Or rings ーオール リングスー

思後 的世(シアト マトヨ)

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二章 大都市カエルレウム

〜毒は常識を憂う〜 五話

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緑色のリングを付けた少女はテクテクと店の中まで無言で入ってきた。

「わお!今回トラブルを解決してくれたのはヴェルデさんですか!では早速ポイントを送ります…」

「…」

男は何やらこちらには見えないホログラムで操作をしているようだった。
しかし、少女は何も反応がなく、無言にその場で立っている。

「おいッッ!!そこのクソヤロウを今からぶっ飛ばすからガキは離れてろ!!」

ネロは抱えていた女性を横に置き、男まで拳を握りしめながら走っていった。
少女はゆっくり腕を肩の位置まで水平に上げ、こう言った。

『コード0665:風砲(ふうほう)』

すると少女の手から空気の流れが渦巻いて風の塊になった。
手をゆっくりネロに向け、手の甲を上げた。

風の塊は瞬間的にネロの体目掛け当たり、ネロもまた壁まで吹き飛ばされた。

「何じゃありゃ!?風がネロを吹っ飛ばしたぞ!?」

カルコスは臨戦態勢になりつつも驚愕していた。

「クッソぉぉ…さっきのもテメェみたいなガキの仕業か…」

少女はピクンと眉を上げ、ようやくその重い口を開けた。

「…ガキではない。私はもう20だ」

見た目はロート並みの小ささだが、年齢はネロよりも高かった。

「ガッハッハ!!もう子どもが産める年齢じゃないか!!その体型で大丈夫か!!」

カルコスがセクハラ発言をした瞬時に飛ばされた。
ついでに近くの男も飛ばされていた。

ようやくヴィオレとロートのいる個室は地上に着き、2人は少女の前に立った。

「…ヴィオレ…」

「あら、やっぱり内部には知られているのね。メディアには流していないのにね」

「あなた達表の人間には「紫のオールリングを盗んだ女」って感じで知れ渡ってるのかしら」

「…」

少女は無言で次は腕を上げた、また技を繰り出すようだ。
ヴィオレも技を出そうと構えている。
そんな緊張感のある間にネロが飛び出した。

「おい!!そんなことより俺はあの吹っ飛ばされた男が許さねぇんだよ!!」

少女とヴィオレは戦闘態勢を止め、ヴィオレがネロに言った。

「聞こえていたわ、あの男が地下の人間を殺したんでしょ。でもそれはこの都市の…、世界のルールを破っていないわ」

「…は?」

「地下の人間には人権がないの。労働力のない人間や体や頭にハンデを持っている人間は強制的に地下行き。そんな人達は殺してもいいルールになってる」

「…え?そんなの…酷いよ、おかしいよ、おんなじ人同士なのに…」

近くにいたロートが同情するように口にした。

「そうこの世界の常識はおかしい。だけど私たちは生まれながらにその常識に触れている。見なさい、こんな状況なのに彼らは見て見ぬふり、関わろうとしない」

ヴィオレは指を上に上げ、宙に浮いている個室を指した。

すると、吹き飛ばされた男が倒れながらにこう叫んだ。

「当たり前だろゥ!!地下のやつは虫以下ゴミだ!!生まれながらに地下の血を引いてる奴!!働かない奴や気持ち悪い奴は全員ゴミィィ!!」

男は笑っていた。
少女は男の近くまでゆっくり歩き、先ほどのように腕を上げた。

「コード0669:風重(ふうちょう)」

男の周りにのみ、上から下に流れる暴風が起きた。
その一部分の床に跡が残るほど強力な風。
男は叫んでいたが、とうとう話せなくなるほど風に押しつぶされていった。
少女の帽子は風で飛ばされ、緑色の髪をしたおかっぱが映った。

「…お、おい、あいつは何者なんだよ…」

ネロは少女に目を離さずにヴィオレに問いかけた。

「彼女はオール社が輩出してるアルコバレーノNo.3「ヴェルデ」。見ての通り、緑色のリングで風を操る能力よ」

「胸にオール社のロゴバッチをしているのがアルコバレーノの所属している証拠。現時点では5人いる」

「強い娘というのは分かったが、キレるポイントがありすぎてよく分からんのぅ…」

いつの間にか飛ばされていたカルコスはネロ達の周りについていた。
彼らがヴェルデを見つめていると、また出口の方から声が聞こえた。

「政府公認パトロール部隊傘下3番隊長ナランハ!!今参上しましたぞ!!」

その鼓膜が割れるような声の元へ向くと重装備をした中年の男が堅苦しく敬礼していた。
ヴェルデは男を確認すると舌打ちし、風を止めた。
するとバランス良く、帽子は彼女の頭に着地した。
その後、服の中からヘッドホンを取り出し身につけた。

「おや!?そこにいるのは…ヴィオレ殿ではないか!!お久しぶりである!!何やら色々騒がしてるようで!!」

「あっ、はい…、ナランハさんも相変わらず元気ですね、、」

ヴィオレが愛想笑いをしていると、ナランハという男は喜びながらこちらに近付いた。

「自分はいつも元気であります!!今日も上長にお叱りを受けましたが元気であります!!」

常に煩い声にネロ達も耳に手を当てたが、どうやら悪い人間ではないと感覚で分かった。

「ヴィオレ殿は自分の誼!!たとえ上長の命令であろうと政府に報告はいたしませんぞ!!」

「自分の目的はその事ではなく…、あ!!ヴェルデ殿!!また店を壊したのでありますか!!」

「…」

声の煩い男は急いで倒れている男をどかし、床の状況を確認した。
ヴェルデはめんどくさそうな顔をして店の出口へ向かった。

(お、おい!あのうっさいおっさん誰だ…)

(あの人はナランハさんよ、政府側の警備隊隊長でこの都市では良い人ではあるんだけど…クセが強くて…)

聞こえこないよう小声でネロとヴィオレは会話した。

「あ!!ヴェルデ殿!!もう行かれるのですか!!」

「自分は上長から「ヴェルデ殿は加減を知らず建造物を壊しまくっている」と指令がある故!!常にヴェルデ殿ある所!!自分アリ!!であります!!」

「同じ地下出身の誼!!仲良くやっていきたいのであります!!」

ナランハが敬礼しながらヴェルデに伝えている間にヴェルデは店から既に出て風に吹かれながら浮いてどこかへ行った。

「さて!!こんな状況であります!!倒れている女性と男性を保護する為!!もっと部隊を招集する故!!ヴィオレ殿と御仁達は帰宅を勧めます!!」

ヴィオレが小さく店を出るよう促したが、ネロのみ笑顔でナランハに近付いていった。

「へへ、おっさんは良いやつそうだな!よろし…」

ネロが握手をしようとした瞬間、ナランハが腰に付いていたナイフをネロの体目掛け振った。
ネロは反射神経でギリギリ体を避けたが、服が少し切跡が残ってしまった。

「お、おい!!おっさん何するんだよ!?」

「失礼致した!!御仁にハエが纏っていた故!!」

下を向くと、真っ二つになったハエの死骸がいた。

「は、はは…じゃあな、おっさん」

さすがのネロも引いた様子でヴィオレ達と共に店の外へ出た。

外へ出ると、もう夜になっていた。
都市には雪がちらちらと降り、建物はイルミネーションで輝いていた。
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