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第4章 何度も何度も繰り返す
31、拒めぬ結婚
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学園が休みの日に、一度自分の屋敷に帰った。
すると両親と二人の兄は、久々に会った息子の俺への挨拶やねぎらいの言葉も早々に、ルーベルト家のご令嬢と舞踏会を踊り、婚約するように命じてきた。
格下の伯爵家の令嬢とじゃ、名が落ちるではないのかと抵抗したが、ルーベルト家は数年で成り上がった勢いもあるし、親友であるユリウス皇太子の列席もあれば、今後ともライネス家は安泰に違いない、と熱弁された。
どうやら俺の家族は、目先の金が欲しいようだ。
意思も無く、望みもなく、人形のように操られて生きてきた「冷徹公爵」である俺に、否定権はなかった。
「クロード、舞踏会にリリアと踊るんだって?」
昼食の時間、二人で食事をしていたら、ユリウスに尋ねられた。
もうずっと食欲のない俺は、フォークでサラダをつつく。
「ああ、そうみたいだな」
「みたいだなって、他人事じゃないんだから」
気の利いた俺の冗談だと思ったユリウスは、けらけらと笑っている。
色々な思いが頭を巡り、憂鬱な毎日が続く。
「…ユリウスは、嫌じゃないのか。
リリアと俺が踊るのは」
前回の舞踏会では、リリアと踊ったのはユリウスだ。公衆の面前でプロポーズをしたのも、昨日のことのように覚えている。
だと言うのに、今回は全く彼女に興味がない様子だ。
「リリアは人気だし、確かに可愛いと思うけど、さすがに親友が踊る相手を横取りしようとは思わないよ」
応援してる、と笑う皇太子の友人の顔を見て、内心ため息をつく。
こんなにも運命が変わるものなのか?
移動教室の時についてきたり、授業のわからないところを聞いてきたり、リリアの俺に対する好意は周りから見ても明らかだった。
舞踏会で踊るパートナーだと言うのも、自分で女友達に吹聴しているらしく、俺たちは公然の仲になっていた。
廊下を歩いていた時、様々な思いが頭の中を巡っている陰鬱な俺の前を、赤く長い髪を揺らしレベッカが通り過ぎた。
「レベッカ、待って……」
待ってくれ、と引き留めようと思い、言葉が途中で途切れた。
振り返り、レベッカは話したこともない俺に急に声をかけられ、不思議そうな顔をしたからだ。
「? クロード様、どうされましたの?」
そうだった。『今回』は、彼女とは一切話してなどいない。
放課後の教室で彼女と他愛のない話をして笑い合っていたのは、俺にしかない『前回の』記憶だ。
「いや…なんでもない」
ただのクラスメイトでしかない俺が、リリアと婚約しようが、彼女の知ったことではない。
そう言うと不思議そうに会釈し、先を歩く他の女子たちと楽しげに話しをしに行ってしまった。
悪い噂が広まり、ひとりぼっちな彼女と、放課後で話したのを思い出す。
そもそも、気は強いが勉強もできて家柄も良いレベッカだ。女子の友達に囲まれ、冷酷公爵の俺となど話す必要はなかった。
これで良かったんだ。
俺の意思とは関係なく、縁談はとんとん拍子に進んだ。
舞踏会で踊り、お似合いのカップルだともてはやされたルーベルト家の令嬢と、ライネス家の三男は、すぐに婚約する事になった。
紙吹雪が舞い、白いタキシードに身を包んだ俺を見て、ユリウスが皇族の席から拍手していた。
「リリアは幸せです、クロード様」
教会の鐘の下、潤んだ瞳のドレス姿のリリアが俺を見上げていても、俺の頭に浮かぶのはレベッカの姿だ。
これでいい。君が傷付かず、遠い地へ行かなくても良いなら。
「…俺もだよ」
心にもないことを言うのにはもう慣れた。
元々、貴族は家同士の契約結婚が常だ。三男で役立たずの俺に、妻の選択権などない。
ああ、でも。
『どうか後悔のない人生を』
遠くの地へ去るレベッカの、別れ際の言葉が、何故か忘れられない。
* * *
ゆっくりと、重い瞼を開く。
「クロード。勉強会も終わったし、ちょっと気晴らしに散歩でもしよう」
園庭のベンチに座る俺の肩を揺らす、ユリウスの声。
まただ。
またこの日に戻ってきた。
すぐにわかった。きっとこれを望んでいたからだ。
「くく……ははっ」
目覚めた俺は、思わず笑ってしまった。
「……よっぽど嫌だったんだな、あの結婚」
リリアとの結婚が、人生をやり直したいぐらい深い後悔につながるだなんて。
三度目の勉強会の日。
終わらない不毛な繰り返しに、笑いが止まらなかった。
すると両親と二人の兄は、久々に会った息子の俺への挨拶やねぎらいの言葉も早々に、ルーベルト家のご令嬢と舞踏会を踊り、婚約するように命じてきた。
格下の伯爵家の令嬢とじゃ、名が落ちるではないのかと抵抗したが、ルーベルト家は数年で成り上がった勢いもあるし、親友であるユリウス皇太子の列席もあれば、今後ともライネス家は安泰に違いない、と熱弁された。
どうやら俺の家族は、目先の金が欲しいようだ。
意思も無く、望みもなく、人形のように操られて生きてきた「冷徹公爵」である俺に、否定権はなかった。
「クロード、舞踏会にリリアと踊るんだって?」
昼食の時間、二人で食事をしていたら、ユリウスに尋ねられた。
もうずっと食欲のない俺は、フォークでサラダをつつく。
「ああ、そうみたいだな」
「みたいだなって、他人事じゃないんだから」
気の利いた俺の冗談だと思ったユリウスは、けらけらと笑っている。
色々な思いが頭を巡り、憂鬱な毎日が続く。
「…ユリウスは、嫌じゃないのか。
リリアと俺が踊るのは」
前回の舞踏会では、リリアと踊ったのはユリウスだ。公衆の面前でプロポーズをしたのも、昨日のことのように覚えている。
だと言うのに、今回は全く彼女に興味がない様子だ。
「リリアは人気だし、確かに可愛いと思うけど、さすがに親友が踊る相手を横取りしようとは思わないよ」
応援してる、と笑う皇太子の友人の顔を見て、内心ため息をつく。
こんなにも運命が変わるものなのか?
移動教室の時についてきたり、授業のわからないところを聞いてきたり、リリアの俺に対する好意は周りから見ても明らかだった。
舞踏会で踊るパートナーだと言うのも、自分で女友達に吹聴しているらしく、俺たちは公然の仲になっていた。
廊下を歩いていた時、様々な思いが頭の中を巡っている陰鬱な俺の前を、赤く長い髪を揺らしレベッカが通り過ぎた。
「レベッカ、待って……」
待ってくれ、と引き留めようと思い、言葉が途中で途切れた。
振り返り、レベッカは話したこともない俺に急に声をかけられ、不思議そうな顔をしたからだ。
「? クロード様、どうされましたの?」
そうだった。『今回』は、彼女とは一切話してなどいない。
放課後の教室で彼女と他愛のない話をして笑い合っていたのは、俺にしかない『前回の』記憶だ。
「いや…なんでもない」
ただのクラスメイトでしかない俺が、リリアと婚約しようが、彼女の知ったことではない。
そう言うと不思議そうに会釈し、先を歩く他の女子たちと楽しげに話しをしに行ってしまった。
悪い噂が広まり、ひとりぼっちな彼女と、放課後で話したのを思い出す。
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これで良かったんだ。
俺の意思とは関係なく、縁談はとんとん拍子に進んだ。
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紙吹雪が舞い、白いタキシードに身を包んだ俺を見て、ユリウスが皇族の席から拍手していた。
「リリアは幸せです、クロード様」
教会の鐘の下、潤んだ瞳のドレス姿のリリアが俺を見上げていても、俺の頭に浮かぶのはレベッカの姿だ。
これでいい。君が傷付かず、遠い地へ行かなくても良いなら。
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* * *
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園庭のベンチに座る俺の肩を揺らす、ユリウスの声。
まただ。
またこの日に戻ってきた。
すぐにわかった。きっとこれを望んでいたからだ。
「くく……ははっ」
目覚めた俺は、思わず笑ってしまった。
「……よっぽど嫌だったんだな、あの結婚」
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