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エピローグ
エピローグ2
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働いている法律事務所の先輩と待ち合わせた地方裁判所前。
そんなに大きな裁判でもないのに結構な数のマスコミが押し寄せているのに驚く。
「一ノ瀬さん、おはよう」
ようやくマスコミに追いやられ端っこにいた先輩の木崎さんと合流する。
「おはようございます、木崎さん。本日は木崎さんのお力をじっくりと見せていただきます、勉強させて下さい! よろしくお願いします!!」
頭を深く下げた私に慌てたように首を振る。
「プレッシャーかけないでよ、そんな難しい裁判じゃないんだから」
「でも」
と私の目が周囲のマスコミを見回したのを見て、木崎さんは苦笑した。
「ああ、ね? 派手だよね。何やらアメリカのハーバード大学を十八歳で卒業して日本の司法試験も軽くパスしちゃった天才くんの裁判長デビューらしいよ、まだ二十五歳だって」
「ええっ!? すごすぎる!! 私と同い年って、……天才すぎますよね」
「ちょっと一ノ瀬さん、それ嫌味? 一ノ瀬さんだって十分天才でしょ、オレなんか二十九歳だよ記章もらえたの」
苦笑した木崎さんの胸にも私とお揃いの『自由と正義』を表すヒマワリバッジがある。
いついかなる場合にも、『自由と正義』を求め、『公正と平等』を期すという弁護士の理念が込められたもの。
それにしても騒がしい、まるで芸能人でもやってくるみたいだ。
今回の裁判の事件に関わる資料のみ頂いていて、その他は全くわからぬままでやってきたので、そんな有名人の裁判長デビューにお目にかかれるなど思いもしなかった。
お手並み拝見、面白そう、いい勉強になりそうだ。
ワクワクした思いで木崎さんと共に裁判所に入ろうとした、その時だった。
突如カメラのフラッシュが激しくなる。
一台のタクシーに向かってそれは焚かれていて、それが裁判所前に横づけされると尚一層マスコミたちがざわめき出す。
降りて来たのは本当に若く、でも一目で切れ者だというのがわかるスマートな身のこなしの男性。
一見柔らかそうな笑顔を浮かべてるけど、腹の底が見えない感じ。目線もそう、優しそうに見えながらもどこか鋭い。
大勢のマスコミに一礼して、その中を縫うようにこちらに向かってくる高身長で端正な甘いマスクの人。
「頭も良くてイケメンって何だよ、やってらんないよ」
ハハッと乾いた笑いを零した木崎さんの感想に同意する。
神々しいまでのオーラを放っているように見えて彼から目が離せなくなった。
立ち止まっていた私たちに一瞥した彼の目が私に止まった刹那、右の肩が熱くなった。
私の肩にある時計模様の小さな赤い痣が疼くように痛く熱く、まるで燃えているように。
こんなことは今までになくて咄嗟に右肩を抑えたら、彼がふわりと微笑んだ。
微笑みながらこちらへと歩いてきて私たちの前で足を止める。
「本日はよろしくお願いいたします」
木崎さんと私に丁寧に頭を下げるから、こちらも改まって頭を下げる。
頭を上げて彼の顔を見た時だった。
あれ……?
一瞬、時間が止まったような気がした。
全ての音が消え、私と彼だけが動いているような錯覚に陥る。
さっきまでの捉えようのない仮面の笑顔が外れて、昔からの知り合いを見るように親し気に目を細めて笑った彼は、
「一ノ瀬紅さん、お互いデビューの日ですね、頑張りましょう」
遠い昔聞いたことのあるような心地よい声だった。
あれ? 私の名前、知ってるんだ? デビューの日だってことも?
驚き目を見開いた私の耳に、またざわめきが戻ってくる。
後程法廷で、と去っていく彼の爽やかな残り香を私は嗅いだことがある気がする。
「蓮城 碧裁判長が今裁判所に入っていきます。二十五歳至上最年少での裁判長デビューです」
れんじょう あお、初めて聞く名前なのに、どこか懐かしい。
「一ノ瀬さん行くよ」
「あ、はいっ」
マスコミのフラッシュが眩くて一瞬目を閉じる。
瞼の裏、彼の笑顔が焼き付けられていた。
【了】
そんなに大きな裁判でもないのに結構な数のマスコミが押し寄せているのに驚く。
「一ノ瀬さん、おはよう」
ようやくマスコミに追いやられ端っこにいた先輩の木崎さんと合流する。
「おはようございます、木崎さん。本日は木崎さんのお力をじっくりと見せていただきます、勉強させて下さい! よろしくお願いします!!」
頭を深く下げた私に慌てたように首を振る。
「プレッシャーかけないでよ、そんな難しい裁判じゃないんだから」
「でも」
と私の目が周囲のマスコミを見回したのを見て、木崎さんは苦笑した。
「ああ、ね? 派手だよね。何やらアメリカのハーバード大学を十八歳で卒業して日本の司法試験も軽くパスしちゃった天才くんの裁判長デビューらしいよ、まだ二十五歳だって」
「ええっ!? すごすぎる!! 私と同い年って、……天才すぎますよね」
「ちょっと一ノ瀬さん、それ嫌味? 一ノ瀬さんだって十分天才でしょ、オレなんか二十九歳だよ記章もらえたの」
苦笑した木崎さんの胸にも私とお揃いの『自由と正義』を表すヒマワリバッジがある。
いついかなる場合にも、『自由と正義』を求め、『公正と平等』を期すという弁護士の理念が込められたもの。
それにしても騒がしい、まるで芸能人でもやってくるみたいだ。
今回の裁判の事件に関わる資料のみ頂いていて、その他は全くわからぬままでやってきたので、そんな有名人の裁判長デビューにお目にかかれるなど思いもしなかった。
お手並み拝見、面白そう、いい勉強になりそうだ。
ワクワクした思いで木崎さんと共に裁判所に入ろうとした、その時だった。
突如カメラのフラッシュが激しくなる。
一台のタクシーに向かってそれは焚かれていて、それが裁判所前に横づけされると尚一層マスコミたちがざわめき出す。
降りて来たのは本当に若く、でも一目で切れ者だというのがわかるスマートな身のこなしの男性。
一見柔らかそうな笑顔を浮かべてるけど、腹の底が見えない感じ。目線もそう、優しそうに見えながらもどこか鋭い。
大勢のマスコミに一礼して、その中を縫うようにこちらに向かってくる高身長で端正な甘いマスクの人。
「頭も良くてイケメンって何だよ、やってらんないよ」
ハハッと乾いた笑いを零した木崎さんの感想に同意する。
神々しいまでのオーラを放っているように見えて彼から目が離せなくなった。
立ち止まっていた私たちに一瞥した彼の目が私に止まった刹那、右の肩が熱くなった。
私の肩にある時計模様の小さな赤い痣が疼くように痛く熱く、まるで燃えているように。
こんなことは今までになくて咄嗟に右肩を抑えたら、彼がふわりと微笑んだ。
微笑みながらこちらへと歩いてきて私たちの前で足を止める。
「本日はよろしくお願いいたします」
木崎さんと私に丁寧に頭を下げるから、こちらも改まって頭を下げる。
頭を上げて彼の顔を見た時だった。
あれ……?
一瞬、時間が止まったような気がした。
全ての音が消え、私と彼だけが動いているような錯覚に陥る。
さっきまでの捉えようのない仮面の笑顔が外れて、昔からの知り合いを見るように親し気に目を細めて笑った彼は、
「一ノ瀬紅さん、お互いデビューの日ですね、頑張りましょう」
遠い昔聞いたことのあるような心地よい声だった。
あれ? 私の名前、知ってるんだ? デビューの日だってことも?
驚き目を見開いた私の耳に、またざわめきが戻ってくる。
後程法廷で、と去っていく彼の爽やかな残り香を私は嗅いだことがある気がする。
「蓮城 碧裁判長が今裁判所に入っていきます。二十五歳至上最年少での裁判長デビューです」
れんじょう あお、初めて聞く名前なのに、どこか懐かしい。
「一ノ瀬さん行くよ」
「あ、はいっ」
マスコミのフラッシュが眩くて一瞬目を閉じる。
瞼の裏、彼の笑顔が焼き付けられていた。
【了】
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