疼痛溺愛ロジック~嗜虐的Dom×被虐的Subの恋愛法則~

水沢緋衣名

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Ⅶ.

Ⅶ 第一話

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「やっぱり流石だなぁ。キッチン慣れてる人って、覚えが早いね」
 
 
 この喫茶店のキッチンは余り凝ったことをしなくてもいい。
 ケーキを焼く必要はなく、冷凍のケーキを解凍するだけ。
 料理だって言われた通りの作り方で、料理を作り出すだけだ。
 こんな単調な作業を繰返しているだけにも関わらず、遥さんが誉めてくれるのが嬉しい。
 
 
 この喫茶店の名前が「カムパネルラ」という事を知ったのは、面接に行く直前だった。
 銀河鉄道の夜という小説に出てくる人から、名前を取ったと先日聞いたばかりだ。
 
 
「恐縮です!」
 
 
 仕事が楽しいなんて気持ちを抱きながら、出来上がった料理を遥さんに渡す。
 まだ上手にパフェの盛り付けは出来ないけれど、勉強あるのみだと思う。
 アルバイトを初めて三日目。こんなに生き生き働いている自分と初めて出逢った気がする。
 
 
「春日君真面目だから、本当に助かるなぁ………」
 
 
 遥さんがそう言いながらトレンチを綺麗に持ち、颯爽と歩いて行く姿を見つめる。
 眼鏡を掛けて髪をきっちりと纏めた遥さんの横顔は、とても美しいと思う。
 遥さんは遊歩と並ぶ位に美しく、整った容姿をしていた。
 
 
 客席にはたまにどう見ても遥さんが目的な人もいて、これが「看板ナントカ」というものなんだなぁと感じる。
 もうすぐお店も終わるという時、見たことのある人が入ってきた。
 真っ赤な髪を揺らしながら入ってきたその人は、窓際の席に慣れた様子で座る。
 まるで誰かを待っているかのように、そわそわとしながら此方を見た。
 
 
「……あれ?」
 
 
 俺が思わず声を出せば、彼も目を見開く。
 そして俺の方を指差しながらこう言った。
 
 
「え?なんで此処に?」
 
 
 先日俺の髪を切ってくれた、美容師の黒澤さんじゃないか。
 すると遥さんが黒澤さんに歩み寄った。
 
 
「あれ?二人は知り合いだったの?」
 
 
 遥さんが黒澤さんの顔を覗き込むように、丁寧にお水を置く。
 その時に俺は黒澤さんの顔が、ほんのり赤く染まったのを見逃さなかった。
 
 
「彼、この間俺が髪切ったばかりでさ……!!」
「へぇ、凄い偶然……!新しいアルバイトなんだ!!」
 
 
 遥さんが此方に向かって歩いてきて、静かに俺に耳打ちをする。
 
 
「……彼の待ち合わせの相手は僕だから、閉店時間が終わってもそのままでいいよ」
 
 
 そう言って微笑んだ遥さんを見た時に、黒澤さんのパートナーの事を思い出す。
 もしかして黒澤さんのパートナーは、遥さんの事かもしれない。
 そうなると遥さんは必然的にSubになる。
 
 
「あ………はい、解りました………」
 
 
 返事を返すと遥さんは、キラキラした笑顔を浮かべてホールの中に消えてゆく。
 こんな美しい人がもしもSubだったのなら、同じSubとしての自分の作りの悪さを嘆いてしまいそうだ。
 
 
 ダイナミクスの事を妄想するのもセクハラになってしまうので、余計なことは言わずに目を逸らす。
 けれど何となく遥さんがSubだったとしたら、プレイの姿はとても色っぽいんだろうなと思った。
 思わず黒澤さんの方を見れば、黒澤さんはずっと遥さんを目で追っている。
 その視線が余りにも解り易すぎて、なんだか此方が照れてきた。
 
 
 思わずニヤニヤしながら業務に勤しみ、就業の時間を迎える。
 そして俺は片付けをしてから、更衣室の方に向かった。
 更衣室に来るなり先ずは、よく回りを確認する。それから慌てて光の早さで着替えるのみだ。
 遊歩が大根おろし器と称するこの無数の傷跡を、なるべく人に見られたいとは思わない。
 それに見た側だって不快になるのを解っている。
 
 
「お疲れ様です……!!」
 
 
 更衣室のドアが開いた瞬間、遥さんと視線が絡まる。
 この時に俺は遥さんに傷を見られるか見られないかのギリギリだった。
 
 
「お、お疲れ様……です!!」
 
 
 わざとらしい位に満面の笑みを浮かべれば、遥さんがクスッと笑う。
 そして驚くべき言葉を口にした。
 
 
「………そんな焦らないで大丈夫ですよ。僕も似たようなもの、ありますから」
 
 
 あ、これ見られた。間違いなくバレてる。
 絶望さえ覚えた状態で凍りつけば、遥さんが俺の目の前で徐に服を脱ぐ。
 すると美しい遥さんの身体には傷痕があった。
 軽い自傷の痕だろうか。規則的についたその傷痕は、ほんの少しだけ盛り上がり、ケロイド独特の光沢をもっている。
 細かい傷跡のついた身体は何故か綺麗に見えて、俺の大根おろし器との落差の激しさに動揺した。
 同じ傷痕だというのに、こんなに見え方が変わるものなのだろうか。
 
  
「ね……?一緒。多分僕たち、ダイナミクスもおんなじでしょう?」
 
 
 遥さんはそう言いながら、俺の横で傷を晒して服を着替える。
 それから俺の目の前で眼鏡を外し、首に細いチョーカーを巻く。
 カラーだ。思わず今日した妄想を思い返す。
 突然の事にあんぐりと口を開いたままで固まれば、遥さんはフフッと笑って更衣室から出ていった。
 
 
 更衣室から出てゆく頃には真面目な眼鏡の青年ではなく、物凄い色気を醸し出すエロいお兄さんに変わっている。
 それに自分の自傷癖に、こんな反応をされたのは生まれて初めての事だ。
 着替えが終わり更衣室から出れば、遥さんと笑い合う黒澤さんの姿が視界に入る。
 黒澤さんのパートナーは遥さんだと、この時に確信をした。
 
 
「春日君またね……!!」
「お疲れ様!こんな風に逢えると思わなかったよ!!遥の事宜しくね!!」
 
 
 カムパネルラの前で二人が俺に手を振り、足早に街の中に姿を消してゆく。
 俺はその後ろ姿を眺めながら、思わずクソみたいな事を考えていた。
 
 
「……遥さん間違いなくセックスエロいだろうな…………」
 
 
 思わず思っている事を口に出し、一人でうんうんと頷く。
 それにしても遥さんと黒澤さんが二人で並んでいる姿は絵になっていた。
 ああいう風に素敵なカップルを見ていると、ほんの少しだけ憧れさえ抱くのだ。
 絵になるカップルというものは素敵だ。並んで素敵なんて、関係がすぐに見て取れる。
 ああいう綺麗な二人を見てしまうと、俺と遊歩は他所から見てどうなんだろうなんて、ほんの少しだけ思うのだ。
 
 
「………帰って来るのが遅い。このお家の門限は22時です!!!!」
 
 
 帰って来るなり玄関先で【Kneel正座】と言われて遊歩から怒られている。
 仕事の終業が21時。片付けて21時半。帰って来るのに約十五分。
 帰る間際の立ち話でしくじったなぁと思う。
 今のところ三回出勤したうちの、三回を見事に門限を破った。
 最早此処まで来るとこれはプレイなんだとさえ思っている。
 
 
「大変申し訳御座いません…………!!!」
 
 
 わざとしおらしく振る舞いながら、床に頭を付けて土下座する。
 すると遊歩がニヤニヤ笑いながらこう言った。
 
 
「………ホントに反省してる??じゃぁ、何すればいいか解るよね………??」
 
 
 何時も通りの下衆な笑みを浮かべながら跪く俺の顔を上げる。
 最初の一回目はちょっとだけ焦った。二回目辺りで何だか変だと思い始めた。
 この男は最近、門限を理由に無茶を強いるプレイにハマっているようだ。
 
 
「お許しいただけるのであれば、ご命令をください……!!!」
 
 
 そう言いながら、嘗て交流場通いだった時の大義名分を口にする。
 すると遊歩はいきなり不機嫌になり、物凄い勢いで舌打ちをした。
 
 
「お前………慣れたな!?!?」
 
 
 遊歩に向かって舌を出して見せれば、グレアの雰囲気を醸し出しながら俺の髪を鷲掴む。
 それから俺の身体を引き摺り、廊下を歩きながらこう言った。
 
 
「くっそ……結構楽しかったのに……門限破りお仕置きプレイ……やっぱ二回までが限界か……。
萎えたわー。ご命令をくださいとか一番嫌いな奴だわー……」
 
 
 俺と遊歩は正しいDomとSubの在り方ではないけれど、正しい自分の在り方をしている。
 多分傍目から見れば釣り合っていないだろう。
 けれどお互いの性で見てしまえば、俺も遊歩もお互いじゃなきゃ生きていけないとさえ思うのだ。
 
 
「普通にしてよー!!普通に何時も通りにボコされたい!!!アハハハハ!!!」
「おー!!覚悟決めろよ半殺しの!!」
 
 
 引きずられている俺が笑えば、遊歩が俺を見下ろしながらケラケラ笑う。
 俺たちは俺たちでこれでいい。この在り方が俺たちにとっては「正しい」のだから。
 何時も通りに床に頭を叩き付けられ、Subスペースに入り込む。
 
 
Look俺を見て
 
 
 遊歩からの命令コマンドに綺麗な瞳を覗き込む。
 ズキズキ痛む身体を抱きしめて、更なる暴力を心待ちにしながら喉を鳴らす。
 この暴力が世界で一番最高だなんて、浮足立ったことを思うのだ。
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