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第5話【芸能】お城に異世界出身の魔女様が来てる。握手してもらったから今日は一日手を洗いたくない

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 異世界で魔法少女になることの決意を表明した私。
「次元の彼方からいらしてお疲れだと思いますのでひとまず休憩できる部屋に案内しましょう」
 修道女さんが気遣ってくれる。私も彼女をなるべく気遣いたい。
「良ければ手を繋いでいきましょうか?」
「ああ、慈悲あまねく異界の魔女様、助かります。ここは魔王城の城壁内にある礼拝堂です。応接室に案内しましょう。一緒に行っていただけますか」
「はい、わかりました」
「魔女様の手は本当に温かいですね。うふふ……」
 もしかして彼女は冷え性なのかな? ふと礼拝堂の奥を見ると人影が見えた。
「向こうにいるのはどなたでしょうか?」
「どんな人ですか? 礼拝堂に来るのは教会関係者だと思います。魔王軍のみんなはめんどくさがって礼拝になかなか来ないのです。まったく罰当たりな人達が多いですこと。滅びてしまえば良いわ」
 怒れる修道女に私は説明した。
「えっと、神父のような黒い服を着て、頭に3本の角が生えて、コウモリのような翼があり、悪魔っぽい尻尾があり、髪は茶色で」
「ああ、彼は悪魔神父のヴィラニアです」
 そう修道女が紹介すると神父が歩いてきた。
「ほう、天使に導かれし異界の魔女か、実に冒涜的で面白い」
 後ろ手を組み私達を見下ろす若い神父さん。なかなかカッコいい。スラリと伸びた背で体格がよく威圧感がある。半ば圧倒されながら私は挨拶をした。
「ど、どうもはじめまして、魔法少女のカグヤです」
「汝信徒に祝福があらんことを、天使のアズラエルです」
「いや挨拶と祝福は結構だ、私は天使というものが嫌いでね、当然天使に導かれている者もだ」
 思いがけず拒絶反応。まあ、中には私達を歓迎しない人もいるのだろう。そういった人とも上手く付合いたい。
「彼は頭がおかしい神父なので気にしないで行きましょう」
「え、そうなんですか?」
「違う、頭がおかしいのはシスターダレン、君の方だろう。なぜ君は聖女召喚の奇跡を使ったのだ」
「はあ? 死霊教会は死せる死す者全ての救いなの。死を司る天使様と魔女様はうちの管轄だからに決まってるじゃない。あなたついに自分とこの教義も忘れたの? もうちょっと神学を勉強したら?」
 ぎりっ。修道女に煽られて歯軋りする神父。
「まあ良い、私も忙しい、神学の議論はまた今度にしてもらおう。
 そう言うと私達に背を向け不機嫌そうにカツカツと靴を鳴らしながら去っていく神父。
「良いんですか? 何か怒らせてしまったみたいなのですが」
 神父と修道女が私達のせいで喧嘩になってしまったようで肩身が狭い。仲直りさせることはできるだろうか。
「大丈夫です。彼はいつも神学バトルに負けそうになるとああやって捨て台詞吐いて逃げるのですから」
 きっ! 振り返りダレンさんを一睨みし文句を言いながら彼は去っていった。喧嘩するほど仲が良いとも言うから大丈夫かな。
「まったく魔王様はシスターダレンに好き勝手させて……、死の魔女だの天使だの……、ブツブツ……」
 悪魔神父を見送ると小柄な修道女さん達が歩いてきた。
「シスターダレン様、お疲れ様です。その方たちは?」
「ああ、皆さんちょうどいいところに。小悪魔の修道女見習い達です。こちらは異次元よりいらっしゃった天使のアズラエル様と魔女のカグヤ様。ついに……、ついに降臨の儀式が成功したのよ。フッフッフッ……」
「やりましたね、さすがはダレン様」
「わぁー、本物?」
「本物よ、見たことない服を着ていらっしゃるもの」
「魔女様、天使様、お会いできて光栄です。あの、握手しても良いですか?」
「私も良いですか?」
「私もお願いします」
 小さな修道女さん達の要望に私は笑顔で対応する。アズラエルは無表情で対応した。
「うん、いいよー」
「汝らに祝福を」
 アズラエルと私に握手を求める小学生か中学生ぐらいの女の子達。アイドルの握手会とはこんな感じだろうか。
「はいはい皆さん、天使様も魔女様も長旅でお疲れですから交流はあとになさい。魔女様行きましょう」
 促されて修道女の案内で応接室に案内された。
「これは教会で焼いたビスケットです。好きに食べてください。今コーヒーも用意させますので。あなた、お願いね」
「はい、シスターダレン様」
 修道女見習いの女の子は返事をして部屋から退出していった。
「さて、アズラエル様とカグヤ様、まずは魔王軍に所属するにあたって衣食住について説明しますね。住む場所は魔王城内に空き室がたくさんありますのでご安心ください、食事は三食出ますしおやつもあります、服は俸給で買えば大丈夫です。今度一緒に城下町まで買いに行きましょう。メイドに頼んでも大丈夫ですよ」
「なんだか本格的な就職みたいになってきた」
「天使様と魔女様の待遇についてはあとで魔王様から提示があると思います」
「私は魔法少女のナビゲーターとして地上に来ていますが地上の教会に奉仕するつもりです」
「ああ! 天使様が私達死霊教会と共にいてくれるだけで喜びです! アズラエル様のことは我が死霊教会がサポートします」
「感謝します。カグヤのサポートは私の仕事です。魔王軍においては堕天使とでも扱ってください。要すれば翼は黒に染めます」
「私としてはそのままでも良いと思います。翼の色が白か黒かで差別するのは人間の不信心者だけです」
「そういうものですか」
「地上に天使が来たら騒ぎになるんじゃない? 大丈夫なの?」
 この世界の常識はよくわからないが、友達が未確認生命体として扱われないか心配だ。宇宙人として解剖されないだろうか。
「伝承では魔女様のサポートは猫か鴉が担当するということなので、アズラエル様は街では鳥人を名乗ると良いかも知れません」
「ではそうします。天使信仰の教会関係者には正体を明かしましょう」
 天使は自称鳥人間で誤魔化せるんだ。心配は不要だった。
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