【完結】悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?

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第6章 共に夢を叶えよう

57.意地悪な人

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 開店初日にしては、上々の出だしであった。

 その後も呼び込みの成果があってか、何人も店に立ち寄ってくれた。

 貸し出しというシステムが珍しかったのか、これから恋人とデートに行く若い女性がネックレスを借りたり、久々に孫に会いに行く老紳士が背広を借りてくれた。

 夕方には、一人目の客であるセリーヌが店へと戻ってきて、ライム色のワンピースを着てのお茶会はとても楽しかった、と嬉々として感動を伝えた。

元々着ていた白いワンピースに着替え、親しい友人たちにもこの店のことを勧めてみるわ、と上機嫌で帰って行く。

閉店時間になったので入り口の看板をしまい、店じまいをする。

接客疲れでふと息をついたレベッカと、売りげの合計金額を計算し、目に見えるところの掃除をテキパキとを済ませたクロード。


「初日にしてはかなかよかったのではないか。
 さ、店を閉めよう」


 閑古鳥が鳴き、誰も客が来ないという最悪の事態は免れたので、クロードの言葉にレベッカも頷く。電灯を消し、店の入り口へと向かう。


「そうですわね。特にセリーヌ様はメイクを含めて全身のコーディネートを気に入ってくださって、嬉しかったですわ」


 優しい貴婦人は、また来てくれそうだった。ぜひ常連になってもらいたい、とレベッカは胸を震わせる。


「レンタルもいいですが、やはり私の作った服ももっと売り出したい。
 帰ってからまたハンドメイドします。
 あと、新しい形のワンピースも作りたいから、型紙や作り方の書かれている本を探さなきゃ」


 指を折りながら、次にやるべきことを数えているレベッカ。

その様子を見ていクロードは、売上金を金庫にしまい、革靴の音を響かせてゆっくりと歩み寄る。

 クロードはそっとレベッカを見下ろすと、親指で彼女の頬を撫でた。


「なっ、なんですの?」


 急に間近で触れられて、驚いたレベッカは素っ頓狂な声をあげる。


「目の下に隈が出来ている。
 開店準備のために無理をしていたんだろう、今日は早く寝ることだ」


 クロードは心配そうに、レベッカの顔色を気にしていた。

 緊張と不安であまり昨晩は眠れなかった。自分でも自覚があり、目の下は厚めにコンシーラーを塗ったつもりだったが、見抜かれていたようだ。


「今日はゆっくり寝て、明日開店前に、学園の図書館へ一緒に行くのはどうだ。
 目当ての洋裁の本もあるかもしれない」

「ああ、それは良いですわね」


 確かにあの広い図書館なら期待ができる。クロードの提案に頷くレベッカ。

 電灯を消した店内には、窓から月明かりだけが差し込む。

 薄暗い空間で、クロードはじっとレベッカを見つめた後、再び一歩踏み込んだ。

 レベッカは目を瞑り、ぎゅっと体をこわばらせた。
 次の瞬間、自分の右肩に、クロードが額をつけているのに気がつく。


「く、クロード様……?」


 身長差ゆえ、クロードは背筋を丸め、うなだれる形になっている。


「君を抱きしめたい、と思ったのだが」


 レベッカの肩にうなだれたクロードは、その胸の内を吐露する。


「……まだ俺は、店主に片想いする、ただの共同経営者だものな」


 本当は抱きしめたかったのだろう。

 しかし、レベッカがそれを察して体をこわばらせたのを見て、寸前で止めたようだ。

 目の前の銀髪からは、彼の香りが漂う。


「――クロード様は」


 心臓の音が聞こえないかと思いながら、レベッカは言葉を紡ぐ。


「クロード様は、私の大切な人です」


 友人でも、恋人でも、夫婦でもない。

 ただ、舞踏会で真っ直ぐにその思いを伝えてくれた。秘密を打ち明けてくれた。一緒に店を開いてくれた。

大切な人だということは、しっかり伝えたかった。


「そうか。それはよかった」


 クロードは頷くと、体勢を起こし、至近距離でレベッカに微笑みかける。


 高まる胸を抑えながら、レベッカは視線を合わせ、気になっていたことを問う。


「そういえばどうですか。
 まだ初日ですが、何かループする予兆などはありましたか?」


  この店を開いた理由は、レベッカの幸せが俺の幸せだと言い切った彼が、レベッカの夢を叶えたいと言い出したからだ。

  実際やってみてどうだったか純粋に問いかけると、クロードは顎に手を置き、首を捻る。


「そうだな、君が客の男と恋に落ちて、俺を捨てて逃げてしまったりしたら、またやり直したいと過去に戻るかもしれないな」


  案に、今日は特にループする予兆はなかった、と言いたいようだ。


「そ、そんなこと、しませんわ」


  レベッカは顔が赤くなるのを感じ、どもりながら目線を逸らす。


「……少し意地悪だったか?」


 彼の好意は、たまに分かりづらく、時に意地悪だ。

 薄暗い店内で、月明かりに照らされた銀髪の青年は、悪戯っ子のように微笑んで、レベッカの髪を優しく撫でた。  
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