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俺の秘密を教えてあげる
俺の秘密を教えてあげる 第二話
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SR400が好きな人間は絶対にバイクをちゃんと好きだと思っている。
昔から変わらない形は矢張バイク好きには堪らないものがあるのだ。
俺も瞬ちゃんも英国製のヴィンテージバイクに憧れがあり、乗りたいバイクはどうしてもクラシックで渋い。
周りの皆はやっぱり後ろが上がってる様なものを好むけれど、俺と瞬ちゃんはなだらかな形がどうしても好きだ。
バイクを運転する人にしか観れない最高の景色を、俺は瞬ちゃんの背中に抱き付きながら見ている。
景色がくるくる変わってゆく様を見ていると心が優しくなるのだ。
「いいなぁこれ滅茶苦茶気持ちいい……俺も早く金貯めなきゃ……」
実際俺の好きなものなんて全てが絵にかいたような男の趣味のものそのものだ。
車の話だってバイクの話だって、女の子に理解してもらえるとは思わない。
完全に男のロマンで自己満足。それが男の趣味だと思う。
「そしたら一緒に出掛けてぇな」
瞬ちゃんがそう呟いたのが聞こえて何だか少しうれしくなる。
きっと瞬ちゃんと並んでバイクで走ることが出来るなら滅茶苦茶楽しいだろう。
けれど俺には今、瞬ちゃんには言えないことがあった。
女の服やら化粧道具が思っていたよりも、ずっとずっと高かったという事を。
「…………うん、そうだね……」
まさかアルバイトで貯めたお金を、殆ど女装道具に費やしたなんて口が裂けても言えるまい。
化粧品を揃えるだけでもこんなに金が飛ぶのなら、女は普段幾ら金をかけて生きているのだろうか。
「祐希、お前なんか暗れぇぞ」
瞬ちゃんにそう問いかけられた瞬間に思わずぎくりとする。
そして俺はそれを誤魔化すように笑ってみせた。
「やー………中々バイト代貯まらなくて………」
「ああ、俺も自由に自分の買い物出来る様になったのは、社会人になってからだから解るな」
多分俺が今している事を瞬ちゃんが知れば、俺の事を嫌いになってしまうだろう。
瞬ちゃんのことは大好きだ。とても大好き。秀人とは違う好きだけど、カッコいいと心から思う。
正しい憧れの存在が俺にとっての瞬ちゃんだ。
だからこそ瞬ちゃんとはこのままで、上手に仲良くしていたい。
「瞬ちゃんほんと有難う!!滅茶苦茶楽しかった!!!」
瞬ちゃんは何時も俺の事をバイクで家まで送り届けてくれる。
こういう所作を見ていると多分瞬ちゃんは恋人だとか、そういう人に対しても同じ様にそうするのだろうと思う。
そういえば俺は瞬ちゃんに恋人がいるのかとか、そんな色めいた話を聞いた事がない。
それに瞬ちゃんも俺にそれを聞いてこないし、正直それでいいとさえ思っている。
色気のある話をしなくても、作っていける人間関係は存在していると本気で思う。
「おう、また近いうちに。……そういえばお前と前に見た映画のDVD手に入ったから、近々また家来いよ」
瞬ちゃんと俺は週に一・二回は必ずあっているし、瞬ちゃんの家に泊まりに行くこともザラだ。
社会人になってしまっても変わらず俺との関わりを続けてくれているのが嬉しい。
瞬ちゃんは今酒屋さんに勤めていて、平日の夜は繁華街にお酒を配達しているそうだ。
日曜日の夜の瞬ちゃんが休みの時間を貰い瞬ちゃんの家によく遊びに行っている。
「あ、じゃあ日曜行くね!!お仕事いってらっしゃい!!」
俺がそう言って手を振れば、瞬ちゃんは颯爽と夜の街へ向かいバイクを走らせる。
あんな風になるのが理想だったのに、今の俺は一体何をしているんだろうなんて思う。
だけど正直今更自分がやってる事は変えられない。
家に帰り部屋に入るなり自分の顔のスキンケアを始める。
正直自分の女の子の姿に自信だって粗方付いてきた。
だからそろそろこのまま街に出てみてもいいだろう。
女の子の姿になるのは俺にとってはちょっとした復讐みたいなところがある。
秀人が選ぶどんな女の子たちよりも俺が一番可愛いって思いたい。
そして正直彼女たちを見下して自分の心を落ち着かせたいと思っているのだ。
我ながら根暗だとは思ってはいるけれど自分が満足するのにはこれが一番いい。
だって俺はどう頑張ってどう逆立ちしたって秀人に愛されることが無いんだから。
「あー………やるせないなぁ………」
思わずそう呟きながらチラリと壁に引っ掛けた女装用のワンピースを見上げる。
タートルネックで体系が上手く誤魔化す事のできる白いふわふわしたニット。
俺のクローゼットの中にある服は女の子のものと男のもので既に半々だ。
わざわざ自分のサイズの靴までもう揃えたし、バッグだってアクセサリーだって買い込んだ。
それなのにまだ日の目を見ずに可愛いお洋服は眠っている。
頭を過って消えてゆお多福みたいなブスの顔に、何だか少しだけむかっ腹が立ってくる。
あの程度の女がどうして俺の好きな人の隣にいて、俺が傍に居られないのだろうか。
正直あれくらいの女だったら女装した俺の方が遙かに可愛らしいというのに。
正直段々腸が煮えくり返る自分がいて改めて自分のダサさも理解する。
でも俺が幾らどれだけ恋焦がれたところで、土俵にさえ上げてもらえないのが現実なのだ。
『………祐希のそういう真面目なところ、俺滅茶苦茶好きだな……。
祐希みたいな性格の女の子がいたら恋しそう………』
そんなに言うなら俺じゃ駄目か?俺でいいだろう?
思わず腹の底から湧いてくる不満を抑えながら、余りにも埒が明かない事を理解する。
そして俺はその時にやっと週末に街に繰り出す覚悟を決めたのだ。
***
メイクも完璧。コーディネートも最高。全てが完璧な自信はある。
姉のススメに合わせて小さめのリュックをしょい込んで、ロングブーツで外にでる。
初めて女装で外に出るという経験は、とても緊張感のあるものだ。
正直別に何にもしていないのに、滅茶苦茶悪い事をしている気がしてならない。
ヒソヒソ話をする女の子とすれ違う時に、実は女装がバレていて笑われてるのかと思う。
正直この時に俺は街に出てきた事を後悔さえしていた。
「……滅茶苦茶怖え………」
思わず嘆いてしまえば恐怖感が現実のものになる。
するとその時、俺の肩がいきなり何者かに触られたのだ。
「ひえっ………!!!」
思わず悲鳴を上げて後ろをみれば見知らぬ男が立っている。
その人は清潔感がある服装に身を包み、それなりに高そうな服に身を包んでいた。
手首に輝いている腕時計はとても高そうで、兎に角金持ちである事だけが伺える。
彼は俺の悲鳴に少し驚いているようで豆鉄砲を喰らわせられた鳩みたいな顔をしていた。
「…………え、そんなびっくりすることある?」
そう言いながら男は微笑み俺の顔を覗き込んでくる。
「え、あの、何か御用ですか………?」
俺がそう言って問いかけてみれば男はしなを作って見せる。
なんでこの人は見ず知らずの俺の顔を覗き込んでくるのだろう。
すると男は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「滅茶苦茶可愛いなーって思って、ナンパ?」
…………ナンパ?
今多分俺の方が豆鉄砲を喰らわせられた鳩同然の顔をしているに違いない。
俺は思わず硬直したままで男に向かってこう言ってしまった。
「え………あの……………俺、男なんですけど…………」
俺と彼の間の空気が完全に凍り付くのが解る。
男もさっき浮かべた笑顔で固まり、俺も引き攣ったままで固まっている。
すると男が凍り付いたままの表情でこう返す。
「うっそぉ~?滅茶苦茶可愛いのにぃ?」
あ、この人冗談だと思っているみたいだ。
男は俺の反応を見ながら明らかに困っているのが手に取るように解る。
どうしていいか解らない俺に、彼は深く溜め息を吐いてこういった。
「………いいや、君が男でも面白そうだからさ、ご飯一緒に食べない?」
この男本気で言ってるのか?
俺が思いっきり固まっていれば男は続けた。
「や、あの……滅茶苦茶面白そうだから、さ。変な趣味は無いから安心して……?」
男は度胸とでも云ったものだろうか。俺は男の提案に静かに頷く。
そして男に連れ添い街の中へと入って行った。
昔から変わらない形は矢張バイク好きには堪らないものがあるのだ。
俺も瞬ちゃんも英国製のヴィンテージバイクに憧れがあり、乗りたいバイクはどうしてもクラシックで渋い。
周りの皆はやっぱり後ろが上がってる様なものを好むけれど、俺と瞬ちゃんはなだらかな形がどうしても好きだ。
バイクを運転する人にしか観れない最高の景色を、俺は瞬ちゃんの背中に抱き付きながら見ている。
景色がくるくる変わってゆく様を見ていると心が優しくなるのだ。
「いいなぁこれ滅茶苦茶気持ちいい……俺も早く金貯めなきゃ……」
実際俺の好きなものなんて全てが絵にかいたような男の趣味のものそのものだ。
車の話だってバイクの話だって、女の子に理解してもらえるとは思わない。
完全に男のロマンで自己満足。それが男の趣味だと思う。
「そしたら一緒に出掛けてぇな」
瞬ちゃんがそう呟いたのが聞こえて何だか少しうれしくなる。
きっと瞬ちゃんと並んでバイクで走ることが出来るなら滅茶苦茶楽しいだろう。
けれど俺には今、瞬ちゃんには言えないことがあった。
女の服やら化粧道具が思っていたよりも、ずっとずっと高かったという事を。
「…………うん、そうだね……」
まさかアルバイトで貯めたお金を、殆ど女装道具に費やしたなんて口が裂けても言えるまい。
化粧品を揃えるだけでもこんなに金が飛ぶのなら、女は普段幾ら金をかけて生きているのだろうか。
「祐希、お前なんか暗れぇぞ」
瞬ちゃんにそう問いかけられた瞬間に思わずぎくりとする。
そして俺はそれを誤魔化すように笑ってみせた。
「やー………中々バイト代貯まらなくて………」
「ああ、俺も自由に自分の買い物出来る様になったのは、社会人になってからだから解るな」
多分俺が今している事を瞬ちゃんが知れば、俺の事を嫌いになってしまうだろう。
瞬ちゃんのことは大好きだ。とても大好き。秀人とは違う好きだけど、カッコいいと心から思う。
正しい憧れの存在が俺にとっての瞬ちゃんだ。
だからこそ瞬ちゃんとはこのままで、上手に仲良くしていたい。
「瞬ちゃんほんと有難う!!滅茶苦茶楽しかった!!!」
瞬ちゃんは何時も俺の事をバイクで家まで送り届けてくれる。
こういう所作を見ていると多分瞬ちゃんは恋人だとか、そういう人に対しても同じ様にそうするのだろうと思う。
そういえば俺は瞬ちゃんに恋人がいるのかとか、そんな色めいた話を聞いた事がない。
それに瞬ちゃんも俺にそれを聞いてこないし、正直それでいいとさえ思っている。
色気のある話をしなくても、作っていける人間関係は存在していると本気で思う。
「おう、また近いうちに。……そういえばお前と前に見た映画のDVD手に入ったから、近々また家来いよ」
瞬ちゃんと俺は週に一・二回は必ずあっているし、瞬ちゃんの家に泊まりに行くこともザラだ。
社会人になってしまっても変わらず俺との関わりを続けてくれているのが嬉しい。
瞬ちゃんは今酒屋さんに勤めていて、平日の夜は繁華街にお酒を配達しているそうだ。
日曜日の夜の瞬ちゃんが休みの時間を貰い瞬ちゃんの家によく遊びに行っている。
「あ、じゃあ日曜行くね!!お仕事いってらっしゃい!!」
俺がそう言って手を振れば、瞬ちゃんは颯爽と夜の街へ向かいバイクを走らせる。
あんな風になるのが理想だったのに、今の俺は一体何をしているんだろうなんて思う。
だけど正直今更自分がやってる事は変えられない。
家に帰り部屋に入るなり自分の顔のスキンケアを始める。
正直自分の女の子の姿に自信だって粗方付いてきた。
だからそろそろこのまま街に出てみてもいいだろう。
女の子の姿になるのは俺にとってはちょっとした復讐みたいなところがある。
秀人が選ぶどんな女の子たちよりも俺が一番可愛いって思いたい。
そして正直彼女たちを見下して自分の心を落ち着かせたいと思っているのだ。
我ながら根暗だとは思ってはいるけれど自分が満足するのにはこれが一番いい。
だって俺はどう頑張ってどう逆立ちしたって秀人に愛されることが無いんだから。
「あー………やるせないなぁ………」
思わずそう呟きながらチラリと壁に引っ掛けた女装用のワンピースを見上げる。
タートルネックで体系が上手く誤魔化す事のできる白いふわふわしたニット。
俺のクローゼットの中にある服は女の子のものと男のもので既に半々だ。
わざわざ自分のサイズの靴までもう揃えたし、バッグだってアクセサリーだって買い込んだ。
それなのにまだ日の目を見ずに可愛いお洋服は眠っている。
頭を過って消えてゆお多福みたいなブスの顔に、何だか少しだけむかっ腹が立ってくる。
あの程度の女がどうして俺の好きな人の隣にいて、俺が傍に居られないのだろうか。
正直あれくらいの女だったら女装した俺の方が遙かに可愛らしいというのに。
正直段々腸が煮えくり返る自分がいて改めて自分のダサさも理解する。
でも俺が幾らどれだけ恋焦がれたところで、土俵にさえ上げてもらえないのが現実なのだ。
『………祐希のそういう真面目なところ、俺滅茶苦茶好きだな……。
祐希みたいな性格の女の子がいたら恋しそう………』
そんなに言うなら俺じゃ駄目か?俺でいいだろう?
思わず腹の底から湧いてくる不満を抑えながら、余りにも埒が明かない事を理解する。
そして俺はその時にやっと週末に街に繰り出す覚悟を決めたのだ。
***
メイクも完璧。コーディネートも最高。全てが完璧な自信はある。
姉のススメに合わせて小さめのリュックをしょい込んで、ロングブーツで外にでる。
初めて女装で外に出るという経験は、とても緊張感のあるものだ。
正直別に何にもしていないのに、滅茶苦茶悪い事をしている気がしてならない。
ヒソヒソ話をする女の子とすれ違う時に、実は女装がバレていて笑われてるのかと思う。
正直この時に俺は街に出てきた事を後悔さえしていた。
「……滅茶苦茶怖え………」
思わず嘆いてしまえば恐怖感が現実のものになる。
するとその時、俺の肩がいきなり何者かに触られたのだ。
「ひえっ………!!!」
思わず悲鳴を上げて後ろをみれば見知らぬ男が立っている。
その人は清潔感がある服装に身を包み、それなりに高そうな服に身を包んでいた。
手首に輝いている腕時計はとても高そうで、兎に角金持ちである事だけが伺える。
彼は俺の悲鳴に少し驚いているようで豆鉄砲を喰らわせられた鳩みたいな顔をしていた。
「…………え、そんなびっくりすることある?」
そう言いながら男は微笑み俺の顔を覗き込んでくる。
「え、あの、何か御用ですか………?」
俺がそう言って問いかけてみれば男はしなを作って見せる。
なんでこの人は見ず知らずの俺の顔を覗き込んでくるのだろう。
すると男は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「滅茶苦茶可愛いなーって思って、ナンパ?」
…………ナンパ?
今多分俺の方が豆鉄砲を喰らわせられた鳩同然の顔をしているに違いない。
俺は思わず硬直したままで男に向かってこう言ってしまった。
「え………あの……………俺、男なんですけど…………」
俺と彼の間の空気が完全に凍り付くのが解る。
男もさっき浮かべた笑顔で固まり、俺も引き攣ったままで固まっている。
すると男が凍り付いたままの表情でこう返す。
「うっそぉ~?滅茶苦茶可愛いのにぃ?」
あ、この人冗談だと思っているみたいだ。
男は俺の反応を見ながら明らかに困っているのが手に取るように解る。
どうしていいか解らない俺に、彼は深く溜め息を吐いてこういった。
「………いいや、君が男でも面白そうだからさ、ご飯一緒に食べない?」
この男本気で言ってるのか?
俺が思いっきり固まっていれば男は続けた。
「や、あの……滅茶苦茶面白そうだから、さ。変な趣味は無いから安心して……?」
男は度胸とでも云ったものだろうか。俺は男の提案に静かに頷く。
そして男に連れ添い街の中へと入って行った。
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