けない奴らに問題があんだろ」
「それはそうですけど、魔獣の驚異を退けるにはそれしかないんです。いくら魔除けの魔石があると言っても、入り口を通って入る事は出来てしまうんです」
「めんどくせー。とっとと魔獣を全滅させて来い」
「それをやるのは貴方の役目です。さ、行きましょう、今度は私も行くので大丈夫ですよ」
「そのドヤ顔止めろ。ゼッテー痛い目みるからんな」
ティアニーズの渾身のドヤ顔を見て芽生えた殺意を殺し、ルーク達は改めてゴルゴンゾアへと足を踏み入れたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゴルゴンゾアへと入り、あまりの場違い感にルークは吐き気をもよおした。
前の町でもそうだったが、田舎育ちのルークにとって都会の喧騒は雑音でしかない。しかも、五大都市ともなれば小さな町の非ではなく、行き交う人の表情もどことなく活気に満ちていた。
そして何よりも目を引かれるのが、頭に耳をはやした人間だ。
猫のような耳がはえている者も居れば、全身が毛に覆われている者も居る。
アスト王国で、人間の次に多い種族である『獣人』だ。
見た目もさることならがら、その身体能力は高い。ベースとなった動物に依存し、身軽な者から怪力を持つ者までおり、戦争でもその戦果はめざましいものだった。
「ゴルゴンゾアは主に獣人の人口比率が高い都市なんです。前の戦争でこの都市を担当したという理由が大きいんですよ」
「へー、初めてじゃねぇけど、こうして間近で見るのは初めてだ」
「……それって田舎育ちとかの前に、ルークさんの興味がなかったからじゃないですか?」
「そりゃそうだろ、何で他人を一々気にして歩かなきゃなんねーんだよ」
「はぁ……本当に、どうして貴方が勇者なんですかね」
「勇者じゃねぇよ」
ティアニーズの言葉を話半分で耳に入れ、勝手に歩き出そうとしたところを無理矢理手を掴まれる。
そのまま強引に指を絡ませると、
「今回は絶対に逃がしません。貴方は勝手にどこかへ行ってしまう人なので、こうして手を握っててあげます」
「止めろ、ただ恥ずかしいだけだわ。これだと俺がお前に引かれてるみたいじゃんか」
「実際にそうなんですから仕方ないでしょう。弟の手を引く姉の気持ちが良く分かりました」
「俺が兄だ。お前が妹で俺が手を引く、じゃないとなんか男としてすげー恥ずかしくなる」
ルークの話など聞かず、ティアニーズは半ば強引に手を引いて歩き出した。
周りの視線が痛いほどに突き刺ささるが、それはティアニーズの容姿が綺麗だからだろう。
ルークもそれは認めているけれど、彼のプライドはそれを許さない。
しばらく歩いていると、ルークはとある事に気付いた。固く結ばれた手を見て、何となく口にしてみる。
「こうして歩いてるとカップルっぽく見えてんじゃねぇ?」
「ーーッ!」
口にした瞬間、ティアニーズの顔が一瞬にして赤に染まる。耳まで広がる赤は握られた腕を侵食し、
「そ、そそそそそんな訳ないでしょ! 見えても兄妹です! 絶対にそんな訳ありません! だ、だって、こ、こここ恋人じゃなあですもん、」
「いやいや焦り過ぎだろ。あと顔赤いよ君、もしかして照れちゃってる? 俺と付き合うの想像して赤くなっちゃってる?」
「バーカバーカ! つ、付き合うとかまだ早くて私は未成年なのでまだまだそういう経験がないから不安とかじゃなくて……とりあえずバカ!」
「あででででッ! 手! 力入れんな、千切れるっての! 分かったから落ち着け!」
仕返しのつもりでウザさ全開の顔をしてみるが、余計な刺激を与えたらしく、鍛えられた握力がルークの手を潰そうと発揮される。
腕が壊れるのだけは避けねばと思い、必死に抵抗してみるが握力はどんどん強まるばかりだ。
「ちょ、あのティアさん! 腕が折れるから、剣握れなくなっちゃうから! 勇者の腕だよ、凄く価値あるんだよ!」
「な、名前で呼ぶな! つ、付き合ってるみたいじゃん!」
「テメェが名前で呼べって何度も言ったからだろ! ちょ、本当にギブ! 許して!」
下手に出る作戦も逆効果となり、ルークの腕は真っ青へと変色している。このままでは本当に折れてしまうと思い、ルークは実力行使に出ようとする。
「いい加減にしろ!」
「そ、そんないきなり!」
が、足がもつれてそのまま絡み合うようにして転倒。
ティアニーズを下敷きにしてルークは盛大にずっこけた。
しかし、そのおかけで腕は解放され、血が回る感覚が甦る。その一方で、先ほどまで左腕に感じていた剣の感触がなくなり、何故かとてつもなく柔らかい物が掌に触れていた。
「……なんだこりゃ」
指を動かし、その正体を探ろうとする。弾力しかり柔らかさしかり、とてもじゃないがこの世の物とは思えない感触だった。
不意に声がした。
頭の上、倒れているティアニーズの声だ。
妙に艶めかしく、そして好奇心をそそる声だ。
「ッ……ん」
何度か指を動かし、ルークはその正体を解き明かした。
男の夢が詰まった宝箱、そうつまりーー、
「これはおっーー」
「イヤァァァァァァァァ!」
絶叫。耳をつんざくような声。
その後に訪れるのは打撃であった。
完璧な角度で繰り出されたフックが顎をさらい、ルークの意識は遥か彼方へと飛んで行った。
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