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イケナイことをしていたい
イケナイことをしていたい 第一話
しおりを挟む「またさー、別れちゃったんだけどさー………新しい彼女すぐ出来ちゃって………」
明るい気持ちになった瞬間に急転直下でドン底に落下させられる。
そういって笑う秀人がまた新しい彼女とのプリクラを差し出してきた。
この男はこの男で何回彼女を変えて、何回プリクラの撮影を繰り返すのだろうか。
今度のブスはお多福ではなく、ぶっちゃけてしまえば不幸顔ブスである。
「……秀人さぁ、彼女出来る回転数早すぎない……?」
俺が呆れた風にそう言うと秀人が照れたように笑う。正直最早これは照れるところでは無い。
でもその照れ笑いの表情はとても可愛くて、このくるくる変わる表情が堪らないなんて思ってしまっていた。
もう此処まで来てしまうと俺は俺で自分自身に呆れてくる。
「や……なんか別れるとすぐに告白されるから…………」
ああ、俺の好きな人はやはり皆に好かれている。
改めてそれを思い知りながら何時も通りに気持ちを隠す。
そして携帯を開いた時、メッセージが一つ来ている事に気が付いた。
『この間はありがとう。アキラです。
ユウキちゃんが嫌で無ければ、今週末またご飯行かない?お返事待ってます』
いや、アキラ。お前自分から男を飯に誘ってるけど、お前ホントにこれでいいのか?
心の中でひたすら突っ込みを入れていれば、新しい彼女とのプリクラを見ている秀人の顔が視界に入る。
この優しい眼差しはきっと俺のものになる日は来ない。
秀人に勘付かれないようにメッセージの返事を返す。
『お疲れ様です♡
えー!!ぜひぜひ行きましょ♡この間めちゃくちゃ楽しかったですよー♡
また会えるのすごく嬉しい………♡』
いや、俺。お前はお前でこれでいいんかい。
思わず自分で自分の心に突っ込みを入れれば秀人と目が合う。
秀人は心配そうな表情を浮かべて俺にこう言った。
「…………え、祐希大丈夫……?お前今顔面モヤイ像みたくなってたぞ……?」
顔面がモヤイ像………。
思わず硬直してしまったが、安易に想像できるのが痛い。
「ああ、お前の話つまんないから、ちょっとエロサイト見てたらグロい画像でてきたわ」
冗談交じりにそう答えれば、秀人はほんの少しだけショックを受けたような表情を浮かべた。
「えー!?祐希流石にそれ冷たくない!?」
そう言いながら俺に泣いたように縋りつく秀人は、正直滅茶苦茶可愛らしい。
この柴犬を思わせる様な雰囲気が本当に堪らないのだ。
「………冗談だよ。秀人とまた放課後遊べないからさ、寂しいなーなんて」
これは本当の気持ち。在りのままの嘘じゃない俺の感情。
すると秀人が俺の肩をいきなり抱き寄せて、俺の背中をバンバン叩く。
秀人が俺の事を抱きしめてくる段階で俺の思考は完全停止した。
「祐希に彼女が出来たらさ………絶対Wデートとかしような………!!!」
秀人の言葉を聞きながら俺は思わず苦笑いを浮かべる。
まさか秀人も今俺が彼女を作る場合ではなく、俺自身が彼女に向かってるとは夢にも思ってないだろう。
***
「あ、ユウキちゃん!!」
アキラさんが明らかに気合の入ったコーディネートで待ち合わせ場所に立っている。
俺はアキラさんに手を振りながら微笑んだ。
「お待たせしましたアキラさん!!」
今日の俺のコーディネートは黒いチェックの柄の、ウエストをリボンで結んで着るワンピース。
髪型はストレートのロングヘアを選んだ。
今日の俺も間違いなく可愛いこと位もう自分が一番よく解ってる。
「ユウキちゃん今日もほんと可愛いね………」
アキラさんはそう囁きながら俺の腰に腕を回す。
そして俺もわざとしなを作りながら、アキラさんの腕にしがみ付いた。
アキラさんの表情が明らかに溶けている事を、俺は正直解っている。
そしてそんなアキラさんを見ながら俺は改めてこう思った。
なぁあんた、冷静になってくれ。こんな格好をしている俺が言うのもおかしいが。
お前が連れ歩いている可愛い女の子は、ちんこが生えている男だぞ、と。
「やだー!!嬉しい有難う!!」
実は俺はこの日の為に裏声を習得した。血の滲む努力と訓練の結果、声まで女子に近付いた。
もっと違う事を頑張るべきだという事位、本当は俺自身が良く解っている。
でも正直今俺の心は完全に女装を頑張る事に振り切っていた。
「ユウキちゃん、滅茶苦茶女装慣れたんじゃない?」
アキラさんにそう言われながら、内心滅茶苦茶今心の中でドヤ顔を浮かべている。
最早今の俺は可愛くて当たり前なのだ。
今日は今日でまた美味しいご飯をご馳走になり、何故かデートスポット的な公園へと向かう。
するとアキラさんがほんの少しだけ照れたような表情で呟いた。
「………あのさ、手、繋いでいい?」
アキラさんに微笑み返しながら手に手を重ね合わせる。
そして指先を絡ませてから心の中でこう思った。
おいアキラ。しっかりしてくれ。これ男だぞ。ちんこついてる男なんだからな。
すると嬉しそうな表情を浮かべたアキラさんが、俺の手を握り返しながら囁いた。
「……なんか、ユウキちゃんの手って女の子みたいに柔らかい気がする……」
それは申し訳ないけど間違いなく錯覚だ。
俺の手は思ってるほど綺麗ではないし、どちらかと言えば厳つい方だ。
もう女の子の格好さえしていたら、この人は何でも女に見えるのではなかろうか。
色々な突っ込みたい気持ちを心の中に抑え込みながら、夕方を迎えた街を見上げる。
するとアキラさんは俺の掌に小さなポチ袋を握らせた。
「今日もありがとう………!!!」
満面の笑みを浮かべながら去ってゆくアキラさんに手を振り、ポチ袋の中身を見る。
中には勿論お金が入っていた。
男子学生がまさかの女装してパパ活デビューである。
一回目にお金を受け取った時は、正直不可抗力みたいなものだ。
でももうこれは二回目だ。間違いなく俺は悪い事をしている。
こうして人間という生き物は、穢れを知ってゆくのだろう。そんな哲学的な事をミニスカ姿で思う。
罪悪感にほんの少しだけ心を痛ませたその時、俺の背後から声がした。
「ねぇ!!お姉さん滅茶苦茶可愛いね!?一人!?」
振り返ってみれば、若いラッパーみたいな恰好をした男の人が立っている。
この人も多分、ナンパをしに来た人なんだろう。
「………おねーさんじゃないんだぁ。お兄さんなの本当は」
そう言って微笑めば、彼は露骨に驚いてみせる。
「……はぁ!?!?嘘でしょ!?マジで!?」
そう言いながらも何となく楽しそうで、完全に異文化との交流を楽しんでいる様に見える。
多分この男の人もアキラさんみたいに遊んでくれるタイプの人だ。
でも多分アキラさんみたいに、俺の性別が頭でごちゃごちゃになる人では無い。
もっと楽に一緒に遊んでくれるような、そんな感じの人。
「……ほら本当。今俺声男じゃない??」
そういって笑ってみれば彼は目を丸くする。
そして信じられないものを見たとでも言いたげに立ち尽くした。
「なんかごめんね?女の子だと思って声かけてくれたのに!!」
そう言いながら去ろうとした瞬間彼が俺の手を掴む。
そして俺が彼の方を見れば、彼は目をキラキラさせながらこういった。
「待って!!お兄さんでもお姉さんでもいいや!!あんた面白そうだから、ちょっと遊びにいこ!?」
ほらやっぱり引っ掛かった。
俺は内心この時にそんな感情になっていた。
「えー………?俺男なのに大丈夫なのー?」
わざとらしくそう囁きながら、男の腕に腕を絡ませる。
そして俺は今度は夜の街に繰り出したのだ。
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