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第三章
68話
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「この度は誠に申し訳ございません」
目の前に座っている男が俺とエルビラに向かって頭を深々と下げている。
彼は貸し馬車の店主で、今回の旅に使用した馬と馬車の持ち主だ。
パーナーショップさんと別れた俺たちは、借りていた馬と馬車を返しに来た。
本来であれば店頭で話は済むのだが、何故か奥の部屋へ案内されて、そして現れた店主に謝られているのだ。
まぁ、謝られているのは主にエルビラなんだけどね。
「あの……顔をお上げください」
エルビラが対応に困っている。
14歳の小娘が父親より年上の人に謝られたらそうなるわな。
「警備兵の方からお話は伺っております。当方の従業員がお客様を騙し、商品を奪おうとし、更にその身まで。そしてお嬢様のお父様のお命を……」
ヘイデンさんの話が出たところでエルビラの目から涙がこぼれ落ちた。辛そうなので俺が話を引き継ぐ。
「その従業員は昔から働いていたのですか?」
「いえ、昨年入ったばかりでした。とても真面目で仕事も一生懸命にしておりました。まさか盗賊の仲間とは思いもよりませんでした」
となるとヘイデンさんを狙うために入ったのではなく、既に盗賊の仕事をしていたところに引っ掛かってしまったのか。
「とはいえ、私共に責任がないとは思っておりません。私共もあの者に任せすぎていたのも事実でございます。お詫びとしては何ですが、今回お使いの馬と馬車はお嬢様へ差し上げますので、どうかお納めください」
馬と馬車とはまた奮発するな。馬と馬車は買えばかなりの額になるはずだ。それを譲るって言うことはそれだけ周りからの目が厳しいのか?
いや、でもないか。
この貸し馬車の従業員が情報を漏らしたのに主人が知らぬ存ぜぬと言ってしまうと、お店の資質が問われてしまう。
さて、エルビラはどうするのだろう。
「お気持ちは嬉しいのですが、そのような高価なものをいただくわけには……」
「いえいえ、お父様のことを考えるとこの程度で申し訳ないと思っております。ただ私にはこれが精一杯ですので、どうかこれでご容赦をいただけましたら」
どうしよう、という目でエルビラが俺を見てくる。
俺的には貰えるなら貰っといたら?って感じだが……。
「ご主人のお気持ちなんだから受け取ってもいいんじゃないかな。ただ馬は世話に困るけどね」
馬をもらった場合、世話をするために厩舎もいるし手もかかる。もちろん維持費もね。
「それでしたら馬車だけでもお納めください。馬に関してはご利用の際にお安く提供させていただくというのはいかがでしょうか」
それならいいかも。馬車はアイテムボックスに入れておけばいいから置場所に困らないし。
俺はエルビラに向かって頷く。
「……わかりました。では馬車につきましてはありがたく頂戴いたします。それと馬の件もそちらがよろしいのであれば」
そういう訳で、エルビラは馬車を貰うことになった。
ただ車体には所有者を示す物や管理番号などが刻まれていたりする。
それらを変更せずにいると面倒なことになるので、貸し馬車の方でメンテナンスを兼ねてやってくれるようだ。
話がついたので帰ろうとすると袋を差し出してきた。
「お嬢様、こちらはお返しいたします」
「え?それはいけません。馬車をいただいた上に代金まで返していただいては」
どうやらエルビラが貸し馬車の代金を支払った袋毎、返金しようとしているようだ。
「そう仰らずに、どうかお受け取りください」
「いえいえ、そういう訳には……」
お互いに袋を相手に渡そうとしている姿を見ながら、日本人がよくする行動に思わず懐かしくなった。
このままだと話が終わらないのでエルビラに受けとるように勧めた。
「でも」
「いや、ご主人の顔をたてる意味でも受け取る方がいいと思うよ。これをエルビラが受け取ることで店としての責任を果たしたことにもなるんだから」
「そうなの?」
エルビラの言葉にご主人は頷く。
「そうですか。……わかりました。ではありがたく頂戴いたします」
そう言って今度こそ店を出た。
お店の好意ということで、一葉まで馬車で送ってもらった。
「ただいまぁ」
一葉の裏口から入った厨房は、夕方近いということもあり仕込みでバタバタしていたが、俺の声で手を止めてこっちヘ振り向いた。
「テナー!あなた怪我とかしてない!?大丈夫?」
「無事帰ってきたか」
厨房にいた母と伯父さんが、帰ってきた俺を見てかなりホッとした表情をしている。
母はおもいっきり俺を抱き締めてきた。
エルビラが後ろにいるから恥ずかしかったりするんだが。
今回の旅は護衛の冒険者が一緒にいるから安全度は高い旅だったから、13歳とはいえここまで心配されるとは思ってなかったな。
まぁ、その護衛の冒険者が実は盗賊グループでおまけにランクEだったんだけどね。
今でこれだけ心配されているのに、これからその話をしたらどうなるんだろう。
エルビラのこともあるし……。
「あの、お母さん。ちょっと話があるんだけど、後で時間とれる?」
「ええ、何があったのか詳しく聞かせてもらうわ。もう少ししたら部屋に行くから2人で先に行ってて」
「わかっ……ん?」
今、“何があったのか”って言ったよね?
「お母さん……何か聞いてるの?」
「警備兵の方が話を聞きたいって来たわよ。その時に大まかな話は聞きました。お嬢さんの話もね。でも詳しくは教えてくれなかったからテナーから話してもらうわよ。いいわね?」
マホンでも捜査しているって言ってたから、家族に聞き込みくらいするわなぁ。
「わ、わかった。じゃぁ部屋に案内するよ。エルビラ、行こうか」
「うん、お邪魔します」
「はい、どうぞ」
母はエルビラに優しく返事をしてくれた。これなら彼女のことは受け入れてくれそうだ。
「狭いけどどうぞ」
俺と母と妹で暮らしている部屋に案内する。
ベッドが2つと3人で使う小さなテーブルしかない狭い部屋だ。
とりあえずエルビラに椅子を勧めて俺も座る。
少し緊張しているのか、落ち着かせるために手を握ると表情が和らいだ。
「話が終わったら教会へお父さんの事を話に行こうね」
「うん、ありがとう」
パーナーショップさんが教会にも話をしてくれているらしいから、早ければ明日にでも葬儀が可能だろう。
暫く見つめあっていると母が飲み物を持って入ってきた。
「お待たせ。さてと、ご挨拶しなきゃね。ドルテナの母のキャシーよ」
「エルビラです。お忙しいときにお邪魔して申し訳ございません」
「そんなこと気にしないで。それともっと楽に話してくれて構わないわよ」
2人の紹介が済んだので本題にはいる。
「それで……。テナー、何があったのか教えてくれる?」
「えっと、ワカミチ村までは順調で ── 」
一から十まで話すと長くなるので途中の村でのことは省いた。
目的の物が用意できるまでの間にミキヒへ2人で行ったこと行ったこと。そしてワカミチ村からの帰り道での出来事を母に伝えた。
流石に変異種の件では顔を真っ青にしてた。
最後にヘイデンさんからの遺言と、エルビラに対する俺の気持ちを素直に話した。
「……はぁ~。なんて言ってたらいいのかしらね。数日間の旅に出て行って、帰ってきたらお嫁さんを連れてくるとか」
「彼女のことは俺の意思も入ってるけど、盗賊グループに関しては不可抗力だよ?」
「わかっています。エルビラさん、お父様のこと、お悔やみ申し上げます。ドルテナも父親を亡くしていますからあなたの気持ちの一端を理解することもできるでしょう」
そう言うと、エルビラの手を握りしめた。
「お父様も亡くなられて1人になってしまったけれども、これこらは私たちも家族です。頼りない息子だけど、仲良くしてやってね」
「お母さん、それじゃぁ」
「ええ、私もエルビラさんのお父様の遺言書と同じで、お互いが成人したら結婚を認めます」
「ありがとう(ございます)、お母さん(お義母さん)」
こうして俺とエルビラは両家公認の恋人となった。
「あの、不束者ですがよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お母さんも納得してくれてそうだから嫁姑問題になることはないだろう。
「しかし、テナーにはもったいないくらい可愛い子だわ。泣かしたら許さないわよ」
いや、俺にとっては家族内の男女比がヤバイことになったようだ……。
目の前に座っている男が俺とエルビラに向かって頭を深々と下げている。
彼は貸し馬車の店主で、今回の旅に使用した馬と馬車の持ち主だ。
パーナーショップさんと別れた俺たちは、借りていた馬と馬車を返しに来た。
本来であれば店頭で話は済むのだが、何故か奥の部屋へ案内されて、そして現れた店主に謝られているのだ。
まぁ、謝られているのは主にエルビラなんだけどね。
「あの……顔をお上げください」
エルビラが対応に困っている。
14歳の小娘が父親より年上の人に謝られたらそうなるわな。
「警備兵の方からお話は伺っております。当方の従業員がお客様を騙し、商品を奪おうとし、更にその身まで。そしてお嬢様のお父様のお命を……」
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「その従業員は昔から働いていたのですか?」
「いえ、昨年入ったばかりでした。とても真面目で仕事も一生懸命にしておりました。まさか盗賊の仲間とは思いもよりませんでした」
となるとヘイデンさんを狙うために入ったのではなく、既に盗賊の仕事をしていたところに引っ掛かってしまったのか。
「とはいえ、私共に責任がないとは思っておりません。私共もあの者に任せすぎていたのも事実でございます。お詫びとしては何ですが、今回お使いの馬と馬車はお嬢様へ差し上げますので、どうかお納めください」
馬と馬車とはまた奮発するな。馬と馬車は買えばかなりの額になるはずだ。それを譲るって言うことはそれだけ周りからの目が厳しいのか?
いや、でもないか。
この貸し馬車の従業員が情報を漏らしたのに主人が知らぬ存ぜぬと言ってしまうと、お店の資質が問われてしまう。
さて、エルビラはどうするのだろう。
「お気持ちは嬉しいのですが、そのような高価なものをいただくわけには……」
「いえいえ、お父様のことを考えるとこの程度で申し訳ないと思っております。ただ私にはこれが精一杯ですので、どうかこれでご容赦をいただけましたら」
どうしよう、という目でエルビラが俺を見てくる。
俺的には貰えるなら貰っといたら?って感じだが……。
「ご主人のお気持ちなんだから受け取ってもいいんじゃないかな。ただ馬は世話に困るけどね」
馬をもらった場合、世話をするために厩舎もいるし手もかかる。もちろん維持費もね。
「それでしたら馬車だけでもお納めください。馬に関してはご利用の際にお安く提供させていただくというのはいかがでしょうか」
それならいいかも。馬車はアイテムボックスに入れておけばいいから置場所に困らないし。
俺はエルビラに向かって頷く。
「……わかりました。では馬車につきましてはありがたく頂戴いたします。それと馬の件もそちらがよろしいのであれば」
そういう訳で、エルビラは馬車を貰うことになった。
ただ車体には所有者を示す物や管理番号などが刻まれていたりする。
それらを変更せずにいると面倒なことになるので、貸し馬車の方でメンテナンスを兼ねてやってくれるようだ。
話がついたので帰ろうとすると袋を差し出してきた。
「お嬢様、こちらはお返しいたします」
「え?それはいけません。馬車をいただいた上に代金まで返していただいては」
どうやらエルビラが貸し馬車の代金を支払った袋毎、返金しようとしているようだ。
「そう仰らずに、どうかお受け取りください」
「いえいえ、そういう訳には……」
お互いに袋を相手に渡そうとしている姿を見ながら、日本人がよくする行動に思わず懐かしくなった。
このままだと話が終わらないのでエルビラに受けとるように勧めた。
「でも」
「いや、ご主人の顔をたてる意味でも受け取る方がいいと思うよ。これをエルビラが受け取ることで店としての責任を果たしたことにもなるんだから」
「そうなの?」
エルビラの言葉にご主人は頷く。
「そうですか。……わかりました。ではありがたく頂戴いたします」
そう言って今度こそ店を出た。
お店の好意ということで、一葉まで馬車で送ってもらった。
「ただいまぁ」
一葉の裏口から入った厨房は、夕方近いということもあり仕込みでバタバタしていたが、俺の声で手を止めてこっちヘ振り向いた。
「テナー!あなた怪我とかしてない!?大丈夫?」
「無事帰ってきたか」
厨房にいた母と伯父さんが、帰ってきた俺を見てかなりホッとした表情をしている。
母はおもいっきり俺を抱き締めてきた。
エルビラが後ろにいるから恥ずかしかったりするんだが。
今回の旅は護衛の冒険者が一緒にいるから安全度は高い旅だったから、13歳とはいえここまで心配されるとは思ってなかったな。
まぁ、その護衛の冒険者が実は盗賊グループでおまけにランクEだったんだけどね。
今でこれだけ心配されているのに、これからその話をしたらどうなるんだろう。
エルビラのこともあるし……。
「あの、お母さん。ちょっと話があるんだけど、後で時間とれる?」
「ええ、何があったのか詳しく聞かせてもらうわ。もう少ししたら部屋に行くから2人で先に行ってて」
「わかっ……ん?」
今、“何があったのか”って言ったよね?
「お母さん……何か聞いてるの?」
「警備兵の方が話を聞きたいって来たわよ。その時に大まかな話は聞きました。お嬢さんの話もね。でも詳しくは教えてくれなかったからテナーから話してもらうわよ。いいわね?」
マホンでも捜査しているって言ってたから、家族に聞き込みくらいするわなぁ。
「わ、わかった。じゃぁ部屋に案内するよ。エルビラ、行こうか」
「うん、お邪魔します」
「はい、どうぞ」
母はエルビラに優しく返事をしてくれた。これなら彼女のことは受け入れてくれそうだ。
「狭いけどどうぞ」
俺と母と妹で暮らしている部屋に案内する。
ベッドが2つと3人で使う小さなテーブルしかない狭い部屋だ。
とりあえずエルビラに椅子を勧めて俺も座る。
少し緊張しているのか、落ち着かせるために手を握ると表情が和らいだ。
「話が終わったら教会へお父さんの事を話に行こうね」
「うん、ありがとう」
パーナーショップさんが教会にも話をしてくれているらしいから、早ければ明日にでも葬儀が可能だろう。
暫く見つめあっていると母が飲み物を持って入ってきた。
「お待たせ。さてと、ご挨拶しなきゃね。ドルテナの母のキャシーよ」
「エルビラです。お忙しいときにお邪魔して申し訳ございません」
「そんなこと気にしないで。それともっと楽に話してくれて構わないわよ」
2人の紹介が済んだので本題にはいる。
「それで……。テナー、何があったのか教えてくれる?」
「えっと、ワカミチ村までは順調で ── 」
一から十まで話すと長くなるので途中の村でのことは省いた。
目的の物が用意できるまでの間にミキヒへ2人で行ったこと行ったこと。そしてワカミチ村からの帰り道での出来事を母に伝えた。
流石に変異種の件では顔を真っ青にしてた。
最後にヘイデンさんからの遺言と、エルビラに対する俺の気持ちを素直に話した。
「……はぁ~。なんて言ってたらいいのかしらね。数日間の旅に出て行って、帰ってきたらお嫁さんを連れてくるとか」
「彼女のことは俺の意思も入ってるけど、盗賊グループに関しては不可抗力だよ?」
「わかっています。エルビラさん、お父様のこと、お悔やみ申し上げます。ドルテナも父親を亡くしていますからあなたの気持ちの一端を理解することもできるでしょう」
そう言うと、エルビラの手を握りしめた。
「お父様も亡くなられて1人になってしまったけれども、これこらは私たちも家族です。頼りない息子だけど、仲良くしてやってね」
「お母さん、それじゃぁ」
「ええ、私もエルビラさんのお父様の遺言書と同じで、お互いが成人したら結婚を認めます」
「ありがとう(ございます)、お母さん(お義母さん)」
こうして俺とエルビラは両家公認の恋人となった。
「あの、不束者ですがよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お母さんも納得してくれてそうだから嫁姑問題になることはないだろう。
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