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Ⅰ.
第一話
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『今日一番ハッピーな運勢は、おとめ座のアナタ!!運命の恋をしちゃうかも!!ラッキーアイテムはグロスリップ!!』
テレビから響くアナウンサーの声に、褐色肌に腰までの長さの金髪の少女が思わずガッツポーズをする。
丁寧にエナメルを塗られた長い爪には、ラインストーンが散りばめられていた。
白鹿マキナ。星占いと放課後のおしゃべりの大好きな、普通の高校三年生。
別に日サロには通ってはいないが、中学時代にテニスをしていたせいか自然と肌が今は黒い。
彼女は所謂『陽キャ』であり『ギャル』という分類の人間だ。
「今日アタシめっちゃラッキーじゃん!!やったね!!」
マキナはそう言いながら、学校に向かうというにも関わらず、念入りに睫毛をビューラーで天に向ける。
例え学校であれど、ギャルでいる事を彼女は怠らない。自分のアイデンティティを守るために、今日もマキナは早起きだ。
それに大好きな星占いの放送時間は朝6時57分。それを見なければ一日が始まらない。
更に今日の占いの結果は、マキナの星座が一番ハッピーなのだ。最高の一日の始まりを、マキナは噛み締めていた。
長い睫毛に更にインパクトを持たせるために、マスカラを上塗りをする。
この日マキナは、何時もよりもずっとずっと念入りにメイクをしていた。
最近の流行りの曲を鼻歌交じりに口ずさみながら、ご機嫌な様子でおしゃれを施す。
すると受かれているマキナの目の前のテレビ画面から、ニュースの放送が始まった。
ポップな色合いの占いから、畏まった面持ちのニュースキャスターに映像が切り替わる。
画面の中に『同一犯の犯行か?今度は渋谷区で女子高生の遺体発見』というテロップが表示された。
『東京都渋谷区で、女子高生の遺体が発見されました。被害者は身体を滅多刺しにされ失血死。
先日板橋区で起きた殺人事件の犯人と、同一犯の犯行ではないかと警察は捜査を進めています』
画面に被害者の少女の写ったプリクラが映し出される。彼女はマキナと同じ金髪ロングヘアのギャルだった。
最近マキナの住む東京都では、ギャルの連続殺人事件が起きている。
この事件のせいで金髪のギャルたちが減ったと、マキナは感じていた。
ギャル仲間も皆、日和って茶髪の巻髪に鞍替えしている。
この時のマキナはこんな事で、自分のポリシーを変えたくないと思っていた。
マキナのメイクが終わったのは朝7時20分。学校には8時半までに登校すれば問題ない。
イーストボーイの茶色のニットに、赤チェックの制服のスカート。
真っ赤なリボンを掛けた首元は、ほんの少しだけボタンを開く。
透明なグロスリップは艶やかさを唇に足し、愛される口元を演出している。
鏡に映し出される自分の姿を見ながら、マキナは思う。
『今日のアタシ、超絶最強じゃね??これなら今日こそ………イケるかな………?』
マキナはほんの少しだけ頬を赤く染め上げて、へらりと気の抜けた笑みを浮かべる。
この時マキナはとても舞い上がっていた。まるで身体ごと天にも昇る位にふわふわしていた。
何故ならこの日、待ちに待った恋人とのデートの日だからだ。
ローファーを履きルーズソックスの皺を調整し終われば、軽快な足取りで玄関を飛び出す。
マキナは金色の髪を揺らしながら、朝日よりも眩しい笑みを浮かべた。
「………いってきます!!!」
心がとても軽やかだと、目に映るもの全てが綺麗に映し出される。
何時もの光景も新鮮に見えて、世界がワントーン明るくなった気がした。
玄関のタイルをローファーで踏みしめて、金属製の門を開く。するとその時、向かいの家から声が聞こえた。
「…………お前ちょっとスカート短すぎないか?」
聞き慣れた声色に対し、マキナの心はほんの少しだけ苛立つ。急に現実世界に引き戻されたかの様な嫌な気分になる。
声のする方に目を向ければ、黒縁眼鏡に黒髪の神経質そうな美青年が立っていた。
彼もマキナと同じ様に、家の門を開いたところである。
「颯斗……おはよ………。挨拶より説教のが先??」
ほんの少しだけ不機嫌そうにしながらも、ちゃんと挨拶をする。
憎まれ口は叩くものの、マキナは彼を嫌いではない。
彼の名前は浅木颯斗。彼は25歳でマキナの幼馴染だ。
幼い頃のマキナは颯斗に、ずっと世話になってきたのである。
「ああ、お早う。
お前、昔は直ぐに風邪をひくような子だったんだから……そんなに身体の冷える格好するなよ」
颯斗はぶっきらぼうにそう言い放つと、門の鍵を閉めてマキナと歩き出す。
この男は相変わらずしれっと肩を並べて歩くと、マキナは気恥ずかしい気持ちになった。
昔のマキナは小児喘息を患い、今では想像も出来ない位に病弱だった時代がある。
そんなマキナを長らく支えてきた男こそ、颯斗でだった。
外に出れずに病室に閉じこもるマキナに、勉強を教えて話し相手になる。
身体の上手い動かし方を教えたのも颯斗だ。テニスは颯斗のお蔭で好きになった。
けれど身体が健康になるにつれ、テニスはマキナの方が上手になってしまったけれど。
当時は友達も少なかったマキナにとって、颯斗は初恋の人だった。
まだ幼かったマキナは颯斗に、将来結婚しようとプロポーズさえしていたのだ。
今となってはサブイボが立つほどに気持ち悪いと思う様だ。
「もー颯斗の中でアタシの時間止まりすぎじゃね??めんどい………」
マキナにとって颯斗は優しいお兄ちゃんだったが、余りに長く一緒に居すぎて照れ臭いものがある。感覚は最早家族に近い。
それに最近更にマキナには、颯斗が遠い存在になっていた。
颯斗が研究所で働く研究員になった。その研究の中身は人工細胞だ。
生き物の細胞の代わりになり、肉体を物凄い速さで再生させるものを颯斗が開発した。
その人工細胞はある一定の条件下であれば、死んだ生き物さえも細胞を再生出来る。
そんなものが作れるはずがないと思われていたが、颯斗は死んだラットを蘇生させた。
今や科学界で颯斗の名前を知らない人はいないのだ。
その細胞には『Lepidoptera』という名が付いた。
今や颯斗は科学界の貴公子とさえ呼ばれ、科学雑誌の表紙を飾る。そんな彼と黒ギャルのマキナ。
全くもって相反する存在二人が、肩を並べて歩いている。
颯斗が突然遠くに行ってしまった様な感覚を、マキナはずっと感じていた。
「………まだ、死体生き返らせてフランケンシュタインごっこしてんの??」
寂しい気持ちはどうしても、良くない言葉になって口から飛び出る。
素直に「遠くに行っちゃうみたいで寂しい」と口にするには、颯斗との距離は近すぎるのだ。
我ながら酷い言葉を云ったと思いながらも、颯斗相手にマキナは今素直になれない。
冷ややかな言葉を言い放ったマキナを見下すように、颯斗が囁いた。
「…………立派な医療の為の社会貢献だ。冗談はお前の付けている、その武器みたいな爪位にしてくれ」
颯斗の言葉に思わずマキナが顔を強張らせれば、勝ち誇った様な笑みを浮かべて鼻で笑う。
今やマキナは颯斗の事を、いちいちムカつく男だと感じていた。
お互い素直になれない儘で、横断歩道の前で足止めをくらう。
目の前の信号機が青に切り替わるを待っていたその時、マキナの身体に何かが飛び掛かってきた。
「………ひえっ!?!?!?」
思わず情けない声を上げ、マキナはアスファルトの上に尻もちをつく。
ハアハアと荒い息が聞こえたかと思えば、頬にぬめるものが這い回る。
マキナはそれが何なのかを良く知っていたが、それを止める方法は知らなかった。
「あーん!!!マキナごめんねぇ!!!ドルーリーやめてー!!!」
聞き慣れた可愛らしい声色にマキナは顔を上げる。
其処にはピンク色のカーディガンを羽織った、金髪ロングヘアの白ギャルの美女がいた。
同じギャルではあれど、彼女は清楚寄りのギャルのメイクを施している。
その傍らにいるのは、とても大きなセントバーナードだ。
彼女の名前は上羽祥子。マキナの高校の友達だ。
そして犬の名前はドルーリー。男の子。マキナは少しだけドルーリーが怖い。
大きな犬は可愛いけれど、いきなり来るとびっくりする。
なのにドルーリーはマキナの事が大好きで、会うと必ず飛びかかられる。
そして顔がベタベタになる位に舐め回されるのだ。
「………やだ!!マキナちゃんごめんね!!!」
慌ててマキナに謝る女性は祥子の母親である。ドルーリーの紐は祥子のお母さんが持っていた。
祥子の母親はとても祥子に顔が似ている。
慌てる祥子の母親にマキナは苦笑いを浮かべ、恐る恐るドルーリーの頭を撫でる。
ドルーリーは気持ちよさそうに、マキナの手のひらに頭を擦り付けた。
「あっ………その………大丈夫っス!!てかおはよーございます………」
たじろぐマキナを横目に颯斗が笑い、思わず彼女はそれを睨む。
顔がドルーリーの涎塗れになってしまったマキナは、後でメイクをし直そうと思っていた。
テレビから響くアナウンサーの声に、褐色肌に腰までの長さの金髪の少女が思わずガッツポーズをする。
丁寧にエナメルを塗られた長い爪には、ラインストーンが散りばめられていた。
白鹿マキナ。星占いと放課後のおしゃべりの大好きな、普通の高校三年生。
別に日サロには通ってはいないが、中学時代にテニスをしていたせいか自然と肌が今は黒い。
彼女は所謂『陽キャ』であり『ギャル』という分類の人間だ。
「今日アタシめっちゃラッキーじゃん!!やったね!!」
マキナはそう言いながら、学校に向かうというにも関わらず、念入りに睫毛をビューラーで天に向ける。
例え学校であれど、ギャルでいる事を彼女は怠らない。自分のアイデンティティを守るために、今日もマキナは早起きだ。
それに大好きな星占いの放送時間は朝6時57分。それを見なければ一日が始まらない。
更に今日の占いの結果は、マキナの星座が一番ハッピーなのだ。最高の一日の始まりを、マキナは噛み締めていた。
長い睫毛に更にインパクトを持たせるために、マスカラを上塗りをする。
この日マキナは、何時もよりもずっとずっと念入りにメイクをしていた。
最近の流行りの曲を鼻歌交じりに口ずさみながら、ご機嫌な様子でおしゃれを施す。
すると受かれているマキナの目の前のテレビ画面から、ニュースの放送が始まった。
ポップな色合いの占いから、畏まった面持ちのニュースキャスターに映像が切り替わる。
画面の中に『同一犯の犯行か?今度は渋谷区で女子高生の遺体発見』というテロップが表示された。
『東京都渋谷区で、女子高生の遺体が発見されました。被害者は身体を滅多刺しにされ失血死。
先日板橋区で起きた殺人事件の犯人と、同一犯の犯行ではないかと警察は捜査を進めています』
画面に被害者の少女の写ったプリクラが映し出される。彼女はマキナと同じ金髪ロングヘアのギャルだった。
最近マキナの住む東京都では、ギャルの連続殺人事件が起きている。
この事件のせいで金髪のギャルたちが減ったと、マキナは感じていた。
ギャル仲間も皆、日和って茶髪の巻髪に鞍替えしている。
この時のマキナはこんな事で、自分のポリシーを変えたくないと思っていた。
マキナのメイクが終わったのは朝7時20分。学校には8時半までに登校すれば問題ない。
イーストボーイの茶色のニットに、赤チェックの制服のスカート。
真っ赤なリボンを掛けた首元は、ほんの少しだけボタンを開く。
透明なグロスリップは艶やかさを唇に足し、愛される口元を演出している。
鏡に映し出される自分の姿を見ながら、マキナは思う。
『今日のアタシ、超絶最強じゃね??これなら今日こそ………イケるかな………?』
マキナはほんの少しだけ頬を赤く染め上げて、へらりと気の抜けた笑みを浮かべる。
この時マキナはとても舞い上がっていた。まるで身体ごと天にも昇る位にふわふわしていた。
何故ならこの日、待ちに待った恋人とのデートの日だからだ。
ローファーを履きルーズソックスの皺を調整し終われば、軽快な足取りで玄関を飛び出す。
マキナは金色の髪を揺らしながら、朝日よりも眩しい笑みを浮かべた。
「………いってきます!!!」
心がとても軽やかだと、目に映るもの全てが綺麗に映し出される。
何時もの光景も新鮮に見えて、世界がワントーン明るくなった気がした。
玄関のタイルをローファーで踏みしめて、金属製の門を開く。するとその時、向かいの家から声が聞こえた。
「…………お前ちょっとスカート短すぎないか?」
聞き慣れた声色に対し、マキナの心はほんの少しだけ苛立つ。急に現実世界に引き戻されたかの様な嫌な気分になる。
声のする方に目を向ければ、黒縁眼鏡に黒髪の神経質そうな美青年が立っていた。
彼もマキナと同じ様に、家の門を開いたところである。
「颯斗……おはよ………。挨拶より説教のが先??」
ほんの少しだけ不機嫌そうにしながらも、ちゃんと挨拶をする。
憎まれ口は叩くものの、マキナは彼を嫌いではない。
彼の名前は浅木颯斗。彼は25歳でマキナの幼馴染だ。
幼い頃のマキナは颯斗に、ずっと世話になってきたのである。
「ああ、お早う。
お前、昔は直ぐに風邪をひくような子だったんだから……そんなに身体の冷える格好するなよ」
颯斗はぶっきらぼうにそう言い放つと、門の鍵を閉めてマキナと歩き出す。
この男は相変わらずしれっと肩を並べて歩くと、マキナは気恥ずかしい気持ちになった。
昔のマキナは小児喘息を患い、今では想像も出来ない位に病弱だった時代がある。
そんなマキナを長らく支えてきた男こそ、颯斗でだった。
外に出れずに病室に閉じこもるマキナに、勉強を教えて話し相手になる。
身体の上手い動かし方を教えたのも颯斗だ。テニスは颯斗のお蔭で好きになった。
けれど身体が健康になるにつれ、テニスはマキナの方が上手になってしまったけれど。
当時は友達も少なかったマキナにとって、颯斗は初恋の人だった。
まだ幼かったマキナは颯斗に、将来結婚しようとプロポーズさえしていたのだ。
今となってはサブイボが立つほどに気持ち悪いと思う様だ。
「もー颯斗の中でアタシの時間止まりすぎじゃね??めんどい………」
マキナにとって颯斗は優しいお兄ちゃんだったが、余りに長く一緒に居すぎて照れ臭いものがある。感覚は最早家族に近い。
それに最近更にマキナには、颯斗が遠い存在になっていた。
颯斗が研究所で働く研究員になった。その研究の中身は人工細胞だ。
生き物の細胞の代わりになり、肉体を物凄い速さで再生させるものを颯斗が開発した。
その人工細胞はある一定の条件下であれば、死んだ生き物さえも細胞を再生出来る。
そんなものが作れるはずがないと思われていたが、颯斗は死んだラットを蘇生させた。
今や科学界で颯斗の名前を知らない人はいないのだ。
その細胞には『Lepidoptera』という名が付いた。
今や颯斗は科学界の貴公子とさえ呼ばれ、科学雑誌の表紙を飾る。そんな彼と黒ギャルのマキナ。
全くもって相反する存在二人が、肩を並べて歩いている。
颯斗が突然遠くに行ってしまった様な感覚を、マキナはずっと感じていた。
「………まだ、死体生き返らせてフランケンシュタインごっこしてんの??」
寂しい気持ちはどうしても、良くない言葉になって口から飛び出る。
素直に「遠くに行っちゃうみたいで寂しい」と口にするには、颯斗との距離は近すぎるのだ。
我ながら酷い言葉を云ったと思いながらも、颯斗相手にマキナは今素直になれない。
冷ややかな言葉を言い放ったマキナを見下すように、颯斗が囁いた。
「…………立派な医療の為の社会貢献だ。冗談はお前の付けている、その武器みたいな爪位にしてくれ」
颯斗の言葉に思わずマキナが顔を強張らせれば、勝ち誇った様な笑みを浮かべて鼻で笑う。
今やマキナは颯斗の事を、いちいちムカつく男だと感じていた。
お互い素直になれない儘で、横断歩道の前で足止めをくらう。
目の前の信号機が青に切り替わるを待っていたその時、マキナの身体に何かが飛び掛かってきた。
「………ひえっ!?!?!?」
思わず情けない声を上げ、マキナはアスファルトの上に尻もちをつく。
ハアハアと荒い息が聞こえたかと思えば、頬にぬめるものが這い回る。
マキナはそれが何なのかを良く知っていたが、それを止める方法は知らなかった。
「あーん!!!マキナごめんねぇ!!!ドルーリーやめてー!!!」
聞き慣れた可愛らしい声色にマキナは顔を上げる。
其処にはピンク色のカーディガンを羽織った、金髪ロングヘアの白ギャルの美女がいた。
同じギャルではあれど、彼女は清楚寄りのギャルのメイクを施している。
その傍らにいるのは、とても大きなセントバーナードだ。
彼女の名前は上羽祥子。マキナの高校の友達だ。
そして犬の名前はドルーリー。男の子。マキナは少しだけドルーリーが怖い。
大きな犬は可愛いけれど、いきなり来るとびっくりする。
なのにドルーリーはマキナの事が大好きで、会うと必ず飛びかかられる。
そして顔がベタベタになる位に舐め回されるのだ。
「………やだ!!マキナちゃんごめんね!!!」
慌ててマキナに謝る女性は祥子の母親である。ドルーリーの紐は祥子のお母さんが持っていた。
祥子の母親はとても祥子に顔が似ている。
慌てる祥子の母親にマキナは苦笑いを浮かべ、恐る恐るドルーリーの頭を撫でる。
ドルーリーは気持ちよさそうに、マキナの手のひらに頭を擦り付けた。
「あっ………その………大丈夫っス!!てかおはよーございます………」
たじろぐマキナを横目に颯斗が笑い、思わず彼女はそれを睨む。
顔がドルーリーの涎塗れになってしまったマキナは、後でメイクをし直そうと思っていた。
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