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俺の秘密を教えてあげる
俺の秘密を教えてあげる 第一話
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口紅は絶対ピンクがいい。なるべく唇自体の色が自然で薄付いて見えるのに限る。
チークは絶対二色使って顔色が良く見えるものが良い。
ウィッグは茶色の巻き髪か、ロングヘアーのストレート。それなら上手に骨格に馴染む。
それにこの色合いなら実際の俺の髪色と近い。扱いなれた色合いだ。
そしてピンク基調の可愛いワンピースに身を包む。
リボンとレースに包まれたふわっふわの可愛いコーディネート。
気が付けば鏡の中には世界一可愛い女の子が出来上がったのだ。
「………祐希本当すごい化けるねぇ………全然男の子に見えないよー?」
そういいながら俺の姉の奈苗(二十三歳)がふわふわ笑い、俺に向かって携帯電話のカメラを向けてはシャッターを押す。
俺は苦笑いをひたすらに浮かべてぎこちなくピースを作る。
幼い頃から奈苗にひたすら玩具にされ続けた結果、メイクの事には自棄に詳しくなってしまった。
そしてその結果と言えば、俺自体がメイクが出来る様になってしまったのだ。
俺の名前は中延祐希、大学一年生。こう見えて好きなものはバイク。あとは車もちょっと好き。
ちゃんと普通の男の子。
なのにも関わらず今俺は、真っピンクのフリフリが付いたミニスカートを履いている。
「……………やべー、これ滅茶苦茶可愛いんじゃねぇの………?」
思わず自分で自分の女装を褒め称えつつも、ぶっちゃけ戸惑いを隠せないのは真実だ。
鏡の中の自分に関してだけはどちら様ですかという感想しか沸いてこない。
戸惑う俺の目の前で、姉が不思議そうな眼差しをしながら俺に問いかける。
「そういえば祐希さぁ、女装するのずっと嫌がってたのに………なんで着ようと思ったの?」
ぎくり。
今一番聞かれたくない事を奈苗に聞かれている気がする。
俺は奈苗から視線を逸らしながら目を泳がせてこういった。
「………や、ちょっと、用があって………。学園祭近いし、女装するかもしれなくて……」
すると奈苗はとりあえずだけ「ふぅん?」と呟いて部屋から出てゆく。
奈苗が俺の部屋から出て行ったその後で、俺はまた鏡の中の俺と向かい合う。
すまない奈苗………実は用なんて本当はない。
学園祭なんて、俺のいるサークルが出すのは焼きそばの屋台だ。
女装を俺がしたかった理由なんて、本当につまらない私利私欲だ………。
部屋で一人姿見に全身を映し出しては、クルリと一回転して見せる。
何処をどんな風に見たってどうやったって今の俺は、滅茶苦茶可愛い女の子でしかない。
それに多分このレベルであればどの女の子よりも俺が可愛い自信がある。
それでも俺の心の中身的に考えれば俺はやっぱり普通の男の心を持っている。
こんな事をするのは全く本位ではないのだが、今の俺はこうまでしないとやっていけない理由があるのだ。
***
「なぁなぁ祐希!!!これ、彼女と撮ったプリクラ!!!」
満面の笑みで差し出してきたプリクラの写真の女の子は、正直お世辞にも可愛いとは言い難い。
っていうかブス。一体何処からこんなお多福を見付けてきたのかという位にはブス。
多分この分だと三か月もたないだろうと思いながら、俺はとりあえず作り笑いを浮かべる。
大瀧秀人。俺の大学のサークル仲間。
うちの学校のテーブルゲームのサークルなんて、正直名前ばっかりで、扱いなんて高校の帰宅部同然だ。
あんまり来なくて問題が無いのが理由で俺達はこのサークルにいる。
秀人とは中学高校とずっと一緒でいよいよ大学まできてしまった。
この男、百戦錬磨の女好き。
女の事になれば馬鹿だしアホだし本当に仕方がないのだけれど、人たらしのいい奴過ぎてどうしたって嫌いになれない。
爽やかで良く笑っていて、何時も周りに人が絶えない。
滅茶苦茶格好良い男だとは一切思った事は無いけれど、可愛い顔をしている。
清潔感溢れた黒髪が正直良く似合ってる。
秀人はそもそもがありのままで明るいから、俺みたいに取り繕わなくて良いのだ。
「…………彼女出来るの早くね?がっつくなぁ………」
そう言って苦笑いを浮かべて見せれば、ニヤニヤ変な笑いを浮かべて秀人が囁く。
「祐希もさぁ……早く彼女作って俺とWデートしようぜ……?
チャラ男っぽいけど一途でホントは真面目じゃん?俺の彼女に女の子紹介してもらってさぁ………」
言えない。
一途が一周回りに回って俺が彼女を作るばかりか、俺が彼女になれやしないかと女装始めたとか言えない。
ついでに言うなら片思いを拗らせて誰とも付き合ったことが無い事も言えない……!!
「や、そんな恋人とか……無理矢理作るもんじゃないし………」
とかなんとか言っちゃってるけど、無理矢理女の子になろうとしてるぜ俺は……。
恋人を無理矢理作るよりも難易度が高い事に挑戦してるぜ俺は!!!
心の中でひたすら自分にツッコミを入れながら涼しい顔でその場を乗り切る。
すると秀人が優しそうな表情を浮かべ小さく一息をついた。
「………祐希のそういう真面目なところ、俺滅茶苦茶好きだな……。
祐希みたいな性格の女の子がいたら恋しそう………」
「……やめろよ気持ち悪いなぁ……」
そういって冗談っぽく笑いながら心の底で中指を立てる。
ハイハイどうせ俺なんて男ですよ男。女じゃなくて悪かったな。
こんな事を思いながらも、俺みたいな恋しそうなんて言われてしまえば舞い上がる。
単純明快でとても簡単な思考回路。
そんな彼にほんのり憧れていたのが中学時代。
憧れだと思っていたのが恋だと気付いたのはつい最近。
中学時代ヤンキーとか不良とかその類と思われていて、人なんて一切寄り付かなかった。
そんな俺に寄りついてきたのが唯一秀人だけだ。
巧みな人たらしの技に人懐こい笑顔。気が付いたら俺は絆されてしまっていた。
「そういえば今日これから彼女とデートなんだけど、祐希彼女逢ってみる?」
それを言われた瞬間に、これから暫くの間は秀人と放課後に遊べない事を理解する。
ほんの少しだけ胸が痛む気持ちを抑えながら、秀人に笑う。
「……や、俺一応今日用事あるからさ……瞬ちゃんが新しいバイク買ったの見せてもらう」
秀人がほんの少しだけゾっとした表情を浮かべて、わざと身体を震わせる。
そして小さな声で嘆いた。
「………お前、あの人とまだ関わりあんのかよ……」
秀人が呆れた眼差しを俺に向けるのと同時に、校門の前にバイクが停まる。
俺はそれを見付けた瞬間、荷物を掴んで教室から出る準備を始める。
「………瞬ちゃんきちゃったから、俺いくわ!!」
すると秀人も慌てた様に荷物を掴み、俺に連れ添い出る準備を始めた。
「あっ、俺も行く……!!天城先輩一応挨拶しとかなきゃ!!!」
瞬ちゃんこと天城瞬と初めて出会ったのは小学生の頃だった。
ヘロヘロで弱かった俺は公園でゲームを上級生に取られかけていて、それを瞬ちゃんに助けられたのが仲良くなった切っ掛けだ。
瞬ちゃんは剣道や空手を昔していて基本的に喧嘩が強い。
年齢は奈苗と同じで奈苗の同級生にあたることは奈苗から聞いた。
そして奈苗曰く、正直何を考えているかよくわからないので皆から恐れられていたそうだ。
中学に上がったころには瞬ちゃんはもう卒業してしまっていたが、伝説の不良としてその名前は語り継がれていた。
俺は瞬ちゃんの影響でバイクとか車に憧れを持つようになったし、髪の毛だって脱色した。
瞬ちゃんは俺にとってはこういう風になりたい恰好のいい男だった。
瞬ちゃんがヘルメットを外した瞬間に、校門の前にいる女子生徒が色めき立つ。
ホワイトブリーチのかけられた派手な髪色に鼻筋の通った横顔。そして彫りが深い色気のある瞳と長い睫毛。
手足はとても長くて背が高い。
瞬ちゃんは其処に存在しているだけで、正直目茶苦茶絵になる男だ。
「………瞬ちゃん!!」
俺が瞬ちゃんの名前を呼べば瞬ちゃんが俺に手を振る。
秀人は緊張した面持で瞬ちゃんに頭を深く下げた。
「お久しぶりです天城先輩!!!」
一切表情を変えないままの瞬ちゃんがマイペースに秀人にも腕を上げて見せる。
そして瞬ちゃんは俺にヘルメットを投げてきた。
それを慣れた手付きで受け取り頭に付ける。
「……またな」
瞬ちゃんが秀人に向かいそう囁くと、秀人は静かに頭を下げて街に駆け出す。
俺は瞬ちゃんのバイクの後ろに跨りながら心の中でとあることを願っていた。
秀人がとっととあのお多福ブスと別れますようにと。
チークは絶対二色使って顔色が良く見えるものが良い。
ウィッグは茶色の巻き髪か、ロングヘアーのストレート。それなら上手に骨格に馴染む。
それにこの色合いなら実際の俺の髪色と近い。扱いなれた色合いだ。
そしてピンク基調の可愛いワンピースに身を包む。
リボンとレースに包まれたふわっふわの可愛いコーディネート。
気が付けば鏡の中には世界一可愛い女の子が出来上がったのだ。
「………祐希本当すごい化けるねぇ………全然男の子に見えないよー?」
そういいながら俺の姉の奈苗(二十三歳)がふわふわ笑い、俺に向かって携帯電話のカメラを向けてはシャッターを押す。
俺は苦笑いをひたすらに浮かべてぎこちなくピースを作る。
幼い頃から奈苗にひたすら玩具にされ続けた結果、メイクの事には自棄に詳しくなってしまった。
そしてその結果と言えば、俺自体がメイクが出来る様になってしまったのだ。
俺の名前は中延祐希、大学一年生。こう見えて好きなものはバイク。あとは車もちょっと好き。
ちゃんと普通の男の子。
なのにも関わらず今俺は、真っピンクのフリフリが付いたミニスカートを履いている。
「……………やべー、これ滅茶苦茶可愛いんじゃねぇの………?」
思わず自分で自分の女装を褒め称えつつも、ぶっちゃけ戸惑いを隠せないのは真実だ。
鏡の中の自分に関してだけはどちら様ですかという感想しか沸いてこない。
戸惑う俺の目の前で、姉が不思議そうな眼差しをしながら俺に問いかける。
「そういえば祐希さぁ、女装するのずっと嫌がってたのに………なんで着ようと思ったの?」
ぎくり。
今一番聞かれたくない事を奈苗に聞かれている気がする。
俺は奈苗から視線を逸らしながら目を泳がせてこういった。
「………や、ちょっと、用があって………。学園祭近いし、女装するかもしれなくて……」
すると奈苗はとりあえずだけ「ふぅん?」と呟いて部屋から出てゆく。
奈苗が俺の部屋から出て行ったその後で、俺はまた鏡の中の俺と向かい合う。
すまない奈苗………実は用なんて本当はない。
学園祭なんて、俺のいるサークルが出すのは焼きそばの屋台だ。
女装を俺がしたかった理由なんて、本当につまらない私利私欲だ………。
部屋で一人姿見に全身を映し出しては、クルリと一回転して見せる。
何処をどんな風に見たってどうやったって今の俺は、滅茶苦茶可愛い女の子でしかない。
それに多分このレベルであればどの女の子よりも俺が可愛い自信がある。
それでも俺の心の中身的に考えれば俺はやっぱり普通の男の心を持っている。
こんな事をするのは全く本位ではないのだが、今の俺はこうまでしないとやっていけない理由があるのだ。
***
「なぁなぁ祐希!!!これ、彼女と撮ったプリクラ!!!」
満面の笑みで差し出してきたプリクラの写真の女の子は、正直お世辞にも可愛いとは言い難い。
っていうかブス。一体何処からこんなお多福を見付けてきたのかという位にはブス。
多分この分だと三か月もたないだろうと思いながら、俺はとりあえず作り笑いを浮かべる。
大瀧秀人。俺の大学のサークル仲間。
うちの学校のテーブルゲームのサークルなんて、正直名前ばっかりで、扱いなんて高校の帰宅部同然だ。
あんまり来なくて問題が無いのが理由で俺達はこのサークルにいる。
秀人とは中学高校とずっと一緒でいよいよ大学まできてしまった。
この男、百戦錬磨の女好き。
女の事になれば馬鹿だしアホだし本当に仕方がないのだけれど、人たらしのいい奴過ぎてどうしたって嫌いになれない。
爽やかで良く笑っていて、何時も周りに人が絶えない。
滅茶苦茶格好良い男だとは一切思った事は無いけれど、可愛い顔をしている。
清潔感溢れた黒髪が正直良く似合ってる。
秀人はそもそもがありのままで明るいから、俺みたいに取り繕わなくて良いのだ。
「…………彼女出来るの早くね?がっつくなぁ………」
そう言って苦笑いを浮かべて見せれば、ニヤニヤ変な笑いを浮かべて秀人が囁く。
「祐希もさぁ……早く彼女作って俺とWデートしようぜ……?
チャラ男っぽいけど一途でホントは真面目じゃん?俺の彼女に女の子紹介してもらってさぁ………」
言えない。
一途が一周回りに回って俺が彼女を作るばかりか、俺が彼女になれやしないかと女装始めたとか言えない。
ついでに言うなら片思いを拗らせて誰とも付き合ったことが無い事も言えない……!!
「や、そんな恋人とか……無理矢理作るもんじゃないし………」
とかなんとか言っちゃってるけど、無理矢理女の子になろうとしてるぜ俺は……。
恋人を無理矢理作るよりも難易度が高い事に挑戦してるぜ俺は!!!
心の中でひたすら自分にツッコミを入れながら涼しい顔でその場を乗り切る。
すると秀人が優しそうな表情を浮かべ小さく一息をついた。
「………祐希のそういう真面目なところ、俺滅茶苦茶好きだな……。
祐希みたいな性格の女の子がいたら恋しそう………」
「……やめろよ気持ち悪いなぁ……」
そういって冗談っぽく笑いながら心の底で中指を立てる。
ハイハイどうせ俺なんて男ですよ男。女じゃなくて悪かったな。
こんな事を思いながらも、俺みたいな恋しそうなんて言われてしまえば舞い上がる。
単純明快でとても簡単な思考回路。
そんな彼にほんのり憧れていたのが中学時代。
憧れだと思っていたのが恋だと気付いたのはつい最近。
中学時代ヤンキーとか不良とかその類と思われていて、人なんて一切寄り付かなかった。
そんな俺に寄りついてきたのが唯一秀人だけだ。
巧みな人たらしの技に人懐こい笑顔。気が付いたら俺は絆されてしまっていた。
「そういえば今日これから彼女とデートなんだけど、祐希彼女逢ってみる?」
それを言われた瞬間に、これから暫くの間は秀人と放課後に遊べない事を理解する。
ほんの少しだけ胸が痛む気持ちを抑えながら、秀人に笑う。
「……や、俺一応今日用事あるからさ……瞬ちゃんが新しいバイク買ったの見せてもらう」
秀人がほんの少しだけゾっとした表情を浮かべて、わざと身体を震わせる。
そして小さな声で嘆いた。
「………お前、あの人とまだ関わりあんのかよ……」
秀人が呆れた眼差しを俺に向けるのと同時に、校門の前にバイクが停まる。
俺はそれを見付けた瞬間、荷物を掴んで教室から出る準備を始める。
「………瞬ちゃんきちゃったから、俺いくわ!!」
すると秀人も慌てた様に荷物を掴み、俺に連れ添い出る準備を始めた。
「あっ、俺も行く……!!天城先輩一応挨拶しとかなきゃ!!!」
瞬ちゃんこと天城瞬と初めて出会ったのは小学生の頃だった。
ヘロヘロで弱かった俺は公園でゲームを上級生に取られかけていて、それを瞬ちゃんに助けられたのが仲良くなった切っ掛けだ。
瞬ちゃんは剣道や空手を昔していて基本的に喧嘩が強い。
年齢は奈苗と同じで奈苗の同級生にあたることは奈苗から聞いた。
そして奈苗曰く、正直何を考えているかよくわからないので皆から恐れられていたそうだ。
中学に上がったころには瞬ちゃんはもう卒業してしまっていたが、伝説の不良としてその名前は語り継がれていた。
俺は瞬ちゃんの影響でバイクとか車に憧れを持つようになったし、髪の毛だって脱色した。
瞬ちゃんは俺にとってはこういう風になりたい恰好のいい男だった。
瞬ちゃんがヘルメットを外した瞬間に、校門の前にいる女子生徒が色めき立つ。
ホワイトブリーチのかけられた派手な髪色に鼻筋の通った横顔。そして彫りが深い色気のある瞳と長い睫毛。
手足はとても長くて背が高い。
瞬ちゃんは其処に存在しているだけで、正直目茶苦茶絵になる男だ。
「………瞬ちゃん!!」
俺が瞬ちゃんの名前を呼べば瞬ちゃんが俺に手を振る。
秀人は緊張した面持で瞬ちゃんに頭を深く下げた。
「お久しぶりです天城先輩!!!」
一切表情を変えないままの瞬ちゃんがマイペースに秀人にも腕を上げて見せる。
そして瞬ちゃんは俺にヘルメットを投げてきた。
それを慣れた手付きで受け取り頭に付ける。
「……またな」
瞬ちゃんが秀人に向かいそう囁くと、秀人は静かに頭を下げて街に駆け出す。
俺は瞬ちゃんのバイクの後ろに跨りながら心の中でとあることを願っていた。
秀人がとっととあのお多福ブスと別れますようにと。
応援ありがとうございます!
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