オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水

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第8章

1話 オバちゃんの子供たち

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 天地を引っ繰り返す一件の後、エスタリカ王国は大きな変化を迎えた。
 女王であるルイは、宣言通りその座を元国王の甥に譲ったのである。
 ルイが王座を託したその甥は、かつて魔族を擁護した為に、僻地に幽閉されていた人物であった。
 きっとこの甥ならば、人間と魔族を区別することなく、中立な立場でエスタリカを治めてくれるであろうと、ルイが切に頼み込んだのである。
 始めは、ルイの変わりように動揺した甥であったが、彼女の熱心さに心を打たれ快諾。
 新国王をめでたく迎えたエスタリカ王国は、新たなる一歩を踏み出した。

 余談だが、デブ神官と貴族たちは、新国王が送られていた僻地に幽閉されたのである。もちろん、ケツァルとネーヴェにこってり絞られた後に……。

 一市民となったルイは、暫くリコと共に新国王を手助けしていたが、重要な役職も埋まり、政(まつりごと)をスムーズに行う土台が整った。
 それを機にルイは、ルカと共にカランデの大森林に拠点を移す。
 今では魔族の村の復興に、心血を注ぐ毎日である。



 ――ここ何日かは、リザードマンの集落を訪れていた。



「ルイ姉さーん! こっちはもう終わったよー!」

 その呼びかけにルイは目を向ける。
 すると、そこにはルカとウェアウルフが、こちらにやって来る姿があった。

「ちょっと待って! こっちはもう少しかかるの!」

 そう告げるとルイは、腕まくりし直し、鼻歌を歌いながら薪を拾い集める。
 煌びやかなドレスを脱ぎ捨て、上機嫌で薪を担ぐルイの姿に、ルカとウェアウルフはつい頬が緩んだ。
 そんな彼らに、ルイが口を尖らす。

「二人共。何、ニヤニヤしてるのよ」

「ルイ姉さん、随分楽しそうだなって!」

「本当に。ルイ様、生き生きしてますね」

 ルイは手を止め、周りを見回す。
 トントンといい音を立てて、家や塀を直すリザードマンたち。子供たちも元気よく手伝いに励んでいる。
 その顔は皆、溢れんばかりの笑顔であった。
 ルイは、まだまだその輪に入ることは出来ない。
 だけど……こうやって同じ場所に立ち、幸せそうな彼らを眺めてるだけでも、ルイの心は十分満たされる。
 自分に償いの時間を与えてくれた魔族たちに、彼女は心から感謝していた。
 ルイは微笑む。

「そうね。ここにいると楽しくて仕方がないわ!」

「そっか!」

 ルカが嬉しそうに目を細めた。

「さあ、もうひと頑張りよ!」

 ルイの元気な掛け声と共に、今日の仕事のひとつである薪拾いを、三人で仲良く再開した。






 ◆◆◆






 綺麗に並べ終わった薪を前に、ルイはふとウェアウルフに話を振る。

「そうだ。ところで聞いた? ウェアウル――」

 ルイが言い終わらぬうちに、ウェアウルフは勢いよく手で制す。

「ルイ様、違いますよ! 私はアスワドです!」

 そう諭され、ルイはポンと手を打つ。

「あ! そうか! リコが名前をつけてくれたのよね。確かアラビア語で……黒って意味。アスワドの耳と尻尾が、黒くツヤツヤしててキレイって、リコうっとりしてたものね」

「そうそう、うっとりしてた! ねぇ、ルイ姉さん! 因みにフェンリルはグラウだよ! ドイツ語で灰色だってさ!」

「へぇー、リコって凝り性よねぇ」

「はい。リコさんは『私、オタクだから細部までこだわるタイプなの』と笑っておいででした」

「アハ! リコらしい! ねぇ、ルカ!」

「本当だね! ルイ姉さん! あはははは!」

 ルイとルカは、手を叩き合って笑った。

「それでルイ様、先ほど言いかけておられたのは?」

 アスワドは、脱線させてしまった話を責任を持って軌道修正した。

「ああ、そうだった。えーとね、アスワド。カイルのこと聞いた?」

「は? 確か……クスタルにいるんですよね? それが何か?」

「それがね。カイル……かなり大変らしいわよ」

 首を捻るアスワド。しかし、何かに思い当たったのか「はぁー」と溜息を吐き、空を見上げた。

「彼らかー」

 ルイとルカも憐れみの目で、カイルのいるクスタルに繋がっているであろう空を見上げる。





 ◆◆◆





 ――騒動の後。

 カイルは、ルイにつき添うリコと暫し別れ、彼らを連れてクスタルを目指した。
 彼らとは――リドルとガーズである。
 リドルとガーズは、傀儡石がこの世界から消えてしまったので、いかつい爺さんの弟子になることを断念。
 しかし、ウサ耳娘と猫耳娘とのラブラブライフは決して諦めなかった。
 彼らにせがまれ――いや、脅されたの方が正しい――カイルは渋々旅立ったのである。
 因みになぜクスタルかというと、猫耳娘――ミルがいるからであった。



 さて――カイル一行は、無事にクスタルへ到着。
 オルガをはじめ、ミルや街の人々が、カイルの訪れを手放しに喜んだ。
 リコの武勇伝は、この街にもとどろいたとオルガは笑う。
 大分、もとの街並みを取り戻したクスタルは、随分と様変わりしていた。
 ミルの種族であるウェアキャットたちが、共に暮らし始めていたのである。
 それを目にしたカイルは、全身全霊で「ナイス! クスタル!」と拍手喝采を贈った。
 これで手っ取り早く、リドルとガーズとの約束が果たされると……。
 猫耳娘に囲まれ、ご満悦のリドル。
 カイルがホッと胸を撫で下ろしたその時、ガーズから無慈悲な言葉が放たれた。

「俺は……ウサ耳娘と言った筈だが?」

「なんでだよっ! なんでそんな、ウサ耳娘に拘るんだよっ!」

「長くピルピルとしたウサ耳! それが俺のロマンだからだ!」

「わ、訳分かんねー! なぁ、ガーズ……猫耳娘だって可愛いだろう? 頼む! アレで手を打ってくれ!」

 拝むように手を合わすカイル。
 だがガーズは、無情にもその首を横に振る。

「いいや、ダメだ! ウサ耳は絶対に譲れん!」

「もうーーっ! 勘弁してくれよぉおおおおおお!」





 ◆◆◆





「――という攻防が、今もクスタルで繰り広げられてるらしいわ。まったく……いい大人が何をしてるんだか……」

 ルイが頬に手を当て、呆れたように話す。
 アスワドはスッと胸に手を置き、カイルに哀悼の意を捧げる。

「カイルさん、貴方に安らかな眠りを……」

「ちょっと待って、アスワド! カイルさんは生きてるから! 必死に歯を食いしばって生きてるから!」

 ルカが慌ててアスワドを窘めた。
 そんなルカを、可愛らしい声が呼ぶ。


「まぞくおうさまー!」


 リザードマンの子供たちが、パタパタとルカの周りに集まって来た。
 ルカは、しゃがんで子供たちと目を合わす。

「どうしたの?」

「おしごと、ごくろうさま。はいコレ!」

 子供のひとりが、リンゴを差し出す。

「ボクにくれるの?」

 子供がコクンと頷いた。
 ルカはリンゴを受け取り、ニッコリ笑う。

「ありがとう!」

 ルカのお礼に、子供たちは「ワァー」と歓声を上げた。
 暫くして、子供たちがチラチラとルイを見上げる。
 ルイはそれに気づき、ルカと同じようにしゃがむ。

「どうしたのかしら?」

「てをだして」

 ルイは言われた通りに、手を差し出す。
 すると、その手にポンとリンゴが置かれた。
 ルイが目を丸くして、子供たちを見つめる。
 ハニカム子供たち。

「ルイさまもたべてね」

「ルイさまー。そのリンゴ、おいしいよ」

 彼らの思わぬ優しさに感極まったルイは堪らず、子供たちを両手一杯に抱き締めた。

「……ありがとう。大切に食べるからね……ありがとう」

 子供のひとりがルイを覗き込む。

「ルイさま? ないてるの? どこかいたい?」

「ううん。嬉しいの。嬉しくて嬉しくて仕方がないの……」

 子供たちが「ふふっ」と笑う。

「うれしいのにないてるの? ルイさま、へーん!」

「うん、変だよね。だけどね……涙が止まらない……」

 ルイは子供たちに顔を埋め、さめざめと泣いた。

「ルイさま、なかないでー」

「よしよし! ルイさま、いいこ! だからないちゃダメよ」

 ルイの涙を止めようと彼女の頭を、優しく撫でる小さな手。
 そんなルイと子供たちの様子を、静かに見守る者たちがいた。



 ――リザードマンの大人たちである。



 それに気づいたルカは、口をパクパクさせて、彼らに「ありがとう」と伝える。
 彼らは皆、照れ臭そうに笑った。

「ねぇ、アスワド。少しずつ、少しずつ、前に進んでいるよね」

「ええ、もちろんですとも! 早速、リコさんにご報告しなくては!」

「リコさん、喜ぶだろうね」

「はい、それはもう。そのご様子が目に浮かびます」

 ルカとアスワドは、顔を見合わせ微笑むのであった。
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