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第3章 クロード・ライネル公爵の視点
21、役立たずの三男坊
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物心ついた時にはもう気がついていた。
自分はこの家に必要のない存在なのだと。
ライネル家は由緒正しき貴族の家系で、広い領土を持ち多くの使用人を抱えた名家だ。
仕事ができ快活な父親と、穏やかで美しい母親は仲が良く、何にも不自由はしない裕福な生活を送ることができた。
しかし、自分は三人兄弟の三番目の息子だ。
歳の離れた長男は頭がよく商才もあり、山積みにされた書類をいとも簡単にこなしてしまう人だった。
次男は生まれ持った華やかさと口のうまさで人望があり、長男を支えていた。
社交界でライネル家が名を落とさなかったのも、彼のおかげだろう。
家督は長男が継ぐ決まりだ。この二人が病気や事故にでもならない限り、後継ぎになるわけではない三男は、ただ
の役ただずであった。
歳が十近く離れているのもあり、遊び相手にもならない兄たちの冷たい態度と、せめて娘ならば将来有望な貴族に
嫁がせることもできるのに、という両親からの失望の視線を毎日浴びて幼少期を過ごしたせいで、すっかり性根は曲がってしまった。
使用人にもメイドにも心を閉ざし、食事の時も無表情の少年を、誰が可愛がるだろうか。
学校に入る頃には、氷のように冷たい表情の「冷徹公爵」と呼ばれるのも、仕方のないことだ。
学園の中等部に上がる時、両親はようやく三男の使い方を思いついた。
同学年に、このテイラー王国の皇族、ユリウス・テイラー皇太子が入学したのである。
同じクラスになったのを聞き、両親は是が非でもユリウスに取り入り、仲良くなるよう俺を説得をし、半ば脅迫じみた物言いをした。
教室では金髪で緑色の瞳をした整った顔立ちのユリウスは、男女問わず人気者だったし、貴族の出とはいえ無口で、教室の端で本を読んでいる俺のことなど、次期皇帝が気に留めることもないだろう。
そう思っていて諦めていたらある日、放課後一人で教室にいたら、
「君、クロードだっけ。さっき読んでた本、僕も好きなんだよ!」
ほとんど会話するのは初めてだというのに、ユリウスは笑顔で声をかけてきた。
二巻が図書室になかったから、読み終わったら貸してくれという彼の底抜けに明るい顔を見て、机の上を片付ける手が止まってしまった。
「あ、ああ。もちろん」
そう返事をしながら、両親から必ず皇太子と仲良くなるようにとキツく言われていたのを思い出す。
「あ、あの……ユリウス王子…俺と友達に、なってくれないか……?」
本を渡しながらそう言うと、緊張で声が震えてしまった。
人見知りでろくに友人のいなかった自分は、クラスの中心人物であるユリウスと目を合わせることもできない。
しかし、ユリウスは驚いて目を丸くすると、
「え? もう友達だろう? 同じクラスで席も隣なんだし」
当たり前のように言い放った。
「それに王子なんて呼ばないでよ、恥ずかしい」
ニコッと歯を見せて大きく笑ったユリウスを見つめて、恥ずかしいのは両親の言うことを聞くことしか脳のない自分だ、と思った。
それからユリウスとは本の貸し借りをして、よく話すようになった。
彼は生まれながらの皇族で、周りを魅了するカリスマ性を持っている。
女子からの熱烈な視線が絶えなかったが、本人は男っぽい性格で、ボードゲームや剣技の練習が好きで恋愛には無頓着であった。
読書と勉強しかできないライネル家の三男を何故気に入ったのかはわからないが、常に一緒に行動するようになったため、「冷徹公爵」は「皇太子の腰巾着」になった。
両親と二人の兄は、ユリウスと仲良くなった俺を生まれて初めて褒め、社交界での地位を確固たるものにしようと画策しているようだった。
ユリウスは心根のまっすぐな無垢な奴なのに、彼の周りの人物は思惑し、画策し、足の引っ張り合いをしている醜い奴らばかり。
俺も含めて、だ。
自分はこの家に必要のない存在なのだと。
ライネル家は由緒正しき貴族の家系で、広い領土を持ち多くの使用人を抱えた名家だ。
仕事ができ快活な父親と、穏やかで美しい母親は仲が良く、何にも不自由はしない裕福な生活を送ることができた。
しかし、自分は三人兄弟の三番目の息子だ。
歳の離れた長男は頭がよく商才もあり、山積みにされた書類をいとも簡単にこなしてしまう人だった。
次男は生まれ持った華やかさと口のうまさで人望があり、長男を支えていた。
社交界でライネル家が名を落とさなかったのも、彼のおかげだろう。
家督は長男が継ぐ決まりだ。この二人が病気や事故にでもならない限り、後継ぎになるわけではない三男は、ただ
の役ただずであった。
歳が十近く離れているのもあり、遊び相手にもならない兄たちの冷たい態度と、せめて娘ならば将来有望な貴族に
嫁がせることもできるのに、という両親からの失望の視線を毎日浴びて幼少期を過ごしたせいで、すっかり性根は曲がってしまった。
使用人にもメイドにも心を閉ざし、食事の時も無表情の少年を、誰が可愛がるだろうか。
学校に入る頃には、氷のように冷たい表情の「冷徹公爵」と呼ばれるのも、仕方のないことだ。
学園の中等部に上がる時、両親はようやく三男の使い方を思いついた。
同学年に、このテイラー王国の皇族、ユリウス・テイラー皇太子が入学したのである。
同じクラスになったのを聞き、両親は是が非でもユリウスに取り入り、仲良くなるよう俺を説得をし、半ば脅迫じみた物言いをした。
教室では金髪で緑色の瞳をした整った顔立ちのユリウスは、男女問わず人気者だったし、貴族の出とはいえ無口で、教室の端で本を読んでいる俺のことなど、次期皇帝が気に留めることもないだろう。
そう思っていて諦めていたらある日、放課後一人で教室にいたら、
「君、クロードだっけ。さっき読んでた本、僕も好きなんだよ!」
ほとんど会話するのは初めてだというのに、ユリウスは笑顔で声をかけてきた。
二巻が図書室になかったから、読み終わったら貸してくれという彼の底抜けに明るい顔を見て、机の上を片付ける手が止まってしまった。
「あ、ああ。もちろん」
そう返事をしながら、両親から必ず皇太子と仲良くなるようにとキツく言われていたのを思い出す。
「あ、あの……ユリウス王子…俺と友達に、なってくれないか……?」
本を渡しながらそう言うと、緊張で声が震えてしまった。
人見知りでろくに友人のいなかった自分は、クラスの中心人物であるユリウスと目を合わせることもできない。
しかし、ユリウスは驚いて目を丸くすると、
「え? もう友達だろう? 同じクラスで席も隣なんだし」
当たり前のように言い放った。
「それに王子なんて呼ばないでよ、恥ずかしい」
ニコッと歯を見せて大きく笑ったユリウスを見つめて、恥ずかしいのは両親の言うことを聞くことしか脳のない自分だ、と思った。
それからユリウスとは本の貸し借りをして、よく話すようになった。
彼は生まれながらの皇族で、周りを魅了するカリスマ性を持っている。
女子からの熱烈な視線が絶えなかったが、本人は男っぽい性格で、ボードゲームや剣技の練習が好きで恋愛には無頓着であった。
読書と勉強しかできないライネル家の三男を何故気に入ったのかはわからないが、常に一緒に行動するようになったため、「冷徹公爵」は「皇太子の腰巾着」になった。
両親と二人の兄は、ユリウスと仲良くなった俺を生まれて初めて褒め、社交界での地位を確固たるものにしようと画策しているようだった。
ユリウスは心根のまっすぐな無垢な奴なのに、彼の周りの人物は思惑し、画策し、足の引っ張り合いをしている醜い奴らばかり。
俺も含めて、だ。
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