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第1章
7.俺が怖くないのか?
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ルナが目覚めた時には、騎士団宿舎の医務室のベッドの上だった。
目線をベッドの横に向けると、ヴィクターが腕を組んで座っているのが見えた。
どうやら運んでくれたらしい。
「すみません、張り切りすぎてしまいました……」
ルナの言葉に、黒髪をかき上げてヴィクターはため息をつく。
「聖女のくせに、自分の魔力や体力の量もわからないのか」
それは私が転生してきたばかりの元OLだから、とは口が裂けても言えないので、
「あはは、やはり皆さんに頼られると嬉しいもので」
と誤魔化してみた。
ヴィクターは強面だが、ルナの額には濡れた布を置いてくれているし、肩を支えて起こしては、冷たい水を飲むように促してくれた。
誤解されやすいけれど、優しい人なんだな、とヴィクターの整った横顔を見ながらルナは思う。
「ありがとうございました。ヴィクター様」
お礼を言うと、ベッドサイドの座っていたヴィクターが、呆れたよう首をかしげると、その後何かを考え込んでいるようだった。
すると、ゆっくり唇を開く。
「……お前は、俺が怖くないのか」
特徴的な紅い目を伏せて、何かを恐れているような言葉。
辛い過去故に1人で生きてきて、魔獣を倒すことしか生きる意味がなかったという、トラウマ持ちヤンデレの彼。
(きた、これは大事な質問だわ)
好感度と分岐が変わる、乙女ゲーム内では大事なセリフ。
彼は、その強さゆえに軍神と呼ばれる英傑だ。
屈強な鍛え抜かれた体。その露出した腕は傷だらけだし、か弱い女性なら怖がるのかもしれない。
しかし、ルナは首を横に振る。
「怖くなどありません。
ヴィクター様は、弱き者を助ける英雄です」
そっと彼の手を取る。
暖かく、傷だらけの大きな手のひら。
その手で剣を握り、多くの人を救ってきたのだから。
びくり、とヴィクターの肩が驚いて震えた。
「私も、そのお手伝いができればと思っております」
微笑むと、ヴィクターは驚いたように目を見開いてルナをじっと見ていた。
屈強な男性だというのに、その顔はなぜか幼い少年のような純粋さが滲み出ていた。
「心の傷は、治せませんが。
少しずついろんな人の優しさに触れて、癒していきましょう」
最後の一言はアドリブだったが、ルナの本心だった。
孤児として生き、家族同然の孤児院の仲間を失った過去を持つ彼の心は、暗い。
闇過去持ちのヤンデレの、その傷は治せなくても、心を照らしてあげたい。
「くく、はは!」
ヴィクターは声をあげて思いっきり笑っていた。
玉座にいた時も、訓練中も、いつも真顔で厳しい表情をしているというのに、笑うとなんだか年相応の青年にしか見えない。
「変な女だな」
そこで初めて、ルナはヴィクターの笑顔を見た。
黒い髪、紅い目。
高い鼻筋の青年の間近での無邪気な笑顔で、ルナは思わず見惚れてしまう。
「……俺といてそんな風に笑う奴は初めてだ」
そう言って、無造作に髪をかき上げるヴィクター。
触れていたルナの手を、彼の大きな手のひらが力強く握り返してきた。
2人きりの医務室に、優しい空気が流れる。
ゲームで好感度が上がった時の効果音が、頭の中で鳴った気がした。
目線をベッドの横に向けると、ヴィクターが腕を組んで座っているのが見えた。
どうやら運んでくれたらしい。
「すみません、張り切りすぎてしまいました……」
ルナの言葉に、黒髪をかき上げてヴィクターはため息をつく。
「聖女のくせに、自分の魔力や体力の量もわからないのか」
それは私が転生してきたばかりの元OLだから、とは口が裂けても言えないので、
「あはは、やはり皆さんに頼られると嬉しいもので」
と誤魔化してみた。
ヴィクターは強面だが、ルナの額には濡れた布を置いてくれているし、肩を支えて起こしては、冷たい水を飲むように促してくれた。
誤解されやすいけれど、優しい人なんだな、とヴィクターの整った横顔を見ながらルナは思う。
「ありがとうございました。ヴィクター様」
お礼を言うと、ベッドサイドの座っていたヴィクターが、呆れたよう首をかしげると、その後何かを考え込んでいるようだった。
すると、ゆっくり唇を開く。
「……お前は、俺が怖くないのか」
特徴的な紅い目を伏せて、何かを恐れているような言葉。
辛い過去故に1人で生きてきて、魔獣を倒すことしか生きる意味がなかったという、トラウマ持ちヤンデレの彼。
(きた、これは大事な質問だわ)
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彼は、その強さゆえに軍神と呼ばれる英傑だ。
屈強な鍛え抜かれた体。その露出した腕は傷だらけだし、か弱い女性なら怖がるのかもしれない。
しかし、ルナは首を横に振る。
「怖くなどありません。
ヴィクター様は、弱き者を助ける英雄です」
そっと彼の手を取る。
暖かく、傷だらけの大きな手のひら。
その手で剣を握り、多くの人を救ってきたのだから。
びくり、とヴィクターの肩が驚いて震えた。
「私も、そのお手伝いができればと思っております」
微笑むと、ヴィクターは驚いたように目を見開いてルナをじっと見ていた。
屈強な男性だというのに、その顔はなぜか幼い少年のような純粋さが滲み出ていた。
「心の傷は、治せませんが。
少しずついろんな人の優しさに触れて、癒していきましょう」
最後の一言はアドリブだったが、ルナの本心だった。
孤児として生き、家族同然の孤児院の仲間を失った過去を持つ彼の心は、暗い。
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「くく、はは!」
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「……俺といてそんな風に笑う奴は初めてだ」
そう言って、無造作に髪をかき上げるヴィクター。
触れていたルナの手を、彼の大きな手のひらが力強く握り返してきた。
2人きりの医務室に、優しい空気が流れる。
ゲームで好感度が上がった時の効果音が、頭の中で鳴った気がした。
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