【完結】悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?

たかつじ楓@書籍発売中

文字の大きさ
13 / 72
第1章 美しい君に素敵な服を贈る

13、良いパートナーを見つけるといい

しおりを挟む
 リリアと女の友情が芽生えるのは想像していなかった。

 悪役令嬢として密かに、目立たないように服を作っていたいと思っていただけなのに。

 目立たないようにしても、この前リリアたちに突き飛ばしていじめたと濡れ衣を着せられたように、きっと追放エンドは変わらないのだろうし。

 でも、キャラと仲良くできた方が確かに楽しい。

 レベッカは宮廷の廊下には人が居なかったので、リリアに教えてもらったダンスのステップを試しに踏んでみた。

 窓からは陽の光が差し込み、赤い絨毯を照らす。

 舞踏会で男女が踊るのはワルツだ。1、2の3、のゆったりとしたリズムで、男女向かい合い手を組み、ステップを踏む。

 前世だと社交ダンスとかのイメージが近いのだろうが、体育も音楽も成績が悪かったレベッカは、リズム良くステップを踏むことさえ悪戦苦闘している。


「いち、に、のさーん、でターンして……」


 頭の中でリズムを刻みながら、くるりと回ってみる。
 
 長い赤い髪が風に舞い、コロンの香りがふわっと香る。
 
 ダンスの自主練をしながら、ゲームの中でいちばんのメインイベントである舞踏会のシーンを思い出す。
 
 ヒロインであるリリアが、一番好感度の高い男性キャラにエスコートされ、素敵な音楽とともに優雅に踊る、女子憧れの場面。
 
 イケメンキャラのアップのイベントスチルも見れて、直前でセーブして何度も見たいぐらいだ。
 
 リリアはきっとユリウスと踊るのだろう。ヒロインと正統派ヒーローの王道なダンスは、まるでディズニー映画のように荘厳のはずだ。
 
 背筋を伸ばし、リズムに合わせてターンをする。
 
 自分も、プリンセスのように王子様と一緒に踊りたいーー。
 

 レベッカの気持ちに、ふと羨ましいという気持ちが芽生えた。
 
 悪役令嬢ではなく、みんなに愛された可愛らしいヒロインのように。


「いち、にのさん、くるっと回って……っきゃあ!」


 ダンスのステップを踏んでいたら、思わずヒールが滑りバランスを崩してしまった。
 
 床にゆっくりと倒れ込む瞬間、目を瞑り痛くないように体をこわばらせた。

 ……しかし、一向に痛みや衝撃は伝わってこない。

 恐る恐る瞳を開けると、目の前には輝く銀髪の青年が、心配そうに顔を覗き込んでいた。


「まったく。君たちは廊下で転ぶことが決まりなのか?」


 呆れたように耳元で低い声で囁かれ、レベッカは小さく声を上げる。

 転倒する瞬間、クロードがレベッカの腰を支え抱き抱えたようだ。


「くく、クロード様……ご機嫌よう」
 

 急な公爵の出現と、廊下で一人くるくるダンスの練習をしていたところを見られた恥ずかしさで、咄嗟にただ挨拶をしてしまった。
 
 どうやら、先日リリアが転んだとき然り、たまたま居合わせるのが廊下で女性が倒れる時というタイミングの悪さに、クロードも驚いているのかもしれない。


「怪我がなくて良かった」


  無骨な手でレベッカの体を支え、上体を起こすと、クロードはゆっくりと距離をとった。


「ありがとうございます」


  ふう、とため息をついたクロードに、レベッカは慌てて頭を下げる。


「リリア様にダンスのステップを教えてもらったのですが、難しいものですね」


  恥ずかしさから、間を持たすようにレベッカが練習していた理由を話すと、クロードは眉をひそめた。
 
 仲が悪いはずのヒロインと悪役令嬢が、ダンスを教え合うほど仲良くなっているのを不審がったのかもしれない。
 クロードは何かを考えるように青い目を伏せたが、すぐにレベッカを見つめて言った。


 「君が下手なわけではない。ダンスは男がエスコートするものだ。
 男が上手ければ、自然と女性もステップを踏める」
 

 温度を感じさせない淡々とした調子で、クロードはダンスについて告げる。


「そうなんですね」


  確かに二人組のステップなわけだから、一人で練習してもしょうがないのかしら、とレベッカが唇をとがらすと、


「手を」


 と一言、クロードが細く長い手をレベッカへと差し出してきた。

 言われた通り手を出すと、彼はレベッカの手を握り締め、優しく肩を持つ。

 そのまま一歩踏み込み、握った手を上に上げると、レベッカは自分の意思とは関係なく、くるりと一回転してしまった。


「あ、あれ」


 体重を感じさせない自然な動き。

 彼の動作に導かれるがまま、体が動き、ダンスを踊ってしまったようだ。

 レベッカが驚いていると、クロードは手を離し、少しだけ口角を上げた。


「こういうことだ。良いパートナーを見つけるといい」


  冷徹公爵のたまに見せる微笑みは、誰の心をも魅了する。

  心臓が高鳴り、固まってしまったレベッカの手をそっと離し、会釈をすると、クロードは踵を返し歩き出してしまった。


「クロード様! この前のお洋服、もう少しで完成しますので!」


 レベッカがクロードの背中に声をかけると、彼は振り向かず、後ろ手に手を振った。

 銀髪を揺らしながら靴音を響かせ歩いていき、いずれ視界から消えてしまった。

 颯爽とした、春風のような人だな、とレベッカは気持ちを落ち着けるために大きく息を吸った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

処理中です...