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第2章 十年前の話
夢を見る
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頃合いになったら、椅子に座らせ、髪を布で拭き、乾かしてやる。
「一つ聞きたい事があったんだ」
ナギリは、背を向けてうなだれている蝋燭立ての髪を拭きながら、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「何故あの日私を助けた」
沈黙が二人の間に流れる。
蝋燭立てはしばらく黙っていたが、ゆっくりと振り返り、髪を掻き上げた。
「―――俺達は夢を見る。
遠い過去、異国の出来事、神話の物語。
眠っている間、はっきりと、夢を見る。
時には、未来に起こることを見る事もある」
ナギリは髪を拭く手を止めた。
「予知夢が見られるというのか」
言った側から、そんな馬鹿な、と自分をいさめる。
しかし蝋燭立てはあくまで淡々と語る。
「あの日、お前が額に傷のある男に殺される夢を見た」
瞬間、息が詰まった。
夜空を焦がすほどの炎に囲まれた日を思い出す。
父の最後の姿、額の傷を持つリーフェンシュタールの恐ろしい笑顔、狂ったように走った草原の草野匂いが、次々と蘇る。
そして、まるで死神のような優雅さで、立っていた男の姿。
「私を助けるために、山を降り故郷を離れたというのか」
声が震えていた。
ナギリが髪の毛を拭くのをやめたので、蝋燭立ては振り返った。
その、何も映さない黒い瞳と目が合う。吸い込まれそうな、黒い水晶体。
「会ってすぐに分かった。
泣き顔を見るのは夢だけで十分だと思ったから助けた。それだけだ」
そう言うと、蝋燭立ては静かに立ってソファへと行き、腰を下ろすと目を閉じた。
彼はベッドがあるというのに、必ずソファで体を休めた。
そして、目を閉じたらよほどの事が無い限り、丸三日は目を覚まさない。
ナギリは、その寝顔をじっと見つめた。
山の上から下りてきた、人間の十倍の時を生きる無感情な男。
子供の泣き顔が嫌いで、時折正夢を見るらしい。
寝息も立てなければ、寝返りを打つ事も無い。
ただソファの背もたれに寄り掛かり、座ったままの態勢で目を閉じている。
そっと象牙のような白い手に触れると、ほのかに温かい。
彼がちゃんと生きているという証拠だ。
ナギリはその男の長いまつ毛を、時間を忘れて眺め続ける。
「一つ聞きたい事があったんだ」
ナギリは、背を向けてうなだれている蝋燭立ての髪を拭きながら、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「何故あの日私を助けた」
沈黙が二人の間に流れる。
蝋燭立てはしばらく黙っていたが、ゆっくりと振り返り、髪を掻き上げた。
「―――俺達は夢を見る。
遠い過去、異国の出来事、神話の物語。
眠っている間、はっきりと、夢を見る。
時には、未来に起こることを見る事もある」
ナギリは髪を拭く手を止めた。
「予知夢が見られるというのか」
言った側から、そんな馬鹿な、と自分をいさめる。
しかし蝋燭立てはあくまで淡々と語る。
「あの日、お前が額に傷のある男に殺される夢を見た」
瞬間、息が詰まった。
夜空を焦がすほどの炎に囲まれた日を思い出す。
父の最後の姿、額の傷を持つリーフェンシュタールの恐ろしい笑顔、狂ったように走った草原の草野匂いが、次々と蘇る。
そして、まるで死神のような優雅さで、立っていた男の姿。
「私を助けるために、山を降り故郷を離れたというのか」
声が震えていた。
ナギリが髪の毛を拭くのをやめたので、蝋燭立ては振り返った。
その、何も映さない黒い瞳と目が合う。吸い込まれそうな、黒い水晶体。
「会ってすぐに分かった。
泣き顔を見るのは夢だけで十分だと思ったから助けた。それだけだ」
そう言うと、蝋燭立ては静かに立ってソファへと行き、腰を下ろすと目を閉じた。
彼はベッドがあるというのに、必ずソファで体を休めた。
そして、目を閉じたらよほどの事が無い限り、丸三日は目を覚まさない。
ナギリは、その寝顔をじっと見つめた。
山の上から下りてきた、人間の十倍の時を生きる無感情な男。
子供の泣き顔が嫌いで、時折正夢を見るらしい。
寝息も立てなければ、寝返りを打つ事も無い。
ただソファの背もたれに寄り掛かり、座ったままの態勢で目を閉じている。
そっと象牙のような白い手に触れると、ほのかに温かい。
彼がちゃんと生きているという証拠だ。
ナギリはその男の長いまつ毛を、時間を忘れて眺め続ける。
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