ぼくらは科学☆特☆掃☆隊

いちたろう

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第五話 怪獣香水を調合せよ

第五話(2)

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 彼は香水とは全く無縁の生活を送ってきたが、もともと頭脳のポテンシャルは高く、手先は器用である。早速、香水作りの入門書を二、三冊買ってきて、研究所の実験室で試作品作りに没頭した。もちろん所長には怪獣から何か有益な製品が作れないかの化学実験と称して了解を得ている。
 香水の作り方はさほど難しいわけでは無い。基本的には、無水アルコールに好みの精油、これはエッセンシャルオイルとも呼ばれるが、それを加えて混ぜ込んで数日なじませるだけである。
 この精油こそが怪獣の残骸から水蒸気蒸留法、直接蒸留法などによって留出させた香料である。
 試しに作った試作サンプル第一号は思いのほか良く出来たと島崎は思った。これに気を良くして、さらに彼はマニアックな衝動に駆られた。なにせ一つの事を突き詰めないと気が済まない性分である。
 まずは怪物から作れる精油は基本三種類あって、それはオレンジ色の部分と黄色い部分、そして緑色の部分である。
 基本となる三種類の香料をベースとして、他の材料を混ぜてブレンド品を作ってみた。
 最終的に全部で十六種類の試作品が出来たので、その中でも特に気に入った三本を選んで家に持ち帰ることにした。
 なにせプレゼントした相手が皮膚に付けて、かぶれでもしたら一大事である。そんなわけで実際に自分が数日使って、問題なければプレゼントすることにしたのだ。

 島崎が時計を見ると十時を指していた。今日は日曜日で気持ち良い天気である。
 昨夜は二の腕に少し香水をつけて皮膚の具合を確認した。
 特に問題はなさそうだ。散歩がてら香水を手や顔に少しすり込んでブラブラ歩いてみることにした。
 駅前辺りまで散歩して昼食の材料を買って帰る。良い案だと思った。
 駅まで行く道は決まっていて、近道で狭い裏道を通るとき、必ず吠える犬がいる。
 正直、苦々しく思っているのだが、今日に限って吠えてこない。
 変だなぁと思ってその家を見ると、犬が門扉にすり寄って尻尾を振っているではないか。
 珍しいこともあるもんだ。そう思いながら島崎は大通りに出た。
 時計は既に十時半を過ぎており、犬を連れた人が結構歩いている。 
 その犬たちとすれ違うたびに犬が尻尾を振って擦り寄ってくるのだ。中には「犬に好かれて良いですね」と声をかけてくれる人もいる。
 途中からはだんだん寄ってくる犬も少なくなり、『あれはなんだったんだ?』と不思議に思ったが、家で昼飯を食べながらNHKのど自慢を見ていると、ふと閃くものがあった。
 試しにいつもこのアパートの門柱に寝そべっている野良猫、きっとアパートの誰かが餌をやっているに違いないそいつは、警戒心が強く島崎が近づくと口を開けて牙を見せながら威嚇するように立ち去ってしまうのだが、手に香水を付けて近づくと……。やっぱり逃げた。そこへ犬を連れた人がやってきたので様子をうかがう。すると犬が向こうから甘えた声を出して近付いて来た。
 間違いない。これは香水の効果だ。この匂いには犬を誘引する効果があるのだ。
 猫に『またたび』、犬には『いぬまん』と聞いたことがある。それと似た効果が……。
 島崎は昼食の後また香水をつけて散歩に出かけた。 
 散歩から戻ってきた島崎の顔は、にやけ顔だった。それはそうであろう。これはかなり貴重な発見である。
 この香水の効果の有効時間は十~十五分くらいで後はどんどん効果が薄れるようだ。
 香水には匂い立ちというものがある。この匂い立ちには三段階あって、最初にトップノート、これは最初の十~二十分程度続く揮発性の高い成分による匂い、次にミドルノートとよばれ三、四時間続く匂い、最後にラストノートと言って半日程度持続する香りである。
 考えた末、島崎は岡田に香水を渡す計画を少し延期することにした。研究者魂に火がついたのだ。
 持ち帰った三本はその日のうちに全部効果を確認した。一回ごとに風呂に入り、体や頭を洗って、服も新しい物に着替えて外出するのである。試作品の残り十三本も二週間かけて香水の効果を確認するつもりである。
 怪獣の報告書は先日所長に提出済みであり、もう一回書き直したいとはプライドもあって言い出しづらい。特に胸中の女性、岡田には内緒にしたい極秘実験である。
 確認作業は研究所への朝の通勤と帰宅時を実験に当てた。駅への道すがら、ある程度、人が混んできたら香水を耳にすり込んで様子を見る、それだけである。
 結果は効果ありと認められたものは三本のみである。それでも十六本中、三本ならたいした物だ。効果を簡単に言うと、犬寄せ効果のあるのが一本、猫寄せ効果のあるのが一本、さらにどういうわけか女性に人気があるものが一本あった。
 通勤時に遭遇するのは、犬、猫、鳥類、人間だけである。対象を増やせばもっと有効な相手がいるかも知れないが、通勤時では仕方がない。
 その時の状況を言えば、駅へ行く途中で島崎が後ろを振り向くと七、八人の女性が自分の後をゾロゾロとついて来るのに気が付いた。
 みんな目がとろんとして正常な目つきではない。島崎は恐ろしくなって早足で駅まで向かうと、それに併せて後ろの列がどんどん長くなる。周りの男達が好奇の目で島崎を見ていた。
 この時ほどあせった事は無い。
 そのまま定期券で駅の改札を抜けるとみんな追って来なくなったが、今度は女子学生と思われるグループに囲まれてしまった。みんなキャーキャー声を出して島崎を触りたがるので、駅のホームで電車を待つ間、島崎は生きた心地がしなかったという。
 周りから自分に向けられた奇妙な物を見る目線に耐えられないのだ。
 それでも効果が切れるとみんな不思議な顔をして、どんどん島崎から離れていった。島崎自身、今までこんなにほっとしたことは無いという。
 このままの状態が続いたら、女性に免疫のない彼は顔面蒼白になって気絶したのではないだろうか。
 男性が寄ってこなかったのは幸いである。少し違う成分で実験すればそういう効果も否定出来ない。それに馬、牛、豚など他の動物はどうであろうか。非常に興味のある問題である。
 問題と言えば、リメイクをするつもりがなかったため、調合レシピを全然作っていなかった事である。
 五本分くらいはレシピを思い出せるが、後は適当に混ぜたので全然思い出せもしない。化学分析班に送って分析してもらう手もあるが、時間もかかるし所長のハンコと申請書に書く理由も困る。
「今頃になってなぜ追加分析を?」と聞かれでもしたら小心者の島崎はとても困ってしまうのだ。いずれ最後は分析に回すとしても、なんとかこの効果を利用して岡田をデートに誘いたい。それが彼の最優先課題であった。
 例えば研究所で香水をつけて事務室に入ったら……と考えたが、さすがにそれはまずいだろうと考えてやめた。
 ならば昼飯時はどうか。彼女は弁当持参で自分の机で食べることが多いが、他にも人がいるので二人になるのは難しい。
「たまには外で食べませんか」と誘うのも不自然すぎて却下。
 やはり彼女が研究所から帰宅する時を狙って「駅まで一緒に行きましょう」と声をかけるのが最善、これしかない。そう考えて正面玄関での待ち伏せ作戦を実行したが、他の人も一緒であったりとなかなか成功しなかった。
 あるときやっと一人で来たかと思えば、玄関のところで急に引き返してまた事務所へと戻って行った。島崎はそのまま待っていたが、今度は他の部署の女性がトロンとした目付きで島崎の前に寄ってきた。島崎は恐ろしくなってそのまま駅へと駆け出した。失敗である。
 なんだかんだで香水を少し無駄使いし過ぎたかもしれない。元々の抽出量が少なかったのだ。瓶を見ると、あと二回分くらいしか残っていない。一番分量の少ない香水がこのような効果を持っていたのが悔やまれる。
 こうなったら南原先輩に相談するしか……。島崎にとって、南原は頼れる先輩なのであった。

 仕事帰りに駅近くの居酒屋で飲んでいる人達がいる。
 南原、島崎、林、森野、貴志である。
 南原が言い出してみんなで飲みに行くのはよくあるパターンだ。いつもは南原、林、貴志の三人がメインで、時々岡田、森野が加わり、めったに来ないのが島崎、さらにもっと来ないのが沼田所長と植村班長である。
 みんなは『事前に相談したいことがあるから飲みに行かないか』と言われて何事かと思ったが、それより意外だったのは、岡田がいなくて島崎がいることであった。
 この時点ではみんなも岡田は用事で来られないのだろうと思っていた。
 最初に乾杯をすると南原が話し始めた。最初に島崎の発見した惚れ薬効果の説明があり、それを聞くとみんなが驚いて島崎を賞賛した。
「でもなんでこんなところで発表するんです?」
 林が尋ねるのも無理はない。
「前祝いですか?」
 貴志が尋ねた。
「それはだな……」
 南原が語気を強めて話し始めた。
「まだこの発明は内緒なんだ。それと僕は彼に協力したいと思ってるし、みんなも協力してやってくれないか。それじゃ島崎君、みんなに説明してくれ」
「きょ、今日は僕のためにお集まりいただき、……あ、ありがとうございました。じ、実はここだけの話ですが、ボ、ボクは博子さんが好きなんです」
「知ってた!」
 みんなが一斉に声を上げた。
「え~!」
 島崎は驚きの声を出した。
 知らないのは所長と植村班長、当人の岡田である。飲み仲間の彼らには常識であった。
「それと発明にどんな関係が?」 
 すかさず森野が怪訝そうに尋ねた。とは言え、なんとなく想像はできる。 
 島崎はポツリポツリと語りだした。説明は下手ではあるが島崎が真剣なのは手に取るように分かる。
「でも、それちょっと卑怯じゃないですか」
 森野には少し引っかかるようだ。
「みんなも気付いているだろうが、岡田さんにとって彼は『路傍の石』、『道端の雑草』それが彼なんだ。このままではデートもできやしないだろ」
「な、南原さん、さ、さすがにそれは、ひど、ひどいんじゃないですか」
 島崎が口をとがらして抗議した。
「それでもだ! 一度でもデートすればきっと岡田さんも彼の良さに気付いてくれるに違いない。僕はそう信じている。だからこそ彼に協力してあげたいんだ。一回デートしてそれで脈がなければ島崎君も素直に諦めた方がいいだろう。その方がすっきりする」
「う~ん、まあ、そういうことなら協力してもいいかな」
 森野は納得した様子である。
「作戦はどうします?」
「そこなんだ。実は試作の香水があと二回分しかないそうだ。それで慎重に行きたい」
「あと二回分しかないって、また作れば良いのでは?」
「それが偶然の産物でレシピもないそうだ」
「エ~」とみんなもびっくりである。
「ちょうど来週末は慰安旅行があるだろ。そこでうまくきっかけを作ってやりたいと思う」
「熱海で岡田女史攻略作戦かぁ!」
 貴志が面白そうに呟いた。その日、どんな作戦にするかで飲み会が大いに盛り上がったのは言うまでもない。
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