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第8章
1話 オバちゃんの子供たち
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天地を引っ繰り返す一件の後、エスタリカ王国は大きな変化を迎えた。
女王であるルイは、宣言通りその座を元国王の甥に譲ったのである。
ルイが王座を託したその甥は、かつて魔族を擁護した為に、僻地に幽閉されていた人物であった。
きっとこの甥ならば、人間と魔族を区別することなく、中立な立場でエスタリカを治めてくれるであろうと、ルイが切に頼み込んだのである。
始めは、ルイの変わりように動揺した甥であったが、彼女の熱心さに心を打たれ快諾。
新国王をめでたく迎えたエスタリカ王国は、新たなる一歩を踏み出した。
余談だが、デブ神官と貴族たちは、新国王が送られていた僻地に幽閉されたのである。もちろん、ケツァルとネーヴェにこってり絞られた後に……。
一市民となったルイは、暫くリコと共に新国王を手助けしていたが、重要な役職も埋まり、政(まつりごと)をスムーズに行う土台が整った。
それを機にルイは、ルカと共にカランデの大森林に拠点を移す。
今では魔族の村の復興に、心血を注ぐ毎日である。
――ここ何日かは、リザードマンの集落を訪れていた。
「ルイ姉さーん! こっちはもう終わったよー!」
その呼びかけにルイは目を向ける。
すると、そこにはルカとウェアウルフが、こちらにやって来る姿があった。
「ちょっと待って! こっちはもう少しかかるの!」
そう告げるとルイは、腕まくりし直し、鼻歌を歌いながら薪を拾い集める。
煌びやかなドレスを脱ぎ捨て、上機嫌で薪を担ぐルイの姿に、ルカとウェアウルフはつい頬が緩んだ。
そんな彼らに、ルイが口を尖らす。
「二人共。何、ニヤニヤしてるのよ」
「ルイ姉さん、随分楽しそうだなって!」
「本当に。ルイ様、生き生きしてますね」
ルイは手を止め、周りを見回す。
トントンといい音を立てて、家や塀を直すリザードマンたち。子供たちも元気よく手伝いに励んでいる。
その顔は皆、溢れんばかりの笑顔であった。
ルイは、まだまだその輪に入ることは出来ない。
だけど……こうやって同じ場所に立ち、幸せそうな彼らを眺めてるだけでも、ルイの心は十分満たされる。
自分に償いの時間を与えてくれた魔族たちに、彼女は心から感謝していた。
ルイは微笑む。
「そうね。ここにいると楽しくて仕方がないわ!」
「そっか!」
ルカが嬉しそうに目を細めた。
「さあ、もうひと頑張りよ!」
ルイの元気な掛け声と共に、今日の仕事のひとつである薪拾いを、三人で仲良く再開した。
◆◆◆
綺麗に並べ終わった薪を前に、ルイはふとウェアウルフに話を振る。
「そうだ。ところで聞いた? ウェアウル――」
ルイが言い終わらぬうちに、ウェアウルフは勢いよく手で制す。
「ルイ様、違いますよ! 私はアスワドです!」
そう諭され、ルイはポンと手を打つ。
「あ! そうか! リコが名前をつけてくれたのよね。確かアラビア語で……黒って意味。アスワドの耳と尻尾が、黒くツヤツヤしててキレイって、リコうっとりしてたものね」
「そうそう、うっとりしてた! ねぇ、ルイ姉さん! 因みにフェンリルはグラウだよ! ドイツ語で灰色だってさ!」
「へぇー、リコって凝り性よねぇ」
「はい。リコさんは『私、オタクだから細部までこだわるタイプなの』と笑っておいででした」
「アハ! リコらしい! ねぇ、ルカ!」
「本当だね! ルイ姉さん! あはははは!」
ルイとルカは、手を叩き合って笑った。
「それでルイ様、先ほど言いかけておられたのは?」
アスワドは、脱線させてしまった話を責任を持って軌道修正した。
「ああ、そうだった。えーとね、アスワド。カイルのこと聞いた?」
「は? 確か……クスタルにいるんですよね? それが何か?」
「それがね。カイル……かなり大変らしいわよ」
首を捻るアスワド。しかし、何かに思い当たったのか「はぁー」と溜息を吐き、空を見上げた。
「彼らかー」
ルイとルカも憐れみの目で、カイルのいるクスタルに繋がっているであろう空を見上げる。
◆◆◆
――騒動の後。
カイルは、ルイにつき添うリコと暫し別れ、彼らを連れてクスタルを目指した。
彼らとは――リドルとガーズである。
リドルとガーズは、傀儡石がこの世界から消えてしまったので、いかつい爺さんの弟子になることを断念。
しかし、ウサ耳娘と猫耳娘とのラブラブライフは決して諦めなかった。
彼らにせがまれ――いや、脅されたの方が正しい――カイルは渋々旅立ったのである。
因みになぜクスタルかというと、猫耳娘――ミルがいるからであった。
さて――カイル一行は、無事にクスタルへ到着。
オルガをはじめ、ミルや街の人々が、カイルの訪れを手放しに喜んだ。
リコの武勇伝は、この街にも轟いたとオルガは笑う。
大分、もとの街並みを取り戻したクスタルは、随分と様変わりしていた。
ミルの種族であるウェアキャットたちが、共に暮らし始めていたのである。
それを目にしたカイルは、全身全霊で「ナイス! クスタル!」と拍手喝采を贈った。
これで手っ取り早く、リドルとガーズとの約束が果たされると……。
猫耳娘に囲まれ、ご満悦のリドル。
カイルがホッと胸を撫で下ろしたその時、ガーズから無慈悲な言葉が放たれた。
「俺は……ウサ耳娘と言った筈だが?」
「なんでだよっ! なんでそんな、ウサ耳娘に拘るんだよっ!」
「長くピルピルとしたウサ耳! それが俺のロマンだからだ!」
「わ、訳分かんねー! なぁ、ガーズ……猫耳娘だって可愛いだろう? 頼む! アレで手を打ってくれ!」
拝むように手を合わすカイル。
だがガーズは、無情にもその首を横に振る。
「いいや、ダメだ! ウサ耳は絶対に譲れん!」
「もうーーっ! 勘弁してくれよぉおおおおおお!」
◆◆◆
「――という攻防が、今もクスタルで繰り広げられてるらしいわ。まったく……いい大人が何をしてるんだか……」
ルイが頬に手を当て、呆れたように話す。
アスワドはスッと胸に手を置き、カイルに哀悼の意を捧げる。
「カイルさん、貴方に安らかな眠りを……」
「ちょっと待って、アスワド! カイルさんは生きてるから! 必死に歯を食いしばって生きてるから!」
ルカが慌ててアスワドを窘めた。
そんなルカを、可愛らしい声が呼ぶ。
「まぞくおうさまー!」
リザードマンの子供たちが、パタパタとルカの周りに集まって来た。
ルカは、しゃがんで子供たちと目を合わす。
「どうしたの?」
「おしごと、ごくろうさま。はいコレ!」
子供のひとりが、リンゴを差し出す。
「ボクにくれるの?」
子供がコクンと頷いた。
ルカはリンゴを受け取り、ニッコリ笑う。
「ありがとう!」
ルカのお礼に、子供たちは「ワァー」と歓声を上げた。
暫くして、子供たちがチラチラとルイを見上げる。
ルイはそれに気づき、ルカと同じようにしゃがむ。
「どうしたのかしら?」
「てをだして」
ルイは言われた通りに、手を差し出す。
すると、その手にポンとリンゴが置かれた。
ルイが目を丸くして、子供たちを見つめる。
ハニカム子供たち。
「ルイさまもたべてね」
「ルイさまー。そのリンゴ、おいしいよ」
彼らの思わぬ優しさに感極まったルイは堪らず、子供たちを両手一杯に抱き締めた。
「……ありがとう。大切に食べるからね……ありがとう」
子供のひとりがルイを覗き込む。
「ルイさま? ないてるの? どこかいたい?」
「ううん。嬉しいの。嬉しくて嬉しくて仕方がないの……」
子供たちが「ふふっ」と笑う。
「うれしいのにないてるの? ルイさま、へーん!」
「うん、変だよね。だけどね……涙が止まらない……」
ルイは子供たちに顔を埋め、さめざめと泣いた。
「ルイさま、なかないでー」
「よしよし! ルイさま、いいこ! だからないちゃダメよ」
ルイの涙を止めようと彼女の頭を、優しく撫でる小さな手。
そんなルイと子供たちの様子を、静かに見守る者たちがいた。
――リザードマンの大人たちである。
それに気づいたルカは、口をパクパクさせて、彼らに「ありがとう」と伝える。
彼らは皆、照れ臭そうに笑った。
「ねぇ、アスワド。少しずつ、少しずつ、前に進んでいるよね」
「ええ、もちろんですとも! 早速、リコさんにご報告しなくては!」
「リコさん、喜ぶだろうね」
「はい、それはもう。そのご様子が目に浮かびます」
ルカとアスワドは、顔を見合わせ微笑むのであった。
女王であるルイは、宣言通りその座を元国王の甥に譲ったのである。
ルイが王座を託したその甥は、かつて魔族を擁護した為に、僻地に幽閉されていた人物であった。
きっとこの甥ならば、人間と魔族を区別することなく、中立な立場でエスタリカを治めてくれるであろうと、ルイが切に頼み込んだのである。
始めは、ルイの変わりように動揺した甥であったが、彼女の熱心さに心を打たれ快諾。
新国王をめでたく迎えたエスタリカ王国は、新たなる一歩を踏み出した。
余談だが、デブ神官と貴族たちは、新国王が送られていた僻地に幽閉されたのである。もちろん、ケツァルとネーヴェにこってり絞られた後に……。
一市民となったルイは、暫くリコと共に新国王を手助けしていたが、重要な役職も埋まり、政(まつりごと)をスムーズに行う土台が整った。
それを機にルイは、ルカと共にカランデの大森林に拠点を移す。
今では魔族の村の復興に、心血を注ぐ毎日である。
――ここ何日かは、リザードマンの集落を訪れていた。
「ルイ姉さーん! こっちはもう終わったよー!」
その呼びかけにルイは目を向ける。
すると、そこにはルカとウェアウルフが、こちらにやって来る姿があった。
「ちょっと待って! こっちはもう少しかかるの!」
そう告げるとルイは、腕まくりし直し、鼻歌を歌いながら薪を拾い集める。
煌びやかなドレスを脱ぎ捨て、上機嫌で薪を担ぐルイの姿に、ルカとウェアウルフはつい頬が緩んだ。
そんな彼らに、ルイが口を尖らす。
「二人共。何、ニヤニヤしてるのよ」
「ルイ姉さん、随分楽しそうだなって!」
「本当に。ルイ様、生き生きしてますね」
ルイは手を止め、周りを見回す。
トントンといい音を立てて、家や塀を直すリザードマンたち。子供たちも元気よく手伝いに励んでいる。
その顔は皆、溢れんばかりの笑顔であった。
ルイは、まだまだその輪に入ることは出来ない。
だけど……こうやって同じ場所に立ち、幸せそうな彼らを眺めてるだけでも、ルイの心は十分満たされる。
自分に償いの時間を与えてくれた魔族たちに、彼女は心から感謝していた。
ルイは微笑む。
「そうね。ここにいると楽しくて仕方がないわ!」
「そっか!」
ルカが嬉しそうに目を細めた。
「さあ、もうひと頑張りよ!」
ルイの元気な掛け声と共に、今日の仕事のひとつである薪拾いを、三人で仲良く再開した。
◆◆◆
綺麗に並べ終わった薪を前に、ルイはふとウェアウルフに話を振る。
「そうだ。ところで聞いた? ウェアウル――」
ルイが言い終わらぬうちに、ウェアウルフは勢いよく手で制す。
「ルイ様、違いますよ! 私はアスワドです!」
そう諭され、ルイはポンと手を打つ。
「あ! そうか! リコが名前をつけてくれたのよね。確かアラビア語で……黒って意味。アスワドの耳と尻尾が、黒くツヤツヤしててキレイって、リコうっとりしてたものね」
「そうそう、うっとりしてた! ねぇ、ルイ姉さん! 因みにフェンリルはグラウだよ! ドイツ語で灰色だってさ!」
「へぇー、リコって凝り性よねぇ」
「はい。リコさんは『私、オタクだから細部までこだわるタイプなの』と笑っておいででした」
「アハ! リコらしい! ねぇ、ルカ!」
「本当だね! ルイ姉さん! あはははは!」
ルイとルカは、手を叩き合って笑った。
「それでルイ様、先ほど言いかけておられたのは?」
アスワドは、脱線させてしまった話を責任を持って軌道修正した。
「ああ、そうだった。えーとね、アスワド。カイルのこと聞いた?」
「は? 確か……クスタルにいるんですよね? それが何か?」
「それがね。カイル……かなり大変らしいわよ」
首を捻るアスワド。しかし、何かに思い当たったのか「はぁー」と溜息を吐き、空を見上げた。
「彼らかー」
ルイとルカも憐れみの目で、カイルのいるクスタルに繋がっているであろう空を見上げる。
◆◆◆
――騒動の後。
カイルは、ルイにつき添うリコと暫し別れ、彼らを連れてクスタルを目指した。
彼らとは――リドルとガーズである。
リドルとガーズは、傀儡石がこの世界から消えてしまったので、いかつい爺さんの弟子になることを断念。
しかし、ウサ耳娘と猫耳娘とのラブラブライフは決して諦めなかった。
彼らにせがまれ――いや、脅されたの方が正しい――カイルは渋々旅立ったのである。
因みになぜクスタルかというと、猫耳娘――ミルがいるからであった。
さて――カイル一行は、無事にクスタルへ到着。
オルガをはじめ、ミルや街の人々が、カイルの訪れを手放しに喜んだ。
リコの武勇伝は、この街にも轟いたとオルガは笑う。
大分、もとの街並みを取り戻したクスタルは、随分と様変わりしていた。
ミルの種族であるウェアキャットたちが、共に暮らし始めていたのである。
それを目にしたカイルは、全身全霊で「ナイス! クスタル!」と拍手喝采を贈った。
これで手っ取り早く、リドルとガーズとの約束が果たされると……。
猫耳娘に囲まれ、ご満悦のリドル。
カイルがホッと胸を撫で下ろしたその時、ガーズから無慈悲な言葉が放たれた。
「俺は……ウサ耳娘と言った筈だが?」
「なんでだよっ! なんでそんな、ウサ耳娘に拘るんだよっ!」
「長くピルピルとしたウサ耳! それが俺のロマンだからだ!」
「わ、訳分かんねー! なぁ、ガーズ……猫耳娘だって可愛いだろう? 頼む! アレで手を打ってくれ!」
拝むように手を合わすカイル。
だがガーズは、無情にもその首を横に振る。
「いいや、ダメだ! ウサ耳は絶対に譲れん!」
「もうーーっ! 勘弁してくれよぉおおおおおお!」
◆◆◆
「――という攻防が、今もクスタルで繰り広げられてるらしいわ。まったく……いい大人が何をしてるんだか……」
ルイが頬に手を当て、呆れたように話す。
アスワドはスッと胸に手を置き、カイルに哀悼の意を捧げる。
「カイルさん、貴方に安らかな眠りを……」
「ちょっと待って、アスワド! カイルさんは生きてるから! 必死に歯を食いしばって生きてるから!」
ルカが慌ててアスワドを窘めた。
そんなルカを、可愛らしい声が呼ぶ。
「まぞくおうさまー!」
リザードマンの子供たちが、パタパタとルカの周りに集まって来た。
ルカは、しゃがんで子供たちと目を合わす。
「どうしたの?」
「おしごと、ごくろうさま。はいコレ!」
子供のひとりが、リンゴを差し出す。
「ボクにくれるの?」
子供がコクンと頷いた。
ルカはリンゴを受け取り、ニッコリ笑う。
「ありがとう!」
ルカのお礼に、子供たちは「ワァー」と歓声を上げた。
暫くして、子供たちがチラチラとルイを見上げる。
ルイはそれに気づき、ルカと同じようにしゃがむ。
「どうしたのかしら?」
「てをだして」
ルイは言われた通りに、手を差し出す。
すると、その手にポンとリンゴが置かれた。
ルイが目を丸くして、子供たちを見つめる。
ハニカム子供たち。
「ルイさまもたべてね」
「ルイさまー。そのリンゴ、おいしいよ」
彼らの思わぬ優しさに感極まったルイは堪らず、子供たちを両手一杯に抱き締めた。
「……ありがとう。大切に食べるからね……ありがとう」
子供のひとりがルイを覗き込む。
「ルイさま? ないてるの? どこかいたい?」
「ううん。嬉しいの。嬉しくて嬉しくて仕方がないの……」
子供たちが「ふふっ」と笑う。
「うれしいのにないてるの? ルイさま、へーん!」
「うん、変だよね。だけどね……涙が止まらない……」
ルイは子供たちに顔を埋め、さめざめと泣いた。
「ルイさま、なかないでー」
「よしよし! ルイさま、いいこ! だからないちゃダメよ」
ルイの涙を止めようと彼女の頭を、優しく撫でる小さな手。
そんなルイと子供たちの様子を、静かに見守る者たちがいた。
――リザードマンの大人たちである。
それに気づいたルカは、口をパクパクさせて、彼らに「ありがとう」と伝える。
彼らは皆、照れ臭そうに笑った。
「ねぇ、アスワド。少しずつ、少しずつ、前に進んでいるよね」
「ええ、もちろんですとも! 早速、リコさんにご報告しなくては!」
「リコさん、喜ぶだろうね」
「はい、それはもう。そのご様子が目に浮かびます」
ルカとアスワドは、顔を見合わせ微笑むのであった。
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