【完結】婚約破棄後に暗殺された王女は追放された異教徒の騎士に溺愛されて困る

中島マリア

文字の大きさ
6 / 15

第6話 死者蘇生

しおりを挟む
「くそっ! 離しやがれ! 俺は何もしてねえ! 冤罪だ!」
「黙れ! 女性を襲う犯罪者はみんな冤罪云々ぬかすんだ!」
「大人しくしろ! このダークエルフの小僧め! お前が宿から慌てて走って去って行くのを確かに見たぞ!」
「し、知らねえ!  知らねえ!」

 私を暗殺した容疑者はダークエルフの少年らしい。兵士たちに連行されて私の部屋までつれられて来た。
 ダークエルフというのは神話の時代に魔王が暗殺者アサシンとして重用していた亜人種だ。見た目は人間とあまり変わらないが耳と寿命が長く浅黒い肌をしているらしい。帝国内には様々な種族の人たちが暮らしている。

「見てくださいシャジャル様、こいつヘビを操る魔笛を持っています。動かぬ証拠です」

 ヘビは魔法がかかった魔笛を吹くことで自由に操れる。普通、旅芸人が街中で人々を楽しませるために使うものだが、どうやら毒ヘビを操ることで暗殺の道具としても応用できるらしい。

「ふむ。貴様、誰に雇われた? 素直に吐けば慈悲を持って寛大な処置を考えてやっても良い。こちらにおわす王女殿下は慈悲深いお方だ」
「こんばんはー。天使様の加護があなたにありますように」
「だから、知らないって言ってるだろ……。つーか、何で王女が生きてんだ。確かに殺したはずなのに……。あ、やべっ……」 
「やっぱり貴様が犯人か! おい、洗いざらい吐け。指を一本ずつ切り落とすぞ。もうまともに飯を食うこともできんだろう。それが嫌なら素直に言え」
「や、やれるもんならやってみろ!」
 
 こんな少年を拷問にかけるとかシャジャルは悪鬼か悪魔じゃないかしら。きっとこの子は貧しい家庭で育ち、悪い人に騙され、悪の組織からお金を受け取って仕方なく私を殺めたのだろう。

「ダメよ、そんな乱暴しちゃ。ねえ僕、お姉ちゃんに雇い主を教えて? そうしたら今回だけは許してあげても良いから」
「うるせえ! この不具の穀潰し姫! あまり俺のことを舐めるな。俺は120歳だ」
「ふーん、なら手加減いらないわね」

 私はダークエルフの少年……、いや、成人男性の指を掴んで曲がってはいけない方向へ思いっきり曲げた。

メキ……。

「ぎゃあ!? いぎいいぃ……!」

 そのアサシンは苦痛のうめき声をあげた。男の人をこうやって痛めつけるのは初めてだけど何だか新鮮な気分。

「どう痛い? 私ね、死んだせいかリミッター外れたみたいに力が強くなったの。あなたみたいな女の子のように細い腕ぐらい簡単に折れるわよ? さあ素直に吐きなさい」
「お、王女殿下。そういった拷問でしたら我々親衛隊がしますので……」
「そうだ、シャジャル。さっき言ってた指を一本ずつ切り落とすやつ、今やってよ。天使様に会って聖女の力が上がったから、傷を塞ぐことしかできない回復の奇跡で指を生やせるかもしれないの。実験に協力して」
「は、はあ……。さて、大逆人よ。王女殿下の慈悲により拷問後も再び手で飯を食えるようになるぞ。その慈悲に感謝するが良い」
「ぜ、全然慈悲深くねえ!」
「まずは右手からだ」
「ひいぃ!」

 ザクッとシャジャルが曲刀を振り下ろした。

「ぎゃあああ! 指があああ!」
「この者の傷を癒やし失われた指を生やしたまえ。天使教会奇跡『回復』……。ん? おかしいわね。奇跡が発動しない。魔力不足かしら?」
「いてーよー! このヤブ聖女!」
「シャジャル、もう片方の手も人差し指を落としなさい」
「はい」
「ぎゃあああ!」
「変ね、どうして奇跡が発動しないのかしら。死霊になると天使教会の加護が失われるのかしらね?」
「王女殿下、かつてこの地には邪教とされた死霊教会がありました。何でも、冥界に存在する冥王と死の天使に帰依する教えだったとか。もしや、王女殿下は死霊教会の加護を新たにお受けになられたのでは」
「そう! それよ! 今日から私は天使教会から死霊教会へ改宗するわ。死を司る天使様に会ったのですもの」
「そうですか、死を司る天使とお会いに。王女殿下を生き返らせいただいたことに感謝を。自分も死霊教会に改宗します。部下たちと教会を守る騎士修道会を組織しましょう」
「ううう……。指が……指が……」
「あら、忘れてたわ。死霊教会奇跡『回復』」
「王女殿下! 指が生えてきています! 奇跡だ!」

 私が奇跡を唱えると切断した指があっという間に生えてきたようだ。傷を塞ぐ程度しかできない天使教会の奇跡とは大違いだ。

「おおっ! 王女殿下は素晴らしい聖女です! おい、大逆人、王女殿下の慈悲に感謝しろよ」
「くっ、死霊教会とか邪教徒じゃねーか。邪神の力借りて恥ずかしくねーのか?」
「シャジャル、今度は両手両足を切り落として」
「承知。おい、覚悟しろよ」
「く、くそったれ……! うぐっ!」

 アサシンのダークエルフは歯を思いっきり噛んだ。

「こいつ、歯のなかに自決用の毒を仕込んでました。ダメだ。死んでる」
「ちょうど良いわ。蘇生の奇跡も試してみましょう。以前学んだけど誰も使えない禁じられた奇跡と言われてたのよね」
「おおっ! 王女殿下がいれば死を超越した無敵の軍隊が組織できますね。すっかり消えたと思っていた自分の野心の火が燃えてきました」
「へー、シャジャルって出世欲有ったんだ。いがーい。まあ、試してみましょう。死霊教会奇跡『蘇生』」
「あ゛ーーーー」

 死んだはずのダークエルフのアサシンが声をあげた。そこには元気に動く彼の魂が見える。

「やった。成功したわ」
「すごい……! おい、大逆人、王女殿下に今度こそ感謝しろよ」
「あ゛ー、あ゛り゛がどー、びめざま……」
「ちょっと頭にダメージ入ってるかも知れないけどまあ仕方ないわ。死を司る天使様のようにはいかないわね。たぶん時間が経てば回復するはずだけど」
「王女殿下は死霊使いネクロマンサーになられたのですか。すっかり従順な下僕と化しているようです。おい、大逆人。王女殿下殺害を依頼した雇い主を言え」
「はい゛ー。らいらおうじょど、じはーるおうじにがねもらっだー」
「待って、ライラとジハールって言った?」
「ぞーでずー」
「くそっ、あいつら……」
「婚約相手を私からライラへ変えたいからって私のこと邪魔だから殺したってわけ? 呆れた。あー、本当に呆れた」

 こうして私は死霊教会の敬虔な信徒となったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...