はざまの中の僕らの話

むらくも

文字の大きさ
2 / 30
1年目

*巣作り【β×Ω】(1)

しおりを挟む
「どうぞ」
「ええっと……お、お邪魔します」
  
 ヒート休みに入ろうかって所で、仁科儀にしなぎ先輩に部屋から連れ出された。平気だって言ってんのに自分が世話を焼くって言って。
 Ωがヒートで受ける不利益を体験するって趣旨で全生徒に割り当てられてるヒート休み期間中は、基本的に自室謹慎だ。じゃないと全員休みにしてる意味がないし。
 だから……今のオレは完全にルール違反。しかも生徒会長に片棒を担がせている。
「これバレたら親衛隊がこえぇ……」
 α連中には勢力図があるらしくて、取り巻きとか親衛隊とかちょっと変わったチームがある。アイドルの過激派ファンみたいなやつかなって思ってるけど、ちょっと違うのは牽制がファンの仲間だけじゃ済まないところだ。
  
 先輩に絡まれるようになってから、突っかかってこられたり、嫌がらせされたり……まぁめんどくさい事が色々あった。β様って呼ばれてる有名人な先輩の手前、滅多なことは出来ないっぽいけど。
 いつもならオレは悪くないから平気な顔で居られるけど、今回は関わってしまっている。というかオレのせいだ。何も言えない。バレたら向こうの嫌味に反論すらできない。それはムカつく。
「心配するな、お前を囲う事は伝えてある」
「はぁ。だからってそう簡単に……は? 囲うって何! 誰が誰を!?」
 あんまりにもさらっと言われたから流しかけた。何か変なこと言ってる。妙なこと企んでないかこれ。
「俺が、春真はるまを、だ。春真のヒート休みは俺の部屋で過ごさせる。誰にも否は言わせない」
「なっ何を勝手な! そんなもん学校にバレたら」
「申請済みだ。お前と居る時のデータ供用をちらつかせたら二つ返事で乗ってきた。第三者が取ったヒート中のΩについてのデータは貴重らしいな」
 つまり、オレのヒート期間のデータで釣った訳だな。はっきりした数値の出る項目以外はちょっと適当に書いてるのバレてたのかもしれない。
 正直何書いたのかすら全然覚えてないけど。
  
「……嫌、だったか?」
 じっとオレを見つめる先輩は珍しくちょっと自信なさげで。少し弱々しく見える姿に心臓がきゅうっと絞められるような感覚がして。
 もうこうなったら何も言えない。
「うぐぐ。嫌じゃないからムカつく……」
「ほら、おいで。こっちが寝室だ」
 けろりといつもの表情に変わった先輩に手招きされて渋々ついていく。どう答えるか分かってたんだよな、たぶん。ちょっと悔しい。
 頭の中でぶつくさ言ってたけど、開いたドアの向こうからふわりと漂うルームフレグランスの匂いに意識が釘付けになってしまった。先輩と抱き合うと少しだけ漂ってくる、穏やかな匂い。
  
 ――仁科儀にしなぎ冬弥とうやの匂い。
  
 どくりと、少しだけ心臓が大きく脈打った。
「春真?」
「あ……えと、意外と散らかってるなって」
「うるさい。学生の部屋なんだからそんなもんだろ」
 そう言う先輩はちょっと恥ずかしそうだった。自覚はあるらしい。
 その後は普通にリビングで一緒にテレビ見て、飯食って、何故かヒート事故のフォロー活動について話に花が咲いて、風呂入って。何か無茶振りでもされんのかと思ったけど普通に過ごした。 
 床に布団敷いて寝ようとしたら、恋人を床に寝かせられるかとベッドに放り込まれて。壁際に追いやられて蓋をするみたいに先輩が床側へ寝転んだ。
「おやすみ、春真」
「……おやすみ、仁科儀先輩」
 色んな匂いがする。先輩本人以外からも伝わってくる匂い。布団に残っていた匂いが全身を包んで落ち着かない。
 早々に寝落ちてしまった先輩の寝顔にどぎまぎしながら、何となく落ち着かない夜を過ごした。
 
 
 次の日。
 先輩はやけに上機嫌で部屋の玄関に立っている。
「じゃあ、行ってくる」
「ん……いってらっしゃい」
 ヒート休み期間に入ったオレは先輩を見送って部屋に残った。自分の部屋じゃないから落ち着かなくて、何となく物が散らばった部屋を片付け始める。
 やっぱり忙しいんだろうな。汚いワケじゃないけど、物があちこちに置かれている。洗濯物も下着や肌着みたいな汚れやすいもの以外はまとめてやるタイプみたいだ。
「……服……」
 手に取った服をじっと眺めていると、こくりと喉が鳴った。
 
 ……それからどれくらい経ったんだろう。パタンとドアの閉まる音で我に返った。
「ただい……ま……春真!?」
 寝室に帰ってきた先輩がぎょっとした顔をしている。片付けしてた記憶しかないから、どうにも寝落ちしてたっぽい。
 不思議に思って体を起こすと、少しだるい感じがした。
「ん……おかえり……」
「どうした!? 具合でも悪いのか」
 起き上がると慌てて先輩が駆け寄ってくる。この時期で具合が悪そうに見えるなら、理由はひとつしかないのに。
「いや……たぶん、ヒートだと思う……」
「なんだ、そうか……洗濯してくれている間に倒れたのかと……」
「せんたく……?」
 そういえば片付けの途中だった。
 周りを見ると、洗濯籠に入っていたはずの服がベッドの上に散らばっている。寝転んでいた所の周りは特に酷い。体の下に敷いてみたり上から被ってみたり、まるで簡易の寝床みたいになっていた。ベッドの上なのに。
  
「っ、あ……っ……」
 その光景の理由に思い至って、ぶわりと身体が熱くなってきた。黙って様子を見ていたらしい仁科儀先輩が、訝しげな表情で顔を覗き込んでくる。 
「春真、顔が赤いぞ。身体も熱いし、やっぱり救護室に連絡を……」
「だい、じょうぶ」
 違うんだ。
 先輩が心配してるような事じゃない。
「風邪は拗らせるとしつこいんだぞ」
「風邪じゃ、ない……巣……」
「す?」
 真剣に心配してくれてる表情を見てると、ちょっと口に出すのが恥ずかしい。
「先輩の服……やたらいい匂いで……その、よく覚えてないけど。巣作りしようと、したん、だと思う……」
 洗濯籠の服を取り出した時、先輩の匂いだって思った。先輩が授業に出て居なくなってしまったからその匂いに無性に引き付けられて。
 
 この匂いに包まれたいと――思ってしまったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

八月は僕のつがい

やなぎ怜
BL
冬生まれの雪宗(ゆきむね)は、だからかは定かではないが、夏に弱い。そして夏の月を冠する八月(はつき)にも、弱かった。αである八月の相手は愛らしい彼の従弟たるΩだろうと思いながら、平凡なβの雪宗は八月との関係を続けていた。八月が切り出すまでは、このぬるま湯につかったような関係を終わらせてやらない。そう思っていた雪宗だったが……。 ※オメガバース。性描写は薄く、主人公は面倒くさい性格です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。 ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。 來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。 すると、來が獣のように押し倒してきて……。 「その顔、煽ってんだろ? 俺を」 アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。 ※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。 ☆登場人物☆ 楠見野聖利(くすみのひじり) 高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。 中等部から学年トップの秀才。 來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。 ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。 海瀬來(かいせらい) 高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。 聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。 海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。 聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

処理中です...