ネクロフィリック☆ロマンス【黒ギャル・フランケンシュタイン白鹿マキナの恋物語】

水沢緋衣名

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Ⅰ.

第二話

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 横断歩道を渡り切ったところで、颯斗とドルーリーを連れた祥子の母親と別れる。
 二人きりになった瞬間、祥子がマキナに問いかけた。
 
 
「ねー、颯斗さんこの間雑誌の表紙になってたね!!!
あの人うちらとは全然違う世界の人だけど、マジイケメンだよねー??
マキナ、例の秘密の彼氏って………もしかして颯人さん???」

 
 祥子が目をキラキラ輝かせながら、マキナの顔を覗き込む。
 祥子はマキナの親友のギャルで、同じ金髪ロングヘアを守っている。
 まさしく祥子はマキナにとって、ズッ友というやつである。
 そして祥子は恋バナが大好きだ。
 マキナは自分の恋人が誰なのかを秘密にしている。仲のいい祥子にも話していない。それに勿論颯斗にも。
 誰にも言えない秘密の恋をしているのだ。

 
「颯斗はやめてよー。やだやだ。………全然アタシ颯斗の良さとかわかんないし!!家族みたいなもんだし……颯斗は絶対無い!!」
 
 
 マキナは何故かほんの少しだけムキになったかの様に、祥子にそう返す。
 すると祥子は意味深な笑みを浮かべた。
 
 
「えー、でも二人何時もイイ感じで歩いてるじゃん??」
 
 
 良い感じは心外だとマキナは思う。
 幼い時に散々颯斗と結婚しろと家族に言われてきたマキナは、颯斗の事で囃し立てられるのが嫌である。
 それに颯斗だって今は、相容れない人種になった自分と噂はされたくないだろう。
 マキナは頭の中に自分の好きな人の事を思い浮かべた。
 
 
「それに、アタシの好きなひとは…………もっと優しいし………!!」
 
 
 自分の好きな人は気合を入れて作ったネイルを、武器なんていう人じゃないとマキナは思う。
 マキナの恋人は年上でとても優しい人だ。初めて出逢ったその時から素敵な人だと思っていた。
 振られるつもりで一世一代の告白をすれば、彼は交際を快くOKしてくれた。
 マキナは天にも昇る気持ちで微笑む。まさか自分の心が通じるなんて夢にも思ってなんていなかった。
 愛の告白をした時に彼が返してくれた言葉を、マキナはちゃんと信じている。
 
 
『嬉しいよ。君が卒業したら結婚しよう』
 
 
 大人の彼と肩を並べて歩けるようになるその日迄、絶対にエッチな事はしない。
 その取り決めの元でマキナは彼と付き合っている。
 マキナは黒ギャルという奇抜なファッションにも関わらず、とても健全に男女交際をしていた。
 
 
 同じ学校の制服を着た生徒たちが、校門を通り抜けて校舎の中に入ってゆく。
 校門の前にはすらりと背の高い、スーツ姿の大人の男が立っていた。
 キッチリと整えられた髪に優し気な目元。いい男という言葉が、彼にはぴったり当てはまる。
 彼はマキナと祥子を見るなり、にっこりと微笑んで手を振った。
 
 
「せんせー!!おはよー!!!」
「ああ、おはよう!」
 
 
 マキナは目を輝かせながら、彼の元に祥子を置いて駆け寄る。
 椿山一茶つばきやまいっさ。彼はマキナと祥子のクラスの担任の教師だ。担当は化学。
 高校二年の春に椿山先生が赴任してきて以来、マキナは彼のクラスで日々勉強に励んでいる。
 すると先生が、祥子に聞こえないように小さな声で囁いた。
 
 
「………白鹿。放課後、楽しみにしてるから」
 
 
 先生の優しい声色に、マキナは満面の笑みを浮かべる。そして金色の髪を揺らしながら大きく頷いた。
 年上の優しいマキナの恋人は、この人の事なのだ。
 マキナは先生のお嫁さんになる為に、制服の着こなし以外は今日も優等生だ。
 
 
「………うんっ!!えへへ!!」
 
 
 頬をほんの少しだけ上気させたマキナは、遅れて歩いてきた祥子と共に校舎へ向かってゆく。
 祥子は椿山先生を一瞥すると、ただ会釈だけをして校舎に向かう。
 どうも祥子は椿山先生が苦手なようで常に距離を取っている。
 校舎からはチャイムの音が鳴り響いていた。
 
 
「やば!!マキナ急ごう!!!」
「やだ待ってよ祥子!!」
 
 
 可愛らしい二人のギャルが笑い合いながら、校庭を駆けてゆく。
 何時も通りの素敵な朝の風景だった。
 
 
 
 マキナが指定された待ち合わせの場所は、マキナの家から五つ離れた所にある駅である。
 其処は人通りも少なく、お忍びで逢うには丁度いい。
 けれどデートとはいえど、することはとても限られていた。
 マキナと先生の恋愛はとても清い。性的な事は卒業迄お預けだ。
 なんとマキナはまだ、ファーストキスさえしていない。
 
 
 土日に遊べる事になった時は、先生の家まで向かう。
 する事は二人で先生の好きな映画と、マキナの好きな映画を見比べる事。
 そして放課後遊ぶ事になった時は、公園の駐車場でおしゃべりをする。
 時折抱き合う位のスキンシップはするものの、それ以上の事はしていない。
 マキナは先生に、とても大切にされていると思っていた。
 
 
 茜色の夕日に照らされながら先生の到着を待つ。マキナの金色の髪は朱くキラキラと輝いていた。
 先生を待っているこの時間も好きだと、マキナは思う。
 胸いっぱいに溢れ出した愛しさを噛み締めながら、恋人の到着を待っていた。
 見慣れた車が駅のロータリーの中に入ってきた瞬間、マキナは目を輝かせる。
 黒いセダンがハザードランプを光らせれば、小走りに助手席に歩み寄った。
 マキナは車の中に飛び込む様にしながら、車を止めた先生に抱き付いた。
 
 
「はー…………せんせー逢いたかったぁ………!!!」
 
 
 先生の大きな手が金色の髪を撫でながら、自分の方にマキナを引き寄せる。
 その瞬間全身の血が沸騰するのではないかと思うほど、身体中が熱くなった。
 彼は大人だからなのか、マキナと違って余裕がある。
 派手な見た目をしている割に初心なマキナは、頬を真っ赤に染め上げて先生の腕に顔を埋めた。
 そんなマキナを見ながら、先生は穏やかな笑みを浮かべた。
 
 
「学校で一日一緒にいたのに??」
「学校じゃせんせーに触れないじゃん…………!!せんせーの良い匂いがする………!!」
 
 
 先生の身体からは何時も何となく優しい香りがする。例えるなら白檀の様な穏やかで安らぐ匂いだ。
 隣にいるだけで幸せな気持ちになるとマキナは心から思う。
 けれどマキナはある事を最近感じていた。
 もう、キス位なら許されるんじゃないだろうか、と。
 
 
 マキナが先生に告白したのは、ちょうど去年の今頃である。
 六月の梅雨入り前の初夏だった。場所は放課後の科学準備室。それからもう、一年という時が流れたのだ。
 こんなに清い関係を続けてきているのだから、キス位ならいいじゃないか。
 キスなら挨拶の国だってあるとマキナは思う。
 今日の星占いの結果もとても良かった。運命の恋は間違いなく先生の事に違いない。
 最高の運勢とデートの予定が重なっているラッキーデーなら、きっとキス位許される。
 一層の事気合を入れて、自分から先生にキスをするつもりでいた。
 
 
 車を走らせる先生の横顔を眺めながら、形の良い唇を凝視する。
 いざ今日こそはと思えば思うほど、物凄く緊張してしまう。
 茹蛸の様に真っ赤な表情を浮かべたマキナは、膝の上で握りこぶしを作ろうとする。
 すると付けていたネイルが、マキナの手のひらの肉に軽く食い込んだ。
 
 
「………どうしたのマキナ?暑い??顔真っ赤だよ??」
 
 
 二人きりになった瞬間に、名前を呼んでくれるところが好きだとマキナは思う。
 好きすぎて名前を呼ばれるだけで、目が潤むのが解った。
 先生の一挙手一投足がマキナの心をゆらゆらと揺さぶる。それがとても心地いい。
 マキナは照れた微笑みを浮かべながら、顔の前でパタパタと手を振った。
 
 
「あ………もう夏だし!?!?やっぱカーディガン着てると超アツいかも………!!!」
 
 
 しどろもどろに誤魔化しながらマキナは静かに前を向く。
 気が付くと辺りはとても暗くなり、自然のとても多い道路を車は走っていた。
 大きな広場に出た瞬間、車は動きを止める。あたりの景色は余りに暗くて判別が出来ない。
 すると先生は車のドアを開いて外に出た。
 先に車から降りた先生を追いかけて、マキナも車のドアを開ける。
 
 
「まってせんせー!!どこ行くの!?!?」
 
 
 マキナがそう叫んだ瞬間、目の前には満天の星空が広がった。
 キラキラ光る宝石を散りばめたかの様な空は、余りに美しく感動的だ。
 マキナはキラキラした眼差しで空を仰いだ。
 
 
「…………めっちゃ、綺麗……………」
 
 
 目を潤ませて空を見上げるマキナの肩を、先生は優しく包み込む。
 その時マキナは、先生の顔がとても近くにある事に気付いた。
 
 
『待ってこれ、キスすんなら今じゃね…………??』
 
 
 マキナはそう思いながら、先生の方へ顔を向ける。
 その瞬間マキナの大好きな先生の整った顔立ちが、ダイレクトに視界に入った。
 バクバク心臓が鳴り響くのを感じながら、必死で先生に顔を寄せる。
 けれどあと少しで唇という所で、どうしても気合が足らなかった。
 キスというものはとても、気合と根性が必要になるとマキナは思う。
 
 
 動けなくなって硬直したままのマキナに、先生は小さく笑う。
 息遣いを感じられる程の近い距離感に、更にマキナは息を呑んだ。
 先生の腕がマキナの身体を引き寄せれば、先生の唇がマキナの額に触れる。
 ちゅっ、という音と柔らかい唇の感触を感じた時、マキナの呼吸は止まりそうになった。
 
 
「ふふ、マキナは可愛いね………大好きだよマキナ………」
 
 
 先生の匂いに包まれながら、真っ赤な顔でマキナは瞬きを繰り返す。
 そして、額でも息が止まりそうになってしまうなら、唇へのキスは夢のまた夢だと思った。
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