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Ⅲ.
第三話
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上羽祥子、高校三年生。趣味は恋バナで特技はネイルの上に乗せる、可愛いお菓子の小物を作る事。
そんな普通の女子高生の祥子は先日、大切な友人を陰惨な事件で亡くした。
友人の白鹿マキナはとても気の良い黒ギャルで、ズッ友で居られると信じていたのだ。
マキナが居なくなって以来、飼っている犬のドルーリーも元気がない。
朝にマキナに逢えることがドルーリーにとって、とても幸せだった事は間違いないのだ。
「………ドルーリー、今日もご飯食べないの?」
リビングでお気に入りのフカフカのクッションに凭れながら、餌の入った皿からドルーリーは目を逸らす。
病院にも連れていってみたけれど、身体には全く異常が無かった。
環境に何か変化があったといえば、毎朝逢う筈のマキナに逢えないこと。
ドルーリーがマキナに恋をしていたことは、ずっと前から知っていた。
「…………アタシも寂しいからさ、一緒だねドルーリー…………。
じゃあいってきます…………」
祥子はドルーリーの頭を撫でて、ピンク色のカーディガンを羽織る。
マキナが居なくなってしまった今でも、祥子は超絶可愛いつよつよの白ギャルで居られるように頑張っていた。
けれどマキナが亡くなってしまった後は、金髪のギャルは祥子だけになってしまったのだ。
「………祥子さ、まじ危ないから金髪やめなよ」
「そうだよ祥子………マキナの事祥子なりに偲んでるのウチら解ってっけど…………祥子になんかあったら、ウチらまじ………バイブス下がるどころじゃ済まないって…………」
ギャル仲間のエミと仁枝は、金髪のロングから茶色の巻き髪に鞍替えした。
二人が自分の事を案じていてくれているのは解っている。
けれど、祥子はそれでも金髪ロングを止めるつもりは無かった。
一緒に金髪ロングでいようと、マキナと誓ったポリシーを捨てる訳にはいかない。
「今はまだ金髪ロングやめたいって、アタシ思えないんだ…………。
だからごめん。心配してくれてありがと………」
そう言いながら微笑む祥子に、エミは目頭をハンカチで押さえる。
仁枝は小さく頷いてから祥子に微笑んだ。
「てかアタシ、椿山先生に用事あるから……………ちょっと化学準備室いってくるね!!」
祥子はそう言って二人に背を向けて、小さく廊下を駆けてゆく。
彼女は長い間ずっと、大きな秘密を抱えていたのだ。
祥子とマキナが住んでいる駅の五つ先の駅には、ドッグランのある大きな公園がある。
ドルーリーを運動させるにはとてもちょうどよく、祥子はよく家族とその駅に行っていた。
其処で彼女は偶然にも見かけていたのである。自分のいるクラスの担任の教師と、マキナの姿を。
ドルーリーとドッグランに行く時の祥子は、いつものように盛れてない。
絶対に祥子だとは解らないだろうジャージ姿で、ドルーリーと一緒に居た。
祥子はマキナの恋人が誰なのかを、懸命に気付いていないフリを続けていた。
二人の恋が本物であったなら、自分がとても野暮な存在である事を解っているからだ。
もしも自分が先生と恋愛をしているとすれば、絶対に友達にも話さない。
全てが落ち着いた時にやっと本当の事が言えるだろう。
マキナを幸せにしてくれるのであれば、禁断の恋でも見守るつもりだった。
だからこそ祥子はずっと黙っていたのだ。
それなのに椿山先生は、マキナが亡くなった後も涼しい顔を浮かべている。
それに対して祥子はもう我慢の限界だったのだ。
もしもあの男がマキナを弄んでいたとすれば、絶対に許せないと祥子は思う。
そして祥子は堪えきれずに、化学準備室へと向かっていたのだ。
先生から本当の感情を聞き出すために。
化学準備室のドアを開けば白衣を着た先生が振り返る。
キッチリと着こなされたスーツと白衣の組み合わせ。彼がとてもモテるのはよく解る。
ドアが開く音に対して先生は振り返り、優しい笑みを浮かべてみせた。
「おお、上羽じゃないか。どうした??珍しいな。お前が訪ねてくるなんて」
祥子は先生との距離をなるべく取るように心掛けていた。
もしも自分だったら、自分の彼氏と友達の女の子が親しく話していたら嫌だ。
その気遣いもあり、祥子は余り先生と接触しないできた。
「あのさ先生。アタシ、先生に話あるんだよね。…………マキナの事で」
祥子がそう言った時に、先生の笑みが一瞬だけ固まる。彼女はそれを決して見逃さなかった。
「…………白鹿のことで、俺に何の話があるんだ??お前はあの事件に関して、何か知ってるのか??」
「マキナの事でアタシは知ってる事があるよ。先生。ちょっと面貸してくんない??」
祥子はそう言いながら、先生に向かって啖呵を切った。
先生は祥子に対して、ずっと同じ微笑みを浮かべたままだった。
「……………ダメかなマジで…………絶対バレないようにするし!!!」
手を合わせて頭を下げるマキナに対し、颯斗が腕を組んで苦い表情を浮かべる。
唸りながらゲーミングチェアを一回転する颯斗に、マキナは懸命に頭を下げた。
床に手を付いて頭を擦り付けながら、まるで新興宗教の信者の様に颯斗を拝む。
この時マキナは先生の事が怪しいと感じていた。
流石に自分を含めた被害者が二人、彼と関わりがあるのがおかしいと感じる。
もしもそれがマキナの杞憂だったとしても、付き合っていた日々の事を思うと、誤解は解けた方が良い。
「ねぇ、この通りー!!!マジでこの通りだからさー!!!お願いだから見張らせて欲しいんだってばー!!!椿山先生の事ー!!!」
「…………じゃあ代わりに俺になんでこの間、二階から飛んでまで担任の先生に逢いに行ったのか説明してくれるか??俺はそれが一切納得がいかないんだ」
颯斗の返事に対して、マキナは固まる。すると颯斗はマキナにさらに言葉を返した。
「学校の先生なんて、余程の事が無ければ学生は逢いたいって思わないだろ??それになんでお前、担任の先生の家なんて知ってたんだ??」
「う…………それは、ちょっと………………言えない………かも…………」
「………………それが言えなかったら、俺だって協力出来ないだろ……………」
マキナはこの時、完全に墓穴を掘っていた。
どう逆立ちしても先生とコッソリ付き合っていた事を、颯斗に話さざる得ない状態に自分でしてしまっていたのである。
言わなかったら言わなかったで颯斗は間違いなく怒る。
言ったら言ったで堅物の颯斗が、教師との恋愛を認める筈が無い。
それに先日殺されてしまった超絶可愛いつよつよの盛れ盛れのギャルと、先生の家から出てきたギャルが、同一人物じゃなかった場合の被害も大きい。
生徒との恋愛がバレてしまえば先生は懲戒免職ものだ。言うに言えないとマキナは思った。
「俺はお前の事全てが解る訳じゃないから、全部話してくれなきゃ…………」
そう言いながら溜め息を吐く颯斗に、マキナはただただ困り果てる。
そして已む負えず腹を括る事に決め、代わりに絶対に話を漏らさない取り決めをしたいと考えた。
「解った…………話す…………話すけどさぁ…………もしも違ったら、絶対先生に何にもしないで欲しいんだ………」
「なんだ?その俺が必ず何かするとでも決めつけた様な言い方は…………。
約束するが…………そんなに良くない事があるのか…………??」
「え、マジで……………??っ…………あーでも、マジで勇気でない…………」
颯斗の前でマキナは床に突っ伏し、土下座から五体倒置に体勢を変える。
そんなマキナの姿を見ながら、颯斗が不思議そうに首を傾げた。
チラチラと颯斗の顔色を窺いながら、マキナは大きく息を吸う。
それから颯斗から目を逸らしながら呟いた。
「いや、あの付き合ってたんだけど…………」
「はぁ、付き合ってた…………?何を?」
「いやだから、その…………………先生と…………………」
マキナがそう告げると暫しの間沈黙が走る。
恐る恐る颯斗の方に目をやれば、完全に固まったまま動かなくなってしまっていた。
情報が上手く処理出来なくなった颯斗を見ながら、マキナは焦る。
矢張言うべきでは無かったと思いながらも、マキナは早口で話し始めた。
「や!でも!付き合ってたっていっても!?何か変なこととか全然ないし!?!?
アタシ、キスとかもしたことないし!?!?本当全然そんな!!!」
焦るマキナの視界に、露骨に不機嫌そうな颯斗が入る。
颯斗はマキナを睨み付けながらこう言った。
「…………何か変なことがあったとしたら、今乗り込んでてもおかしくなかったぞ………??」
「や!颯斗!早まらないで!本当話聞いてってば!!!」
不機嫌な颯斗の機嫌を取りながら、マキナは懸命に自分が見たものを伝えてゆく。
颯斗はマキナの話を真剣に聞いてくれた。
そんな普通の女子高生の祥子は先日、大切な友人を陰惨な事件で亡くした。
友人の白鹿マキナはとても気の良い黒ギャルで、ズッ友で居られると信じていたのだ。
マキナが居なくなって以来、飼っている犬のドルーリーも元気がない。
朝にマキナに逢えることがドルーリーにとって、とても幸せだった事は間違いないのだ。
「………ドルーリー、今日もご飯食べないの?」
リビングでお気に入りのフカフカのクッションに凭れながら、餌の入った皿からドルーリーは目を逸らす。
病院にも連れていってみたけれど、身体には全く異常が無かった。
環境に何か変化があったといえば、毎朝逢う筈のマキナに逢えないこと。
ドルーリーがマキナに恋をしていたことは、ずっと前から知っていた。
「…………アタシも寂しいからさ、一緒だねドルーリー…………。
じゃあいってきます…………」
祥子はドルーリーの頭を撫でて、ピンク色のカーディガンを羽織る。
マキナが居なくなってしまった今でも、祥子は超絶可愛いつよつよの白ギャルで居られるように頑張っていた。
けれどマキナが亡くなってしまった後は、金髪のギャルは祥子だけになってしまったのだ。
「………祥子さ、まじ危ないから金髪やめなよ」
「そうだよ祥子………マキナの事祥子なりに偲んでるのウチら解ってっけど…………祥子になんかあったら、ウチらまじ………バイブス下がるどころじゃ済まないって…………」
ギャル仲間のエミと仁枝は、金髪のロングから茶色の巻き髪に鞍替えした。
二人が自分の事を案じていてくれているのは解っている。
けれど、祥子はそれでも金髪ロングを止めるつもりは無かった。
一緒に金髪ロングでいようと、マキナと誓ったポリシーを捨てる訳にはいかない。
「今はまだ金髪ロングやめたいって、アタシ思えないんだ…………。
だからごめん。心配してくれてありがと………」
そう言いながら微笑む祥子に、エミは目頭をハンカチで押さえる。
仁枝は小さく頷いてから祥子に微笑んだ。
「てかアタシ、椿山先生に用事あるから……………ちょっと化学準備室いってくるね!!」
祥子はそう言って二人に背を向けて、小さく廊下を駆けてゆく。
彼女は長い間ずっと、大きな秘密を抱えていたのだ。
祥子とマキナが住んでいる駅の五つ先の駅には、ドッグランのある大きな公園がある。
ドルーリーを運動させるにはとてもちょうどよく、祥子はよく家族とその駅に行っていた。
其処で彼女は偶然にも見かけていたのである。自分のいるクラスの担任の教師と、マキナの姿を。
ドルーリーとドッグランに行く時の祥子は、いつものように盛れてない。
絶対に祥子だとは解らないだろうジャージ姿で、ドルーリーと一緒に居た。
祥子はマキナの恋人が誰なのかを、懸命に気付いていないフリを続けていた。
二人の恋が本物であったなら、自分がとても野暮な存在である事を解っているからだ。
もしも自分が先生と恋愛をしているとすれば、絶対に友達にも話さない。
全てが落ち着いた時にやっと本当の事が言えるだろう。
マキナを幸せにしてくれるのであれば、禁断の恋でも見守るつもりだった。
だからこそ祥子はずっと黙っていたのだ。
それなのに椿山先生は、マキナが亡くなった後も涼しい顔を浮かべている。
それに対して祥子はもう我慢の限界だったのだ。
もしもあの男がマキナを弄んでいたとすれば、絶対に許せないと祥子は思う。
そして祥子は堪えきれずに、化学準備室へと向かっていたのだ。
先生から本当の感情を聞き出すために。
化学準備室のドアを開けば白衣を着た先生が振り返る。
キッチリと着こなされたスーツと白衣の組み合わせ。彼がとてもモテるのはよく解る。
ドアが開く音に対して先生は振り返り、優しい笑みを浮かべてみせた。
「おお、上羽じゃないか。どうした??珍しいな。お前が訪ねてくるなんて」
祥子は先生との距離をなるべく取るように心掛けていた。
もしも自分だったら、自分の彼氏と友達の女の子が親しく話していたら嫌だ。
その気遣いもあり、祥子は余り先生と接触しないできた。
「あのさ先生。アタシ、先生に話あるんだよね。…………マキナの事で」
祥子がそう言った時に、先生の笑みが一瞬だけ固まる。彼女はそれを決して見逃さなかった。
「…………白鹿のことで、俺に何の話があるんだ??お前はあの事件に関して、何か知ってるのか??」
「マキナの事でアタシは知ってる事があるよ。先生。ちょっと面貸してくんない??」
祥子はそう言いながら、先生に向かって啖呵を切った。
先生は祥子に対して、ずっと同じ微笑みを浮かべたままだった。
「……………ダメかなマジで…………絶対バレないようにするし!!!」
手を合わせて頭を下げるマキナに対し、颯斗が腕を組んで苦い表情を浮かべる。
唸りながらゲーミングチェアを一回転する颯斗に、マキナは懸命に頭を下げた。
床に手を付いて頭を擦り付けながら、まるで新興宗教の信者の様に颯斗を拝む。
この時マキナは先生の事が怪しいと感じていた。
流石に自分を含めた被害者が二人、彼と関わりがあるのがおかしいと感じる。
もしもそれがマキナの杞憂だったとしても、付き合っていた日々の事を思うと、誤解は解けた方が良い。
「ねぇ、この通りー!!!マジでこの通りだからさー!!!お願いだから見張らせて欲しいんだってばー!!!椿山先生の事ー!!!」
「…………じゃあ代わりに俺になんでこの間、二階から飛んでまで担任の先生に逢いに行ったのか説明してくれるか??俺はそれが一切納得がいかないんだ」
颯斗の返事に対して、マキナは固まる。すると颯斗はマキナにさらに言葉を返した。
「学校の先生なんて、余程の事が無ければ学生は逢いたいって思わないだろ??それになんでお前、担任の先生の家なんて知ってたんだ??」
「う…………それは、ちょっと………………言えない………かも…………」
「………………それが言えなかったら、俺だって協力出来ないだろ……………」
マキナはこの時、完全に墓穴を掘っていた。
どう逆立ちしても先生とコッソリ付き合っていた事を、颯斗に話さざる得ない状態に自分でしてしまっていたのである。
言わなかったら言わなかったで颯斗は間違いなく怒る。
言ったら言ったで堅物の颯斗が、教師との恋愛を認める筈が無い。
それに先日殺されてしまった超絶可愛いつよつよの盛れ盛れのギャルと、先生の家から出てきたギャルが、同一人物じゃなかった場合の被害も大きい。
生徒との恋愛がバレてしまえば先生は懲戒免職ものだ。言うに言えないとマキナは思った。
「俺はお前の事全てが解る訳じゃないから、全部話してくれなきゃ…………」
そう言いながら溜め息を吐く颯斗に、マキナはただただ困り果てる。
そして已む負えず腹を括る事に決め、代わりに絶対に話を漏らさない取り決めをしたいと考えた。
「解った…………話す…………話すけどさぁ…………もしも違ったら、絶対先生に何にもしないで欲しいんだ………」
「なんだ?その俺が必ず何かするとでも決めつけた様な言い方は…………。
約束するが…………そんなに良くない事があるのか…………??」
「え、マジで……………??っ…………あーでも、マジで勇気でない…………」
颯斗の前でマキナは床に突っ伏し、土下座から五体倒置に体勢を変える。
そんなマキナの姿を見ながら、颯斗が不思議そうに首を傾げた。
チラチラと颯斗の顔色を窺いながら、マキナは大きく息を吸う。
それから颯斗から目を逸らしながら呟いた。
「いや、あの付き合ってたんだけど…………」
「はぁ、付き合ってた…………?何を?」
「いやだから、その…………………先生と…………………」
マキナがそう告げると暫しの間沈黙が走る。
恐る恐る颯斗の方に目をやれば、完全に固まったまま動かなくなってしまっていた。
情報が上手く処理出来なくなった颯斗を見ながら、マキナは焦る。
矢張言うべきでは無かったと思いながらも、マキナは早口で話し始めた。
「や!でも!付き合ってたっていっても!?何か変なこととか全然ないし!?!?
アタシ、キスとかもしたことないし!?!?本当全然そんな!!!」
焦るマキナの視界に、露骨に不機嫌そうな颯斗が入る。
颯斗はマキナを睨み付けながらこう言った。
「…………何か変なことがあったとしたら、今乗り込んでてもおかしくなかったぞ………??」
「や!颯斗!早まらないで!本当話聞いてってば!!!」
不機嫌な颯斗の機嫌を取りながら、マキナは懸命に自分が見たものを伝えてゆく。
颯斗はマキナの話を真剣に聞いてくれた。
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