愛と狂気のダンス

春巻翠

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Part.3

動向

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まず娘の跡をつけた。

娘は都心の高校に通っており、4時まで授業を受けたあと、

話に聞く限り、図書館に行って勉強詰めらしい。

そんな娘を今までずっと、心から尊敬し、応援していた。

しかし昨日の会話を聞いてしまった後、

彼女に何かがあるようにしか考えられない。

 娘は4時の鐘が鳴るとすぐに学校を出た。

そして図書館のある右の道へ曲がると思ったその時、

校門の脇に止まっていたバイクの男が、

そろりそろりと、後ろから娘に近づいた。

「危ない!」

空から急いで娘めがけて飛び込んだが、

あと一歩間に合わなかった。

というか、間に合うことなど無いのだが。

娘はというと、突然のことに酷く驚いていたが、

数秒後にな甘くはにかんで見せ、男に抱きついた。


一瞬思考が止まった。

理性を取り戻し、その後も娘と男を尾行したが、

そのうち私は再び考えることをやめ、

ただ無心で、目の前で起こっている、

予想だにしなかった裏切りを目に焼き付けていた。


娘は男に貢いでいた。

どうやら男はギャンブラーで、常に金をせがんでくるようだった。

そのために私の保険金を…


時計の短針は7を差し、いつもであれば夫が帰宅する時間。

しかし家の中を覗いても、居るのは引きこもりの息子だけ。

これ以上私を裏切らないでくれと嘆きながらも、

夫の真実を確かめたくなっていた。


夫は案外すぐに見つかった。

なんと、マンションの隣の部屋の女子大生と

よろしくやっていた。

「明美ちゃん、今日もすごいね、、」

「やだあきらさんったら、、
奥さんにバレちゃったらどうするんですか、、」

「気にするな。あいつはもう居なくなったんだ。」

「えっ?…」

「死んだんだよ。しかも多額の金を残してな!」

「まさか私たちの未来を祝福してくれてるのかしら!」

「そうだね~、これでもう少し君の家賃を払えそうだよ。」

猛烈な吐き気がした。

吐くものなんてないのに。

死んでからこんな気持ち悪さを感じることがあるのか、と

半分驚きつつも、気持ちになっていた。


もう家族を信じられない。

信じていた自分を罵った。

夜十時を過ぎても2人は家に戻らず、

お腹を空かせた引きこもり坊やがリビングに顔を出した。

冷蔵庫からソーセージを1本取り出し、直ぐに開封して、

口に突っ込んだまま小走りで部屋に戻っていった。

 
そういえば、息子の部屋を見た事がない。

見せてくれないのはもちろんだが、あまりにも隠すので

こっそり見るにも罪悪感が募ってしまい、見たことがなかった。

もう死んでるからいいよね。

生きている時はノックすらまともに出来なかった
その扉をすり抜けて、

息子の領域へと踏み込んだ。



息を飲んだ。

想像とあまりにかけはなれていた。

2人とは異なる意味で裏切られた衝撃があった。

彼は勉強していた。

中学生の彼には身の丈に合わないような

難しそうな医学の本を机に積み上げ、

付箋だらけの教材を何度も読み返し、

忙しななさげにペンを走らせ続けていた。

生きていた頃、息子はひと月に一度程のペースで、

突然外出し、大きな箱を持ってくることがあった。

こういうことだったのか。


最後まで知ることの出来なかった、息子の真実を知って、

どうしよもなく愛しくなった。

そして後悔もした。

もっとちゃんと支えてあげたかった。

2人なんかよりずっとまっとうに努力していた。

夫と娘といい、息子といい、

何にも気づけなかった自分を罵った。

結局1番馬鹿だったのは私なのかもしれない。


でも、私の息子が将来医者になるために、

努力をしていると知れただけで、

自分の人生が報われるような、救われるような気がした。




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