新宿駅

興梠司

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僕は看板

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僕は新宿駅から少し離れた歌舞伎町にある看板だ、いろんな風景をここで見てきた。昨日の夜はホストが女性の事を髪の毛をひっぱって店に連れて行く風景を看板としてみていた。一昨日は僕の真ん前でホストに「もっと稼ぎます」と土下座をしていた女性を見かけた。僕の日課は歌舞伎町にすんでるおばあちゃんとの毎朝の会話だ。
もちろん僕は話せないのでおばあちゃんの話しを聞いてるだけになる。おばあちゃんは歌舞伎町に住んで40年が経つという、ずっと歌舞伎町をみてきて、歌舞伎町でおばあちゃんを知らない人はいない、おばぁちゃんが通るとホストやキャッチ全員が挨拶をする、ヤクザだってこのおばあちゃんを見たら挨拶するくらい有名なおばぁちゃんなんだ。

今日の朝のおばぁちゃんの会話は「うちの孫息子が結婚することになって寂しい」という話だった。看板の僕にはなんで寂しいんだろうと思った、結婚って嬉しいものじゃないのかとも思っていたら「誰かが家からいなくなるって寂しいものなんだよ、看板さん」と僕の気持ちを読み取ってくれた。このおばぁちゃんは看板の気持ちも読み取れるらしい。

一年たったうちからおばぁちゃんの姿が見えなくなった、噂では亡くなったと聞くがあんなに元気だったおばぁちゃんがいなくなるなんて看板としては寂しい、誰も僕に話しかけてくれる物はいなくなった。
僕の看板を見て吠える犬、酔いすぎて僕にゲロを吐くホスト、ヤクザ同士の喧嘩、その中にいた不思議なおばあちゃんはもういない。僕はここで看板をやっている。
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