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第2章 ヴィクターの心の内

11.修道院の孤児

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俺には産まれてすぐ、家族から捨てられたらしい。

布に包まれた状態の赤子の俺は、山奥の修道院の玄関に捨てられ、産声をあげていたという。
修道院には同じような境遇の子供が何人もいて、シスターたちに質素なパンとチーズを与えられながら育った。


「ヴィクター、あなたは小さな勇者よ」


俺に「勝利」にちなんだ名前をつけたシスターは、そう言って俺の髪を優しく撫でてくれた。
俺は少しでもその名前に相応しくなろうと、木の棒を剣に見立てて振り回し、自作の弓で小鳥を獲ったりする少年に成長する。

シスターは命のありがたさを感じましょう、と、俺が持ってきたウサギや鳥を必ず食卓に出してくれて、他の孤児たちと一緒に食べた。


「ありがとうヴィクター! とってもおいしいよ」


友達はみんな喜んで俺を褒めてくれたから、俺も嬉しくて狩りに出るのが好きになった。
うまく狩りができることが、家族も持たない孤児の俺が唯一持つ誇りだった。

十四歳になった時、その日はシスターの誕生日で、鳥を獲って、焼いて豪華な食卓にしたかった。

驚かせたくて、誰にも言わずに山奥の方へと1人で狩りに出かけたのだった。


日が暮れた頃、数匹の鳥を掴み、修道院に戻って来る。
きっと友人たちも喜んでご馳走だと食べてくれるに違いない。そう心を躍らせて修道院の扉を開けた。


すると、そこは朝から一変していた。


窓が割れ、逃げ惑った人々が皆、血を流し倒れていた。

俺が狩りに行っている間に修道院に魔獣が襲ってきたのだろう。
かぎ裂きに切り裂かれた体、赤黒い血、見開いたままの目の瞳孔は開き切っている。


「嘘だ……うそだ……みんな、シスター……!」



目の前の惨状に頭が追いつかない。

むせかえるような血の匂いは、狩りで獲った鳥やうさぎとは違う。大人数の人間の、生臭い香り。


どうして俺がいない時に。

守れなかった。

――俺もみんなと一緒に死ねばよかったのに。



「うわあああああぁぁぁっ………!」


天涯孤独になった少年の叫びは、血に染まった修道院のステンドグラスに反響するだけだった。



* * *



そこで夢が覚める。


「っ、はあ……はあ……っ!」


滝のような汗を流し、心臓は激しく鼓動をしており、息を切らせながら飛び起きる。

もう十年近く経つのに、忘れられない夢。


悪夢は繰り返し何度も俺を虐める。

血の匂いも、絶望の鼓動も、焦ることなく何度も再現される。


「はぁ……はぁ……くそっ……!」


自分の頬に流れている涙を乱暴に拭い、膝に頭を埋める。

どんなに体を鍛えようと、強くなろうとも、心までは鍛えられないのだと惨めになる。

孤児院の中で唯一、剣や弓がうまかった俺がもしあの場にいたら、魔獣に立ち向かって、みすみす仲間たちを殺させはしなかったかもしれない。


被害はもっと抑えられたに違いないのに。


シスターの誕生日に喜ばせようと、秘密で出かけたのが、仲間たち全員の命を奪ってしまった。

後悔してもしきれない。
あの日から俺は常に死に場所を探している。


憎き魔獣を倒しながら、いつか戦場で死ねることを望んでいる。


それが俺にできる罪滅ぼしだと思っているからだ。



コンコン、と扉が鳴った。


いまだに息が上がっている俺が目を向けると、空いた扉から、ハニーブラウンの髪の少女が恐る恐る覗いてきていた。


「あの、ヴィクター様……。
 おつらそうな声が聞こえましたが、大丈夫ですか…?」


俺のうなされた声は廊下まで聞こえていたらしい。

聖女のルナが心配して顔を覗かせてきたので、俺は平静を装うために大きく息を吸った。


「……大丈夫だ。
 すぐに訓練場に行くから、先に行ってくれ」


顔色の悪いうなされていた俺の心配をしているようだったが、すぐに顔を背けて、普段と同じ声を出した。


背後で、返事と扉が閉まる音がした。
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