ネクロフィリック☆ロマンス【黒ギャル・フランケンシュタイン白鹿マキナの恋物語】

水沢緋衣名

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Ⅴ.

第三話

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「はい、ドルーリー!!お手!!おかわり!!次はマキナもやってみて!!」
 
 
 祥子が手を出した瞬間、ドルーリーが祥子の手に前足を置く。
 器用に交互に前足を置く様を見ながら、マキナも祥子の真似をするかのように手を出した。
 
 
「お手…………!!!」
 
  
 マキナがそう言った瞬間、ドルーリーはマキナの手の上に前足を置く。
 祥子とマキナは顔を見合わせて笑い合う。
 ドルーリーの力加減が安定しなければ祥子の家には戻せない。
 今のドルーリーを祥子の家に戻す事は、ライオンを檻なしで飼うのに等しい位だ。
 普通の人でも扱えるくらいまで力が戻るまでは、マキナがドルーリーの世話をする。
 そのためにはドルーリーとの遊び方や躾の方法を、祥子から教えて貰わなければならない。
 
 
「ドルーリー、伏せは??」
 
 
 ドルーリーは祥子の命令通りに大きな体を動かし、ぺったりと床に伏せる。
 すると祥子は得意げな表情を浮かべ、ドルーリーの頭を撫でた。
 
 
「実はドルーリーは他所のお家のワンちゃんと違って、もっと芸で出来る事があるんだあ!!」
「へー??どんなことするの??」
 
 
 マキナと祥子を見ながらしっぽを振るドルーリーを見つめ、祥子が自らの唇の前に人差し指を押し付ける。
 するとドルーリーは急に静かになった。
 一連のドルーリーの姿を見ながら、椿山先生の家のベランダでの事を思い出す。
 ドルーリーが少し大人しくなったのはこれが理由なのかと、その時にマキナは思った。
 
 
「はーい、もういいよドルーリー!!お利巧さんでしょう???でも心開いてる人のいう事しか聞かないんだよね!!」
 
 
 もういいよと言われた瞬間にドルーリーは祥子に抱き付く。
 嬉しそうに尻尾をバタバタ振る後ろ姿を見ながら、改めて祥子とドルーリーが生きている事を噛み締める。
 まだ先生の身柄は確保されては居ない。けれど時機に捕まるに違いない。
 全てが収まる事を祈りながらマキナは微笑んだ。
 
 
「あれ…………ドルーリー、おやつ飽きちゃった??」
 
 
 犬用のお菓子を手にした祥子が困った表情を浮かべて首を傾げる。
 その時にマキナは祥子にまだ、ドルーリーから味覚が無くなっている事を伝えてなかったのを思い返した。
 ドルーリーは切なげな様子でくぅんと小さく泣き声を漏らす。
 マキナは慌てて、最近よく与えている弾力のある犬用のガムを祥子に手渡した。
 味が解らないのなら食感が独特なものを与える。
 噛み心地が違ったなら、味が無くても食べる事は少しは楽しめる筈だと颯斗が考えた。
 
 
「あー………ドルーリーもアタシも今味覚とか痛覚ないんだよね…………」
「え??どういう事………??」
 
 
 マキナの言葉を聞いて祥子が目を見開く。
 犬用ガムを受け取ってドルーリーにちらつかせれば、口に咥えて床に伏せる。
 マキナは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
 
 
「やー、なんかLepidopteraレピドプテラ打たれて確かに一命は取り留めたけど………痛みとかそういうの感じる神経ないみたい………」
「えー!!何それやばくない!?!?」
「そうなんだよねー。アタシも痛いの解んないし、味も解んない…………」
「じゃあ、ドルーリーにもおやつの差し入れはあんま良くないなー………」
 
 
 祥子はそう言いながら少ししょんぼりした表情を浮かべ、買ってきた真新しいおやつを見つめる。
 それからほんの少しだけ瞳を動かして、何かを含ませた様な笑みを浮かべた。
 
 
「ねーねーマキナぁ…………」
「んー??なぁにぃ???」
 
 
 マキナはテーブルの上にあったミネラルウォーターを取り、キャップを開いて口を付ける。
 その瞬間祥子がトンでも無い事を口にした。
 
 
「…………それってエッチな事とかした時大丈夫??感覚ないってヤバくない??」
「ぐぅっ!!んっ!!ぶ………!!!!ちょっと!!!ちょっと祥子!?!?!?」
 
 
 マキナはミネラルウォーターを吹き出しそうになりながら、懸命に口を押える。
 真っ赤な顔になったマキナに対して、祥子はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
 
 
「えー??だって一つ屋根の下に男女二人でしょー??何があってもびっくりしなくない??
最期までとは言わなくてもほら、キス位はあるでしょー???」
 
 
 祥子がそう言いながらマキナを弄れば、マキナは茹蛸の様に真っ赤になった顔を左右に振る。
 それから祥子の肩を掴んでガクガクと肩を揺らす。
 祥子はマキナに揺さぶられながらヘラヘラと笑っていた。
 
 
「やだやめてってば祥子!!絶対ねえし!!無理無理!!!あり得ないってぇ!!!」
 
 
 涙目になるマキナはぼんやりと、頭の中に先日の屋上の事を思い浮かべる。
 キスの直前の様な雰囲気になった事は、更にマキナの羞恥心を加速させていく。
 
 
「えーでもさぁ、絶対颯斗さんは今、マキナの事可愛いと思ってるよー!!
ホント彼女にするみたいだったよね!?!?話し掛け方!!!」
「祥子ホント!!ホント止めて恥ずかしい!!!」
 
 
 マキナはそう言いながら、火照った身体を冷めるべく袖を捲る。
 その時、マキナの身体に付いた傷痕が視界に入った。
 とても痛々しい縫い目の様な傷痕を見れば、一度熱くなったマキナの心が冷めてゆく。
 椿山先生と恋をしていた頃のマキナは、超絶可愛いつよつよの黒ギャルだった。
 自分でも自分に自信があり恋愛に対して前向きでいられたのだ。
 
 
 けれど今のマキナの身体には、おぞましい程に事件の陰惨さを物語る傷痕が付いている。
 ただでさえ颯斗は、自分には手の届かない場所に行ったと感じている男だ。
 そんな男の隣に並ぶのが黒ギャルもおかしいけれど、傷痕まみれの人間離れした見た目の女も相応しくない。
 更には人間離れした身体能力が備わってしまっている状態だ。
 もしも愛し合えたとしても、確実に颯斗に迷惑を掛けるとマキナは感じた。
 
 
「……………祥子。アタシみたいな女じゃさ、颯斗はきっと噂されんのも嫌だよ。
…………アタシ、もう恋とかも中々出来ないと思うから…………」
 
 
 マキナはそう言ってほんの少しだけ悲し気な表情を浮かべ、取り繕った様な笑顔を作る。
 祥子はそんなマキナを見て、とても苦しそうな表情を浮かべた。
 
 
「マキナはイイ女だよ………??こんなにいい女中々いないって位、いい女って保証する………!!!
また全然恋とかできるし………絶対颯斗さん、今マキナの事可愛いと思ってるよ??」
「………いやー颯斗はアタシには、勿体ない位いい男だと思うから………」
 
 
 マキナがそう言った瞬間に祥子はキラキラと目を輝かせる。
 祥子は絶対にマキナと颯斗は恋仲になると確信していた。
 そんな祥子の傍らでマキナは颯斗に対し、真剣に感謝の気持ちを伝えていないことに気付く。
 これだけ颯斗に迷惑をかけているのに、大切なことを言いそびれているとマキナは思った。
 
 
「あーん!!マキナぁ!!!マキナが颯斗さんの事をいい男って言える様になるなんて、素敵な事だよー!!!
絶対二人って付き合った方が良いってばー!!!」
「ちょっと………!!!祥子やめて!!!声大きい!!!!」
 
 
 マキナが懸命に自分の唇に人差し指を当てる度に、それを見ているドルーリーが静かになる。
 マキナは囃し立てる祥子を懸命に落ち着かせながら、颯斗に感謝の気持ちを伝えたいと感じていた。
 一方その頃颯斗はというと、研究室のドアの前で部屋に入るタイミングを失い蹲っている。
 マキナの口から零れた「いい男」という褒め言葉は、颯斗をとてもときめかせた。
 むしろこの時颯斗の方が自分には脈が無いと思っていたのだ。
 
 
 マキナが好きだった担任教師の顔は今や気軽にテレビで見れる。
 自分とは正反対のタイプのイケメンを見て、自分はマキナの好みでは無いと落ち込んでいた所だった。
 けれど、まさかそのマキナが自分をいい男と言い出すのは、意外と希望があると颯斗は思う。
 颯斗こそ、絶対にこの恋は叶わないと思っていた所だった。
 
 
 色々聞き出してくれた祥子に感謝をしながら、颯斗は研究室のドアの前から立ち上がる。
 顔を真っ赤に染め上げながら口元を押さえて息を殺した。
 忍び足で自室に向かい颯斗はある事を考える。
 それはマキナに今の気持ちを正直に話すという事だった。
 
 
 マキナは何を言ったら一番喜んでくれるだろうかと、懸命に言葉を頭に巡らせる。
 それでも中々良い愛の告白なんて思いつかない。
 こういう時は頭の回転がうまく回らないと思いながら、颯斗はとても前向きな溜め息を吐いた。
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