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第4話【朗報】異世界で就職先が決まった。ところでこの魔王軍って団体は女性が活躍するホワイト企業?

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「地に遍く邪神よ。忠実なる下僕たる信徒にその奇跡を知らしめたまえ。愛、愛を持ちたる異次元で死せる破壊神、魔女の墓所にて夢から覚めよ!」
 ガシャーーンッ! 勢いよくガラスを割った先は異世界の教会でした。誰かの祈りの言葉が聞こえたような。
「成功! 成功したわ! 天使様と魔女様が雷鳴と共に降臨なされた!」
 黒衣のフードを被った女の子が喜んでいる。 修道女という職業の人だろうか。リアルでは初めて見た。それにどうやら言葉も通じる。
「あ、あの、こんにちは。ガラス割ってすみません……」
 どこの国でも笑顔で挨拶すれば第一印象は良いはず。バイトは初日の印象が大事とどこかで見た。パラシュートを引きずったリュックサックを降ろして緊張気味にお辞儀をして地球風の挨拶をしてみた。
「ああっ! 次元の彼方から来たりし天使と魔女よ! 私は死霊教会の修道女、シスターダレンと申します。この出会いと奇跡に感謝を! 割れたステンドグラスで怪我はされませんでしたか?」
 修道女さんが片膝をつき両手を広げ異世界風の物々しい挨拶を興奮気味に返してくれた。この人は修道女のダレンさんと言うらしい。
「忠実なる信徒よ。汝に女神の加護があらんことを。私は大天使アズラエル。魔法少女カグヤの聖獣代行」
 そういえばアズラエルも来てくれたんだよね。良かったー。異世界で一人だけだと寂しいけど知ってる人がいれば安心安心。彼女は天界風挨拶を淡々としていた。聖獣ってなんだろう。
「大天使アズラエル様に導かれし異次元の魔女カグヤ様。異世界からはるばるよく起こしになられました。天使様、失礼します。……ああやっぱり死を司る天使様の身体は冷たい。死霊の私とお・な・じ……。フフフッ……」
 ダレンさんがアズラエルに抱きついて何か言ってる。そっか異世界だと挨拶が握手じゃなくてハグってこともあるよね。私の名前が少し訛ってるのも異世界だからだろう。
「アズラエルって死を司る大天使だったんだ。まあ、私のこと迎えに来てくれたし」
「伝承の通り天使様が魔女様を迎えに行かれたのですね。どうぞ我々の城でお寛ぎください。お二人にお会いしたかった……」
 そう言いながら修道女が私を抱きしめた。
「温かい、魔女様はまだ生者なのですね。心臓の音が聞こえる。ああ、懐かしい音……。フフッ……」
 ダレンさんって幽霊系の人なのかな。ここに来た経緯を説明しよう。
「えっと、実は一回死んだのですが天使のアズラエルに無理を言って転生してもらったんです。失礼ですが、ダレンさんはもしかして幽霊とか?」
「墓土を血と骨で塗り固めた身体に死霊が取り憑いて動いています。なので幽霊かも知れませんね」
 そう口元に笑みを浮かべ話すダレンさんは目を包帯で覆ってる。ミイラ系修道女の人かな。
「私は目が見えないので天使様と魔女様のお姿を直接見ることは叶いませんがこうして触れるとお二人の姿がわかります。きっとお二人は美少女……!」
 そう言って笑うダレンさんに私は思わず聞いてみた。
「事故か病気ですか?」
「昔の戦争で負った傷です。強力な聖なる光を至近距離で見たので目が焼けてしまいました。いやー、あれはさすがの私も痛かったです」
 戦争……。平和な日本の病院にいた私には想像ができなかったことだった。
「アズラエル、ダレンさんの傷は治せない?」
「この傷は……。私の力では治せません。申し訳ありません。回復奇跡で私が治せるのは魔物から受けた傷などです。この傷はもっと強い力で不可逆的に与えられています」
「大丈夫です天使様、もう慣れましたから。それよりお二人を召喚した経緯をご説明します」
 そうだ、幽霊系のダレンさんがなぜ私を召喚したのだろう。
「実は魔王様からの命で、呪術医、ウィッチドクターとも言いますね、病魔を退ける力を持った魔女様が必要だったのです。この世界には我々魔王軍を差し置いて謎の病魔が暗躍しておりまして」
 魔王系の人が原因だった。初日から闇落ちした魔法少女なんて笑えない。でも初日からバックレるのも良くない。待って、ここは冷静に。
「あの、一つ質問なんですが」
「どうぞ一つと言わず何でも聞いてください」
「魔王軍ということはやっぱり人間と戦ったりしないといけないのでしょうか?」
「いえいえ、大丈夫です。人間とは休戦協定が結ばれてますので基本的には戦闘は起きません、基本的には。人間の中の不埒な輩はこの限りではありませんが」
「それなら大丈夫かな……。アズラエルにも質問だけど」
「どうぞ、聖獣代行なので可能な限り答えます」
「聖獣代行って何? 魔王軍の人って天使と魔法少女を呼べるものなの?」
「聖獣は魔法少女のパートナーとなる存在。そして、天は信仰心ある人の味方であり、魔法少女は助けを求める人の味方です。人間だから善、魔族だから悪ではありません」
 聖獣はよくわからないが、魔王軍については私の偏見だった。人間にも悪い人はたくさんいる。幽霊だから魔王だからと決めつけるのは間違いだ。
「アズラエル、ダレンさん!私決めました! 魔王軍で魔法少女やります!」
「ああっ、魔女様! 精一杯サポートしますよ! ……ところでマホーショージョって何ですか? ヒソヒソ……」
 修道女は天使に向け小さな声で尋ねた。
「……魔女と同義語です。異世界語を翻訳した揺らぎですのであまり気にしないでください。ヒソヒソ……」
 奇妙なやり取りを耳にしても異世界の魔王軍で魔法少女として活動する私の決意は揺らがなかった。
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