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俺の秘密を教えてあげる
俺の秘密を教えてあげる 第三話
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キラキラした高そうなシャンデリアの下で、SNSに写真を載せたら色々な人が群がりそうな食事を見ている。
真っ白な皿の上には洋風の魚の天ぷらみたいなものと、大きな海老みたいなものが乗っている。
オレンジ色のソースがかけられたそれに添えるように、茹でられたブロッコリーとなんだかお洒落な葉っぱが乗っている。
俺の少ない知識でその料理を説明するとするなら、そんな言葉位しか出てこない。
「俺の奢りだからさ、気にしないで食べて?」
そう言ってニコニコ俺の目の前で男が笑うけれど、高そうなものだからびっくりしている訳ではない。
強いて言うなら、今俺はどうやってこれを食べるのかが解らないのだ。
こんなにお洒落に盛り付けられた食べ物なんて、早々俺は食べることがない。
この海老みたいなヤツとか一体みんなどうやって食べているというのだ。
男の方を見れば上手いことフォークとナイフを使いながらそれを平らげている。
俺は見よう見真似をしながら、やっとの事でその料理を口にした。
「どう?それ美味しい?」
美味しいのはわかる。美味しいものなのはよく理解してる。
美味しいですけれど!俺には!敷居が高過ぎて高そうな味という感想以外出てきません!
俺はそんな事を頭の中に浮かべつつ、作り笑いを浮かべて見せた。
「凄い美味しいです……!」
そう言って食べ進めれば男は嬉しそうに笑う。
男の様子を眺めながら、俺は彼が地味に自分の事を女の子として扱っていることに動揺する。
これは間違いなくエスコートだ。
すると男も自分自身が俺を女として扱っている事実に、動揺を隠せていないらしくフリーズをした。
二人で我に返りながら気まずい空気感で笑う。
そして俺と男はお互いに目を合わせてから、お互いに腹を括る覚悟を決めた。
「俺ね、アキラっていうの。………君、名前は?」
男はアキラと名乗り狐のような顔に笑みを浮かべる。
そういえば俺は自分の名前をどうするべきなのかを、正直決めていなかった。
でも正直俺の名前なら女でもその名前の子がよくいる。
「……ユウキ」
ありのままの自分の名前を答えながら不器用に食事を食べ進める。
するとアキラさんが俺に問いかけた。
「そっか、ユウキちゃんっていうんだ?
なんで女装始めたの??本当に女の子にしか見えないよねぇ……」
そう言いながら俺の姿をまじまじと見て、ほんの少しだけ惚けている。
俺はその時に自分の女装が、思っている以上にイケてることを理解した。
「……女の子になりたいって、思うような事があって。
実は今日俺、初めて街にこの姿で出たんです………」
初めて人に自分の気持ちを吐露しているような、そんな気がしている。
受け入れてくれるかどうかなんて正直さっぱり解らない。
けれど初めて本当に触れてほしい自分に触って貰ったような、そんな不思議な気持ちになっていた。
「え!?今日が初めてなの!?それはもっと着なきゃ勿体ないよ!!
これだけ可愛いのに!!」
アキラさんが目をキラキラさせながら俺を見る度に、何だか少し気持ちがよくなってくる。
そしてすっかり俺は調子づいて、はにかんで笑って見せた。
今迄に無いくらいに女装姿を褒められる度に舞い上がれる。
目茶苦茶気持ちよくて仕方ない。
アキラさんと食事を終わらせて連絡先の交換をする。
そして適当にデートの様に振る舞い、今日という一日を過ごし帰りの時間を迎えた。
アキラさんはこの日ひたすら俺を可愛いと褒め称え、本物の女子のように手厚くエスコートしてくれたのだ。
「……ユウキちゃん、今日ありがとうね」
そう言いながら何故かアキラさんが俺の身体を抱き締める。
けれど俺はこの時に本当に上機嫌極まりなかった。
アキラさんの頬にサービス程度のキスをすれば、彼が顔を真っ赤に染め上げる。
アキラさんの表情を見てしまった瞬間に俺は内心こう思っていた。
俺は思っている以上にイケてるのではなく、まじでイケてるみたいだ。
「ユウキちゃんさ……たまにで良いから、また遊んでくれる……?」
「え、良いですよ?」
いや寧ろ俺は良い。全然良い。何も損をしていない。
けれど俺は本当は男だというのにアキラさんこそ本当に大丈夫だろうか。
するとアキラさんは気を良くして俺に二万円のお金を握らせてきたのだ。
「ありがとう。これ、今日のお礼。何か好きなものでも買って……!!」
そう言いながら去ってゆくアキラさんの背中を見送りながら、手のひらの中の二万円を見る。
ちょっと待て。これは今流行しているパパ活ってヤツではないのか。
これは完全にダメなことをしているのではなかろうか。
正直自分が穢れてしまった様な気持ちになりつつも俺は帰路につく。
けれど金銭なんてものまで発生してしまうなんて、俺は目茶苦茶にイケてるのではなかろうか。
悪魔に魂を売り払ったような気持ちになりつつも俺はそれですっかり女装に味をしめる。
そして俺は仕事のお姉さんの如く、アキラさんにお礼の連絡を入れたのだった。
***
瞬ちゃんが映画のDVDを流している隣で俺はぼんやりとその映像を眺めている。
俺が唯一映画を見るタイミングと言えば、瞬ちゃんの隣にいる時位だ。
映画は見る迄が億劫だけど見てしまってからは面白い。
瞬ちゃん曰く、クラシックなバイクを好きになった理由は海外の映画からだそうだ。
こうしていると改めて瞬ちゃんは全てが女の子にモテそうな要素しかない。
古い映画の映像が流れる中で、ビールを片手の瞬ちゃんが画面に向かって指をさす。
「解る?今のトライアンフ」
「え?どこ?」
瞬ちゃんが持ってくる映画にはよくバイクが出てくる。
そして瞬ちゃんの教えてくれるバイクは大体俺の好みなのだ。
「何時かトライアンフ自分の買いてぇんだよな」
そう言いながら瞬ちゃんが穏やかな目をすると、何となく優しい気持ちになる。
瞬ちゃんは正直、余り表情を変えるようなタイプではないけれど、良く見てさえいれば今の気持ちがすぐ解るのだ。
「トライアンフ自分で買うなんて、ホント大人って感じ………!!!」
俺はそう言って純粋に尊敬の眼差しを瞬ちゃんに送ると、少しだけ照れ臭そうに目を叛ける。
瞬ちゃんは褒められたりすると、何時もこういう風に目を逸らすのだ。
割と恥ずかしがり屋で不器用なところが皆に怖いと誤解されがちである。
秀人みたいに解りやすい人間の方が絶対に得だが、瞬ちゃんのもつ不思議な雰囲気も独特で好きだ。
恋愛の好きは本当に秀人だが、憧れという目線なら絶対に瞬ちゃんに魅力を感じる。
こんな近寄りがたい雰囲気を醸し出す大人の脇に、俺みたいなのがいても良いのか謎だ。
けれど瞬ちゃんもそれなりに楽しそうだから、この形が一番いいんだと思う。
「祐希、寝るか」
瞬ちゃんはそう言いながら何時も何故か俺を一緒のベッドに引き込む。
多分俺の事を昔と変わらず子供扱いしてくれているのか、動物か何かみたいに思っているような気がする。
「うん、寝るー」
瞬ちゃんの隣に潜り込んで目を閉じた瞬ちゃんの顔を見つめる。
その瞬間俺の頭の中には、先日アキラさんから受け取った二万円の映像が浮かんで消えた。
思えば瞬ちゃんは昔から俺を知っているし、俺を本当に可愛がってくれている。
瞬ちゃんにだけは正直、俺があんなことしたことを知られたくないなぁと思う。
別に瞬ちゃんを騙したりはしていないけど、騙しているようで心苦しいものがある。
「………どうした?」
慌てて瞬ちゃんを見れば瞬ちゃんが不思議そうな眼差しで俺を見ている。
そういえば俺は瞬ちゃん曰く寝付きが滅茶苦茶良いそうだ。
珍しく物思いに耽ってしまっていた。
「なんでもない……」
そういって誤魔化すように目を閉じて眠ることに集中する。
そしたらやっぱり気が付いたら朝を迎えていて、改めて俺は本当に寝付きがいいんだと理解した。
真っ白な皿の上には洋風の魚の天ぷらみたいなものと、大きな海老みたいなものが乗っている。
オレンジ色のソースがかけられたそれに添えるように、茹でられたブロッコリーとなんだかお洒落な葉っぱが乗っている。
俺の少ない知識でその料理を説明するとするなら、そんな言葉位しか出てこない。
「俺の奢りだからさ、気にしないで食べて?」
そう言ってニコニコ俺の目の前で男が笑うけれど、高そうなものだからびっくりしている訳ではない。
強いて言うなら、今俺はどうやってこれを食べるのかが解らないのだ。
こんなにお洒落に盛り付けられた食べ物なんて、早々俺は食べることがない。
この海老みたいなヤツとか一体みんなどうやって食べているというのだ。
男の方を見れば上手いことフォークとナイフを使いながらそれを平らげている。
俺は見よう見真似をしながら、やっとの事でその料理を口にした。
「どう?それ美味しい?」
美味しいのはわかる。美味しいものなのはよく理解してる。
美味しいですけれど!俺には!敷居が高過ぎて高そうな味という感想以外出てきません!
俺はそんな事を頭の中に浮かべつつ、作り笑いを浮かべて見せた。
「凄い美味しいです……!」
そう言って食べ進めれば男は嬉しそうに笑う。
男の様子を眺めながら、俺は彼が地味に自分の事を女の子として扱っていることに動揺する。
これは間違いなくエスコートだ。
すると男も自分自身が俺を女として扱っている事実に、動揺を隠せていないらしくフリーズをした。
二人で我に返りながら気まずい空気感で笑う。
そして俺と男はお互いに目を合わせてから、お互いに腹を括る覚悟を決めた。
「俺ね、アキラっていうの。………君、名前は?」
男はアキラと名乗り狐のような顔に笑みを浮かべる。
そういえば俺は自分の名前をどうするべきなのかを、正直決めていなかった。
でも正直俺の名前なら女でもその名前の子がよくいる。
「……ユウキ」
ありのままの自分の名前を答えながら不器用に食事を食べ進める。
するとアキラさんが俺に問いかけた。
「そっか、ユウキちゃんっていうんだ?
なんで女装始めたの??本当に女の子にしか見えないよねぇ……」
そう言いながら俺の姿をまじまじと見て、ほんの少しだけ惚けている。
俺はその時に自分の女装が、思っている以上にイケてることを理解した。
「……女の子になりたいって、思うような事があって。
実は今日俺、初めて街にこの姿で出たんです………」
初めて人に自分の気持ちを吐露しているような、そんな気がしている。
受け入れてくれるかどうかなんて正直さっぱり解らない。
けれど初めて本当に触れてほしい自分に触って貰ったような、そんな不思議な気持ちになっていた。
「え!?今日が初めてなの!?それはもっと着なきゃ勿体ないよ!!
これだけ可愛いのに!!」
アキラさんが目をキラキラさせながら俺を見る度に、何だか少し気持ちがよくなってくる。
そしてすっかり俺は調子づいて、はにかんで笑って見せた。
今迄に無いくらいに女装姿を褒められる度に舞い上がれる。
目茶苦茶気持ちよくて仕方ない。
アキラさんと食事を終わらせて連絡先の交換をする。
そして適当にデートの様に振る舞い、今日という一日を過ごし帰りの時間を迎えた。
アキラさんはこの日ひたすら俺を可愛いと褒め称え、本物の女子のように手厚くエスコートしてくれたのだ。
「……ユウキちゃん、今日ありがとうね」
そう言いながら何故かアキラさんが俺の身体を抱き締める。
けれど俺はこの時に本当に上機嫌極まりなかった。
アキラさんの頬にサービス程度のキスをすれば、彼が顔を真っ赤に染め上げる。
アキラさんの表情を見てしまった瞬間に俺は内心こう思っていた。
俺は思っている以上にイケてるのではなく、まじでイケてるみたいだ。
「ユウキちゃんさ……たまにで良いから、また遊んでくれる……?」
「え、良いですよ?」
いや寧ろ俺は良い。全然良い。何も損をしていない。
けれど俺は本当は男だというのにアキラさんこそ本当に大丈夫だろうか。
するとアキラさんは気を良くして俺に二万円のお金を握らせてきたのだ。
「ありがとう。これ、今日のお礼。何か好きなものでも買って……!!」
そう言いながら去ってゆくアキラさんの背中を見送りながら、手のひらの中の二万円を見る。
ちょっと待て。これは今流行しているパパ活ってヤツではないのか。
これは完全にダメなことをしているのではなかろうか。
正直自分が穢れてしまった様な気持ちになりつつも俺は帰路につく。
けれど金銭なんてものまで発生してしまうなんて、俺は目茶苦茶にイケてるのではなかろうか。
悪魔に魂を売り払ったような気持ちになりつつも俺はそれですっかり女装に味をしめる。
そして俺は仕事のお姉さんの如く、アキラさんにお礼の連絡を入れたのだった。
***
瞬ちゃんが映画のDVDを流している隣で俺はぼんやりとその映像を眺めている。
俺が唯一映画を見るタイミングと言えば、瞬ちゃんの隣にいる時位だ。
映画は見る迄が億劫だけど見てしまってからは面白い。
瞬ちゃん曰く、クラシックなバイクを好きになった理由は海外の映画からだそうだ。
こうしていると改めて瞬ちゃんは全てが女の子にモテそうな要素しかない。
古い映画の映像が流れる中で、ビールを片手の瞬ちゃんが画面に向かって指をさす。
「解る?今のトライアンフ」
「え?どこ?」
瞬ちゃんが持ってくる映画にはよくバイクが出てくる。
そして瞬ちゃんの教えてくれるバイクは大体俺の好みなのだ。
「何時かトライアンフ自分の買いてぇんだよな」
そう言いながら瞬ちゃんが穏やかな目をすると、何となく優しい気持ちになる。
瞬ちゃんは正直、余り表情を変えるようなタイプではないけれど、良く見てさえいれば今の気持ちがすぐ解るのだ。
「トライアンフ自分で買うなんて、ホント大人って感じ………!!!」
俺はそう言って純粋に尊敬の眼差しを瞬ちゃんに送ると、少しだけ照れ臭そうに目を叛ける。
瞬ちゃんは褒められたりすると、何時もこういう風に目を逸らすのだ。
割と恥ずかしがり屋で不器用なところが皆に怖いと誤解されがちである。
秀人みたいに解りやすい人間の方が絶対に得だが、瞬ちゃんのもつ不思議な雰囲気も独特で好きだ。
恋愛の好きは本当に秀人だが、憧れという目線なら絶対に瞬ちゃんに魅力を感じる。
こんな近寄りがたい雰囲気を醸し出す大人の脇に、俺みたいなのがいても良いのか謎だ。
けれど瞬ちゃんもそれなりに楽しそうだから、この形が一番いいんだと思う。
「祐希、寝るか」
瞬ちゃんはそう言いながら何時も何故か俺を一緒のベッドに引き込む。
多分俺の事を昔と変わらず子供扱いしてくれているのか、動物か何かみたいに思っているような気がする。
「うん、寝るー」
瞬ちゃんの隣に潜り込んで目を閉じた瞬ちゃんの顔を見つめる。
その瞬間俺の頭の中には、先日アキラさんから受け取った二万円の映像が浮かんで消えた。
思えば瞬ちゃんは昔から俺を知っているし、俺を本当に可愛がってくれている。
瞬ちゃんにだけは正直、俺があんなことしたことを知られたくないなぁと思う。
別に瞬ちゃんを騙したりはしていないけど、騙しているようで心苦しいものがある。
「………どうした?」
慌てて瞬ちゃんを見れば瞬ちゃんが不思議そうな眼差しで俺を見ている。
そういえば俺は瞬ちゃん曰く寝付きが滅茶苦茶良いそうだ。
珍しく物思いに耽ってしまっていた。
「なんでもない……」
そういって誤魔化すように目を閉じて眠ることに集中する。
そしたらやっぱり気が付いたら朝を迎えていて、改めて俺は本当に寝付きがいいんだと理解した。
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