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第1章
8.リロイ様と魔力訓練
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午前中は体力の訓練のためにヴィクターと共に過ごして、さらに固有イベントまでこなしたが、午後は魔力の訓練だ。
さっき倒れたばかりとはいえ、トゥルーエンドを目指すためには時間を無駄にはできない。
ルナは息を吸い、コンコン、とリロイの扉をノックする。
「失礼いたします、リロイ様」
ゆっくりと扉を開けると、銀髪に泣きぼくろの美しい青年の姿が見える。
リロイは来客のルナに視線も送らない。
「お前って、時計の読み方知ってる?
僕が教えてあげようか」
椅子に座り足を組み、手元に持ってる魔導書をめくりながらリロイが言う。
「今は13時7分なんだよね。
わかる? 10以上は多くて数えられないかな?」
まるで両手の指以上の数は数えられない子供に教えるような調子で、リロイはにっこり笑う。
13時集合の約束だった。
暗に遅刻したことをすごく遠巻きに、いやらしく責めているいるだけのようだ。
「い、いえわかりますわかります。
遅れて申し訳ございません」
ルナが平謝りをすると、はあ、と大袈裟にため息をつく。
「……なんか顔色悪くない?」
魔導書を閉じながら、そこでようやくルナの顔を見たリロイが、訝しげに聞いてきた。
「午前中にヴィクター様の軍と訓練したのですが、少し張り切りすぎてしまって」
筋トレをした後に、休憩も取らずに兵士たちの回復ばかりしていたので、うっかり倒れたとは恥ずかしくて言えない。医者の不養生ならぬ、聖女の魔力切れだ。
「あー、ヴィクターなんかと一緒にいたから陰気がうつったんだね。
かわいそうに。解毒剤入りの紅茶飲む?」
リロイは小首を傾げながら、憐れむように紅茶のカップを差し出してきた。
ルナが遠慮すると首を横に振ると、リロイはその上品なティーカップに唇をつけ、中の紅茶を一口飲む。
騎士団の中心を担う軍神と大魔導士の2人だというのに、ヴィクターのことは歯牙にもかけない態度だ。
「僕と一緒にいたら、そんな顔させないって約束するよ」
そしてニコリ、と唇で弧を描き、美しい笑みを浮かべる。
口説いているのか、からかっているのかわからないリロイの反応。
ゲームでも、ヴィクターよりも攻略方法が難しく、常に攻略サイトと睨めっこしていたことを思い出す。
その意図が分からず、思わず頬を赤く染めてしまうルナにも、対して取り合わずリロイは準備を始めた。
彼は、透明な液体が丸いフラスコの中に入ったものを机の中心に持ってきた。
しかしその液体は、不思議にも容器の中でふわふわと浮かんでいる。
「さあ魔力の訓練始めようか」
リロイはそう言うと、ルナの前にフラスコを置いた。
「この液体は、僕の魔力で魔法石を溶かしたものなんだ。
お前の魔力を注入して、美しい宝石にしてみてくれる?」
不思議な動きをしながらクルクル回る液体は水にしか見えないが、これが宝石になるかなんて本当だろうか。
魔法はいわば奇跡だ。
できるわけがない奇跡を起こすことができてこそ、一流の魔導士や聖女になれるのだろう。
「わかりました」
ゲームでは、魔力の訓練といってもリロイの部屋に行って、自動的にスキルが上がるだけだったので、実際にこんな訓練をするとは想像していなかった。
ルナは容器の前に両手をかざし、深呼吸をする。
ぼんやりと両手が光を帯び始め、液体に魔力を注ぎ込む。
透明な液体は薄く光っているが、固体になる気配はなくフラスコの中でクルクルとスライムのように動き回るだけだ。
「リロイ様、どうやったらまとめることができるのでしょうか……?」
なかなかうまくいかないので、縋るように尋ねるが、リロイは泣きぼくろのある目元を細め、
「集中」
と一言だけ言い、ルナの額に指を当てた。
大したアドバイスもせず、リロイは銀髪を揺らして腕を組み、ルナの手元を見ているだけだ。
彼は稀代の大魔導士だし、教える相手は騎士団付きに大抜擢された光の聖女だ。
細かい指導をするつもりはない、才能と感覚でやってみろ、ということなのだろう。
ルナは言われた通り手先に集中し、魔力を液体に込め続ける。
さっき倒れたばかりとはいえ、トゥルーエンドを目指すためには時間を無駄にはできない。
ルナは息を吸い、コンコン、とリロイの扉をノックする。
「失礼いたします、リロイ様」
ゆっくりと扉を開けると、銀髪に泣きぼくろの美しい青年の姿が見える。
リロイは来客のルナに視線も送らない。
「お前って、時計の読み方知ってる?
僕が教えてあげようか」
椅子に座り足を組み、手元に持ってる魔導書をめくりながらリロイが言う。
「今は13時7分なんだよね。
わかる? 10以上は多くて数えられないかな?」
まるで両手の指以上の数は数えられない子供に教えるような調子で、リロイはにっこり笑う。
13時集合の約束だった。
暗に遅刻したことをすごく遠巻きに、いやらしく責めているいるだけのようだ。
「い、いえわかりますわかります。
遅れて申し訳ございません」
ルナが平謝りをすると、はあ、と大袈裟にため息をつく。
「……なんか顔色悪くない?」
魔導書を閉じながら、そこでようやくルナの顔を見たリロイが、訝しげに聞いてきた。
「午前中にヴィクター様の軍と訓練したのですが、少し張り切りすぎてしまって」
筋トレをした後に、休憩も取らずに兵士たちの回復ばかりしていたので、うっかり倒れたとは恥ずかしくて言えない。医者の不養生ならぬ、聖女の魔力切れだ。
「あー、ヴィクターなんかと一緒にいたから陰気がうつったんだね。
かわいそうに。解毒剤入りの紅茶飲む?」
リロイは小首を傾げながら、憐れむように紅茶のカップを差し出してきた。
ルナが遠慮すると首を横に振ると、リロイはその上品なティーカップに唇をつけ、中の紅茶を一口飲む。
騎士団の中心を担う軍神と大魔導士の2人だというのに、ヴィクターのことは歯牙にもかけない態度だ。
「僕と一緒にいたら、そんな顔させないって約束するよ」
そしてニコリ、と唇で弧を描き、美しい笑みを浮かべる。
口説いているのか、からかっているのかわからないリロイの反応。
ゲームでも、ヴィクターよりも攻略方法が難しく、常に攻略サイトと睨めっこしていたことを思い出す。
その意図が分からず、思わず頬を赤く染めてしまうルナにも、対して取り合わずリロイは準備を始めた。
彼は、透明な液体が丸いフラスコの中に入ったものを机の中心に持ってきた。
しかしその液体は、不思議にも容器の中でふわふわと浮かんでいる。
「さあ魔力の訓練始めようか」
リロイはそう言うと、ルナの前にフラスコを置いた。
「この液体は、僕の魔力で魔法石を溶かしたものなんだ。
お前の魔力を注入して、美しい宝石にしてみてくれる?」
不思議な動きをしながらクルクル回る液体は水にしか見えないが、これが宝石になるかなんて本当だろうか。
魔法はいわば奇跡だ。
できるわけがない奇跡を起こすことができてこそ、一流の魔導士や聖女になれるのだろう。
「わかりました」
ゲームでは、魔力の訓練といってもリロイの部屋に行って、自動的にスキルが上がるだけだったので、実際にこんな訓練をするとは想像していなかった。
ルナは容器の前に両手をかざし、深呼吸をする。
ぼんやりと両手が光を帯び始め、液体に魔力を注ぎ込む。
透明な液体は薄く光っているが、固体になる気配はなくフラスコの中でクルクルとスライムのように動き回るだけだ。
「リロイ様、どうやったらまとめることができるのでしょうか……?」
なかなかうまくいかないので、縋るように尋ねるが、リロイは泣きぼくろのある目元を細め、
「集中」
と一言だけ言い、ルナの額に指を当てた。
大したアドバイスもせず、リロイは銀髪を揺らして腕を組み、ルナの手元を見ているだけだ。
彼は稀代の大魔導士だし、教える相手は騎士団付きに大抜擢された光の聖女だ。
細かい指導をするつもりはない、才能と感覚でやってみろ、ということなのだろう。
ルナは言われた通り手先に集中し、魔力を液体に込め続ける。
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