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Ⅴ.
第二話
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油の跳ねる音を響かせながら、マキナは颯斗の食べる朝食の準備をしている。
熱々になったフライパンの上には、長いベーコンと目玉焼きが乗っていた。
颯斗の好きな目玉焼きの焼き加減は半熟で、トロトロと黄身が流れる位の方が良い。そのために黄身の扱いはとても慎重だった。
なるべく今刺激を与えられたくないと思いつつも、背後から迫ってくる足音に耳を澄ませる。
マキナはフライパンをコンロに置いてから、慌てて足音の方に振り返った。
フローリングの床を蹴り上げる爪の音は、キッチンに確実に向かっている。
どうしても料理の最中には来てほしくない。本当に本当にキッチンには来ないでほしい。
そう祈りながら大型犬用のサークルの方に視線を向けると、サークルはおかしな方向にねじ曲がり、妙に大きな穴が開いているではないか。
これはいよいよ檻に入れる事も検討しなければとマキナが思うと、とても大きな「ワン」という声が響き渡った。
舌を出し息を切らせながら、黒目がちな目がマキナを見上げる。
ふさふさの尻尾を揺り動かしながら元気に目をキラキラ輝かせたドルーリーが、リードを咥えてキッチンにやってきた。
ドルーリーの目が覚めたのが一週間前。Lepidopteraのお陰かどうなのか、火傷を負った場所にすぐに灰色の毛が生えてきた。
マキナは苦笑いを浮かべながらドルーリーの方に歩み寄る。
独特な柄になったドルーリーは、Lepidopteraを打たれる前よりずっと元気だ。
「あ~~~!!!ドルーリー、もしかしてお散歩行きたいのかなぁ~~~???
でもまだドルーリーはお散歩は駄目だよぉぉぉぉ!?!?!?!?」
マキナが近寄った瞬間に、後ろ脚で立ってマキナの顔をべろべろと舐める。
元気なのは良い事だなあと安心する反面、元気すぎると手に負えないともマキナは思う。
ここ最近のドルーリーの世話はマキナしか出来ないのだ。
Lepidopteraを使用した後のマキナが感覚が無くなったのと同じで、ドルーリーも身体の感覚が無くなっている。
マキナの痛みを感じないが故に過度に動くと動けなくなる現象は、ドルーリーにも発生していた。
ドルーリーは力の配分が解らない。それが故にサークルを壊す。
今ドルーリーを物理的に扱えるのは、同じ状態のマキナ以外居ないのだ。
「あ、マキナおはよ…………おおお!?!?!?!?」
颯斗がネクタイを結ばずラフな姿でキッチンに入ってくる。
そしてマキナに飛びつくドルーリーを見て、悲鳴の様な声を上げた。
最近の颯斗は二階にあった物置に自分の寝るスペースを確保し、同じ部屋で寝る事を急に止めたばかりだ。
そのお陰もあってか、最近の颯斗の顔色はとても良い。
「いやー………また壊されちゃったぁ…………」
マキナがそう言いながらドルーリーを抱き上げれば、ドルーリーは満足そうな表情を浮かべる。
颯斗は壊されたサークルを見ながら、困った様な笑みを浮かべた。
「アタシもそうだしドルーリーもそうだけど、まだ感覚戻らないから中々家に帰れそうにないよねぇ………」
「ああ、まあそうだな………。マキナの場合は言葉で通じるけど、ドルーリーは…………」
「外に出すのちょっと怖いよねぇ…………サークル壊しちゃうし…………檻も何時壊されちゃうか………」
研究室にあったソファーの上にドルーリー、マキナ、颯斗順で座る。
テレビを三人で見ながら、ぼんやりと午後を過ごしていた。
ドルーリーは満足気にマキナの膝の上の顎を乗せ、甘えた様な声色を出している。
研究所にドルーリーが運び込まれた日から、颯斗は少しだけ仕事が休みになった。
休みになったというよりかは、彼は彼で謹慎に近いものになっていたのだ。
始末書を大量に書き終えた颯斗は、やはり処分を受ける事になった。
けれど処分の内容は三か月程度の減給という、とても軽いもので済んだ。
それにマキナは遺体として実験を許されていたけれど、生き返ってしまってからは人権がある。
そう言うものを踏まえた上でモノを考えれば、研究所側の方が問題視される可能性さえ出てきた。
遺体が生き返った後の人権の在処など、誰しもが考えた事は無いものだ。
それにLepidopteraを人間に使って、蘇生に成功しているという事がバレている今、誰が颯斗の命を狙ってくるか解らない。
様々な事を踏まえた結果、颯斗はマキナとドルーリーの様子を見るのみの仕事しか、させて貰えない状態になっていたのである。
「……………長らく仕事ばかりして生きていると、こういう時にやりたい事が浮かばない………」
颯斗は全く落ち着かない様子で、テレビのリモコンを延々と弄り続ける。
マキナはそんな颯斗を横目に動きがとても忙しないと感じていた。
マキナの見てきた颯斗のイメージは常に落ち着き払い、堂々としているものだ。
あの颯斗が仕事を封じられた瞬間、まるで普通の男の人の様に感じられる。
「あ、じゃあアタシのお気に入り番組そろそろ始まるから、この番組一緒に見ようよ!!」
マキナが颯斗のリモコンを弄る手に手を重ね、希望していたチャンネルを押す。
その時に指先が触れ合い距離が近付いた瞬間、颯斗の顔が固まった。
最初はマキナも何も気付いて居ない様子で、颯斗の手ごとリモコンを持つ。
音量を上げている最中に、指先が触れ合っている事にマキナは気が付いたのだ。
お互いに固まったままで目を見つめ合えば、とても気恥ずかしい気持ちに襲われる。
マキナも颯斗も顔を真っ赤に染め上げながら、お互いに視線を慌てて逸らす。
最近の二人の調子はずっと近付いた瞬間にこんな感じだ。
お互いがお互いに意識し合いすぎて妙な感じが続いている。
ドルーリーはそんな二人の様子を見ながら、のんびりとあくびをした。
その時インターホンの鳴り響く音が響き渡りドルーリーが勢いよく起き上がる。
そして物凄い勢いでソファーの上から飛び降り、玄関目掛けて駆けだした。
「…………あっ!!!待てドルーリー!!!」
颯斗がドルーリーを追い駆けてゆくのを横目に、マキナはフフッと声に出して笑う。
するとテレビ画面の中に椿山先生の顔が映し出された。
『女子高生連続殺人事件の犯人として、椿山一茶容疑者が全国で指名手配されました。
椿山容疑者は先日、自宅にて生徒のAさんを殺害しようとしましたが…………』
初めての恋人の顔をこんな風に見る事なんて、中々ない事だろうとマキナは思う。
椿山先生は今だに逃げ回っていると警察署の人からは教えて貰った。
犯人が椿山先生であるという事が解ったのはマキナのお手柄だ。
早く捕まって欲しいと思いながら、テレビのニュースをぼんやりと見つめる。
すると研究室の中に聞き慣れた声が響き渡った。
「マーキナ!!来たよぉ!!!」
「祥子!!待ってたよ!!!」
金色の髪を茶色の肩までのセミロングに変えた祥子が、マキナの隣に腰掛ける。
マキナと祥子の膝の上目掛けてドルーリーが大きな体を乗り上げた。
祥子はドルーリーとマキナの様子を見に研究所に度々やってくる。
最近のマキナには、事情を良く知っている話し相手が出来たのだ。
「祥子ちゃん、ゆっくりしていって。マキナもドルーリーも何時も君がいると機嫌がいいんだ」
「有難うございます!!ゆっくりします!!」
「じゃあマキナ、俺自分の部屋にいるから。何かあったら声かけて」
颯斗がそうマキナに言いながら祥子に微笑みかけて、研究室から颯爽と出てゆく。
ドアが閉まる音を確認した祥子は、とても嬉しそうな面持ちでマキナの肩を揺さぶった。
「…………ちょっとマキナ………!!!颯斗さんってあんなにマキナに距離近かった!?!?いい感じじゃない!?!?!?」
「え??あ??そんなに近い??最近全然わかんないかも………」
「なんかもう空気感が恋人同士って感じ…………!!!」
「こ………恋人同士…………!!!」
「そー!!マジで付き合ってるみたいな距離感じゃん??それにマキナももう嫌がんないんだねぇ………??いい感じって言われても」
恋人同士という言葉を言われたマキナが頬を染めた瞬間、祥子はニヤニヤと笑い始める。
今までのマキナなら颯斗との関係性を囃し立てられた時に、こんな表情をしなかった。
マキナは思わず自分の口元を押さえて、祥子から恥ずかしそうに目を逸らす。
そんな新鮮な行動をとるマキナを横目に、祥子は揶揄かの様な眼差しを浮かべる。
これは満更ではなさそうだと祥子は思った。
熱々になったフライパンの上には、長いベーコンと目玉焼きが乗っていた。
颯斗の好きな目玉焼きの焼き加減は半熟で、トロトロと黄身が流れる位の方が良い。そのために黄身の扱いはとても慎重だった。
なるべく今刺激を与えられたくないと思いつつも、背後から迫ってくる足音に耳を澄ませる。
マキナはフライパンをコンロに置いてから、慌てて足音の方に振り返った。
フローリングの床を蹴り上げる爪の音は、キッチンに確実に向かっている。
どうしても料理の最中には来てほしくない。本当に本当にキッチンには来ないでほしい。
そう祈りながら大型犬用のサークルの方に視線を向けると、サークルはおかしな方向にねじ曲がり、妙に大きな穴が開いているではないか。
これはいよいよ檻に入れる事も検討しなければとマキナが思うと、とても大きな「ワン」という声が響き渡った。
舌を出し息を切らせながら、黒目がちな目がマキナを見上げる。
ふさふさの尻尾を揺り動かしながら元気に目をキラキラ輝かせたドルーリーが、リードを咥えてキッチンにやってきた。
ドルーリーの目が覚めたのが一週間前。Lepidopteraのお陰かどうなのか、火傷を負った場所にすぐに灰色の毛が生えてきた。
マキナは苦笑いを浮かべながらドルーリーの方に歩み寄る。
独特な柄になったドルーリーは、Lepidopteraを打たれる前よりずっと元気だ。
「あ~~~!!!ドルーリー、もしかしてお散歩行きたいのかなぁ~~~???
でもまだドルーリーはお散歩は駄目だよぉぉぉぉ!?!?!?!?」
マキナが近寄った瞬間に、後ろ脚で立ってマキナの顔をべろべろと舐める。
元気なのは良い事だなあと安心する反面、元気すぎると手に負えないともマキナは思う。
ここ最近のドルーリーの世話はマキナしか出来ないのだ。
Lepidopteraを使用した後のマキナが感覚が無くなったのと同じで、ドルーリーも身体の感覚が無くなっている。
マキナの痛みを感じないが故に過度に動くと動けなくなる現象は、ドルーリーにも発生していた。
ドルーリーは力の配分が解らない。それが故にサークルを壊す。
今ドルーリーを物理的に扱えるのは、同じ状態のマキナ以外居ないのだ。
「あ、マキナおはよ…………おおお!?!?!?!?」
颯斗がネクタイを結ばずラフな姿でキッチンに入ってくる。
そしてマキナに飛びつくドルーリーを見て、悲鳴の様な声を上げた。
最近の颯斗は二階にあった物置に自分の寝るスペースを確保し、同じ部屋で寝る事を急に止めたばかりだ。
そのお陰もあってか、最近の颯斗の顔色はとても良い。
「いやー………また壊されちゃったぁ…………」
マキナがそう言いながらドルーリーを抱き上げれば、ドルーリーは満足そうな表情を浮かべる。
颯斗は壊されたサークルを見ながら、困った様な笑みを浮かべた。
「アタシもそうだしドルーリーもそうだけど、まだ感覚戻らないから中々家に帰れそうにないよねぇ………」
「ああ、まあそうだな………。マキナの場合は言葉で通じるけど、ドルーリーは…………」
「外に出すのちょっと怖いよねぇ…………サークル壊しちゃうし…………檻も何時壊されちゃうか………」
研究室にあったソファーの上にドルーリー、マキナ、颯斗順で座る。
テレビを三人で見ながら、ぼんやりと午後を過ごしていた。
ドルーリーは満足気にマキナの膝の上の顎を乗せ、甘えた様な声色を出している。
研究所にドルーリーが運び込まれた日から、颯斗は少しだけ仕事が休みになった。
休みになったというよりかは、彼は彼で謹慎に近いものになっていたのだ。
始末書を大量に書き終えた颯斗は、やはり処分を受ける事になった。
けれど処分の内容は三か月程度の減給という、とても軽いもので済んだ。
それにマキナは遺体として実験を許されていたけれど、生き返ってしまってからは人権がある。
そう言うものを踏まえた上でモノを考えれば、研究所側の方が問題視される可能性さえ出てきた。
遺体が生き返った後の人権の在処など、誰しもが考えた事は無いものだ。
それにLepidopteraを人間に使って、蘇生に成功しているという事がバレている今、誰が颯斗の命を狙ってくるか解らない。
様々な事を踏まえた結果、颯斗はマキナとドルーリーの様子を見るのみの仕事しか、させて貰えない状態になっていたのである。
「……………長らく仕事ばかりして生きていると、こういう時にやりたい事が浮かばない………」
颯斗は全く落ち着かない様子で、テレビのリモコンを延々と弄り続ける。
マキナはそんな颯斗を横目に動きがとても忙しないと感じていた。
マキナの見てきた颯斗のイメージは常に落ち着き払い、堂々としているものだ。
あの颯斗が仕事を封じられた瞬間、まるで普通の男の人の様に感じられる。
「あ、じゃあアタシのお気に入り番組そろそろ始まるから、この番組一緒に見ようよ!!」
マキナが颯斗のリモコンを弄る手に手を重ね、希望していたチャンネルを押す。
その時に指先が触れ合い距離が近付いた瞬間、颯斗の顔が固まった。
最初はマキナも何も気付いて居ない様子で、颯斗の手ごとリモコンを持つ。
音量を上げている最中に、指先が触れ合っている事にマキナは気が付いたのだ。
お互いに固まったままで目を見つめ合えば、とても気恥ずかしい気持ちに襲われる。
マキナも颯斗も顔を真っ赤に染め上げながら、お互いに視線を慌てて逸らす。
最近の二人の調子はずっと近付いた瞬間にこんな感じだ。
お互いがお互いに意識し合いすぎて妙な感じが続いている。
ドルーリーはそんな二人の様子を見ながら、のんびりとあくびをした。
その時インターホンの鳴り響く音が響き渡りドルーリーが勢いよく起き上がる。
そして物凄い勢いでソファーの上から飛び降り、玄関目掛けて駆けだした。
「…………あっ!!!待てドルーリー!!!」
颯斗がドルーリーを追い駆けてゆくのを横目に、マキナはフフッと声に出して笑う。
するとテレビ画面の中に椿山先生の顔が映し出された。
『女子高生連続殺人事件の犯人として、椿山一茶容疑者が全国で指名手配されました。
椿山容疑者は先日、自宅にて生徒のAさんを殺害しようとしましたが…………』
初めての恋人の顔をこんな風に見る事なんて、中々ない事だろうとマキナは思う。
椿山先生は今だに逃げ回っていると警察署の人からは教えて貰った。
犯人が椿山先生であるという事が解ったのはマキナのお手柄だ。
早く捕まって欲しいと思いながら、テレビのニュースをぼんやりと見つめる。
すると研究室の中に聞き慣れた声が響き渡った。
「マーキナ!!来たよぉ!!!」
「祥子!!待ってたよ!!!」
金色の髪を茶色の肩までのセミロングに変えた祥子が、マキナの隣に腰掛ける。
マキナと祥子の膝の上目掛けてドルーリーが大きな体を乗り上げた。
祥子はドルーリーとマキナの様子を見に研究所に度々やってくる。
最近のマキナには、事情を良く知っている話し相手が出来たのだ。
「祥子ちゃん、ゆっくりしていって。マキナもドルーリーも何時も君がいると機嫌がいいんだ」
「有難うございます!!ゆっくりします!!」
「じゃあマキナ、俺自分の部屋にいるから。何かあったら声かけて」
颯斗がそうマキナに言いながら祥子に微笑みかけて、研究室から颯爽と出てゆく。
ドアが閉まる音を確認した祥子は、とても嬉しそうな面持ちでマキナの肩を揺さぶった。
「…………ちょっとマキナ………!!!颯斗さんってあんなにマキナに距離近かった!?!?いい感じじゃない!?!?!?」
「え??あ??そんなに近い??最近全然わかんないかも………」
「なんかもう空気感が恋人同士って感じ…………!!!」
「こ………恋人同士…………!!!」
「そー!!マジで付き合ってるみたいな距離感じゃん??それにマキナももう嫌がんないんだねぇ………??いい感じって言われても」
恋人同士という言葉を言われたマキナが頬を染めた瞬間、祥子はニヤニヤと笑い始める。
今までのマキナなら颯斗との関係性を囃し立てられた時に、こんな表情をしなかった。
マキナは思わず自分の口元を押さえて、祥子から恥ずかしそうに目を逸らす。
そんな新鮮な行動をとるマキナを横目に、祥子は揶揄かの様な眼差しを浮かべる。
これは満更ではなさそうだと祥子は思った。
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