エリート魔女リリー

siyami kazuha

文字の大きさ
9 / 20
妖精とうたう少年

図太く根強く生きる魔女

しおりを挟む

 しょんぼりと肩を落とすレオナに、リリーは口を開きました。

「確かにやってはいけないミスをしてたけど、試験でできなかった魔法を現場ではできたんでしょう? これに関しては褒めてもいいと思うわ」

 リリーの言葉に、レオナは真ん丸の目をパチパチと瞬かせました。

「本当? 私、褒められてもいいの?」

「試験でできてたことが仕事ではできないって方が、私的には困るからね」

 珍しい失敗を目にしてから、リリーは張り詰めていた気持ちが吹っ切れて、緩んだ頬が痛くなっていました。
 リリーだって、失敗せずにここまで来たわけではありません。過去の経験を思い出せば、口の中に苦味が広がることだってあります。
 特に、魔法学校を卒業してから行われた、リアーナ教授による一年間の修行は、基礎的な魔法からリリーの精神を追い詰める修行まで色々とありました。
 魔法に大事なのは自信なのだと、リリーはリアーナ教授から教えられました。
 貴族の上司に腹が立つことが多い毎日ですが、心が折れずに日々を過ごせているのはこの修行によるものが多いでしょう。あの修行に比べれば、貴族からの嫌味などコバエの羽音みたいなものだし、修行で力をつけたからこそ、リリーは胸を張って歩けているのです。
 なにより、リリーの実力は仕事の成績を見れば明らかでした。貴族出身の魔法使いや魔女の中でも、リリーの成績は良い方にあるのです。
 リザベラのように職務放棄したり、余計なことをしたり、「これは自分の仕事ではない」と、仕事内容を選んでいる貴族も中にはいますが……。

「今夜できたことは、試験でもちゃんとできるわよ、レオナ。だって、実際に成功させたんだから。自信持って」

「そうだ、そうだ。庶民ながら、貴族相手に啖呵切るくらい【図太く】【根強く】生きてる魔女もいるんだしな。あそこまでいけとは言わんが、まあ自信は持った方がいいなあ」

 リドルが、ちらりとリリーを見上げつつ助言をしました。
 もしかしなくとも、図太く生きている魔女とはリリーのことでしょうか。
 リドルの皮肉に、リリーは口角をつり上げます。
 気づいたレオナが「リドル!」と名前を呼んで、たしなめました。

「あと、執念深いもつけ加えてみたらどうかしら?」

「おお、怖い怖い。あまりの恐ろしさに、尻尾も下がる」

 そう言ったリドルの尻尾は、付け根からしっかりぴんと伸びています。
 会話をしているのか、牽制しているのかわからない状況に、レオナはおろおろしながら二人を交互に見ました。




 リリーとリドルの会話が佳境に入った頃。二人と一頭は町を抜け、城の裏側にあるドームに戻って来ました。
 キラキラと光るモミの木が一仕事終えた一行を出迎えます。
 二人の間に挟まれていたレオナは、へとへとに疲れたという顔をしていました。
 いがみ合いをしている上司と部下の橋渡しをしていた気分です。
 ぐったりとした様子で、手に下げていた籠をカートの上に置きました。

「重かったー。疲れたよ、リドルぅー。足の裏揉んでぇえ、肉球ぷりーずーーーー」

「妖精捕まえてくる」

「ああ……」

 ひらりとレオナの手をかわして、リドルはドームの奥へと駆けていきました。
 無情にも、虚空を掴まされたレオナの肩を、リリーは苦笑いを見せながら労うように叩きました。
 ドームの中を飛び回っている妖精をリドルが引きとめて、籠いっぱいに入った願いのカケラをカートごと受け渡します。
 小さな身体のどこに怪力が隠されているのか。妖精は、かご一杯のカケラが乗せられているカートを一人で押し、ドームの奥へと消えていきました。
 願いのカケラ回収作業は、ひとまず終了です。
 学校からの課題で、カケラの回収作業をしていたレオナはこのまま帰宅ですが、リリーは仕事なので再び国外れに戻って回収作業の続きをします。
 カケラ回収係の勤務は、星が見えなくなる夜明けまで続くのです。休憩時間は、流星群の様子を見ながら各自で用意します。
 リドルに脇腹を小突かれ、ぴんと背筋を伸ばしたレオナはリリーに頭を下げました。

「じゃあね、リリー。おやすみさない」

「あんまし、貴族に喧嘩を売らないようにな」

 リドルがやんわりと釘を刺してきましたが、心外です。
 喧嘩を吹っ掛けてくるのは貴族の方であって、リリーからちょっかいを出したことはほとんどありません。
 リリーはただ、売られた喧嘩を買ってるだけです。
 が、この待遇を変えるにはリリーの方から売った方がいいのかもしれないと最近思い始めました。
 現に、そういった類いの誘いを受け、手を取ってしまっています。

『僕と手を組まない? この腐った貴族社会をぶっ壊す為にさ』

 アシュレイから出た誘い文句が、脳裏を流れました。
 庶民のリリーだけでは抗えないことも、貴族の頂点に立つ彼と一緒なら出来ると考えたのです。
 なのに、あの王子は放浪癖を発揮中。
 自分から誘っておいて、今後のことは何も語らずリリーを放置したままでした。
 結婚を決めた途端、色々な理由をつけて籍入れを先延ばされている状況に近いです。

「(まあ、結婚どころか彼氏も持ったことないから、この例えが合っているか、私にはよくわからないけど。でも、放置されてるのは合ってるはず……)」

 恋愛に関するお話という名の愚痴は、兄のお店で喉を潤していたり、手伝いでカウンターに入った時に聞く程度で、恋人たちの詳しいところまでは把握できていないリリーでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...